◆中学校保健室を臨時診療所に
輪島市中心部から約15キロ余り東の山あいにある町野地区。3月中旬、倒壊した木造家屋が多く残る中、東陽中学校の保健室に女性が「薬をもらいに来たわ」と訪れた。地区唯一の診療所で、建物が被災した粟倉医院の臨時診療所だ。畑で採れたホウレンソウを持ってくる男性もいた。
保健室を臨時診療所にして活動をする医師の大石賢斉さん=石川県輪島市の東陽中で
「地域の人が生き残るために人としてやれることをやるだけ」と院長の大石賢斉(まさなり)さん(43)。災害派遣医療チーム(DMAT)が1月中旬に支援に来るまで、1人でけが人に対応し、自主避難者らの元を回った。今も薬の処方を中心に住民の健康を守る。
大石さんは今後、町野地区で診療所を再建したいと考えている。「町野に愛着があって面白い地域になるのを見たいから、ここで頑張る」と力を込める。
◆公立4病院では病床運用8割減
石川県によると、奥能登の公立4病院では施設の損壊やスタッフの被災で、538床あった病床は約8割減の110床での運用を余儀なくされており、65人の看護師が退職または退職の意向を示している。
輪島、珠洲(すず)、能登、穴水の4市町が管内の能登北部医師会によると、28カ所の診療所のうち、3月25日時点で2カ所が休業し、26カ所が診療を継続。かかりつけの患者の薬の処方に限定したり、建物が被災して医療用コンテナで活動したりする診療所もある。
このクリニックで循環器の出張診療を行っていた恵寿総合病院(同県七尾市)の西沢永晃(ひさてる)・心臓血管外科長は「珠洲市内の中心的な診療所。先生は温厚できちんと説明するため住民から慕われ、高齢ながら頑張っていた」と振り返り、「廃業後は他の診療所に患者を振り分けるはずだが、高齢の開業医が多く、大変だろう」と語った。
◆医師数は被災前から全国平均下回る
厚生労働省の統計によると、2022年末時点の能登北部で就業する人口10万人当たりの医師の数は171.8人で、全国の262.1人を大きく下回る。県は09年度から金沢大医学類特別枠で養成された医師の活用などを通じ、奥能登での医師確保に努めてきた。
◆「国が医療機関の経営支援を」
地震から約3カ月たってもインフラの復旧が進まず、自宅に戻れない避難者は多い。能登北部医師会の千間純二会長は、奥能登の医療体制について「避難者がどれくらい戻るかだが、地震前の水準には戻らないだろう。医師や看護師の確保はさらに厳しくなる」と危惧する。