スタッフ被災、医療機器損壊、廃業決めた診療所… 地震被害の奥能登「医師や看護師の確保さらに厳しく」(2024年4月1日『東京新聞』)

 
 能登半島地震の発生から4月1日で3カ月。地震で甚大な被害を受けた石川県奥能登地方では、廃業を決める医療機関もあり、地域医療の存続が危ぶまれている。医療関係者は、過疎地として被災前から課題だった医師不足に拍車がかからないかを懸念する。(佐久間博康、城石愛麻)

◆中学校保健室を臨時診療所に

 輪島市中心部から約15キロ余り東の山あいにある町野地区。3月中旬、倒壊した木造家屋が多く残る中、東陽中学校の保健室に女性が「薬をもらいに来たわ」と訪れた。地区唯一の診療所で、建物が被災した粟倉医院の臨時診療所だ。畑で採れたホウレンソウを持ってくる男性もいた。
 
保健室を臨時診療所にして活動をする医師の大石賢斉さん=石川県輪島市の東陽中で

保健室を臨時診療所にして活動をする医師の大石賢斉さん=石川県輪島市の東陽中で

 「地域の人が生き残るために人としてやれることをやるだけ」と院長の大石賢斉(まさなり)さん(43)。災害派遣医療チーム(DMAT)が1月中旬に支援に来るまで、1人でけが人に対応し、自主避難者らの元を回った。今も薬の処方を中心に住民の健康を守る。
 大石さんは今後、町野地区で診療所を再建したいと考えている。「町野に愛着があって面白い地域になるのを見たいから、ここで頑張る」と力を込める。

◆公立4病院では病床運用8割減

 石川県によると、奥能登の公立4病院では施設の損壊やスタッフの被災で、538床あった病床は約8割減の110床での運用を余儀なくされており、65人の看護師が退職または退職の意向を示している。
 輪島、珠洲(すず)、能登、穴水の4市町が管内の能登北部医師会によると、28カ所の診療所のうち、3月25日時点で2カ所が休業し、26カ所が診療を継続。かかりつけの患者の薬の処方に限定したり、建物が被災して医療用コンテナで活動したりする診療所もある。
 
 26カ所に含まれる珠洲市のあいずみクリニックは、3月末で閉院。地震で診療機器が壊れ、継続を断念したという。県医師会によると、地震後、被災を理由に閉院する診療所は県内で初めてとみられる。
 このクリニックで循環器の出張診療を行っていた恵寿総合病院(同県七尾市)の西沢永晃(ひさてる)・心臓血管外科長は「珠洲市内の中心的な診療所。先生は温厚できちんと説明するため住民から慕われ、高齢ながら頑張っていた」と振り返り、「廃業後は他の診療所に患者を振り分けるはずだが、高齢の開業医が多く、大変だろう」と語った。

◆医師数は被災前から全国平均下回る

 厚生労働省の統計によると、2022年末時点の能登北部で就業する人口10万人当たりの医師の数は171.8人で、全国の262.1人を大きく下回る。県は09年度から金沢大医学類特別枠で養成された医師の活用などを通じ、奥能登での医師確保に努めてきた。
 地震後、県は被災した医療機関の建物や医療用設備の復旧費を支援し、奥能登医療機関などで長期勤務が可能な看護師らを全国から募っている。奥能登公立4病院の機能維持に必要な具体策も検討している。

◆「国が医療機関の経営支援を」

 地震から約3カ月たってもインフラの復旧が進まず、自宅に戻れない避難者は多い。能登北部医師会の千間純二会長は、奥能登の医療体制について「避難者がどれくらい戻るかだが、地震前の水準には戻らないだろう。医師や看護師の確保はさらに厳しくなる」と危惧する。
 被災地入りした日赤愛知医療センター名古屋第二病院の稲田真治・救命救急センター長(58)は「被災者が安心して地域に戻れるよう、国が後ろ盾となって医療機関の経営維持を支援する必要がある」と指摘した。