雪解川(2024年3月31日『福島民友新聞』-「編集日記」)

 「雪解川(ゆきげがわ)名山けづる響かな」。高浜虚子に師事した前田普(ふ)羅(ら)の句だ。冬の間にたたえられた山の雪が解け、川の流れが勢いづく今頃の時期に詠んだのだろう。春の長雨が伴えば、時に濁流となる

▼野山の情景を華麗に彩るよりも、自然の壮絶さや暗たんたる気持ちなどを表現した句が多い。「寂しさや春山を描き雲を添ふ」。どこかさみしさの漂う春の山を、浮雲が慰めているよう

宝塚歌劇団の俳優の女性が昨秋に急死した問題で、歌劇団側が上級生らによる女性へのパワハラを認めた。当初パワハラはなかったと断言し、「証拠があるならぜひお見せいただきたい」とまで言い放ったが、遺族に歩み寄った形だ

▼女性の母親は、過酷な労働環境とパワハラの中、全力で、笑顔で舞台に立ち、強く生きたことを誇りに思うとのコメントを出した。半年間、娘の尊厳を守りたいとの一心だったという。ただ「生きていてほしかった」とつづる母親にとって、あまりにつらい春だろう

▼女性が生前に受けた苦しみ、遺族らの悲しみや後悔など降り積もった思いが激しい流れとなり、変化を迫った。人の痛みに気づき、団員一人一人を守れる歌劇団へと変わってほしい。それが亡き人への償いだ。

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 宝塚歌劇団の 宙そら 組に所属する女性(25)が死亡した問題で、歌劇団などが女性に対するパワーハラスメントを認め、28日に遺族と合意書を締結したことを受け、遺族側が女性の母親の訴えを発表した。全文は次の通り。

 

 あの日から季節は幾度か変わりましたが、私たちの時間は止まったままです。

娘を 想おも わない日はありません。娘に会いたい、抱きしめたい、ここに居てくれたらと一日のうちの瞬間、瞬間に何度も思っています。

そして、助けられなかったことを悔い、娘に謝っています。

娘の夢をみて、目覚めた時の現実の 虚むな しさに打ちのめされる、そんな朝を何度迎えたでしょうか。

パワハラが無かったことを前提に作られた調査報告書は、こともあろうか劇団HPに掲載されました。

過重労働については見解の違いはあったものの、ある程度認める内容でしたが、パワハラについては、全ては娘に非があった、そのための正当な範囲内での指導だった、パワハラは一切無かったという 酷ひど い内容でした。

劇団が依頼した弁護士の聞き取りの場で、私たちが提出した娘の悲痛な言葉や証拠、そしてパワハラを実際に見聞きし、全てを話してくださった劇団員さんの数々の証言も全く反映されておらず、パワハラを行った側を擁護する内容でした。

劇団側にHPでの掲載を止めるように繰り返し求めましたが、1ヶ月以上 経た ってからようやく抹消されました。

劇団側にHPでの掲載を止めるように繰り返し求めましたが、1ヶ月以上 経た ってからようやく抹消されました。

調査報告書の内容を盾に「パワハラはありませんでした」と断言され、「証拠があるなら是非お見せいただきたい」と画面越しに挑んでこられた劇団の記者会見は、今でも鮮明に覚えています。

それに対して、調査報告書の誤りを詳しく指摘し、私たちが入手した証拠や劇団員さんからの証言を、直接提出しましたが、劇団は、第三者委員会を設置することはなく、パワハラを行った人の意見のみを聞き、それを擁護しました。

今更ながら、2年半前にヘアアイロンによる 火傷やけど があった時に泣き寝入りせず、声を上げれば良かった、昨年2月に劇団がヘアアイロンによる火傷の事実を「事実無根」と発表した時に抗議すれば良かったと、後悔してもしきれません。

いずれにしても、事実は 隠蔽いんぺい され、娘の居場所は無くなっていたかもしれません。けれど、声をあげておけば、娘の命は救えていたはずです。

阪急阪神ホールディングス宝塚歌劇団の幹部の方々に、もしご自分の娘が同じことになったら、どうされたのかと、お尋ねしたいです。

娘は決して弱かったわけでも、我慢が足りなかったわけでもありません。過酷な労働環境と、酷いパワハラの中でも、全力で、笑顔で舞台に立っていました。強く生きていました。私たちはそんな娘を誇りに思っています。

娘の尊厳を守りたい一心で、今日まできました。

事実を訴え続けた結果、当初は過重労働のみを認め、一切パワハラは無かったと主張された劇団が、多くのパワハラを認め、本日ようやく調印となりました。

言葉では言い表せないたくさんの複雑な想いがあります。

娘に会いたい、生きていてほしかったです。

最後になりましたが、娘にお心を寄せてくださった方々に感謝を申し上げます。