衆院3補選、島根1区が事実上の天王山 岸田首相応援に意欲も地元は「逆効果」 岩田明子(2024年3月30日『週刊フジ』)

 
錦織氏と亀井氏の与野党対決が見込まれる衆院島根1区補選に、岸田首相も力を入れている

4月の衆院3補選(16日告示、28日投開票)に向け、与野党が本格的に準備を進めている。補選が行われるのは、東京15区(江東区)と、島根1区(松江市など)、長崎3区(佐世保市など)だが、東京15区と長崎3区では、自民党が候補者を擁立できるか不透明なため、まず島根1区が「事実上の天王山」となる。

錦織功政氏

自民党にとって、島根1区は昨年11月に死去した細田博之衆院議長が1996年から9期連続で当選した「牙城」だ。今回は、元財務官僚の錦織功政(にしこり・のりまさ)氏を擁立する。

亀井亜紀子

これに対し、野党第一党立憲民主党亀井亜紀子衆院議員を立てる。共産党は候補者擁立を見送り、国民民主党も県連が亀井氏を支援する方針を打ち出したため、「与野党対決の構図」となる公算が大きい。

細田氏が所属した清和政策研究会(現安倍派)などの政治資金パーティー収入裏金事件による逆風、候補予定者の知名度不足で情勢は自民党に厳しいが、党幹部が重点的に応援に入り、勝利をもぎ取る戦略で臨む。20日には茂木敏充幹事長が応援のため、現地入りした。

岸田文雄首相(党総裁)も「島根1区の議席は何としても死守したい」と周辺に意気込みを見せ、遊説スケジュールを調整するよう党に指示したという。内閣支持率の低迷から抜け出せない岸田首相の島根入りに、地元からは「逆効果だ。回避したい」との声が上がっているという。

ただ、政治家にとって選挙での勝利こそが「力の源泉」となるため、岸田首相も闘志を燃やしているのではないか。

実際、岸田首相は2021年10月の政権発足後、国政選挙で結果を残してきた。同月の衆院選、22年7月の参院選でそれぞれ単独過半数を確保し、衆参10補選でも「7勝3敗」という堅調な成績を収めた。岸田派(宏池会)が党内第4派閥で政権基盤が盤石といえず、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)問題や、閣僚や政務三役の「辞任ドミノ」という事態に見舞われながらも、政局の流動化を回避してきたのは、選挙で勝利を重ねてきたことが大きい。

もし、3補選が「全敗」という事態になれば、「岸田降ろし」を含む政局に発展する可能性をはらむ。

立憲民主党も、島根1区では決して負けられない。岡田克也幹事長は20日、現地に入った。党内からは「これだけ自民党に逆風が吹いているのに、これで島根を落としたら執行部批判は強まる」との声が出ている。

最後に、大混戦となっている東京15区も注視したい。東京都の小池百合子知事が7月の都知事選に向けた態度を明確に示しておらず、ひょっとすると同補選に出馬するのではないかとの憶測も飛び交っているからだ。

永田町では衆院3補選の「隠れたテーマ」として小池氏の動向も注目されている。小池氏の今後の動きは、補選後の政局にとって波乱要素となる可能性も秘めている。

岩田明子

いわた・あきこ ジャーナリスト・千葉大学客員教授中京大学客員教授。千葉県出身。東大法学部を卒業後、1996年にNHKに入局。岡山放送局で事件担当。2000年から報道局政治部記者を経て解説主幹。永田町や霞が関、国際会議、首脳会談を20年以上取材。昨年7月にNHKを早期退職し、テレビやラジオでニュース解説などを担当する。月刊誌などへの寄稿も多い。著書に『安倍晋三実録』(文芸春秋)。

岩田明子「さくらリポート」(zakzak)