『紅麹』を使った小林製薬のサプリメントで健康被害が広がっている問題は、死者が2人、入院患者は106人に上っています。健康被害を訴えた人は、去年9月以降に製造されたサプリを摂取した人に偏っていることが分かりました。心配が広がるなか、国も対策に動き出しています。
■死者2人に…106人の入院確認
大阪市健康推進部 亀本啓子保健主幹
「これらの食品を購入し、もしくは手元にある場合には、絶対に食べないでいただきたい」
問題となっていた3つの製品について、大阪市が国から通知を受けて回収を命じる行政処分を出しました。これにより製品の販売は禁止に。大阪市は今後、廃棄命令も出す方針です。
実際に健康被害が確認されているのはサプリだけですが、小林製薬の紅麹を原料として使っている会社は170社以上に上ります。
滋賀県にある『パンのカワバタ』では、1種類のパンに7年前から小林製薬の紅麹を使用。イベントで販売した6個以外、すでに連絡して回収できたといいます。
パンのカワバタ 川端宏明代表
「月曜日の営業始めから全て(販売を)ストップしています。今のところ、食べられた方が体がおかしくなったとか、体調不良とかいうことはないというので、ほっとしているのが本音」
広がる影響に経済界からも苦言が…。
経済同友会 新浪剛史代表幹事
「(小林製薬が)即座に対応しなかった責任は相当あると思う。疑いがあるがゆえに、健康を大切だと思われているお客様・社会が風評被害のもとに、自分に必要な栄養を取りたい方が取れなくなってしまう可能性がある」
小林製薬は、中国でも紅麹関連製品の自主回収を進めていて、ネット通販サイトではすでに販売が停止されています。SNSでは不安の声も…。
中国のSNS
「家には今も小林製薬の商品が残っているが…」
「もう日本製品に関しては、食べ物も着る物も日用品も全部避けたほうがいいね」
■健康被害 キーワードは“腎臓”
厚労省によると、これまでにサプリを摂取して入院が確認されているのは106人。去年9月以降に製造された『紅麹コレステヘルプ』を飲んだ人に偏っているということです。
亡くなったことが分かっているのは2人で、1人目の死因は急性腎不全、2人目も検死では腎臓にダメージがあったと診断され、どちらも腎臓がキーワードになっています。
腎不全はどのようにして起きるのか。腎臓内科を専門とする医師に聞きました。
渋谷内科・スキンケアクリニック 渡邉智成院長
「腎臓というのは尿をつくる臓器。流れてきた血液の中から絞り出して“原尿”という尿の大元を作る。それを尿細管で必要なものを再吸収していく。再吸収される過程で異物が障害を起こす可能性“目詰まり”を起こす」
急性腎不全の場合は、急激に腎機能の数値が悪化するといいます。
渋谷内科・スキンケアクリニック 渡邉智成院長
「症状としては、まず体がむくむ。その後、負担は心臓にかかってくる。心臓の負担が長引くと“心不全”に。腎不全、心不全、その後、呼吸不全で死亡の原因になる可能性が高い。(Q.治療の方法は)尿が出せないような場合は利尿剤を試みる。反応しなければ、血液透析を緊急で行う必要がある」
■工場移転で原因究明“難航”か
難航する原因究明。理由の1つとして考えられるのが工場の移転です。
大阪市健康推進部 亀本啓子保健主幹
「原料である紅麹を作っている工場が廃止されていたということ。原料の一番原因と考えられるような部分がなくなってしまっているのは、非常に残念な部分があります」
健康被害が訴えられている紅麹原料を製造していた工場が去年12月に移転。立ち入り検査もできていません。
大阪市健康推進部
「もし大阪工場がまだ稼働しているということであれば、即座に立ち入りはしていた」
小林製薬は当初、原因について「未知の成分」という説明をしていましたが、新種の物質というわけではないようです。
林芳正官房長官
「小林製薬が製造上想定されない物質が見つかったことを指して『未知の物質』という用語を使用したと承知しております。世の中で発見されていなかった物質が新たに生じたという意味ではないと」
■『機能性表示食品』緊急点検へ
今回、回収対象となった3つの商品は「悪玉コレステロールを下げる」などと宣伝した『機能性表示食品』にあたります。『トクホ(特定保健用食品)』と異なり、機能性表示食品は国の審査なしで、食品メーカーの責任において、身体にどのように良いかを表示できるのが最大の特徴です。
この制度は2015年、政府の成長戦略の一環として始まりました。
安倍晋三総理大臣(当時)
「中小企業・小規模事業者にはチャンスが事実上、閉ざされていると言ってもよいでしょう。健康食品の機能性表示を解禁します」
それまでは健康効果を表示できる食品は“トクホ”のみ。開発や申請に巨額の費用がかかるため、参入できる企業は限られていました。そこに風穴を開けた形です。
政府は27日、健康被害の情報共有や対応について連携を強めるため、関係省庁連絡会議の初会合を開催しました。さらに、約7000件の機能性表示食品について、緊急点検に乗り出しました。
林芳正官房長官
「今回の事案は機能性表示食品の安全性に疑念を抱かせる深刻なもの。届け出事業者に健康被害の情報の有無や、適切な情報収集・報告が行われているかなどを確認し、消費者庁に報告を求めることとした」
厚労省は今週中をめどに、健康被害が確認されていない小林製薬の紅麹を原料としている製品をどうするのか、専門家の意見を聞く方針です。
小林製薬は被害の拡大を受け、29日午後に大阪市内で記者会見を行うとしています。
■死者2人に…共通点は“腎臓”
小林製薬のサプリを摂取していた2人亡くなりました。死因とサプリとの因果関係ははっきりしていませんが、いずれも腎臓に影響が出ています。
腎疾患の原因について、渋谷内科・スキンケアクリニックの渡邉智成院長に聞きました。
渡邉智成院長
「化学物質や薬剤などには腎機能障害、つまり腎臓への傷害を起こす性質を持つものがある。そうしたものを“腎毒性物質”という。腎毒性物質には、薬剤・感染症・カビ毒などが考えられる」
(1)薬剤について
渡邉智成院長
「非ステロイド性の痛み止めは、腎臓に負担がかかる可能性がある」
(2)感染症について
渡邉智成院長
「ウイルスが生成したタンパク質などが、腎障害を起こす可能性がある」
(3)カビ毒について
渡邉智成院長
「カビ毒の作る成分が腎障害を起こす可能性がある」
■“外部から異物混入”可能性は
小林製薬は22日の会見で「紅麹の中の“未知の成分”が、カビ類から生成される成分と似ている」と説明していました。
「外部から何らかの異物が紅麹に混入した可能性がある」という専門家の意見もありましたが、ウイルスやカビ毒が外部から混入した可能性はあるのでしょうか。
食の安全性に詳しい、東京大学の唐木英明名誉教授に聞きました。
(1)薬剤について
唐木英明名誉教授
「薬剤の腎毒性は、大量に摂取しないと作用しない。大量の薬剤が混入する可能性は低い」
(2)感染症について
唐木英明名誉教授
「紅麹に付着し、かつ腎毒性があるウイルスを知らない。製造工場には厳しい基準があり、ウイルス混入の可能性も低い」
(3)カビ毒について
唐木英明名誉教授
「決して高くはないが、カビなど何らかの異物が紅麹に入り、それが結果的に腎機能に影響を与えた可能性はある」
ただ、いずれも自然に混入するものではないので、専門知識のある人物が意図的に持ち込んだ可能性は排除できないとも話しています。