「体に良い」と思って飲み続けたサプリが原因となり、健康を害したとなれば製薬会社としては致命的だ。小林製薬(大阪市)が製造販売した「紅麹」配合の機能性表示食品のサプリメントによる健康被害は、摂取者2人が死亡する事態に発展した。
サプリメント「紅麹コレステヘルプ」を約3年間、摂取していた購入者が今年2月、腎疾患で亡くなっていたことが判明。さらに厚労省の同社への聞き取りの結果、2人目の死亡事例が報告された。今後、死亡との因果関係を調べるというが、入院したという報告が約50人から寄せられ、サプリ摂取による入院患者は計106人になった。
小林製薬は昨年7~10月に製造した紅麹に含まれていた「カビ由来の未知の成分」が健康被害を起こした可能性が高いとみて、3種類5製品の使用中止を呼びかけ、約30万袋の自主回収を開始した。
■中国や台湾でも流通停止の動き
同社が問題を把握したのは、今年1月。使用中止の公表まで2カ月以上を要したことに、消費者や取引先から情報提供の遅さを指摘する声が上がっている。今後、どう対応するのか。同社広報部に聞いた。
「紅麹を供給している52社から、さらに製品が市場に広がっている可能性があります。それがどれくらいなのかは把握できておりません。現時点ではまだ供給先に回収のお願いをしているところで、損害賠償請求の話には至っていませんが、会社としてはすでに、供給先からの損害賠償には応じることが決定しています」(担当者)
小林製薬は「『あったらいいな』をカタチにする」のCMがお馴染みのように、洗眼薬「アイボン」、水洗トイレ用洗浄剤「ブルーレット」、冷却ジェルシート「熱さまシート」など、それまでなかったアイデア商品を開発し、衛生日用品のニッチマーケットに次々と新製品を投入。一般庶民のニーズに応え、ヒット商品を生み出してきた。
「もともとは明治創業の同族企業の卸売り業者です。中興の祖といわれた小林一雅会長が『社内提案制度』を提唱し、職種に関係なく、社員全員に活躍の場を与えました。失敗は恥ではなく、従業員にチャレンジ精神を植え付けた、それで会社を急成長させたのです」(地元取引先業者)
しかし、今後も購入者の健康被害が明らかになり、販売中止が長引けば、さらなる業績悪化やイメージダウンは避けられない。金融関係者はこう分析する。
「現時点では損害賠償請求が、どこまで広がるか見えません。レピュテーションリスク(ブランド毀損や企業価値・信用の低下を招く)の部分で健康被害者と取引業者、それぞれ、どの範囲まで実害が及ぶかが、一義的なコストになります。ただ今回はそれだけではなく問題の紅麹は口に入るものですから企業の評判が低下し、イメージがさらに悪化する恐れがあります。紅麹だけでなく、商品全体に対する売れ行きへの影響が一番大きく、宣伝もしばらく自粛せざるを得ないでしょう。イメージを大事にする会社ですから、今後新商品を出しても、そういう目で見られてしまいます。一番悩ましいところです」
損害賠償は莫大な金額となり、消費者と取引先からの信頼を取り戻すのにも、かなりの時間がかかりそうだ。
同社は商社や飲料メーカーなど52社に紅麹を原料として供給。一部に卸売り業者も含まれ、メーカーが製造した紅麹を使用している食品や調味料の自主回収は、全国に拡大している(29社が自主回収を表明)。中国や台湾でも、流通停止の動きが広がっていることから、影響がどこまで及ぶか見通しが立たない。