愛子さまの卒業に際しての文書回答 「結婚について」の質問がなかった事情とは?(2024年3月25日『Yahooニュース』)

つげのり子放送作家、ノンフィクション作家(テーマ:皇室)
学習院大学を卒業された愛子さま(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

卒業シーズンを迎え、全国各地で多くの若者たちが、思い出を胸に母校を旅立っていった。社会人となって年月を重ねても、「卒業」という言葉からは、胸の奥をくすぐるなつかしさを蘇らせ、つい涙腺がゆるんでしまうのは筆者ばかりではないだろう。

天皇皇后両陛下の長女・愛子さまは3月20日学習院大学を卒業され、幼稚園の頃から数えて18年間の学園生活にピリオドを打った。

 

愛子さまは卒業に際し、大学生活の思い出やご心境などについて、宮内記者会の質問に文書で回答を寄せられた。その内容は、コロナで会えなかったお友達との再会を喜び、卒論に一生懸命に取り組んだことなど、愛子さまの誠実で真面目なご性格が反映されていた。

 

実は筆者は、つい先日、このヤフー記事に、皇室の女性方が大学を卒業される際の記者会見あるいは文書回答で、「結婚について」の質問が定番となっていることを書いたのだが、今回はその質問はなかった。

なぜなくなってしまったのか?その背景には、女性皇族の方々を取り巻く深刻な事情が影響しているように思えるのだ。

 

愛子さまのご負担を考えての一問

これまでは、卒業に際しての宮内記者会の質問は、大抵複数出されていたが、今回は一問だけにとどまっていた。もちろんその質問はいろんな要素が含まれ、密度の濃いものではあったが、意外な感じは否めなかった。

 

どうしてそうなったのか、皇室解説者の山下晋司さんに伺うと……

「宮内記者会が最初からあの1問だけを宮内庁に提示したとは考えづらいですね。おそらく宮内庁との話し合いを経て、結果的にあの1問に落ち着いたということでしょう」

 

そこに、どんなやり取りがあったのかは、あずかり知らぬところではあるものの、伊勢神宮ご参拝もあり、また日本赤十字社へのお勤めやご公務に関しての事前調整など、お忙しい中で愛子さまのご負担となることは避けたいとする配慮があったのだろう。

 

しかも、能登半島地震の復興は、まだその途上にあり、被災者の方々の心情を思えば、卒業は喜ばしい出来事ではあるが、抑えた内容にならざるを得ない。そうした点を考慮しての質問案となったのかもしれない。

 

「今や誰でもネットで意見を言える時代です。問題のない発言でも曲解して批判に結び付ける人もいます。そういった現在の状況なども踏まえると、宮内庁が慎重になるのは理解できます。宮内庁、宮内記者会とも様々な思惑はあるでしょうが、結果的にあの質問で折り合ったと言うしかありません」(山下さん)

 

愛子さま結婚の背景にある課題

仮に愛子さまが「結婚について」を質問され、そのことに答えられたとしたら、大きな話題となって取り上げられるのは明らかであり、ネット上にはさまざまな憶測コメントがあふれるだろう。それは両陛下も愛子さまも望んではいないはずだ。

 

こうした事情から愛子さまを悩ますような、「結婚について」の質問は避けられたと考えられるが、そこにはもう一つ見過ごしてはならない背景があるように思う。

それはやはり、眞子さんが結婚した時の世論のバッシングだ。その出来事が結婚という話題に対して、皇室をはじめとする関係者の慎重さを増幅させているように感じる。

 

そして、今や、秋篠宮ご夫妻の次女・佳子さまも、結婚について週刊誌などで、かまびすしく報じられていることも気になる点だ。佳子さまは早く結婚して皇室を出たいと考えているようだが、実際のところ、どの程度まで結婚が具体的になっているかはわからない。

 

ただ女性皇族の方々が結婚されて皇室を離れると、公務を担う人材は確実に減ってしまう。それに関連して、安定的な皇位継承策についても、にわかに各政党で議論が盛り上がっている最中だ。

 

こうした議論が深まれば深まるほど、「女性(女系)天皇容認」か「男系男子天皇堅持」かという、世論を二分するようなナーバスな問題にもかかわってくる。しかも、こうした存続策は当事者である皇室の方々は、政治的な問題に意見できないことから、じっと成り行きを見守るしかないのだ。

 

そんな皇室をめぐる事情が、愛子さまへの「結婚について」の質問を封印してしまったのかもしれない。女性皇族を巡る一連の課題は課題として、政府を含む関係筋で粛々と打開策を打ち出していけば良く、そのことで愛子さまを翻弄してはならないと思う。

 

愛子さまが両陛下を支え、人々や社会の役に立ちたいと、日本赤十字社へのお勤めを決められた純粋なお気持ちはとても尊く、それと同じくらいに、愛子さまの人生の幸せも遠慮なく求めていってもらいたいと切に願う。

 

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放送作家、ノンフィクション作家(テーマ:皇室)

2001年の愛子内親王ご誕生以来、皇室番組に携わり、現在テレビ東京BSテレ東で放送中の「皇室の窓」で構成を担当。皇室研究をライフワークとしている。日本放送作家協会日本脚本家連盟、日本メディア学会会員。著書に『天皇家250年の血脈』(KADOKAWA)、『素顔の美智子さま』『素顔の雅子さま』『佳子さまの素顔』(河出書房新社)、『女帝のいた時代』(自由国民社)、構成に『天皇陛下のプロポーズ』(小学館、著者・織田和雄)がある。