花見の季節(2024年3月25日『佐賀新聞』-「有明抄」)

 酒の代わりは番茶、かまぼこは大根、卵焼きはたくあん…。家主の提案で代用品をそろえ、長屋の住人たちは向島へ花見に出かける。落語「長屋の花見」はもともと上方落語の「貧乏花見」で、明治末期ごろ東京に移入されたという

◆桜の季節を迎えると酒や料理がなくても出かけたくなるが、貧乏花見は一向に盛り上がらない。〈長屋中 歯を食いしばる花見かな〉と俳句を詠んだり、番茶の飲み過ぎで気分が悪くなったり。噺(はなし)はそこから展開する。長屋の住人がけんかを始めると、周りの花見客が逃げ出し、残された酒と料理で本物の酒盛りを楽しむ

◆桜と聞けば、心が弾むのは昔も今も変わらない。全国トップを切って、高知で開花が発表された。東京では一足先に乾通りの一般公開「皇居の通り抜け」が始まっている。佐賀の開花が待ち遠しいが、つぼみが開けば一気に淡紅色の春景色が広がる

◆きのうは雨の中、「さが桜マラソン」が開かれた。花を愛(め)でながらのレースとはいかなかったが、桜と聞いて全国から集まったランナーがそれぞれの走りを楽しんだ

◆新型コロナが5類に移行したのは昨年5月で、移行後初めての桜の季節である。県内各地の桜の名所は多くの花見客でにぎわうだろう。豪華な花見であれ、貧乏花見であれ、花の景色は楽しめる。ランナーたちもぜひ再訪を。(知)