【転職なき移住】ワーケーションに期待(2024年3月23日『福島民報』-「論説」)

 県は、富士通(本社・東京)とワーケーションパートナーシップ協定を1月に締結した。ワーケーションは旅先に滞在しながら仕事をする活動を指す。県は協定を通じて「転職なき移住」の推進を目指している。企業との結び付きをさらに広げ、地方での新たな暮らしを志向する多くの若者を呼び込んでほしい。

 富士通の社員数は12万4千人に上る。協定に基づき2月26日から4日間、福島市などのコワーキングスペースで仕事をしながら、県内の移住者や農家、県職員らと意見を交わした。富士通社員と、同様の協定を結ぶ全国の12自治体職員が集い、意見交換するサミットも予定されている。関係人口の拡大や地域課題解決への貢献が期待される。

 政府が進める「デジタル田園都市国家構想総合戦略」は、デジタルの普及により「全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会」の実現をうたう。サテライトオフィスの整備による「転職なき移住」の推進も明記した。東京圏の企業などに勤めたまま地方に移り住み、テレワークする新しい仕事の形態は、生活費や教育費の安さなどもあって、子育て世代を中心に一定の需要があると政府はみている。デジタル技術が、生活の利便性向上や距離の障害解消に結び付くのは確かだろう。

 県内への移住者は2022(令和4)年度、過去最多の1964世帯2832人に上った。県は2030年度に4500人の目標を掲げる。NPO法人「ふるさと回帰支援センター」が先月末に発表した昨年の都道府県別移住希望先ランキングで、本県は12位だった。2010(平成22)年までは3年連続1位で、東日本大震災の発生により大きく落ち込んだものの、正確な情報発信を続けた努力が実りつつあると言える。

 隣県の群馬は今回、9位から2位に上昇した。東京に通いやすい首都圏の周縁に人気が集まる傾向があるという。高速交通網が整う本県も、東京との時間距離が比較的近い立地条件を有しているのを強くアピールすべきだ。

 本県では、新しい住民が復興の担い手となって地域の活気につなげている。この流れを維持するにはデジタル基盤の整備も重要だ。人材の育成、確保にも引き続き注力する必要がある。(浦山文夫)