2億円トイレ騒動 万博協会は詳細説明せず 批判続出、建築家「理念伝わっていない」と憂慮(2024年3月22日『産経新聞』)

 
 
 2025年大阪・関西万博の会場に整備されるトイレが物議を醸して久しい。入札が行われた8件のうち一部の落札額が2億円近くに上り、交流サイト(SNS)などで高額との批判が噴出。整備費の大半が税金を原資とするにもかかわらず、日本国際博覧会協会は騒動から1カ月以上たった今も詳細を説明していない。専門家は協会の情報発信のあり方を疑問視している。

 《1970年大阪万博と同様に2025年大阪・関西万博を若い世代の活躍・飛躍のきっかけとする》

 騒動の発端は、協会がこう位置付けて実施したコンペに遡(さかのぼ)る。70年万博では、磯崎新氏や黒川紀章氏ら当時の新進気鋭の建築家が会場設計に関わり、注目された。

 今回、協会は昭和55年以降に生まれた建築家を対象に令和4年3月、トイレなどの設計案を募集。書面やヒアリングによる審査を経て同年8月に設計者を決定し、建設業者に発注するための一般競争入札を実施した。

 今月21日時点で入札を行った8件のうち、成立は7件。なかでも2件の落札価格(税込み)はそれぞれ撤去工事費を含め1億9228万円と1億8244万円に上った。残りの1件は昨年7月と今年2月に入札を行ったが不成立だった。

 トイレの整備費は国と大阪府市、経済界で等分負担する会場建設費を財源とする。会場建設費は3分の2が税金で、これまで当初比1・9倍の最大2350億円に増額された経緯もあり、SNSでは2月ごろから「税金の無駄遣い」といった投稿が続出した。

 これに対し政府などは釈明に追われた。自見英子(はなこ)万博相は2月、「2億円トイレ」と物議を醸した2件について、それぞれ50~60基の便器を配置する大規模なものだとして「必ずしも高額とはいえない」と強調した。

 大阪府の吉村洋文知事は1平方メートルあたりの単価に換算して反論した。吉村氏によると、2件のうち面積約250平方メートルのトイレは単価約80万円。府営公園2カ所(面積はいずれも約50平方メートル)の単価80万~100万円と比べ「変わらない」と主張し「建築家の魂が入っている」とも強調した。

 ただ公園のトイレは常設で撤去工事費が含まれないため、単価を比較するだけで金額の当否を判断するのは難しい。

 協会は設計案の募集に際し「多様でありながら、ひとつ」との会場デザインコンセプトを踏まえ、SDGs(持続可能な開発目標)達成につながる提案を求めた。

 「2億円トイレという言葉が先行している。華美なものをつくろうとしているわけではない」。2件とは別のトイレを設計した建築家の米沢隆氏(41)は産経新聞の取材にこう訴えた。

米沢隆氏が設計する万博会場のトイレのイメージ図(本人提供)

 SDGsに関連し、米沢氏は2月、X(旧ツイッター)でトイレをブロックごとに解体し、移築しやすい設計にしたことを紹介。万博閉幕後に公園などでの再利用を想定しているという。現状について「資源循環を目指した設計の理念が伝わっていない」と憂慮した。

 協会は全ての落札業者が決まった段階で「建築家による発表の場を設ける」(担当者)としているが、入札1件が不成立のままで発表時期は定まっていない。

 危機管理コンサルタントの田中辰巳氏は「東京五輪での汚職事件などが続く中で万博関連の費用が膨らみ、国民は辟易(へきえき)している」と指摘。協会に対し、万博の費用に関する情報を納税者である国民に丁寧に公開・説明するよう求めた上で「本質的に、何のために万博を開催するかが曖昧になっているのが問題だ。逆風の時期こそ意義をしっかり打ち出す必要がある」と話した。