聴覚障害者とゆる~くつながる交流会 元「金町学園」サポーターが今も続ける取り組み(2024年3月19日『東京新聞』)

 
 2022年に閉園した聴覚障害児の入所施設「金町学園」(東京都葛飾区)の子どもや若者をサポートしていた人たちが、卒園生を引き続き応援しつつ聴覚障害への理解者を増やそうと、ゆるやかなコミュニティーづくりに取り組んでいる。来年は東京で聴覚障害者の国際スポーツ大会「デフリンピック」もあり、企画者の男性は「大会を機に盛り上げていきたい」と声を弾ませる。(石原真樹)
「つながり+応援+交流会」で記念写真に納まるレイモンド・ウォングさん(中央左)、浜崎久美子さん(同右)、山田真樹さん(前列右から2人目)ら=東京都千代田区で(布藤哲矢撮影)

「つながり+応援+交流会」で記念写真に納まるレイモンド・ウォングさん(中央左)、浜崎久美子さん(同右)、山田真樹さん(前列右から2人目)ら=東京都千代田区で(布藤哲矢撮影)

◆30歳以上が「おごる」ルール

 2月の平日夜、東京・大手町のビルに卒園生や特別支援学校の関係者、近隣の企業に勤める会社員らが集まった。「つながり+応援+交流会」。若者に来てもらおうと「30歳以上がおごる」ルールで、大人たちがフロア内の店で買ったおかずや飲み物を飲食スペースのテーブルに並べていく。
 デフリンピック東京大会への出場を目指す陸上の山田真樹選手(26)がゲスト参加し、デフスポーツの水泳やバスケットボールなどについて手話で紹介。その後はフリータイムで、参加者は名刺交換したり、手話も交えながら仕事やスポーツの話で盛り上がったりした。
 卒園生の内山竜次さん(27)は「参加することで自分が元気でいることを伝えたい。つながりを大切にしたい」と表情をほころばせた。
「つながり+応援+交流会」であいさつする(左から)レイモンド・ウォングさん、山田真樹さん、浜崎久美子さん=東京都千代田区で(布藤哲矢撮影)

「つながり+応援+交流会」であいさつする(左から)レイモンド・ウォングさん、山田真樹さん、浜崎久美子さん=東京都千代田区で(布藤哲矢撮影)

◆飲み会から手話サークルへ発展も

 ボランティアで会を立ち上げたのは華僑で日本で生まれ育ったレイモンド・ウォングさん(57)。社会的目的を持つ団体を支援するNPO法人「ソーシャルベンチャー・パートナーズ東京」(東京都港区)の理事が本業だ。金町学園の子どもとの関わりは12年、当時勤めていた金融企業のCSR(企業の社会的責任)活動として始まった。その後学園の閉鎖が決まり、事業の継承を資金面で応援しようと、17年、金融業界のCSR部門で働く知人らに声をかけた。
 「見切り発車」で会を立ち上げ、飲み会などを年に3~4回開催。毎回新しい参加者が加わり、メーリングリストは135人にまで増えた。会での出会いが企業の手話サークルの交流に発展したこともある。

◆障害者に「何かしてあげる」ではない

 22年2月に学園の事業を引き継ぐ施設「アレーズ秋桜(コスモス)」が開所した後も、「ゆるく続けることが大事」とコロナ禍を経て昨年10月に再開した。レイモンドさんは「社会の課題をすぐに解決できなくても、交流が生まれて『解決したい』と思う人が増えれば、アクションにつながる」。
 金町学園元園長の浜崎久美子さん(79)は「聴覚障害者に『何かしてあげる』ではないところが良い」と期待を込める。「ごちゃごちゃの中で人と付き合うチャンスは、聴覚障害のある若者の成長につながる。彼らが暮らしやすい社会をつくっていくきっかけになってほしい」。問い合わせはレイモンドさん=raymwong85+test@gmail.com

 金町学園 1933年に現在の東京都墨田区にできた「東京ろうあ技芸学園」が起源で、48年に児童福祉法に基づく施設になり、56年に葛飾区に移転し「金町学園」と改称。聴覚障害のある子や学生が共同生活を送りながら都立のろう学校や特別支援学校に通った。聴覚障害児が暮らす福祉型障害児入所施設として関東地方で唯一だったが、運営する社会福祉法人が2018年に閉鎖する方針を決定。浜崎元園長らの尽力により社会福祉法人・永春会(千葉県松戸市)が事業を引き継ぐことになり、22年2月、葛飾区内に「アレーズ秋桜」を開き、金町学園の子どもたちを受け入れた。