「人は生きてきたようにしか死ねない」介護のプロが伝えたい、老いたからこそ得られる「真の自立」を(2024年3月17日)

■自立のうえに成り立つ「自分はこう生きたい」

 実はこれは、単純な行動のように思えますが、実際にはなかなか難しいことです。何かを行動するということだけではなく、考え方・心の持ちようを変えることだからです。「充実した老後を過ごすには、○○しましょう」「○○の実践がおすすめです」などと言われてやるほうが、ずっと簡単です。

 まず、できること/できないことを、自分ではなかなか見極められません。見極めたとしても、できることをしようとしない人、あるいはできないことを無理してやろうとする人・逆に自分の可能性を無視する人は多いのです。

 さらに、できないことについて援助を求めるのも、けっこうハードルが高いです。あなたのプライドや、人に頼むことの面倒くささ・遠慮が邪魔するのでしょうか。

 長生き生活を充実させるには、この「真の自立」が不可欠です。

 これができてようやく、次に「自分はこうしたい、こう生きたい」を考えます。子どもたちや親族に対する忖度(そんたく)は無用。主体はあくまでも自分自身です。

■人は、生きてきたようにしか死ねないもの

「人は生きてきたようにしか死ねない」。介護の現場で働いていると、つくづく感じます。

 とくに人とのかかわり方において、それは顕著です。それまで人とどのようなつきあい方・かかわり方をしてきたか。簡単にいえば、人づきあいをいとわずしてきた人は、人に囲まれた老後・最期を迎えるだろう、人づきあいを避けてきた人は、ひっそりと最期を迎えるだろうということです。

 繰り返しますが、真の自立では、できないことを人に援助してもらう、そして援助してもらったら、こだわりなく、素直に感謝することが必要です。納得できる充実した老後を過ごしたいなら、60歳過ぎまでにそんな自分にどこまで近づけるか、自分と人とのかかわり方を、気づいたいまから見直すことも大事なことになるでしょう。

■「年を取るのも悪くない」と思ってもらえるように

 あなたは親の介護を通じて、あるいは老いていく親を見守ることで、多くのものを学びました。この経験は、親が最後にあなたに身をもって残してくれた、大きなギフトといっていいでしょう。それを無駄にすることなく真の自立を手に入れ、「あなた自身の充実した老後」を迎えてほしいと思います。そのことが最後の親孝行になるのではないでしょうか。

 同時に、その姿を次の世代(子どもの世代)に見せて、「年を取るのも悪くない」「人生100年時代がきてよかった」と思ってもらえるようになったら素晴らしいです。

 私たち介護職はそのお手伝いをします。

 介護のプロの使命は、「親が長生きしてよかった」「親がおとうさんらしい/おかあさんらしい最後の生活を送れてよかった」とあなたに感じてもらうこと、ひいては、「私も、おとうさん/おかあさんのように、年を取っても自分らしく、自立した毎日を送れるようにしよう」と希望をもってもらうことだと、私は思っています。

 介護は介護を受ける本人(親)だけの問題ではありません。子どもや家族など周りの人も豊かになってはじめて、人生100年時代の介護といえるのではないでしょうか。

 そう思って、これからも現場の介護を続けていきます。

(構成/別所 文)

 

髙口光子(たかぐちみつこ)元気がでる介護研究所代表

【プロフィル】

高知医療学院卒業。理学療法士として病院勤務ののち、特別養護老人ホームに介護職として勤務。2002年から医療法人財団百葉の会で法人事務局企画教育推進室室長、生活リハビリ推進室室長を務めるとともに、介護アドバイザーとして活動。介護老人保健施設鶴舞乃城、星のしずくの立ち上げに参加。22年、理想の介護の追求と実現を考える「髙口光子の元気がでる介護研究所」を設立。介護アドバイザー、理学療法士介護福祉士、介護支援専門員。『介護施設で死ぬということ』『認知症介護びっくり日記』『リーダーのためのケア技術論』『介護の毒(ドク)はコドク(孤独)です。』など著書多数。https://genki-kaigo.net/ (元気がでる介護研究所)

 

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