「工藤会」トップに無期懲役 1審の死刑判決取り消し 福岡高裁(2024年3月12日『NHKニュース』)

 事件

 

北九州市の特定危険指定暴力団工藤会」が市民を襲撃した4つの事件で、殺人などの罪に問われ1審で死刑判決を受けた組織のトップに、2審の福岡高等裁判所は1審の判決を取り消し無期懲役の判決を言い渡しました。
起訴された4つの事件のうち、漁協の元組合長が射殺された事件については無罪としました。

 

左:野村悟被告 右:田上不美夫被告 2010年撮影

北九州市の特定危険指定暴力団工藤会」のトップで総裁の野村悟被告(77)とナンバー2で会長の田上不美夫被告(67)は、1998年から2014年にかけて福岡県内で漁協の元組合長を射殺したほか、看護師や歯科医師など3人を拳銃や刃物で襲うなど4つの事件に関わったとして、殺人や組織的な殺人未遂などの罪に問われました。

3年前、1審の福岡地方裁判所は、4つの事件すべてで野村被告が首謀者と認めて死刑を、田上被告に無期懲役の判決を言い渡し、被告側が控訴していました。

2審では、野村被告は1審に続き、いずれも共謀の事実はないと無罪を主張した一方、田上被告は、看護師と歯科医師が襲われた2つの事件を指示したと一転して関与を認めていました。

12日の2審の判決で、福岡高等裁判所の市川太志裁判長は、野村被告の1審の判決を取り消し無期懲役を言い渡しました。起訴された4つの事件のうち、漁協の元組合長が射殺された事件については無罪としました。

田上被告(67)については控訴を退け、1審に続いて無期懲役を言い渡しました。

 

法廷内には、傍聴席との間に透明なパネルが設置され、野村被告は弁護士の前の席に座って裁判長の方をじっと見つめ判決の言い渡しを静かに聞いていました。

傍聴券の倍率6.66倍

福岡高等裁判所では朝から腕章をした警察官や裁判所の職員が敷地の中や外に立ち、警戒にあたっていました。

午前9時20分ごろ、野村被告と田上被告をそれぞれ乗せたとみられる車が、警察車両に先導されながら裁判所に入りました。

大勢の人が判決を傍聴しようと訪れ、傍聴券の抽せんが行われ、裁判所によりますと一般の傍聴席44席に対して293人が並び、倍率は6.66倍でした。

起訴4事件と被告の主張

工藤会トップの野村被告とナンバー2の田上被告は、福岡県警が「壊滅作戦」と呼ぶ徹底的な取締りに乗り出した10年前に(2014年9月)逮捕され、工藤会が市民を襲撃した4つの事件で起訴されました。

 

▽1つ目の事件は、26年前(1998年)、北九州市小倉北区の繁華街で、漁協の元組合長が至近距離から銃撃され殺害された事件で殺人の罪などに問われています。港湾建設工事などの利権が事件の背景にあるとされています。

▽2つ目は12年前(2012年)に長年、暴力団の捜査を担当した福岡県警の元警察官が銃撃され腰や太ももに大けがをした事件です。元警察官は野村被告ら工藤会幹部と対等に話ができる数少ない警察官でした。

▽翌年(2013年)には、野村被告が通っていた美容外科クリニックの看護師が帰宅途中に福岡市博多区の歩道で刃物で刺されて大けがをしました。事件前、野村被告は、接客や施術について看護師への不満をもらしていたとされています。

▽4つ目の事件は2014年の歯科医師襲撃事件です。北九州市小倉北区歯科医師が出勤時に胸や腹などを刺され、大けがをしました。歯科医師は1つ目の事件で殺害された漁協の元組合長の孫でした。元警察官と看護師、歯科医師が襲われたこの3つの事件では、組織犯罪処罰法違反の組織的な殺人未遂などの罪に問われています。

1審で、野村被告と田上被告はいずれも関与を否定し全面的に無罪を主張しましたが、判決では、4つの事件すべてで野村被告が首謀者として関与したと認め、被告側が控訴していました。

2審では野村被告が引き続き、すべての事件で無罪を主張した一方、田上被告は4つの事件のうち看護師と歯科医師がそれぞれ刃物で襲われた2つの事件は独断で起こしたと関与を一転して認めたうえで、いずれも殺意はなく「傷害罪にとどまる」と主張しました。