技能実習の廃止/受け入れ態勢が問われる(2024年2月29日『神戸新聞』-「社説」)

 政府は、外国人労働者の受け入れで技能実習制度を廃止し、新たに「育成就労」という制度を設ける方針を決めた。3月にも関連法案を通常国会に提出する。

 1993年に始まった技能実習制度は、実習生への暴力や違法な長時間労働、賃金不払いが絶えなかった。新制度は人材の確保と育成を目指す。外国人が安心して長く働けるよう、企業だけでなく地域の受け入れ態勢を整える必要がある。

 育成就労は、3年間の在留を基本とし、最長5年間の「特定技能1号」への移行を促す。熟練技能を要する「特定技能2号」になれば、配偶者や子どもの帯同が認められ、永住が可能になる。

 焦点となったのは、転職をいつの時点で認めるかという点だ。

 技能実習制度は転職を原則として禁じており、多くの失踪者を生む結果となった。その反省もあって、政府の有識者会議は昨年11月、一定の日本語能力を前提に、一つの職場で1年超働けば同じ業種に転職できるとする最終報告をまとめた。

 ところが、このたび決まった政府の方針は、当分の間、業種ごとに1~2年の転職制限期間を設けるとした。自民党内で、条件の良い都市部への人材流出を懸念する声が広がったためである。

 深刻な人手不足に悩む地方の現状を踏まえれば、転職に制限を求める声はある程度理解できる。しかし、外国人が長期にわたり働く場を選べない仕組みでは、技能実習制度の二の舞いになりかねない。労働者の権利保護の観点からも、制限期間については再考が求められる。

 政府方針はさらに、永住資格を得た外国人が税金や社会保険料を納付しない場合は永住許可を取り消せるように検討する、とした。健康保険や年金などを理解していない外国人が多いとも指摘される。一層の啓発に取り組んでもらいたい。

 外国人を受け入れた企業を監督する監理団体のチェック強化が盛り込まれた点は、一歩前進と言える。受け入れ先と癒着し、本来の役割を果たしていない団体もある。実効性を高めてほしい。

 労働者の待遇改善はもちろん、日本語学習の機会が持てるよう支援するのは企業の責務である。技能実習生を巡っては妊娠で退職に追い込まれるなどのマタニティーハラスメントが横行し、孤立出産する事例も起きた。繰り返してはならない。

 今後、永住する外国人の増加が予想される。地域社会を共に支える存在として捉えることが重要となる。各自治体が教育や福祉分野でも受け入れ策を構築できるよう、政府は幅広い支援をするべきだ。