リアル「ふてほど」岐南町長のセクハラ行為を暴いた職員たちの「自衛策」 トップの首に鈴を付ける難しさ(2024年3月1日『東京新聞』)

 職員へのセクハラ行為を指摘されていた岐阜県岐南町の小島英雄町長が29日、辞職届を提出した。町が設置した第三者委員会は27日、セクハラのほかパワハラも日常的に行っていたとする報告書を公表。小島氏は直後に「一方的な内容」と反論したが、結局、「心が折れた」と早期の辞任に追い込まれた。ドタバタの背景に何が見えるか。(森本智之)

◆頭をなで「彼氏はできたのか」

辞職届を書き、頭を下げる岐阜県岐南町の小島英雄町長

辞職届を書き、頭を下げる岐阜県岐南町の小島英雄町長

 岐南町は県南部に位置し、ネギが特産の人口約2万6000人の町。小島氏のセクハラ疑惑は昨年5月、文春オンラインの報道で明るみに出た。
 町は県弁護士会から推薦を受けた弁護士3人による第三者委を設置。弁護士らは半年以上にわたる調査で報告書をまとめ、小島氏について99件のセクハラのほか、パワハラも認定した。
 複数の女性職員に対し、頭をなでたり、尻を触ったりしていたほか「子どもをつくった方がいい」「彼氏はできたのか」といった声掛けも。特定の職員らはことさら標的になり、時間外や休日でも小島氏の電話に出ないと「人事に影響する」と告げられた人もいたという。

◆「誰が言ったんや」犯人捜しほのめかす

岐南町役場

岐南町役場

 驚くのはこうした問題が発覚した経緯だ。
 報告書によると、セクハラ被害の訴えは、小島氏が町長に就任した直後の2020年11月から組織内で出ていた。副町長らは顧問弁護士に相談の上、翌12月には町長をいさめた。ところが「誰が言ったんや」と犯人捜しをほのめかし、状況は改善しなかった。
 その後も別の職員らから相談が続いたが「町長に注意しても何も変わらないだろう」「むしろ恫喝(どうかつ)されて終わる」と町長への対応をあきらめてしまった。

◆耐えられず同僚が退職を決意…週刊誌に

 職員らは「自分の身は自分で守る」ことを迫られ、町長との会話を録音したり、被害者同士で情報共有するなど自衛策を講じた。私的に録音機器を複数購入し、女性職員がいつでも使えるよう渡した男性職員もいた。こうした中、ベテランの秘書が度重なるセクハラに耐えられないとして昨年4月に退職を決意。これを機に意を決した他の被害者らが文春に情報提供したという。
セクハラ疑惑を受け辞職届を提出する小島英雄町長(左)

セクハラ疑惑を受け辞職届を提出する小島英雄町長(左)

 自治体のトップや議員による職員らへのハラスメントは近年相次いでいる。千葉県長生村の議長は昨年6月、職員への傷害罪で罰金刑を受け、愛知県東郷町では昨年11月に町長のパワハラ発言が発覚した。地方の比較的小さな規模の自治体で起きている印象がある。

◆小さな自治体は改革に熱心なところも

  大正大の江藤俊昭教授(地方自治)は「規模が小さいから問題が起きやすいというわけではない。自治基本条例や情報公開条例を制定するなど、小さな自治体には改革に熱心なところが多い。ただ、人口が少ない上に閉鎖的な状況にあると、なれ合いの中で問題が起きる面もあるだろう」と背景事情を推察した。
 今回の問題をめぐりSNSでは、昭和の男性が現代にタイムスリップしてコンプライアンス無視の言動を繰り返す人気ドラマ「不適切にもほどがある!」の「リアル版」と指摘する声もある。

◆報告書を受け取ってからの対応が大事

 組織の不祥事を巡る第三者委報告書を評価している青山学院大の八田進二名誉教授(企業ガバナンス)も「今回は昭和のおっさんの言動そのもの」と感想を述べた。その上で「最近の企業などの不祥事では全てを第三者委に委ね、報告書を受け取り、問題の人物を批判しただけで『責任を果たしました』と言わんばかりのケースが目に付く。大事なのは、報告書を受け取ってからの組織としての対応だ」と指摘する。
 特に岐南町では職員からSOSが相次いでいたのに改善できなかった。「トップの首に鈴を付けるのはどんな組織でも難しい。外部に相談窓口を設けるなど、町が責任を持って再発防止策を講じることが必要だ」と強調した。