政倫審、土壇場になって28日開催が見送りに…渋る自民党の狙いを読み解くと浮かぶ「やってる感」(2024年2月28日『東京新聞』)

自民党派閥の政治資金パーティーの裏金事件を受けた衆議院政治倫理審査会(政倫審)を巡って、与野党の協議が難航している。28、29日開催で調整していたが、27日午後になって条件が折り合わず、一転見送りとなった。
政治に詳しいジャーナリストの鈴木哲夫さんは、政倫審はそもそも説明責任を果たす上で「一番、軽い場だ」と指摘し、「茶番の国会対策にだまされちゃいけない」と力を込める。
なぜ茶番と言えるのか、意味のある議論にするにはどうすれば良いのかを聞いた。(福岡範行)

◆3段階で最も「軽い」

27日、開会が遅れた衆院政治倫理審査会幹事会=国会で

27日、開会が遅れた衆院政治倫理審査会幹事会=国会で

鈴木さんは、国会で不祥事や疑惑を明らかにしていく手続きとして3段階あると解説する。政倫審と、国会への参考人招致、そして国会への証人喚問だ。
この中で、最も重い手続きが証人喚問。原則公開で、うそをつけば偽証罪に問われる。
次に重いのが参考人招致。原則公開だが、うそをついても偽証罪までは問われない。
最も軽い政倫審は原則非公開で、偽証罪に問われることもない。出席するかどうかも任意なので、本人が「出たくない」と言えば出席しなくてもいい。
鈴木さんは「政倫審みたいな軽いところでやったって、何の意味もない」とまで語る。
では、なぜ政倫審の開催や、やり取りを公開するかどうかが連日ニュースになっているのか。鈴木さんは「自民党が自分でハードルを高くして、政倫審を大きなものに見せかけて、野党の要求を受け入れて『やっている感』を演出している」と読み解く。

◆「茶番だ」と語る理由

例えば、衆議院の政倫審について、野党が自民の現職議員51人の出席を求めると、自民は当初は2人、今は5人と出席する人数を小出しに増やした。その流れだけ見ると自民が困難な要求に少しずつ応じているかのように映る。
しかし、鈴木さんは「今国会が始まる前は、自民は『誠意を持って対応する』と言っていた。開会後に『政倫審をやらない』と言い出した」と振り返り、「茶番だ。自民は時間稼ぎをして、逃げ切ろうとしている」と指摘する。この自民の動きは、時間がたてば裏金問題の報道が少なくなり、国民が忘れていくという見立てからの国会対策だとし、「与党から国民が挑まれている。次の選挙までこの問題を忘れてはいけない」とも語った。

◆意味ある議論するには

鈴木さんは、「政倫審が開かれても、国民が納得するような説明はないだろう」とも予想する。では、どうすればいいのか。鈴木さんは、政治とカネの特別委員会を設けることを提案する。
講演で政権の内情を明かした鈴木哲夫さん=2018年撮影

講演で政権の内情を明かした鈴木哲夫さん=2018年撮影

今は、衆院予算委員会などで議論が行われているが、予算委では、能登半島地震の復興や子ども子育ての対策などの予算の議論にも時間をかける必要がある。特別委ならば「自民がどこまで取り組むかは別として、与野党で政治とカネに絞って議論され、中身は深まる。問題を忘れないことにも役立つ」と説く。
政倫審でお茶を濁すこともできないだろうとも、鈴木さんは見通す。世論調査で、自民の説明不足を指摘する声が多いからだ。「国民はだまされていない。(政倫審を巡る自民の対応を)演出だと見抜いていると思う」
背景には、国会での議論が、確定申告の時期と重なったことに加え、物価高が続いていることがあると鈴木さんは感じている。「2年近く庶民の苦しい生活が続いてきた中で、政治とカネの問題が出てきたことへの怒りがあると思う」。だからこそ、国会は特別委の設置などをして、本格的な再発防止に踏み込むべきだと訴える。
「ここで逃げられたら、また問題は繰り返される。透明化をどうするか、政治資金規正法をどうするか、政治とカネについて根本的に考え直す機会にすべきだ」と語った。

◆そもそも政倫審はいつ、何のために?

政倫審は、法令違反が取り沙汰される政治家の政治的・道義的責任について審査や勧告を行う。ロッキード事件を契機として1985年に衆参両院に設置された。
本人の申し出か、委員の3分の1以上が申し立てて、出席委員の過半数が賛成すれば開催できる。
出席に強制力はない。証人喚問と異なり、発言は偽証罪に問われない。これまでに審査の結果、一定期間の登院自粛や国会の役職の辞任などを勧告したケースはなく、「ガス抜き」に利用されてきた面もある。

◆開催された例は?

1996年、自民党加藤紘一氏の共和汚職事件を巡る闇献金疑惑で初めて開かれ、これまでに衆院で9回開催された。
2009年には当時民主党代表だった鳩山由紀夫氏の政治資金虚偽記載問題で開催を議決したが、鳩山氏は出席しなかった。

◆公開しないの?

公開するか否かの判断は出席者の意思に委ねられる。会議録も原則非公開で事実上閲覧できない。
これまでに開催された9回のうち、完全非公開は1回だけ。議員にだけ傍聴を認めて報道には公開しなかった一部非公開は3回あった。
議員が説明責任を果たすべき場であるにもかかわらず、制度面の限界が浮き彫りになっている。
2022年7月の衆院政治倫理審査会で手を上げて答弁に立つ田中真紀子元外相(代表撮影)

2022年7月の衆院政治倫理審査会で手を上げて答弁に立つ田中真紀子元外相(代表撮影)

参考人招致、証人尋問との違いは?

疑惑を持たれた議員に国会で説明を求める方法は、政倫審のほかにも、証人喚問や参考人招致がある。大きな違いは、真相解明のための強制力だ。
証人喚問は原則公開で、議院証言法で出席義務があり、理由のない欠席や虚偽の証言には罰則がある。
参考人招致は、出席の強制力や虚偽説明への罰則がないものの、証人喚問同様に公開が原則だ。

◆裏金事件のケースは?

野党は、還流額を政治資金収支報告書に記載しなかった安倍派、二階派の現職82人のうち全ての衆院議員51人の出席を要求。このうち自民党が応じたのは、安倍派座長や事務総長を務めた塩谷立松野博一西村康稔、高木毅の各氏、二階派武田良太事務総長の計5人だけだった。
政倫審の公開を巡っても与野党で調整が難航。野党は報道関係者の傍聴も認めた完全公開を求めているが、自民党は応じていない。
野党は参院でも政倫審の場で、安倍派議員ら32人の審査を求めている。