【使途「不透明化」】規正法改正は不可欠だ(2024年2月28日『高知新聞』-「社説」)

 また新たな政治とカネ問題が浮上した。自民党茂木敏充幹事長と棚橋泰文国家公安委員長の「国会議員関係政治団体」が2020~22年、支出の公開基準が緩い「その他の政治団体」である後援会に巨額の資金を流し、使途の詳細がほぼ分からなくなる処理を行っていた。
 政治資金規正法の「抜け穴」を利用した格好だ。政治資金の透明性確保を図る同法の趣旨をないがしろにした、極めて悪質な行為というほかない。派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件と合わせ、自民党の政治資金に関する倫理観は底が割れた印象を拭えない。
 両氏の政党支部資金管理団体は規正法上、国会議員関係政治団体に該当。人件費を除いて1万円を超える支出全てを報告書に記載するよう義務付ける。不十分と指摘されるとはいえ、税理士などによる監査の義務もある。
 一方、資金の移転先となった後援会はその他の政治団体の位置付け。人件費や備品・消耗品費などの経常経費は総額のみの記載となり、政治活動費についても5万円以上の支出だけに記載義務がある。使途の公開基準は大幅に緩くなる。
 ただ、国会議員関係政治団体として届け出るかどうかは団体側の判断に委ねられている。届け出ない場合にも罰則規定はない。
 国会議員関係政治団体からその他の政治団体へと政治資金を移せば、寄付金控除の適用を受けられない半面、外部による使途の確認が事実上できなくなり、監査も必要がなくなる。「ザル法」といわれる規正法の問題点がまた露呈した形だ。
 両氏の後援会とも、議員本人が代表を務める資金管理団体と同じ所在地にあり、会計責任者や連絡先も同じだった。収支報告書によると、いずれも個人献金収入はなく、収入のほぼ全てがこの「抜け穴」を通じた資金の移動だった。
 茂木氏の後援会は3年分の支出の98・1%に当たる約9400万円で使途の明細が不明。棚橋氏も支出の97・4%、4100万円余りの使途がはっきりしない。こうした資金の移動は複数の議員で確認されたが、両氏は特に巨額だった。
 茂木氏の事務所は「規正法にのっとり、その収支を報告している」とする。たとえそうであっても、法の欠陥を利用した資金の「不透明化」が行われていたなら、極めて悪質な脱法的行為といわざるを得ない。道義的な責任は免れまい。
 裏金事件を受けて、自民党の政治刷新本部が派閥の在り方や政治資金の透明化に関する中間取りまとめを公表したが、今回明らかになった問題点は議論の俎上(そじょう)にも載っていなかった。規正法改正による厳格化は不可欠といえる。
 だが、自民党政治倫理審査会の開催を巡っても、公開の在り方や質疑時間などを条件化し、説明責任に背を向けているように映る。真相解明も政治資金の透明化も進まないまま新たな疑惑が相次ぐ。そうした現状を真摯(しんし)に省みるべきだ。