首相が建てた墓(2024年2月26日『福島民報』-「あぶくま抄」)

 東京の府中市にある都立多磨霊園は、東京ドーム27個分という広大な公園墓地だ。教科書に出てくるような政財界人や学者など、名だたる人物も眠っている

 

都立多磨霊園│府中市│東京都霊園ガイド

都立多磨霊園

 

▼1936(昭和11)年の二・二六事件で、反乱兵士に殺害された二本松市出身の警察官・村上嘉茂左衛門の墓もある。時の首相・岡田啓介を官邸の浴室に隠し、拳銃だけで機関銃の兵士と渡り合ったが力尽きた。岡田が事件後に墓を建てた。墓石の裏側に「昭和十一年六月 岡田啓介建之」という文字が刻まれている

 

殉職者たち | 2.26事件を語ろう

 

岡田啓介|近代日本人の肖像 | 国立国会図書館

岡田啓介

 

▼∧お墓参りすることをならわしとしている∨と回顧録にあるが、建てたことは何も記していない。自らを飾って語るのを嫌ったのだろうか。この現場では、村上を含む警察官4人と岡田の義弟も亡くなっている。自分が生き延びたのは、命を賭けて戦ってくれたおかげだと、深く感謝していたのは確かだろう

▼岡田は後年、太平洋戦争の継続を主張する当時の首相・東条英機と激しく対立しながら、終戦への道筋を付ける。村上たちに身を捨てる覚悟がなかったら、戦争はもっと壮絶な結末を迎えたかもしれない。きょうは89年目の命日だ。墓前に立つと、同県人として身の引き締まる思いがする。

 

東条英機