徴用工訴訟で初の実害、「遺憾砲」では効果なし 「岸田首相は報復カードを」松本國俊氏(2024年2月24日『週刊フジ』)

岸田首相も尹大統領(右)と笑顔で握手している場合ではない (共同)

 

十八番の「遺憾砲」炸裂させたが効果あるのか

韓国で異常な手続きが強行された。いわゆる「元徴用工」訴訟をめぐり、日立造船の供託金6000万ウォン(約670万円)が奪われるという日本企業として初の「実害」が出たのだ。日韓間の請求権問題は1965年の日韓請求権協定で「完全かつ最終的に解決」している。

韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権は昨年3月、政府傘下の財団に賠償金支払いを肩代わりさせる策を発表し、日韓両政府は関係正常化で合意したはずだった。

岸田文雄政権はその後、「通貨交換(スワップ)協定」を再開させるなど韓国に配慮したが、まさに恩を仇(あだ)で返された。国民の生命と財産を守ることは政府の最も重要な責務である。安倍晋三政権では具体的な「報復カード」を準備していたが、舐められた岸田政権は対抗措置を発動するのか。

「日韓請求権協定に明らかに反する判決に基づき、日本企業に不当な不利益を負わせるもので極めて遺憾だ」

林芳正官房長官は20日の記者会見で、日立造船が韓国裁判所に預けた供託金が原告側に渡ったことについてこう述べ、韓国側に厳重に抗議することも明らかにした。

岸田政権の十八番「遺憾砲」だが、本当に効果があるのか。

日韓の請求権問題は、1965年の日韓請求権協定で「完全かつ最終的に解決」している。日本政府は当時、無償3億ドル、有償2億ドルの計5億ドルを韓国政府に提供した。元徴用工に資金が渡らなかったのは、韓国政府の問題である。

それにもかかわらず、韓国側は元徴用工問題を蒸し返し、「反日政策」を推し進めた文在寅ムン・ジェイン)政権(2017~22年)下では、日本企業に賠償を命じる「異常判決」が相次いでいた。

日立造船にとって、供託金は「自衛」のためだった。2審で敗訴した後の19年1月、韓国国内にある同社の資産が、強制的に差し押さえられるのを防ぐ目的で供託を行っていた。

22年に誕生した尹政権は日本との関係改善を掲げ、昨年3月6日、日本企業の賠償を韓国政府傘下の財団が肩代わりすることなどを表明した。同月16日に東京で開かれた日韓首脳会談では、11年以降途絶えていた首脳同士の相互往来「シャトル外交」の再開で一致するなど、関係正常化に踏み出した。

岸田政権はその後、韓国に対する〝優遇策〟を次々に打ち出した。

昨年7月、輸出管理をめぐって安全保障上の懸念があるとして、簡略な輸出手続きを認める優遇対象国「グループA(旧ホワイト国)」から外していた韓国を再指定する改正政令を施行した。

同年12月には、日本政府と韓国銀行(中央銀行)が、どちらかの国が金融危機に見舞われた場合、その国の通貨と引き換えに、もう一方が保有するドルを融通する「スワップ協定」を結んだことを発表した。

ところがこの間も、日本企業に対する「異常判決」は止まらなかった。

韓国最高裁は昨年12月の2件の訴訟で、三菱重工と日本製鉄(旧新日鉄住金)、日立造船の上告を棄却し、賠償命令が確定した。最高裁は両訴訟で、徴用工問題が請求権協定の対象に含まれないとの判断を改めて示し、韓国司法の異常さが明らかになった。

尹大統領の姿勢にも怪しさがある。

今月7日に放送された公営放送KBSテレビのインタビューで、元徴用工訴訟問題の解決策実行に向けて、尹大統領は「韓日関係の改善を願う両国の企業人の協力」を呼びかけたのだ。日本企業に負担を押しつけようとする狙いがうかがえる。

今回の韓国側の措置を識者はどうみるか。

朝鮮近現代史研究所所長の松木國俊氏は「他の日本企業にも波及する『蟻の一穴』になりかねず、元徴用工訴訟問題で大変な転機になる恐れがある。資産凍結よりもひどい今回の措置は、一種の『戦争状態』にあるといってもいい。韓国側の違法行為に対して、岸田政権は断固として抗議すべきだ」と語る。

韓国の文政権下で「異常判決」が続いていた19年3月、安倍政権の麻生太郎副総理兼財務相衆院財務金融委員会で、日本維新の会の議員から「(日本企業に実害が生じた場合)具体的に対抗措置を前に進めるべきではないか?」と質問され、次のように答えた。

「関税(引き上げ)に限らず、送金の停止、ビザの発給停止とか、対抗措置にはいろんな方法がある」

当時の安倍政権は、国民や日本企業の財産を守るため、韓国への「対抗措置」として100前後の選択肢をリストアップしていたとされる。

舐められた岸田政権は今後、どのような対抗措置を取るべきか。

松木氏は「目に見える形での〝報復措置〟が必要だ。韓国経済は日本との通貨スワップがないとやっていけない体質になっている。日本への敵対姿勢を示した以上、韓国とのスワップを見直すべきだ。ホワイト国の見直しにも言及して、日本は『やるときはやる』という覚悟と姿勢を見せないといけない」と語った。

 

元徴用工訴訟で日本に〝協力〟呼びかけ 尹大統領、負担押しつけか(zakzak