今月は「ジェンダー」をテーマにセレクトしました。固定観念は日常の中にも、無意識の中にも潜んでいます。
家族の見かたが変わる
女性は主婦であるべきで、家事・育児を第一の仕事にすべき―。
現代社会においても、心の中で、こうした意識を持つ人は少なくないのではないか。筆者は戦前から戦後のさまざまなデータを読み解き、女性学・歴史人口学などの視点も織り交ぜながら、家族のあり方が変化してきたことを示す。
中でも興味深いのは、「戦後、女性は社会進出した」のではなく、「戦後、女性は主婦化した」というもの。家族に対する価値観、見かたが変わる一冊である。
自分らしく生きる
英国で生きる12人の黒人女性たちの人生をたどる物語。女性、ノンバイナリー(女性、男性という枠に自分をあてはめない人)として生きる喜怒哀楽が赤裸々に語られていく。若くして3人の子どもを持つシングルマザー、大農場だった場所が自然に還る……。
描写される様子は日本でも共通することが少なくない。世代を超えて物語は展開していくが、それぞれが家族、友人といった形でつながっている。そのつながりが、エピローグで驚きの展開となる。
料理は立派な科学です
主人公エリザベス・ゾットは、科学者として生きたい、だから愛している人と共に暮らしていても結婚はしないという強い意志を持つ。舞台は1960年代の米国。生きづらくても自分を曲げない。
ところが、未婚のシングルマザーになり、それが原因で職場だった研究所を追い出されてしまう。そんな時、テレビの料理番組の出演オファーがあり、不本意ながら生活のために応じる。エリザベスの意志の強さに共感させられると共に、言葉を理解する犬シックス・サーティー、早熟な娘マッドも魅力的だ。
「全米250万部、全世界600万部。2022年、最も売れたデビュー小説!」という通りの最高の小説。
女性を取り巻く現状把握
「女性の世界では、『先進』国はほとんど存在しない」。本書は女性に関する現実をデータに基づいて視覚的に訴える地図帳だ。
例えば、男性が投票権を獲得してから123年後に女性の選挙権が初めて認められたスイスのデータや、国政における女性議員の世界平均割合は23%でしかないというデータなど、世界全体のさまざまな女性の現状が見えてくる。政治のほかに、名誉殺人や持参金殺人などの性暴力について、さらには識字率や健康についてまでも網羅された一冊だ。
街中にある広告にはジェンダー表現が多く潜んでいる。女性に向けた脱毛広告では、「ムダのない肌=美しい肌」という他者評価による美しさの前提があり、そのコンプレックスをつつく表現が使われている。
一方、男性向けの広告では、脱毛をケアではなく「自己管理・鍛錬」として扱い、「デキル男」像と結びつけている。
このような「呪縛」から逃れるために、表現を俯瞰して個人としての感覚を持つことが必要なのではないか。当たり前の風景が違って見えてくる。