女性側と伊東側、双方の刑事告訴は受理されたものの、実際に刑事事件になるかは未だ不透明だ。「日本のイナズマ」に突如浮上した今回の騒動は、なぜ起きたのか。当事者らへの取材から背景を探る。
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しわき・きょうすけ/'70年、千葉県生まれ。東大法学部在学中に司法試験に合格し、'95年、アナウンサーとしてテレビ朝日に入社。'07年に法務部へ異動し、'23年7月に法務部長に就任。同年11月にテレビ朝日を退社し、「西脇亨輔法律事務所」を開業した ----------
「言ってないです」
まず伊東選手の部屋での雰囲気について、Bさんとされる女性はこう語った。
「もうみんなで普通に、Aももちろん一緒に、同じホテルの部屋で飲み始めたんですね」 しかし飲み会が始まったのは深夜。Bさんはすぐ寝てしまったという。
男「隣で何かあったとしてもわかんないよね」
B「あったとしてもー(笑)、ほんとに」
男「おい、ぐっすり寝過ぎだろ、Bちゃんも」
B「あーはははは(笑)、いや間違いないです、ほんとに」
そして質問が核心に及んだ。
まずBさん自身の性被害について。週刊新潮の記事では、Bさんは男性トレーナーに身体を舐められるなどしたと証言している。しかし録音の音声ではこう語っていた。
男「(男性トレーナー)と寝てたの? あなたは」
B「いやいやいや、ほんとに1人でぐっすり寝てたと思う」
男「(男性トレーナー)の腕枕で、Bちゃんが寝てたとかじゃなくて?」 B「それは絶対にないです。フフフ、絶対にない」
そしてAさんと伊東選手の間に何があったかについて男性が質問した。
「(Aさんは)実際に、その伊東選手とヤってる、ヤっちゃってるみたいなことは言ってきてる?」
それに対してBさんと思われる声は、即座にこう答えていた。 「ああ、言ってないです。言ってないです」
Bさんの発言の「揺らぎ」
刑事告訴時のBさんの訴えは「Aさんが犯されているのがわかり、自分の身体には性行為後の感触があった」というものだった。
「事件後にBさんが話していた内容は、今回の刑事告訴とはまるで違ったんです」(加藤弁護士)
ただ一方で性被害に遭った女性が直後に素直に被害を訴えられないこともあるという指摘もある。週刊新潮も性犯罪に取り組む弁護士の「性被害を受けた直後に、性被害に遭ったという認識が無いことは、よくあることです」というコメントを紹介している。または、Bさんにとって録音の中の聞き手の男性は、性被害を打ち明けられるような相手ではなかったのかもしれない。
事件を現認したのかどうかという肝心な点でBさんの言葉はブレているのか。それとも録音当時、Bさんには性被害を言いだせない事情があったのか。いずれにせよ、この供述の「揺らぎ」は事件を解き明かす決定的な焦点の一つと言えるだろう。
しかし、もし伊東選手側の主張が正しいとすると、女性たちはわざわざ伊東選手を貶めるような刑事告訴をしたことになる。そんなことをする理由があったのか。
その謎を解き明かすかもしれない音声もあった。女性Aさんが契約する芸能事務所の社長が、この件について語っている録音だ。
女性とX氏の関係
「(Aさんは)X氏の部屋に泊まる予定だったんだけど……」
X氏は伊東選手のマネジメントの他に映像関係の仕事もしていて、AさんらはX氏から仕事をもらう立場だった。しかし事件の前月、Aさんの芸能事務所はX氏が勤めていた会社から契約を打ち切られた。そうした中でAさん側はこの日X氏に近付こうとしたが、予定と違い伊東選手の部屋に泊まってしまったということなのか。Aさんは芸能事務所社長宛のLINEの中で、伊東選手の部屋に泊まった理由をこう書いている。
〈Xさんの中で純也さんにいい思いをさせてあげる会なのかなってちょっとなってたとこもあって〉
しかしX氏はそのようなことはまったく考えておらず、芸能事務所側を厳しく注意したという。
Aさんらが性被害を訴え刑事告訴をしたのは、X氏の会社と芸能事務所の契約打ち切り、そしてX氏からの叱責の後だった。
様々な物的証拠やいきさつは、本当に性加害があったのかについて疑問を投げかけているようにも感じられる。しかしこれはあくまで伊東選手側から見た事実をもとにした考えだ。女性側の視点から見ればまた違う光景が広がるのかもしれない。
Bさんの説明は変遷しているのかなどについて、女性側弁護士に文書で質問した。しかし期限までに返答はなかった。
伊東選手はすでに、所属しているフランス1部リーグのスタッド・ランスに復帰、公式戦にフル出場した。チームの会長はその理由を「私は推定無罪にこだわっている」と話したと報じられている。次の日本代表戦まであと約1ヵ月。日本サッカー協会はどのような判断をするのだろうか。
その決断のためにも、慎重に、しかし迅速に、捜査機関の事実確認が行われることを祈っている。
「週刊現代」2024年2月24日・3月2日合併号より
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