テレ東も生中継した田中真紀子氏の政倫審 裏金問題で開かれるのか、公開は?対応問われる自民党(2024年2月18日『日刊スポーツ』)

 

衆議院本会議で答弁する岸田文雄首相(2024年2月1日撮影)
衆議院本会議で答弁する岸田文雄首相(2024年2月1日撮影)

自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件をめぐり、関係した当該議員を国会の政治倫理審査会(政倫審)に呼ぶか、呼ばないかで、与野党の攻防が続いている。野党側は、キックバックを受け取ったとして聞き取りの対象になった安倍派、二階派(ともに解散)の国会議員のうち、衆院議員51人の出席を自民党に要求。出席を渋る安倍派幹部もいるとされる中、幹部以外の政倫審での「告発」に期待する側面もあると受け止められている。

政倫審は、疑惑が持たれた議員の政治責任を審査する国会の機関で、きっかけとなったのは昭和のロッキード事件だった。衆参両院に設立され、本人か委員の3分の1の申し出があれば委員の過半数議決で招致されるが、強制力はなく、あくまで「審査」の場だ。

過去9回開かれ(1回は対象者が出席せず)たが、開かれることになった理由は「政治とカネ」をめぐる問題が多い。暴力団との交際疑惑や経歴詐称疑惑、かつて社会問題になった耐震強度偽装をめぐる問題もあった。

原則は非公開で、最初の加藤紘一氏は公開されなかった。その後もメディアへの公開はなかったが、政倫審のシステムを大きく変えたのが、先日「目白御殿」が全焼した田中真紀子元外相が出席した時。「特例」として初めて公開された。 2001年4月に発足した小泉内閣の外相として華々しく活動しながら翌年1月に外務省との対立から更迭され、春になると、週刊誌報道で秘書給与流用の疑惑が指摘された。疑惑浮上後、一貫して否定する真紀子氏に、この時は自民党が再三説明を求め、党の党紀委員会に呼ばれたり、説明文書の提出を求め、これに真紀子氏が反発するなど、すったもんだが続き、取材する立場としても翻弄(ほんろう)されたことを記憶している。

当時の自民党は強硬で、党紀委員会で真紀子氏に党員資格停止処分まで下した。結局、真紀子氏は政倫審に出席することになったが、疑惑が出てから3カ月くらいたった後の2002年7月24日。NHK、民放各局、ラジオ各局がすべて生中継した。独自路線の編成で知られるテレビ東京も中継したことも、注目度の高さを表した。NHKの中継の視聴率は11・7%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)と、国会中継では異例の高さだった。

歯に衣(きぬ)着せない「真紀子節」で知られた真紀子氏も、始まる前は笑顔をみせていたが、審査が始まり各党の質問で詳細な突っ込みが始まると「ええー、あのー」などと、しどろもどろになる場面があった。

紙を見ながら答え、同席した公認会計士と弁護士が代理答弁する場面も目立った。約2時間行われたが、真紀子氏は終了後、取材に応じなかった。「再説明」を求める声も出たほどだったが、真紀子氏は、この2週間あまり後に、議員を辞職した(2003年衆院選で政界復帰)。

政倫審で初めて事実を認めたケースもあった。日本歯科医師連盟日歯連)からの献金問題で、首相経験者として初めて臨んだのが橋本龍太郎氏。この時はメディア公開されなかったが、橋本氏は日歯連からの1億円授受について「思い出せない」としてきたのを、政倫審の場で「客観的に見て、事実であろうと思います」という表現で認めた。当時、出席した議員に取材すると、鼻っ柱の強さで知られた橋本氏が、この時ばかりは弱々しい声で答えていたと聞いた。

政倫審に応じる議員の対応はそれぞれ。説明の場にはなるが、うその証言をすれば偽証罪に問われる証人喚問とは異なり、刑事告発もされない。「みそぎ」「ガス抜き」といわれるのも事実で「とにかく乗り切ることが大事」と聞いたこともある。

一方で、時間が限られた中での説明で、ほとんどが「言いっ放し」で終わる。疑惑が完全に晴れることもなく、出席した後も疑惑を引きずる形にもなる。真紀子氏のように辞職したり、その後の選挙で落選した議員もいる。政治生命に関わる「終わりの始まり」の場になる場合もあるのだ。

今回、自民党は野党に当該議員の出席を求められても、なかなか重い腰をあげようとしていない。野党が求める派閥幹部議員らが出席に応じてもし実施されたとしても、公開されるのかは微妙だ。岸田文雄首相が2月14日の集中審議で30回以上繰り返した「説明責任」という言葉がポーズだけか、そうでないのか、国民も注視しているはずだと感じる。

【中山知子】(ニッカンスポーツ・コム/社会コラム「取材備忘録」)

◆中山知子(なかやま・ともこ) 1992年に日本新党が結成され、自民党政権→非自民の細川連立政権へ最初の政権交代が起きたころから、永田町を中心に取材を始める。1人で各党や政治家を回り「ひとり政治部」とも。小泉純一郎首相の北朝鮮訪問に2度同行取材。文化社会部記者&デスク、日刊スポーツNEWSデジタル編集部デスクを経て、社会/地域情報部記者。福岡県出身。青学大卒。