◆政治的道義的に責任があると認めるか審査
「セイリンシンですか。聞いたことはあるけど」
政倫審は衆参両院に設置され、「政治とカネ」などの疑惑を向けられた議員自身が出席して弁明する。衆院のホームページでは「政治倫理の確立のため、議員が『行為規範』その他の法令の規定に著しく違反し、政治的道義的に責任があると認めるかどうかについて審査し、適当な勧告を行う」と説明されている。
◆1番人気は二階氏
立憲民主など野党4党の国対委員長は13日、政倫審開催と安倍派幹部らの出席を与党側に求めることで一致。安倍派事務総長を務め、有力幹部「5人衆」の1人だった松野博一・前官房長官は、記者団に「依頼があれば、理由などによって判断したい」と検討する考えを示した。
市民は、誰に出席してほしいと思っているのか。
神保町で聞いた「1番人気」は、裏金事件で派閥の会計責任者が在宅起訴された二階俊博氏。自民党が全国会議員を対象にしたアンケートで収支報告書への不記載額(5年分)が最多の3526万円に上った。自民党幹事長を歴代最長の5年2カ月務め、使途を公開する必要のない政策活動費を在任中に約50億円受け取っていた。
◆「俺たちは今から確定申告なのに」
中華料理店を経営する60代の男性は「俺だって裏金がほしいよ」とジョークを交えつつも二階氏への憤りを隠さなかった。「俺たちは今から確定申告なのに、国会議員は罪にも問われず特別扱いか」
長年自民党を支持してきた元自営業の男性(74)も「長く権力の座にあった人だからいろんなことを知っているだろう。いまこそしっかり説明してほしい」と二階氏の名前を挙げた。「徹底的に問題を洗い出さないと、自民党は立ち直れないのでは」とも。
◆「悪いやつから順番に連れてきて」
ただ今回の自民党のアンケートで不記載などが見つかったのは85人に上っている。最大派閥の安倍派の5人衆にさらに説明を求める声は強く、政界引退後も安倍派に影響力を持つとされる森喜朗元首相の関与を問う声もある。
このため、「疑惑を持たれている議員は1人や2人ではない。誰かと言わず、そういう人たち全員に説明させるべきだ」「悪いやつから順番に連れてきてほしい」という声もあった。
◆出席の義務なし、原則非公開
ただ政倫審は開催のハードルが高く、出席の義務もない。本人の了解がなければ原則非公開で行われ、テレビカメラや取材記者も締め出される。正当な理由なく出席を拒否できずウソをつくと偽証罪に問われる証人喚問とは大きく異なる。
編集者の男性(55)は証人喚問の実施を求め、注文を付けた。「のらりくらりかわされる様子をテレビで見ていつも気分が悪くなる。言いくるめられないようにきっちりした場で追及してほしい」
◆きっかけは巨額賄賂ばらまいた「ロッキード事件」
1983年に田中元首相が一審で有罪判決を受けた際、政治倫理の確立が問われた。田中氏を師と仰ぐ小沢一郎衆院議員らが中心となり、与野党の「政治倫理協議会」で議論し、85年に国会法を改正して政倫審の設置が決まった。
◆疑惑議員本人の申し出で96年から9回開催、
疑惑議員が自ら弁明する場との位置付け。当初は委員の3分の1の申し立てがある場合のみだったが、92年に規程が改正され、議員本人の申し出でも開催できるようになった。
96年に、自民党の加藤紘一氏の共和汚職事件を巡る闇献金疑惑で初めて開かれ、これまでに衆院で9回開催された=一覧参照。2006年のマンション耐震強度偽装問題を巡る元国土庁長官の伊藤公介氏(自民)への質疑が行われた8回目までは、いずれも疑惑が浮上した議員本人の申し出によって開かれた。
◆罰則も強制力もなし「実効性乏しい」批判も
09年に、当時民主党代表だった鳩山由紀夫氏の個人献金偽装問題を巡って行われた審査のみが、政倫審委員の申し立てで開催された。しかし、出席は任意で、鳩山氏が拒否したため、実質的に審査されなかった。予算委員会などでの証人喚問とは違い、罰則も強制力もないため、実効性に乏しいとの批判は根強い。
現在の衆院政倫審の委員の中には、「裏金」を受け取っていたとされる安倍派議員も名を連ねており、疑惑の解明につながるかは心もとない。
◆「証人喚問させない国会対策の戦術だ」
ジャーナリストの鈴木哲夫氏は「参考人招致や証人喚問をさせないための国会対策戦術だ。政倫審が厳しい場であるかのような印象を抱かせ、落としどころとして、追及の甘い政倫審の開催で野党と手を打つつもりでは」とみる。
◆「徐々にハードル上げる」野党の狙い
一方で立憲民主党の安住淳国対委員長は「もし政倫審に来ないなら、ハードルを徐々に上げる。最後は証人喚問まで徹底してやる」と少しずつ「圧力」をかける構え。鈴木氏は「いきなり証人喚問を求めてダメだった場合、そこで追及の手がなくなる。まずは政倫審を求め、次に参考人招致、最後は証人喚問と段階を上げていくことで、選挙まで時間をかけて追及する狙いだろう」と話す。
過去、政倫審で弁明後、議員辞職したのは秘書給与疑惑を追及された田中真紀子氏(当時自民)のみ。審査の結果、一定期間の登院自粛や国会の役職の辞任などを勧告できるが、実施された例はない。世論の「ガス抜き」を狙い、「やってる感」(鈴木氏)で開かれる側面もあるようだ。
◆自民の対応、次の選挙の判断材料に
「たとえ発言が言い訳に終始したとしても、内容への批判はできるし、出席を拒む議員も可視化される。議論は少し深まり、政治は次の段階に進む。それが参考人招致なのか、党内の処分なのかは分からないが、少なくとも有権者にとっては、自民党がどういう対応をしたのかは、次の選挙での判断材料になるはずだ」
◆デスクメモ
疑惑があまりに多すぎると、追及が散漫に…。「政治とカネ」のパターンに、今回はとくにはまりやすそうだ。立件を免れても、個別に前例と比べると、辞職や離党に値する議員は多いはず。ここは、調査する方も組織的、継続的に。「みんなで渡れば怖くない」を許してはならない。(本)