イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が続く中、パレスチナ自治区ガザの支援を担う「国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)」の清田(せいた)明宏保健局長(63)が来日中の16日、「こちら特報部」の取材に応じた。UNRWAの一部職員がハマスのイスラエル攻撃に関与した疑いが浮上し、日本などが資金の拠出を停止したが、清田氏は人道的観点から拠出再開を切望した。(北川成史)
国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA) 1949年の国連総会決議に基づき設立された。パレスチナ自治区のガザやヨルダン川西岸のほか、ヨルダン、レバノン、シリアで、パレスチナ難民支援のため、学校や病院、避難所の運営などを担う。ガザでは約1万3000人のスタッフを雇っている。支援国・機関の拠出金で支えられ、2022年の拠出金総額約11億7000万ドル(約1755億円)のうち、国別1位は米国の約3億4000万ドル(約510億円)。日本は6位の約3000万ドル(約45億円)。
◆地下トンネル「UNRWAとは関係がない」
「停止の影響はものすごく深刻だ。来月分の職員の給料が払えず、支援が止まる」。清田氏は危機感をあらわにする。「ガザの住民にとって死刑宣告になる」
清田氏は「まだ証拠が出ておらず、疑惑でしかない。ただ、非常に重要な話なので国連で調査している」と述べ、早期に調査結果が出るように願った。
また、イスラエル軍が10日、ガザのUNRWA施設の地下にトンネルが通り、そこに諜報(ちょうほう)関連の設備があったと発表したが、清田氏は「UNRWAとは関係がない。施設からトンネルに行く入り口はない」と主張した。
◆トイレ500人に一つ、シャワー3000人に一つの惨状
ハマスの奇襲に対し、イスラエルは苛烈な報復を続行。ガザ保健当局によると、ガザ側の死者は2万8000人を超えた。約230万人のガザ住民のうち140万人が、元々は人口30万人弱だった最南部のラファに避難している。
「この世の地獄」と清田氏はガザの現状を表現する。ラファにあるUNRWAの避難所には2万8000人が押し寄せ、トイレが500人に一つ、シャワーが3000人に一つ、食料は必要量の半分ほどの状況。栄養状態が悪く、A型肝炎や細菌系の下痢、呼吸器疾患が広がっているという。
そうした人道危機の深まりの中で、日本はイスラエルと関係が深い米国などと同調し、資金拠出停止を決めた。清田氏は「政治判断だと思うが、個人的にはショックだった」と振り返る。
◆「困っている人のライフラインを止めないで」
「ガザは未曽有の人道危機にある。停止を早く解除し、われわれが支援を続けられるようにしてほしい」