日本も加わった資金停止は「ガザ住民への死刑宣告」 国連パレスチナ難民機関の保健局長が語る深刻な影響(2024年2月17日『東京新聞』)

 イスラエルイスラム組織ハマスの戦闘が続く中、パレスチナ自治区ガザの支援を担う「国連パレスチナ難民救済事業機関UNRWA)」の清田(せいた)明宏保健局長(63)が来日中の16日、「こちら特報部」の取材に応じた。UNRWAの一部職員がハマスイスラエル攻撃に関与した疑いが浮上し、日本などが資金の拠出を停止したが、清田氏は人道的観点から拠出再開を切望した。(北川成史)

 国連パレスチナ難民救済事業機関UNRWA 1949年の国連総会決議に基づき設立された。パレスチナ自治区のガザやヨルダン川西岸のほか、ヨルダン、レバノン、シリアで、パレスチナ難民支援のため、学校や病院、避難所の運営などを担う。ガザでは約1万3000人のスタッフを雇っている。支援国・機関の拠出金で支えられ、2022年の拠出金総額約11億7000万ドル(約1755億円)のうち、国別1位は米国の約3億4000万ドル(約510億円)。日本は6位の約3000万ドル(約45億円)。

◆地下トンネル「UNRWAとは関係がない」

インタビューに応じるUNRWAの清田明宏保健局長=16日、東京都渋谷区の国連大学で

インタビューに応じるUNRWAの清田明宏保健局長=16日、東京都渋谷区の国連大学

 「停止の影響はものすごく深刻だ。来月分の職員の給料が払えず、支援が止まる」。清田氏は危機感をあらわにする。「ガザの住民にとって死刑宣告になる」
 UNRWAを巡っては、昨年10月のハマスによる奇襲攻撃に複数の職員が関与した疑いが先月浮上。米国や日本を含む10カ国以上がUNRWAへの資金拠出を停止した。
 清田氏は「まだ証拠が出ておらず、疑惑でしかない。ただ、非常に重要な話なので国連で調査している」と述べ、早期に調査結果が出るように願った。
 また、イスラエル軍が10日、ガザのUNRWA施設の地下にトンネルが通り、そこに諜報(ちょうほう)関連の設備があったと発表したが、清田氏は「UNRWAとは関係がない。施設からトンネルに行く入り口はない」と主張した。

◆トイレ500人に一つ、シャワー3000人に一つの惨状

 ハマスの奇襲に対し、イスラエルは苛烈な報復を続行。ガザ保健当局によると、ガザ側の死者は2万8000人を超えた。約230万人のガザ住民のうち140万人が、元々は人口30万人弱だった最南部のラファに避難している。
パレスチナ自治区ヨルダン川西岸で7日、「UNRWAへの資金拠出停止に講義し「ガザ市民への死刑宣告だ」というプラカードを掲げる人たち=AP

パレスチナ自治区ヨルダン川西岸で7日、「UNRWAへの資金拠出停止に講義し「ガザ市民への死刑宣告だ」というプラカードを掲げる人たち=AP

 「この世の地獄」と清田氏はガザの現状を表現する。ラファにあるUNRWAの避難所には2万8000人が押し寄せ、トイレが500人に一つ、シャワーが3000人に一つ、食料は必要量の半分ほどの状況。栄養状態が悪く、A型肝炎や細菌系の下痢、呼吸器疾患が広がっているという。
 そうした人道危機の深まりの中で、日本はイスラエルと関係が深い米国などと同調し、資金拠出停止を決めた。清田氏は「政治判断だと思うが、個人的にはショックだった」と振り返る。

◆「困っている人のライフラインを止めないで」

 今回、清田氏は12〜17日の日程で来日した。政府関係者や国会議員らと接触し、停戦の見通しが立たない中で、UNRWAの活動に理解を求めたという。
 「ガザでUNRWAのような規模の人道支援をできる団体は他にない。困っている人のライフラインを止めてはならない」と指摘し、日本をはじめ各国に呼びかける。
 「ガザは未曽有の人道危機にある。停止を早く解除し、われわれが支援を続けられるようにしてほしい」
 清田氏は高知医科大(現・高知大医学部)卒。世界保健機関(WHO)で中近東の感染症対策に携わった後、2010年から現職を務める。