身辺調査は「中小企業社員も含め相当な数」に 「経済安保」法案、自民と公明は異論なく条文案を了承(2024年2月16日『東京新聞』)

政府は15日、国が指定した経済安全保障上の機密情報を扱う人を認定する「セキュリティー・クリアランス(適性評価)」制度の導入を盛り込んだ「重要経済安全保障情報保護・活用法案」の条文案を自民、公明両党に説明した。両党とも部会で約1時間審査したが異論は出ず了承。政府は今月下旬にも法案提出する。世論を二分した特定秘密保護法の経済安保版で、何が機密情報に当たるかの基準はあいまいなままだ。(近藤統義)

◆漏えいなら最長5年の拘禁刑

15日、自民党会合で適性評価制度の重要性を訴える甘利明前幹事長

15日、自民党会合で適性評価制度の重要性を訴える甘利明前幹事長

 自民党の会合では、特定秘密保護法の制定時を引き合いに「世論形成のためにしっかり説明してほしい」との注文が出たが、法案自体の必要性を主張する意見が相次いだ。公明党では、知る権利やプライバシーを侵害するとの指摘を念頭に「懸念を払拭するため、作って終わりの法律ではない」などの意見があった。
 条文案によると、インフラや物資の供給網である「重要経済基盤」に関する計画や脆弱(ぜいじゃく)性、革新技術などの情報のうち、漏えいすると安全保障に「支障」を及ぼす恐れがあるものを「重要経済安保情報」に指定。指定期間は5年以内だが、30年まで延長できる。内閣の承認があれば60年まで延長でき、漏えいした場合は最長5年の拘禁刑を科す。

◆何が機密なのかははっきりせず

 重要経済安保情報は、半導体や宇宙、人工知能(AI)などが念頭にあるとみられるが、条文上に具体的な分野の記述はなく、どういう情報が何を根拠に指定されるのかはっきりしない。法案に反対する意見書を1月に政府に出した日弁連も「経済安保そのものに定義がない」と問題視する。特定秘密保護法は、特定秘密の指定要件を政府の運用基準で定めているが、重要経済安保情報も政府が恣意(しい)的に指定する懸念がある。
 適性評価は民間人や公務員らが幅広く対象となり、本人の同意の上で犯罪歴や家族の国籍などを調べる。適性評価の有効期間は10年間。特定秘密に関する適性評価は公務員が中心だったが、与党関係者は「今回は中小企業の従業員らも含め相当な数になる」と見込んでいる。

◆外部チェックが働かない懸念も

 さらに重要経済安保情報は、特定秘密と異なり、情報の指定状況や適性評価の実施状況は国会に報告されない。外部のチェック機能が働かない可能性もある。
 政府によると、サイバー攻撃の防止や外国政府からの提供情報など、安全保障に「著しい支障」の恐れがあると判断した場合、重要経済安保情報ではなく、特定秘密の指定対象とする。特定秘密は漏えいすれば、懲役10年以下の罰則。今回の法案に伴い、特定秘密が事実上拡大することになる。

 重要経済基盤 電気やガス、鉄道や空港、電気通信や金融などの「重要インフラ」や、半導体や航空機部品、蓄電池などの「重要物資」の供給網を指す。政府は、重要インフラへのサイバー攻撃や重要技術を盗む産業スパイ活動などを「重要経済基盤毀損(きそん)活動」と位置付け、セキュリティー・クリアランス(適性評価)で過去に関与したことがなかったかどうかも調べる。