「不記載・誤記載」5億7949万円はどこに消えた?…経緯や使い道を調べない自民アンケートに批判高まる(2024年2月14日『東京新聞』)

南海トラフ地震ばかりを『えこひいき』して発生確率を水増しするあまり、他の地域に油断を生んでいる」―。私が繰り返し指摘してきたことが、能登半島地震でも現実のものとなった。
 政府の地震調査研究推進本部地震本部)は、全国の地震の発生確率や地震の規模を予測した「長期評価」で公表している。この長期評価と、発生確率などを地図に落とし込んだ「全国地震動予測地図」は、行政が優先的に防災に取り組む地域を選定する上での指標になっている。
 しかし、ここに大きな落とし穴がある。それは危険度を比べる指標にもかかわらず評価が一律ではないことだ。南海トラフ地震の確率は30年以内に「70~80%」だが、この数値は防災予算獲得などの理由から他とは違う特別な計算式で「水増し」されたものだ。この影響は予測地図にも反映されており南海トラフ沿いは危険を示す「紫色」で塗りつぶされている。
 低確率の県はそれを「安全情報」として受け取る問題もある。石川県は大部分が0.1%~3%と評価され、予測地図の色は低確率を示す「黄色」だった。同県はホームページに予測地図を引用し、「地震リスクは小さい」などとして企業誘致を進めていた。
 同様のことは熊本地震や北海道地震でも見られた。情報の出し手である地震本部は「低確率でも地震は起きる」「確率をどう使うかは自治体に任せている」などと話し、まるで人ごとだ。
 長期評価には時間がかかるが、原因は地震本部の確率偏重の評価だという指摘もある。その影響から地震の危険性の周知が遅れるという本末転倒な事態も起きている。
 能登半島地震震源は海域の活断層だとみられるが、地震本部はこの活断層を把握しながら、その存在を国民に伝えていなかった。理由は、長らく長期評価の対象は陸域の活断層で海域は7年前に調査が始まったため、評価が間に合わなかったことにある。
 長期評価の中でも確率の検討には時間がかかる。活断層の所在や、地震の被害想定だけならもっと早くに危険性を周知できただろう。
 地震本部は低確率の地域で地震が起きるといった予測の「外れ」があっても責任を取ることはない。だが、社会は確率を防災対策の指標としている。予測地図が始まって20年近くたつが「正答率」が低いままでも確率予測の手法の見直しや検証がされないのは責任の所在が曖昧だからではないか。命をも左右する指標の重要性と不確実性の大きさを比べると確率予測の社会実装をやめるという選択肢も出てくるはずだ。
 地震の研究予算は大きな地震が起きるたびに「焼け太り」している。今回の地震でも予算はまた増加するだろう。地震本部はその前に確率という手法が適切か、一から検討し直す必要がある。