脱炭素時代に向けコンビナートの再生を(2024年2月14日『日本経済新聞』-「社説」)

 
 

 


周南コンビナートではエネルギー・化学4社が燃料アンモニア導入で連携する(山口県周南市

政府は13日、低炭素燃料である水素やアンモニアの国内供給網の整備を支援する法案を閣議決定した。今国会での成立を目指す。天然ガスなど既存燃料と比べ割高な価格差を補塡したり、貯蔵やパイプラインなどの整備費用を支援したりして普及を後押しする。

工場や発電所が集積するコンビナートを対象に、企業の枠を超えて利用するためのインフラを整える。地域一帯でエネルギー転換に取り組み、脱炭素時代に向けた産業拠点の再生につなげたい。

水素や、水素と窒素を合成してつくるアンモニアは、燃焼させても温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)を出さない。化学や製鉄など高温の熱を必要とする製造業では、化石燃料を代替する手段として期待を集めている。

ただし、実用には安価で大量の水素やアンモニアを安定的に確保する必要があるが、1社では難しい。企業が横断的に連携して供給網を築くことが重要だ。

山口県周南市に広がる周南コンビナートでは、出光興産東ソーなどエネルギー・化学4社が、自家発電設備の燃料を石炭からアンモニアに切り替える検討を始めた。大阪湾の臨海工業地帯では三井物産三井化学関西電力などが水素・アンモニアの供給網構築の検討で合意した。

法案はこうしたコンビナートで浮上する供給網計画に対し、貯蔵タンクやパイプラインなどの共有インフラの整備費用を助成する。支援は東京圏や大阪圏を想定する大規模事業を3件程度、地域単位の中規模事業を5件程度を念頭に今夏にも公募を始める。

水素やアンモニア天然ガスや石炭に比べて割高だ。既存燃料との価格差を埋める資金を一定期間補塡する。支援を受けるには水素などを供給する事業者と工場や発電所で使う利用者双方の参加を要件とし、生産・調達から国内での利用まで一貫体制を整える。

日本は海外から安価な石油や石炭を巨大な輸送船で臨海部のコンビナートに運び、これが戦後の高度経済成長を支えた。素材・エネルギー産業は足元で設備余剰に直面する一方、エネルギー転換への対応が遅れれば国内での生産拠点の維持はますます難しくなる。

コンビナートの将来は雇用など地域の未来にも密接に影響する。低炭素水素の供給網構築を地域経済の再生につなげるきっかけとしなければならない。