能登の文化産業 伝統の灯絶やさず復興の力に(2024年2月12日配信『読売新聞』-「社説」)

 能登半島地震では、地域の伝統的な文化や産業が大きな打撃を受けた。長く受け継がれてきた技術や景観を守るため、被災地へのきめ細かい支援が欠かせない。

石川県輪島市の伝統工芸で、国の重要無形文化財に指定されている輪島塗は、地震と輪島朝市で起きた火災で、生産と販売の拠点が倒壊や焼失の被害を受けた。

 職人や関係者の多くは工房や自宅、店舗などを失い、それぞれ避難生活を続けている。市内に住む3人の人間国宝の中には、大きなけがを負った人もいた。

 輪島塗は芸術性の高い漆器で知られ、地域を代表する産業の一つである。木材の加工から装飾まで100以上の工程があり、職人による高度な分業制が特徴だ。

 どの工程も不可欠なため、職人らがちりぢりになっている状況では、事業の再開は難しい。

 元々、生活様式の変化などで需要が低迷し、職人らの高齢化も課題となっていた。生活と仕事の場をいち早く再建し、生産体制を取り戻さねばならない。

 国は道具や原材料の確保など、事業継続に必要な費用の補助を始めるという。被災地は過疎化が進んでいる。このままでは離職者が増え、地域の衰退が加速しかねない。事業を再開するための支援を着実に実行することが大切だ。

 東日本大震災後、福島県で伝統工芸の職人向けに仮設の共同作業場が整備された例もある。分業化された輪島塗の場合、こうした場を用意することが有効だろう。

 将来的には、生産や販売、情報の発信を担う施設を復興のシンボルとして整備するのも一案だ。焼失した輪島朝市の再建と併せて、幅広く検討してほしい。

 地元の産品を購入してもらうことも被災地の支えになる。

 県内の伝統工芸品では、輪島塗以外に九谷焼の店舗なども被災した。古くから銘醸地で知られる輪島市などの酒蔵の多くも、被災によって今季の酒造りが困難な状態になっているという。

 すでに能登の工芸品や日本酒を販売するフェアが各地やオンライン上で開かれている。こうした場を後押しすることも必要だ。

 被災した建物や景観には文化的価値の高いものも含まれる。文化財は住民の心のよりどころであり、重要な観光資源でもある。

 地域社会を守り、にぎわいを取り戻すため、国や自治体は、被災者