さまざまな社会問題の作品を演じ、独自のメッセージを発信する『劇団 路地裏』の旗揚げ公演が2023年11月、東京・荒川区内の劇場で行われました。
【写真を見る】「ハラスメント」が初公演のテーマ 社会問題を若い世代へ発信する『劇団路地裏』
■初公演は「ハラスメント」がテーマ 初公演の作品は『交差する仮面(キミ)たちへ』。この作品は、小学校の職員室を舞台に先生同士のハラスメントを描いています。
例えば、ある女性の先生はコロナで在宅勤務中だったのに別の先生から「休んでいたのではないか」などと高圧的な口調で言われるハラスメントを受けます。一方でその女性は、パソコンの操作に手こずる別の先生に対して「こんなことも知らないんですね」などとプレッシャーを与える、ハラスメントをする側にもなっています。
そんな風にそれぞれの先生がハラスメントの「被害者」である一方で「加害者」でもあることに気づいていくというお話です。 ハラスメントについて、今回演じたキャストの皆さんのお話です。 永松康志さん 「ハラスメントはいけないことだっていうのは、多分みんな思っている。
でも、それがハラスメントになっていることに気づいていないっていうのは、みんな共感するというか、みんな自分を見つめ直せばどこかで発見できるんじゃないかなというところがあって、自分がどういうことをやっているかっていうのを、ちょっとでも考えてもらえればいいなと思いました」
重原佳苗さん 「ハラスメントっていう言葉って、受けた側がちょっとでも嫌な気持ちがあるっていうのがあっての言葉だと思うので、一人一人されて嫌なことは違うので、そういう意味ではちゃんと人と向き合うことはとても大切なんだなと感じました」
中井晴輝さん 「僕は今回、トランスジェンダーに関してのハラスメントを受けた側の役を演じたんですけれども、僕自身もトランスジェンダーで、非常に共感するところがありすぎたので、熱意がかなり入ってこだわりたい部分もかなりありました」 性別に基づく差別や嫌がらせを「ジェンダー・ハラスメント」といいますが、作品の中では、体毛を気にする男子児童のことを「女の子じゃあるまいし」と言ったり、「男だから体力仕事、女は細かな仕事」といったジェンダーに気を使わない周りの先生に「だから日本は遅れている!」と怒る場面がありました。
そして、劇団路地裏のプロデューサー・河村雅人さんもこの作品についてこう話します。 劇団路地裏のプロデューサー・河村雅人さん 「被害者感情というのは人間は誰しも強いので、いつでもパッと出てくるんですけど、自分が加害者になったことってあんまり自分で考えたくないから、なかなかそこに意識が向かない。そこに意識を向くことで自分が加害者になることを防げる。もしかしたら自分も加害者であるし、自分で蓋してしまっているところを、ちょっと気づいてもらえるような作品になったらいいなと」
この作品の脚本・演出を担当したのは、獅城けいさん。獅城さんは、子どもの頃に家族から性的虐待を受けたことがあり、今も虐待を受けている人や後遺症に悩む人への支援活動をされています。
脚本・演出の獅城けいさん 「人に嫌がらせをしてしまうんだけれども、その根っこにある言動の部分っていうのが、自分にとっては自分を守るような防衛とか、自分のことが本当に大切だから起こってしまうようなものがあるんですよね。ただそれが他の人の世界の中では困るような行為になってしまうので、それを天秤にかけた時にどっちを捨てるのかということで、仮面を捨てるという判断になるとか、そういったところは見てくださる方の何か心に響くかなと考えました」
作品のタイトルにもある「仮面」。作品の中では、自分と向き合うことで仮面をつけた加害者側の自分に気付き、その仮面を捨てるというシーンがあります。獅城さんは、これまでの自身の経験からそういった自分と心から向き合うことが必要だと話します。
そして、舞台を見たお客さんの感想です。 ・「自分も教員をしているので、仕事場でもしっかりと考えて行動したい」 ・「表面的な解決だけでなく、被害者にも加害者にも寄り添った作品だと思った」 ・「ハラスメントと受け取るか、指導の範囲なのかは、人それぞれだなと思った」 こういった声がありました
。 ■社会人が仕事と両立して活動できる劇団 劇団路地裏には「社会問題に対する独自のメッセージを発信すること」ともう一つ、コンセプトがあります。それは「社会人が仕事をしながらでも活動できる」ということです。プロデューサーの河村さんです。
劇団路地裏のプロデューサー・河村雅人さん 「元々のきっかけとしては、社会のキャリアを捨てて役者一本でやろうとする人がすごく多くて、それが年重ねていくことに、本当にこの人にとって人生これで幸せになれるのかなという疑問がずっとある中で、社会人が人生のキャリアを捨てずに無理せずにやり続けられる劇団というものを作りたいと考えたのが一番最初です」
そのため、今回のチームはみんなが集まれる週1回の稽古で、お披露目まで2年を要したそうです。しかも団員の皆さんは舞台経験がある人もいれば、ない人もいる。全体のレベルを底上げするためにどんなことをしたのでしょうか。
今回、座長を務めた岡村俊佑さんです。 座長の岡村俊佑さん 「週に1回の稽古でやっぱり時間が取れない分、その1回の濃さってすごく大事だなと思っていまして、でも、お芝居をまだ始めたての人がいたりとか、まだ経験ない子がいる中で、そういう人たちに楽しんでもらいながら、どうやったら成長できるのかとか、そういうところは結構考えたりしていて、発声のやり方だったり、お芝居をする上での動きとか感情の流れとか、そういうところを自分が教えられるところは一人一人向き合ってやっていました」
劇団路地裏は「若い世代に社会問題を知ってもらいたい」という思いから、劇場公演だけでなく学校や施設での出張公演の準備も進めているそうです。プロデューサーの河村さんは「微力ですが、社会問題を知ってもらうということで変わっていく社会・世界もあるなと思っていて、問題を認知することで社会が良くなっていくということを劇団路地裏ではやっていきたい」と話しています。
なお次回作は、家族の世話や家事を日常的に子どもが行う「ヤングケアラー」がテーマで、今年の夏以降の公演を目指しているということです。
(TBSラジオ「人権TODAY」担当・進藤誠人)