踏切事故防止の新指針 視覚障害者の安全徹底を(2024年2月12日配信『毎日新聞』-「社説」)

誘導表示(エスコートゾーン)を横断する視覚障害のある男性(右から3人目)=奈良県橿原市で2023年6月6日拡大
誘導表示(エスコートゾーン)を横断する視覚障害のある男性(右から3人目)=奈良県橿原市で2023年6月6日

 踏切内で視覚障害者がはねられて死亡するケースが後を絶たない。痛ましい事故をなくすための取り組みが急務だ。

 国内には約3万2000カ所の踏切があり、30万人以上の視覚障害者がいる。2021年に静岡県三島市で、翌年には奈良県大和郡山市で死亡事故が発生したが、いずれも踏切に入っていたことに気づいていなかったとみられる。

 国土交通省が今年1月、踏切での安全性向上に関する新指針を作成した。弱視者が見やすい白色の点状突起物の両側を、2本の黄色の線状突起物ではさむ誘導路の線路内設置を「標準」対策と定めた。白杖(はくじょう)や足裏の感覚で踏切に入ったことが分かれば、スムーズな横断と危険回避が可能になる。

 22年の指針改定では、踏切の手前までの点字ブロック設置が「標準」とされたが、踏切内の誘導路については「望ましい」との位置づけにとどめられた。その結果、整備が進んだのは、事故のあった奈良県など一部に限られ、形状や配置に関する基準の明確化を求める声が上がっている。

 新指針は、こうした要望を踏まえて策定された。視覚障害者に実験に参加してもらったり、白杖での単独行動を指導する歩行訓練士らの意見を聞いたりして、当事者の声に応えるよう努めたという。

 国交省は対応が必要な踏切を全国で319カ所指定し、道路を管理する自治体や鉄道会社に改良計画書の提出を求めた。整備費の一部を補助し、改善を促す。

 だが、これで十分ではない。

 設置後も経年劣化や損傷がないか定期点検していくことが欠かせない。音で踏切内にいることを伝える機器の設置など他の対策も併せて検討していくべきだろう。

 山陽電鉄(神戸市)は21年、障害物検知装置に人工知能(AI)を組み合わせ、踏切内に取り残された人を認識するシステムの運用を始めた。鉄道各社は先進的な事例を参考にしてほしい。

 国や自治体、鉄道会社は事故の再発防止に向けて全力を挙げる必要がある。

 社会の理解も欠かせない。周囲の人々が声をかけることで安心感がもたらされ、命を救うことにつながる。だれもが安全に渡れる踏切にしていかなければならない。