第2次石破内閣が発足 に関する社説・コラム(2024年11月12・13・14・15・16日)

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首相指名選挙での決選投票で、石破茂首相を再び首相に選出した衆院本会議=国会内で2024年11月11日午後4時9分、毎日新聞・手塚耕一郎撮影

自身の責任は取らず、不記載問題に固執する石破首相(2024年11月16日『産経新聞』-「産経抄」)
 
マスコミの論調も変化してきたのか。読売新聞の15日の社説は、石破茂首相の政権運営について論じていた。「内外の課題が山積しているにもかかわらず、首相が先月1日の就任以降、最もこだわりを見せているのが、派閥の政治資金規正法違反事件への対応だ」
▼さらにこう指摘する。「(刑事事件として決着済みで)衆院選で審判を受けて当選した議員をなお問題視するなら、政治とカネの問題にいつ終止符を打つつもりなのか」「収支報告書への不記載という形式的なミスを、重大な贈収賄事件などと同列に扱うかのような対応は理解に苦しむ」
▼14日の朝日新聞は安藤馨・一橋大教授のこんな論評を載せた。「不記載を公金横領や贈収賄の類と誤解しているとおぼしき怒れる有権者が見られたのはひとえに『裏金』という語の独り歩きの産物であろう」。安藤氏は、マスコミによる「裏金議員」というラベル貼りは、「事実認識に基づかない評価をもたらそうとするものであり、民主政にとって有害ですらある」とも。
▼不記載は論外だが、その分のカネは各議員がパーティー券を売り自分で稼いだもので、国民の税金ではない。東京地検特捜部が徹底捜査した結果、不起訴議員に私的流用は見当たらなかった。首相も10月の党首討論で訴えていた。「裏金は決めつけだ。不記載だ」
形式犯について大げさに騒ぎ立てた野党やマスコミの非が大きいのなら、首相はなぜ堂々と反論せず、衆院選で不記載議員に対して非公認や重複立候補の禁止など、厳しい二重処分を科したのか。有権者の処罰感情におもねり、仲間を売って保身を図ったのか。
▼自身は衆院選惨敗の責任も取らず、不記載問題ばかりに固執する姿は異様である。

少数与党時代 熟議で政策の合意点探れ(2024年11月16日『中国新聞』-「社説」)
 
 与野党間の議論を通じて一致点を見いだす。そんな民主主義の原点ともいうべき政治の在り方を構築できるかどうかの分岐点にある。
 衆院選の結果を受け、国会は「自民1強体制」から様変わりした。衆院に17ある常任委員長のうち7が野党に配分され、野党第1党の立憲民主党が国会論戦をリードする予算委員長のポストを握った。
 少数与党となった自民、公明両党は国民民主党との政策協議を通じ、多数派を形成したい意向だ。だが、他の野党からも幅広く意見を聞き、政策の合意点を探る謙虚な姿勢が求められる。
 与野党の間では、年収が103万円を超えると所得税が発生する「年収の壁」の見直しが主要テーマに浮上する。国民民主党が非課税枠の178万円への引き上げを求めているからだ。
 ガソリン税を一部軽減する「トリガー条項」の凍結解除とともに、臨時国会で政府の経済対策の裏付けとなる補正予算案に賛成する事実上の条件となっている。臨時国会は28日召集の予定で、「自公国」の枠組みによる政策責任者の協議が始まっている。
 「手取りを増やす」を掲げた国民民主党議席伸長を見れば引き上げは必要だろう。主張通り改めれば税収は7兆6千億円減る。地方分は半分超の4兆円と見込まれ、影響は大きい。勤務先企業の規模などに応じ社会保険料がかかる「106万円の壁」と「130万円の壁」もある。
 これらの課題をどう乗り越えるのか。仮に自公国の合意案で押し切るようであれば政権維持や人気取りのための密室協議に過ぎない。有権者の理解は得られず、石破政権は行き詰まるはずだ。
 野党の見識と力量も問われよう。立憲民主党は「130万円の壁」に焦点を絞り、保険料負担に伴う収入減を給付金で埋める制度を設ける法案を衆院に提出した。この対案には、国会改革を進める狙いもありそうだ。
 これまで法案や予算案は与党が事前審査し、国会に提出して審議日程さえこなせば、ほぼ原案通り可決、成立できた。野党の提出法案はたなざらしのままだった。国会を経ることなく内閣で使途を決める予備費の乱用も同様だ。第2次安倍政権以降は顕著で、国会審議の空洞化を招いた。
 今後は政府、野党双方の法案を審議し、合意形成に向けて議論を重ねる「熟議」と「プロセスの可視化」の国会運営が求められる。税制や社会保障制度などを巡っては委員会や本会議に舞台を限らないケースがあろう。その場合も議論の結果を逐次、説明する必要がある。
 実現可能性や持続可能性も重要な論点になる。合意形成の主役は実は野党なのかもしれない。法案や予算案に幅広い民意を反映させる立法府の使命を取り戻すべきだ。
 石破茂首相は、第2次石破内閣発足を受けた記者会見で、少数与党に関して「ある意味で、こういう状況は民主主義にとって望ましいことかもしれない」と述べた。その言葉を忘れてはならない。

特別国会閉幕 政策論争を置き去りにするな(2024年11月15日『読売新聞』-「社説」)
 
 先月の臨時国会はわずか9日間で衆院が解散された。この特別国会も、政府と与野党が何ら論戦を行うことなく、4日間で閉幕した。
 石破内閣発足後、政策論争が置き去りにされているのはゆゆしき事態だ。こうした状況に陥っているのは、石破首相が内外の課題について、明確な対処方針を持ち合わせていないためではないか。
 衆院選の結果、与党だけでは予算案も法案も通すことはできなくなった。少数与党になったからこそ、開かれた国会の場で与野党で議論を深め、接点を見いだすことが重要になっているはずだ。
 6月の通常国会閉幕後、国会で成立したのは旧優生保護法の被害者救済法だけだ。審議を通じて行政や法案の問題点を洗い出し、改善を図る、という役割を果たしていないのは問題だ。
 日本周辺の安全保障環境は極度に悪化している。防衛力の強化やその財源を確保することは急務だ。人口減少に歯止めがかからない。経済をどう再生し、成長させていくのかも難題だ。
 内外の課題が山積しているにもかかわらず、首相が先月1日の就任以降、最もこだわりを見せているのが、派閥の政治資金規正法違反事件への対応だ。
 首相は、政策活動費の廃止に意欲を示している。政治資金収支報告書に不記載があった旧安倍派などの議員のうち、政治倫理審査会で弁明していない議員に対しては、改めて出席を促すという。
 衆院選で政治とカネの問題に焦点があたって自民党が惨敗したため、首相は政権を維持するには政治改革に積極的な姿勢を示す必要があると考えているようだ。
 政治資金の透明性を高めることが重要なのは論を 俟 ま たない。
 だが、この問題は東京地検特捜部が捜査を尽くして派閥の会計責任者らを立件し、既に刑事事件として決着がついている。強制力のない政倫審を開いても新事実を見つけるのは容易ではあるまい。
 首相は、不記載のあった議員を第2次内閣の副大臣政務官に登用しなかった。衆院選で審判を受けて当選した議員をなお問題視するなら、政治とカネの問題にいつ終止符を打つつもりなのか。
 そもそも収支報告書への不記載という形式的なミスを、重大な贈収賄事件などと同列に扱うかのような対応は理解に苦しむ。
 首相が政治資金問題で定見を示さず、延命のため野党の主張を受け入れようとしていることが、混乱を招いているのではないか。

少数与党の国会 事前審査廃止の好機だ(2024年11月15日『東京新聞』-「社説」)
 
 自民、公明両党が衆院選過半数割れしたことを受け、石破茂内閣は少数与党となった。衆院での与党多数を前提とする審議の在り方を大きく改め、国会を実質的な政策決定の場に転じる好機だ。
 自民党政権は、政府が法案や予算案を国会に提出する前に与党内で審査し、了承が得られたものだけ国会への提出を認める「事前審査」を行ってきた。
 こうした与党の事前審査に法的な根拠はないが、自民党結党後、1950年代後半にはすでに同様の仕組みがあったとされ、長年の慣行として行われてきた。
 ただ、国会で多数を占める与党の了承があれば、法案などの成立が国会提出前に事実上確定するため、国会審議を形骸化させる元凶とも指摘されてきた。立憲民主党小川淳也幹事長は「まるで下請け機関のように国会を殺してきた本丸」と指摘する。
 さらに事前審査では、詳細な議事録が作成されず、政策決定の透明度が高いとは到底言えない。
 自民党少数与党への転落後、野党側との政策協議を始めたが、これまで同様、事前審査の仕組みは残すようだ。しかし、与党として国会提出を了承しても、野党側の賛成を得なければ法案などは成立せず、事前審査は機能しない。
 この際、長年弊害が指摘されてきた事前審査制度の廃止に踏み切り、国会での新しい審議の在り方を模索すべきだ。
 例えば、政府は法案などを与党の事前審査を経ずに国会に提出。各党はその法案などをそれぞれ持ち帰って各党内で審査した後、委員会での審議に臨む「予備審査」を導入してはどうか。
 与野党が公開された委員会で主張を展開すれば問題点などが明確になり、法案修正が必要な場合でも、合意の過程が明確にされる。国会を実質的な法案審査の場にすることができる。
 立民の野田佳彦代表は11日、首相との党首会談で「熟議と公開を旨とする新しい国会をつくっていこう」と呼びかけ、首相は記者会見で与党の過半数割れを「民主主義にとって望ましいこと。より議論が精緻になる」と語った。
 衆院選で示された民意は、国会を対立から対話の場へと変革することを求めている。与野党は国会審議のあるべき姿に向けて知恵を絞るべきだ。それが政治への信頼を回復することにもつながる。

石破政権の外交 国際協調のけん引役を(2024年11月14日『北海道新聞』-「社説」)
 
 石破茂首相は明日から南米で開かれるアジア太平洋経済協力会議APEC)と20カ国・地域(G20)の首脳会議に出席し外交を本格的に始動させる。
 安倍政権以降、外交・安保政策は国会での議論が軽視されてきた。石破首相は丁寧に議論することが欠かせない。政権基盤が脆弱(ぜいじゃく)な中ではなおさらだ。
 ロシアによるウクライナ侵攻や中東の戦乱が長期化し、国際秩序は不安定だ。アジアでも中国の軍拡や北朝鮮の核・ミサイル開発が緊張を高めている。
 さらには米国第一主義を掲げるトランプ前大統領の返り咲きが決まり、国際機関や多国間枠組みを軽んじる恐れがある。
 世界経済や気候変動問題など各国が協調しなければ太刀打ちできない難題は山積みだ。だからこそ首相は民主主義や法の支配といった普遍的な価値を重視する国々を中心に連携し、国際協調をけん引する必要がある。
 首相は米国も訪れてトランプ氏との会談を模索している。
 1期目のトランプ氏とは当時の安倍晋三首相が親交を深め、良好な関係を保った。とはいえ貿易協定では米側の意向を丸のみして農産物の日本市場開放が進んだ一方で、自動車の米国市場開放は見送られた。
 また貿易赤字解消などを迫られ、高額な防衛装備品の大量購入で応じた。結局は従属的な関係を強めたと言うほかない。
 次期政権も在日米軍駐留経費の日本側負担(思いやり予算)の増額などを要求してくる可能性がある。追従一辺倒ではない関係の構築に尽力するべきだ。
 首相は持論の日米地位協定改定を「必ず実現したい」と明言していた。その言葉通り、トランプ氏にしっかり提起し、粘り強く働きかけてもらいたい。
 首相は南米で中国の習近平国家主席と初の首脳会談を調整している。中国の軍用機が日本領空を侵犯するなど軍事活動が活発だ。東京電力福島第1原発処理水の海洋放出を受けて中国が停止した日本産水産物輸入の再開時期も決まっていない。
 懸案が多い時こそ首脳間の対話が不可欠である。
 トランプ氏は次期政権の高官に対中強硬派を起用する意向で、米中対立はいっそう激化しかねない。首相は米中の橋渡し役になり、地域の安定に積極的に取り組むことが求められる。
 ウクライナ侵攻を巡って国際刑事裁判所ICC)から逮捕状が出されているロシアのプーチン大統領G20に不参加だ。北方領土交渉の展望は開けないが、首相は返還を主張し続け

第2次石破内閣発足 丁寧な合意形成欠かせぬ(2024年11月13日『福井新聞』-「社説」)
 
 石破茂首相は、少数与党による第2次石破内閣を発足させた。新たな国会では、衆院選で民意の支持を得た野党の主張に耳を傾けることが迫られる。政治改革や経済対策の実現には「自民1強政治」と決別し、丁寧な議論と合意を形成する努力が欠かせない。
 特別国会で第1次石破内閣の総辞職に伴う首相指名選挙が行われ、衆院では1回目の投票で誰も過半数に達しなかった。石破氏と立憲民主党野田佳彦代表の上位2人による決選投票の結果、石破氏の得票が野田氏を上回った。野党が野田氏で一本化しなかったため石破氏の続投が決まった。
 過去の少数与党をみると1994年に発足した羽田孜内閣は2カ月で内閣不信任決議案を突き付けられ、総辞職に追い込まれた。石破首相も自身が語った「選挙で示された民意を厳粛に、謙虚に受け止める」との態度を貫けなければ、政権運営は行き詰まるだろう。
 最優先とすべきは衆院選敗北の主因となった「政治とカネ」問題への対処だ。立憲は派閥裏金事件を受けて、企業・団体献金の禁止など抜本的な政治改革を求める。
 自民は公約で、使途報告義務がない政策活動費の将来的な廃止と監査する第三者機関の設置も盛り込んだ。来年夏の参院選をにらんで中途半端な対応では済まないはずだ。
 首相は野党各党の党首と会談し、政治改革のうち、政策活動費の廃止や調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)の使途公開についての協議を打診した。11日には、自民の両院議員総会で年内決着を図りたいとの意向を示したが、企業・団体献金の禁止も打ち出し、実現させてこそ国民の信頼回復につながるのではないか。
 衆院の各委員会の構成にも、与野党の力関係が色濃く表れている。予算委員長のポストを立憲が握ったことで、政権の思い通りに審議は進められないだろう。自公両党は方向性が近い国民民主と政策ごとに協議する部分(パーシャル)連合で乗り切ろうとしている。
 1強政治の見直しは「決められない政治につながる」との懸念もある。だが「数は力」を頼みにした国会軽視の政権運営を修正するチャンスとみることもできる。野党も反対するだけでは支持を集められない。
 首相が注力すべきは、国民本位の施策を進めることだ。政治不信を払拭し、生活不安をとりのぞくことに専念しなければ難局は克服できない。民意に寄り添った合意形成の政治手腕が問われる。

第2次石破内閣発足 審議活性化で信頼回復を(2024年11月13日『琉球新報』-「社説」
 
 召集された特別国会で石破茂自民党総裁が第103代首相に選出され、第2次石破内閣が始動した。
 首相指名選挙は衆院で30年ぶりに決選投票となり、少数与党内閣を象徴する船出となった。数の力に頼らず、どのように国会運営をしていくのかが注目される。政権と対峙(たいじ)する勢力たり得るのか、野党にも国民の厳しい目が向けられている。
 政権にとっての急務は政治不信の払拭だ。自民党派閥の裏金事件でクローズアップされた政治とカネを巡る問題に有権者は厳しい審判を下した。石破首相には政治改革を断行するために他党との協力関係の構築など、リーダーシップを発揮してもらいたい。
 補正予算の策定も急務である。能登半島の被災地に向けた支援も補正予算の焦点になる。解散前、石破内閣は国会審議を経ずに内閣で使途を決めることができる予備費を被災地に充てた。野党が補正予算による措置を求める中、衆院選日程を優先して国会審議は省かれた形だ。国会審議を通じて被災地支援の問題点をあぶり出し、被災者の求める支援の在り方について十分に論議する必要がある。
 衆院小選挙区沖縄県内の投票率は49・96%と過去最低を更新した。半数超の有権者が投票していない。全国的な低投票率で選ばれた国会議員や内閣の正統性が問われている。安定した国家運営どころか、民主主義の危機と言えよう。政治への信頼を取り戻すことができるのか、全国会議員に問われている。
 自民党政治資金規正法の再改正に向けた議論を始めた。石破首相も「率先して答えを出したい」と信頼回復に意欲を見せる。ただ、党内では企業・団体献金の禁止に消極的な声が多い。衆院選大敗の結果に真剣に向き合うのか本気度が問われている。
 低投票率の原因は野党にもある。野党は今衆院選政権交代を訴えた。有権者がこの訴えに応じて票を投じた選挙結果でもある。しかし、その求めに応える枠組みを固めきれなかった。首相指名選挙の決選投票で84票もの無効票が出たことは、野党間の協議が成立しなかったことの表れだ。国民に向き合うことができているのかは野党にも突きつけられている課題である。
 石破首相は少数与党での国会運営について「ある意味、こういう状況は民主主義にとって望ましいことかもしれない」と述べた。「議論が精緻になる」とも加えた。審議が活性化するとの見立てであり、望むべき立法府の在り方だと言えよう。
 与党は国民民主党との部分連合を模索しており、所得税を巡る「103万円の壁」やガソリン税軽減など議論が動き出す。日米地位協定の改定を打ち出した首相にとって、新たなトランプ政権との折衝も問われる。政策決定過程をつまびらかにし、国民に開かれた国会運営に徹してほしい。

第2次石破内閣発足 国会は熟議で合意形成を(2024年11月12日『北海道新聞』-「社説」)
 
 きのうの特別国会での首相指名選挙で、石破茂首相が選出された。立憲民主党野田佳彦代表との決選投票を制した。
 首相はただちに組閣を行い、第2次石破内閣が発足した。
 30年前の羽田孜内閣以来となる少数与党である。野党の協力がなければ、予算も法律も成立しない。立憲民主党衆院予算委員会の委員長ポストを握った。国会は自民1強体制から大きく様変わりしたと言える。
 首相は一昨日から日本維新の会馬場伸幸代表、国民民主党玉木雄一郎代表、野田氏と相次いで会談し、国会運営への協力を求めた。特に国民民主党との政策協議による部分連合を模索しているという。
 国民民主党だけに偏ることなく、野党各党の意見を幅広く聞き、合意形成を尽くす謙虚な姿勢が少数与党には求められる。
 何より急がねばならないのは裏金事件の実態解明と政治改革である。国民の信頼を回復できなければ政治は前に進まない。
 「数」を失った首相は衆院選結果で示された民意と誠実に向き合わねばならない。熟議によって合意を形成する国会としていくには、野党の見識と力量も試されよう。
 強権政治との決別を
 石破、野田両氏の決選投票は共産党が野田氏に入れたものの大半の野党議員は自らの党首の名前を書いて無効票となった。
 国民の負託を受けた国会が首相を指名する議院内閣制を取る以上、決選投票は本来どちらかの名前を書くのが筋だ。
 与野党間では、年収103万円を超えると所得税が発生する「年収の壁」の見直しが政策テーマとして急浮上している。首相が秋波を送る国民民主党が、非課税枠の178万円への引き上げを強く求めているからだ。
 パート従業員などが働く時間を抑える要因となっており、手取りが増えず、人手不足につながっているのだと言う。
 ただ国民民主党の主張通りに改めると、税収減は7兆円超に上るとの試算がある。年収の壁は、勤務先企業の規模などに応じて社会保険料がかかる「106万円の壁」や「130万円の壁」もあり、単純ではない。
 まずは国民民主党が税収減などの課題をどう乗り越えるかについて、国民に納得のいく説明をするべきだ。他の政策との整合性を含め、多角的、総合的に議論する必要がある。
 公明党衆院選で落選した石井啓一氏に代わり、斉藤鉄夫氏が新代表に就任した。自公両党は国会の空洞化を招いた強権政治を共に改めねばならない。
 これまで法案は与党が事前審査し、国会に提出して審議日程さえこなせば、ほぼ原案通り可決された。野党の提出法案はたなざらしのままだった。
 少数の議席しか持たない野党であっても、背後には国民がいることを政府・与党は認識し、各党と公平に話し合うべきだ。与野党伯仲の状況を、政策決定の主導権を国会に取り戻す好機としたい。
 問われる野党の役割
 そこで重い役割を担うのが、野党第1党の立憲民主党だ。予算成立の成否を握る衆院予算委員長のポストを担う以上、国会での合意形成に一定の責任を負うことになる。
 このほか選択的夫婦別姓を扱う法務委員会や、政治とカネ問題を議論する政治改革特別委員会などの委員長ポストも得た。
 国会が真の立法府としての使命を果たせるのか、有権者がその行方を注視していることを忘れてはならない。
 馬場氏は衆院選議席を減らした責任を問われ、玉木氏は自らの不倫問題を認め、それぞれ求心力を低下させている。
 まとまりを欠く野党だが、国会運営では足並みをそろえる必要がある。幅広い民意を政策に反映させることが責務だ。
 裏金解明を忘れるな
 衆院選は首相の発言の変節ぶりが大敗の一因になったとみられ、自民党内ではなお責任論がくすぶる。
 野党がまとまればいつでも内閣不信任決議案が可決されてしまう状況の下で、政局が流動化する可能性がある。首相が薄氷を踏む政権運営を強いられるのは避けられない。
 臨時国会に向け、最初の関門となるのが政治とカネだ。
 首相は、政策活動費の廃止や政治資金を監視する第三者機関の設置などを念頭に、年内の政治資金規正法改正を目指す構えのようだが、裏金の真相究明を棚上げするのは許されない。
 野党は衆参両院の政治倫理審査会の開催を要求している。裏金議員が衆院選でみそぎを済ませたと考えるなら大間違いだ。
 本気で改革に取り組むなら、平成の政治改革からの積み残しになっている企業・団体献金を真っ先に廃止すべきである。
 世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と自民党の関係もあいまいなままだ、衆院選で問われた不透明な問題をこれ以上、先送りしてはならない。

政権の目標に進退かけよ/石破首相を再選出(2024年11月12日『東奥日報』-「時論」・『山形新聞』ー「社説」/「茨城新聞佐賀新聞』-「論説」)
 
 自民党石破茂総裁が衆参両院の首相指名選挙で再び首相に選出され、第2次石破内閣を発足させた。
 先の衆院選で自民、公明両党の与党が過半数を割った。自民派閥の裏金事件への真摯(しんし)な反省がうかがえない石破首相の政権運営に、有権者が不信任を突きつけたと言える。
 にもかかわらず首相の座にとどまった以上、国民が納得する政権の目標と実現への方策を明確にし、進退をかけて取り組むべきだ。
 特別国会が召集され、第1次石破内閣の総辞職に伴う首相指名選挙が行われた。衆院では1回目の投票で誰も過半数に達せず、石破氏と立憲民主党野田佳彦代表の上位2人を対象にした30年ぶりの決選投票の結果、石破氏の得票が野田氏を上回った。
 石破首相が続投できたのは、野党の投票先が野田氏で一本化されなかったからに過ぎない。衆院選での与党大敗を受け退陣してしかるべきだったが、首相は「国政の停滞は許されない」として責任を回避した。
 確かに衆院選後に共同通信が実施した世論調査では、首相の辞任が「必要ない」との回答が6割を超えている。
 少数与党になったことで、自民「1強」下で続いた独善的な政権運営が排されるとの判断に至ったからであろう。ただし、政治改革や経済対策など喫緊の課題について、成果を出すという条件付きであるはずだ。
 政治改革のうち、政策活動費の廃止や調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)の使途公開は当然のことだ。
 首相は野党各党の党首と会談し、これらをテーマにした協議を打診した。それだけでなく企業・団体献金の禁止も打ち出し、実現を図ってこそ信頼回復の一歩になろう。
 経済対策に関して自民は、国民民主党との協議を先行させている。所得税などが発生する「年収の壁」引き上げが主要議題だ。衆院選で躍進した国民民主が重視する政策であり、協議自体を否定するものではない。
 問題なのは、協議入りで合意した両党の幹事長会談で、首相指名選挙に関するやりとりがあったことだ。国民民主側が決選投票でも「玉木雄一郎代表の名前を書く」と伝えると、自民側は「ありがたい」と答えたという。
 国民民主が野田氏に投票しなければ、石破首相の再選出の可能性が高まる。そのため政策を取引材料にしているとみなされても仕方あるまい。両党は協議の状況を丁寧に説明し、疑念を払拭する必要がある。
 国民民主では玉木氏の不倫問題が報道された。代表は続投するが、政治不信を増幅しかねず深刻に捉えてもらいたい。
 首相就任時の所信表明演説、短期間で終わった国会論戦、さらに衆院選での訴えを聞いていても、石破政権の存在意義は伝わらなかった。
 遂行する政策の目的と内容、実効性を明示し、負うべき責任からは逃れない。それが首相の信条である「納得と共感」の政治につながると重ねて指摘しておきたい。
 一方、野田氏は決選投票で自身への投票を他野党に呼びかけたものの、一部野党を除いて応じなかった。基本政策の不一致が大きな要因で、同じ理由から衆院選でも共闘が成立しなかった。政権交代を本気で目指すのであれば、野党間の政策協議が急務だ。

第2次石破内閣 民意に沿い政治改革を(2024年11月12日『秋田魁新報』-「社説」)
 
 衆院選を受けた特別国会で自民党総裁石破茂首相が再び首相に選出され、自民、公明両党連立の第2次石破内閣を発足させた。衆院選で自公は過半数議席を確保できなかったため、少数与党として厳しい政権運営を強いられることになる。
 石破首相は国会に先立ち野党3党首と個別に会談し、政治改革に関する協議を含む国会運営への協力を要請。その後、記者団に「野党の意見を誠実に謙虚に承りながら、あらゆることを決定していきたい」と述べた。
 近年の自公政権は、国会での本格的な議論を抜きに重要政策を決定する場面が目立ったが、そうした姿勢を改めなければならない。これを機に野党と開かれた議論を重ね、幅広い意見を取り入れながら合意形成を目指す政権運営に努めるべきだ。
 衆院での首相指名選挙は、石破首相と、野党第1党である立憲民主党野田佳彦代表の決選投票となった。野党票が一本化されず、日本維新の会や国民民主党などがそれぞれの党首名を書いたとみられ、それらが無効となった結果、石破首相が選出された。新内閣は衆院選で落選した2氏を含む3閣僚が交代し、他の閣僚は再任となった。
 自公の過半数割れは、派閥裏金事件を起こしたにもかかわらず、政治改革に後ろ向きな姿勢の自民に対する反発が大きな要因だろう。民意を真摯(しんし)に受け止めなければならない。
 政治への信頼を回復させるためには、抜本的な政治改革が必要だ。その一歩となるのが裏金事件の真相解明ではないか。
 石破首相は党会合で、裏金事件に関係した議員に政治倫理審査会への出席を促した。連立を組む公明から裏金事件のけじめとして求められていた。
 これまで衆参政倫審に裏金議員9人が出席したが、真相は依然分かっていない。解明につながる取り組みが求められる。
 先の通常国会で与党が押し切って成立させた改正政治資金規正法は抜け道だらけだ。石破首相は新内閣発足後の会見で、年内にも政治改革に関する法整備を行うとした。再発を防止できる内容でなければならない。
 自民は2012年に旧民主党から政権を奪還して以降、衆参両院選で勝利を重ね、1強体制を固めた。そうした中、安倍内閣では集団的自衛権の行使を一部容認する憲法解釈の変更、岸田内閣では反撃能力(敵基地攻撃能力)保有といった戦後の安全保障政策の大転換が、国民的な議論なしに決定された。
 衆院選投票日1週間前の共同通信世論調査では、望ましい選挙結果について「与野党伯仲」という回答が全体の半数を占めた。自民のおごりをただしたいとの民意もあったのだろう。
 自公は厳しい政権運営を乗り切ろうと、国民民主と政策協議を既に始めている。政治改革を置き去りにすれば安易な数合わせにも映り、有権者の不信を高めかねない。

(2024年11月12日『秋田魁新報』-「北斗星」)
 
 熟議とは文字通り、議論を重ねて成熟させることだ。すぐに多数決で決めるのではなく、あらゆる角度から意見を戦わせてより良い結論を導く
▼例えば学校のクラスで何か物事を決める場合であっても、意見を一つにまとめるのは簡単ではないだろう。全員が納得するには時間がかかる。だがとことん話し合った末に出した結論は、議論が生煮えのまま単純に数の差で決着させた場合よりも浸透しやすいはずだ
▼政治の世界では、この熟議がことさら強調される時がある。旧民主党政権時代はその一例。2009年の衆院選自民党を破って政権交代を達成したが、翌年の参院選で大敗を喫し、衆院過半数を持つ一方、参院過半数割れする「ねじれ」が生じたためだ
▼この状態では与党のみで物事を決めることが難しく、丁寧に議論を重ねて野党の理解を得ることが従来にも増して重要になる。そこで熟議が不可欠となった。裏を返せば、衆院参院とも多数を得ているからと、与党が野党の理解を得ないまま数の力で押し切る政治が当たり前のように行われていたということだ。それが近年も繰り返されている
▼きのうの国会で、石破茂首相が自民、公明両党の支持を得て再度首相に選ばれた。だが政権は衆院過半数に満たない少数与党だ。野党の意見を十分聴いて物事を決めなければ、立ちゆかなくなるだろう
▼まずは抜け道だらけと批判された政治資金のルールをどう作り直すか。熟議の姿勢が早速試される。

(2024年11月12日『山形新聞』-「談話室」)
 
▼▽事実と反することを公言してきた政治家が、返り咲いた。軍事力に物を言わせ、専制国が庶民を蹂(じゅう)躙(りん)する戦乱も終わりそうにない。世界はこの先どうなってしまうのか。沈みがちな気分の中で、一本の映画に出合った。
▼▽黒木華さん主演の「アイミタガイ」である。漢字では「相身互い」。お互いさまの精神で、助け合って生きる。そんな意味だ。ウエディングプランナーの梓(黒木さん)には、困ったときに助けてくれる写真家の親友叶海(かなみ)がいた。だが彼女は撮影旅行中に事故で命を落とす。
▼▽死を受け入れられない梓は、残された叶海のスマホにメッセージを送り続ける。打ち明けるのは仕事のことや恋人との関係だ。そうしているうちに、周りと不思議な絆で結ばれるようになる。人の善意を信じて行動すれば、さらなる善意を生み出す。心洗われる作品である。
▼▽衆院の決選投票で石破茂氏が第103代首相に選ばれた。強権が渦巻く世界で日本はどう振る舞うべきか。少数与党政権をどう運営していくか。難問山積ではあっても、さまざまな悩みを抱える国民に寄り添い、絆や善意がなおざりにされることのないよう尽くしてほしい。

第2次石破内閣/熟議の国会で合意形成図れ(2024年11月12日『福島民友新聞』-「社説」)
 
 石破茂自民党総裁が再び首相に選出され、第2次石破内閣が発足した。首相が「新しい内閣の信任を国民に問う」とした先の衆院選で、与党は過半数割れに追い込まれた。まずは国民から不信任に等しい審判を下された現実をしっかり受け止め、国内外に山積する課題の解決に注力すべきだ。
 首相はきのう、野党第1党の立憲民主党衆院選で躍進した国民民主党の各代表と個別に会談し、政治改革への協議を含む国会運営への協力を求めた。自民の派閥裏金事件などの「政治とカネ」の問題の根絶なくして、政治の信頼回復は成し得ない。与野党の垣根を越え、早期に政治資金規正法の再改正などを目指してほしい。
 自民、公明両党は厳しい国会運営を迫られるなか、政策ごとに野党と連携する「部分連合」の構築を目指す構えだ。早速、自公と国民民主の3党で補正予算案などの協議に入っている。少数与党という現実を踏まえ、野党と丁寧に政策を議論し、合意形成を図っていくのは当然のことだろう。
 しかし国民民主は議席数を伸ばしたとはいえ、野党第1党は立民だ。先の選挙での有権者の民意を踏まえれば、与党は立民とも協議すべきであり、国民民主との連携だけでは単なる「数合わせ」との批判も避けられまい。
 政策決定の過程が不透明で、財源などの裏付けがないまま、予算案や法案を成立させるようでは、国民の負託に応えたとは言えないだろう。野党の主張をそのまま受け入れることで、責任の所在を曖昧にしてもならない。
 今後、国民民主が選挙公約に掲げた「年収の壁」の引き上げ、ガソリン税の税率見直しなどが協議される見通しだ。それぞれの政策を主張するだけで何も決められず、政治の停滞を招くような事態は許されない。与野党が国会で熟議し、責任を持って最適解を導き出すことが重要だ。
 きのうの首相指名選挙では、石破氏と立民の野田佳彦代表による決選投票で、国民民主、日本維新の会、参政党などは各党代表に投票した。棄権や退席ではなく、石破氏の得票が野田氏を上回ることを踏まえた上でルールを無視して無効票を投じたことにより、結果的に与党を利する形となった。
 与野党の勢力が伯仲し、国会に緊張感が生まれることは歓迎したい。しかし政党間の駆け引きや自らの存在感を高めることを優先した行動は、国民の理解を得られるものではないだろう。少数与党の国会では、野党の責任も極めて重いことを自覚すべきだ。

【第2次石破内閣】熟議の国会へ転換を(2024年11月12日『福島民報』-「論説」)
 
 第2次石破茂内閣は、少数与党の試練を抱えながら発足した。与野党勢力を反転させた衆院選の結果は、自民党一強政治の転換を求める民意に他ならない。政治は国民の信を取り戻し、熟議の国会に立ち戻れるかどうかの岐路にある。石破首相は、野党との議論重視の国会運営にかじを切る必要がある。勢力を増した野党は真価が問われる。
 自民、国民民主両党の政策協議には懸念も湧く。国民の「対決より解決」は、国会審議を停滞させず、必要な政策を具現化する上で望ましい。とはいえ、特定の野党を政権維持の数合わせで取り込み、熟慮のないまま税制や重要政策を結果的に連立、部分連合の枠組みで通すのなら、数にものを言わせた旧来の政治手法と違いはない。過半数割れした現実をしっかりと省み、最大野党の立憲民主党をはじめ、各党の多様な意見を真摯[しんし]に聞く姿勢を重視すべきだ。
 衆院の委員長人事は新生国会の鍵を握る。議院運営委員長は引き続き自民が担う一方、予算委員長を立民が手にする意味は大きい。
 与党単独過半数の政権下、委員長職権で審議が打ち切られ、採決が強行された例は少なくない。立民は政府予算をはじめ、国政全般に及ぶ審議の主導権を握り、裏金問題や政治改革などで攻勢を強める構えという。ただ、来夏の参院選をにらみ、再び政権批判に終始すれば、逆に信は遠のきかねまい。議席を底上げさせた国民の負託の重みを肝に銘じ、物価高、災害復旧などの予算審議は滞りなく進めるべきだ。
 法務委員長も立民が見込まれ、選択的夫婦別姓の導入議論が進む可能性が指摘されている。政治改革特別委員長も務め、政治資金規正法の再改正に弾みがつくとみられている。いずれも、野党が過半数を占めてこその動きと言える。野党も責任を持って審議に臨むよう求めたい。
 衆院副議長に本県2区選出の玄葉光一郎氏が就任した。国民注視の国会は正念場にある。豊富な議会政治の経験を生かし、中立、公正を胸に手腕を発揮してほしい。
 本県関係の議員が特別国会に合わせて初登院した。震災復興をはじめ、少子化、人口減など恒常化した地方の課題解決への活力ある取り組みに期待したい。(五十嵐稔)

第2次石破内閣が発足 国会重視の政治へ転換を(2024年11月12日『毎日新聞』-「社説」
 
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首相指名選挙での決選投票で再び首相に選出され、あいさつ回りで立憲民主党野田佳彦代表(右)と握手を交わす石破茂首相=国会内で2024年11月11日午後4時18分、手塚耕一郎撮影
 第2次石破茂内閣は少数与党での異例の船出となった。それだけに、国会などで多様な意見に耳を傾け、謙虚に政治を進めることが求められる。
 衆院選で自民、公明両党が過半数を割り込み、「宙づり国会」となった。首相の政権基盤は極めて脆弱(ぜいじゃく)だ。
 特別国会での首相指名選挙がそれを物語る。衆院で30年ぶりの決選投票にもつれ込んだ。再選されたのは、他の野党が結束して立憲民主党野田佳彦代表を推す戦術を取らなかったからだ。まさに薄氷の勝利と言える。
 国内外に課題が山積する中で、今後の国会運営は困難が予想される。野党との合意を得られない限り、予算や法案の成立はおぼつかない。
少数与党の脆弱さ露呈
 衆院の各委員会の構成にも、与野党の力関係が色濃く反映されている。予算委員長のポストを立憲に握られ、政権の思い通りに審議を進められなくなる。
 拮抗(きっこう)する与野党の意見対立が長期化すれば、政策遂行が停滞する恐れもある。1994年の羽田孜内閣は少数与党の状況を打開できず、わずか64日間で退陣に追い込まれた。
 自公両党は、方向性が近い国民民主党と政策ごとに協議する部分(パーシャル)連合を組むことで乗り切ろうとしている。
 国民民主が訴える「年収103万円の壁」解消に応じる見返りとして、予算案への賛成を取り付けたい考えだ。
 3党の実務者が協議を本格化させている。これでは、政府と与党があらかじめ政策を調整する事前審査に国民民主が加わっているのと変わりない。
 政策の妥当性を十分吟味せずに目先の数合わせを優先すれば、国会審議が形骸化してしまう。自民政治の旧弊が復活しかねない。
 第2次安倍晋三内閣以降、数の力を頼みとして国会を軽視し、異論を受け入れない姿勢が目についた。「自民1強」の緩みとおごりが極まり、不祥事も相次いだ。
 衆院選で示された民意は、与野党伯仲という状況を生んだ。政権運営のあり方を大きく転換し、緊張感のある本来の議会政治を取り戻す好機と捉えるべきだ。
 首相は野田氏との党首会談で、「野党の意見を聞き、国民に見える形であらゆることを決定していきたい」と強調した。
 オープンな国会の場で、比較第2党となった立憲をはじめ各党と議論を尽くし、必要であれば原案を修正しながら丁寧に合意形成を目指すのがあるべき姿だ。
 最優先で取り組むべき懸案は、自民派閥の裏金事件で浮き彫りになった「政治とカネ」の問題への対応である。
 首相は、使途公開の義務がなかった政策活動費の廃止を明言している。年内にも政治資金規正法を再改正する構えだ。
民意に応える改革こそ
 不明朗なカネを生み出してきた抜け道を塞ぎ、透明性の高い制度を確立することが不可欠だ。小手先の改革で終わらせるようでは、国民の信頼は回復できない。
 立憲などの協力をテコにして、企業・団体献金の廃止に踏み込み、政治資金を監視する第三者機関を早期に創設すべきである。
 国会の政治倫理審査会を速やかに開催し、裏金問題の全容解明を進めなければならない。
 国民生活を直撃している物価高への対策も待ったなしだ。一時的なバラマキにとどまらず、生産性の向上と賃上げの流れを定着させることが欠かせない。
 少子高齢化の加速に伴い、社会保障制度の持続可能性を高める取り組みが急務だ。
 米大統領選でトランプ氏が返り咲きを果たし、国際情勢の不透明さが増している。米中対立の激化が懸念される中、世界経済の混乱に備えた外交戦略の練り直しが迫られる。
 国会での熟議と、停滞なき国政をいかに両立させるかという難題が首相を待ち受けている。
 自民党内の足場も弱い。「来夏の参院選前に交代すべきだ」との声も上がる。だが、内輪の論理で責任を押しつけ合っている場合ではない。
 首相が注力すべきなのは、与野党伯仲下で課題に対処し、国民本位の施策を進めることだ。政治への不信を払拭(ふっしょく)し、生活不安を取り除くことに専念しなければ、難局は乗り越えられない。

「ささいなことで一々腹を立てていたら…(2024年11月12日『毎日新聞』-「余録」
 
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首相指名選挙での決選投票で再び首相に選出され、周囲の議員と握手を交わす石破茂首相(中央)=国会内で2024年11月11日午後4時11分、手塚耕一郎撮影
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ハンガリーブダペストで開催された非公式のEU首脳会議で記者会見するドイツのショルツ首相=8日、ロイター
 「ささいなことで一々腹を立てていたら、首相は3日と持たない」。メルケル前独首相の言葉である。連立相手を変えながら16年の長期政権を維持した秘訣(ひけつ)は忍耐力だったのかもしれない
メルケル氏のキリスト教民主同盟を野党に追いやったショルツ首相は頭に血がのぼったようだ。予算編成をめぐる対立で財務相の解任に踏み切り、連立が崩壊した。「小物で信用できない」と怒りを隠さなかった
▲ショルツ氏の社会民主党はシンボルカラーが「赤」。財務相が所属する自由民主党は「黄」。緑の党を合わせた「信号連立」から黄が離脱し、少数与党になる。支持率も低迷し、次期連邦議会選で「黒」のキリスト教民主同盟の政権復帰も予想される
▲時を同じくして石破茂首相が決選投票の末に再選され、30年ぶりの少数与党政権が発足した。30年前の羽田孜(つとむ)内閣は戦後2番目の64日の短命政権に終わった。政権基盤の弱さはショルツ氏と似たり寄ったりだろう
メルケル氏は黒・赤の大連立を成立させ、国旗の色から名付けられた黒・緑・黄のジャマイカ連立も模索した。自公以外に長続きした例がない我が国では人事や政策合意で組み合わせを広げる連立文化が育っていない
▲トランプ前米大統領復活の衝撃は共通する。ショルツ氏はトランプ氏との関係修復を訴える野党側の挑戦を受ける。石破首相はトランプ氏との会談を模索するが、共和党は上下院も制する「トリプルレッド」を視野に入れる。少数与党が渡り合うのは容易ではない。

第2次石破内閣 不安定な政権はいつまで続く(2024年11月12日『読売新聞』-「社説」)
 
 衆院選で惨敗したにもかかわらず、何事もなかったかのように第2次石破内閣が発足した。
 国民の代表で国権の最高機関である国会の決定は尊重されなければならないが、憲政の常道に反するような無理押しの体制では、国政の混乱が長期化しかねない。
 石破首相が衆参両院で行われた首相指名選挙を経て、引き続き政権を担うことになった。
 衆院の1回目の投票では誰も過半数を得られず、石破氏と、立憲民主党の野田代表の上位2人による決選投票となった。国民民主党などが決選でも党首名で投票した結果、それらが無効票となって、石破氏の選出となった。
 首相は国民民主に協力してもらい、政権を維持しようとしている。だが、国民民主は自らの主張が通れば賛成するだけで、政権運営全体に責任を負うわけではない。政策の根拠となる財源の確保は、与党任せにしようとしている。
 こうした権力基盤が 脆弱 ぜいじゃく な政権の下、国民に負担を求める施策を前進させることができるのか。
 政府は安全保障環境の悪化を踏まえ、防衛予算を段階的に増額しているが、その財源となる所得税などの増税時期はいまだに決まっていない。少子化対策のための、医療保険に上乗せして徴収する支援金の具体化もこれからだ。
 国会運営も厳しさを増しそうだ。衆院選の結果、衆院に17ある常任委員会のうち、野党の委員長は2人から7人へと増えた。
 立民は、国会審議の花形とされる予算委員長のほか、法務委員長などを確保した。野田氏は選択的夫婦別姓の実現にこだわっており、法務委員会で関連法案を審議、採決を急ぐ狙いのようだ。
 社会に大きな影響を与えかねない選択的夫婦別姓については、拙速な議論を避けねばならない。
 近年は首脳外交の重みが増しているが、国益がぶつかり合う交渉の場では、基盤の弱い首相が強く出るのは難しい。
 米大統領に返り咲くことになったトランプ氏が、一層の防衛負担を求めてくる可能性がある。中国も、石破政権の足元を見透かしているに違いない。
 首相が筋の通らない要求をのまされたり、外交的な揺さぶりにさらされたりしているようでは、国益を損なう。
 政治を安定させるには、自民党公明党に加え、国民民主と正式な連立を組む必要がある。そのためには、首相自らが進退にけじめをつけることが欠かせない。

石破政権は責任ある与野党協議で政策進めよ(2024年11月12日『日本経済新聞』-「社説」)
 
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衆院本会議で首相に指名され、一礼する石破茂首相(11日)
 特別国会の首相指名選挙で石破茂首相(自民党総裁)が再び選出された。第2次内閣が始動する。衆院選で自民、公明両党を合わせた議席過半数を割り込み、少数与党での不安定な政権運営を余儀なくされる。
 野党の賛成なしでは予算案も法案も成立させられず早晩行き詰まる。政策ごとに野党の協力を得ながら懸案を処理していく必要がある。着実に成果を積み重ねて国民の信頼を取り戻すほかない。
首相先頭に信頼回復を
 首相は11日夜の記者会見で、自民党の政治改革の案をとりまとめ、野党とも協議し年内にも必要な法制上の措置をめざす考えを明らかにした。半導体人工知能(AI)分野に10兆円以上の公的支援をする意向も示した。
 衆院の首相指名選挙は決選投票となり、首相が立憲民主党野田佳彦代表を上回った。衆院の常任委員長人事では、野党が衆院解散前の2ポストを上回る7ポストを手にした。国会論戦の花形といわれる予算委員長も含み、与党は国会運営を主導しにくくなる。
 自民党派閥裏金問題の真相究明と再発防止策をはじめ党のガバナンス改革に指導力を発揮し、踏み込んだ行動を示すよう求める。
 政治改革特別委や法務委の委員長ポストは立民がつかんだ。首相は自民1強時代に進めにくかった「政治とカネ」問題のほか選択的夫婦別姓の導入を含む重要テーマについても野党の意見に耳を傾けて合意に導いてほしい。
 国政に足踏みしている余裕はない。内外に課題が山積している。
 人口減・少子化と超高齢化社会を支える社会保障は持続可能な制度づくりが待ったなしだ。日本経済が活力を取り戻すための成長戦略や資産運用立国への経済政策も岸田前政権から引き継がれた。
 脱炭素の技術開発による再生可能エネルギー拡大など新たな成長産業を育てる投資も重要になる。エネルギー、経済、食料にまで及ぶ安全保障も長期の視点で最適解を見いだすのは国政の役目だ。
 米国第一主義を掲げるトランプ前大統領の返り咲きが決まり、多国間の枠組みや安保政策、貿易への影響も懸念される。それらは日本の国益に直結する。政府は強固な日米同盟を維持しつつ、対米政策や国際協調に主体的にかかわっていく努力が必要である。
 ウクライナや中東では国際世論の警告を無視する形で戦線が拡大している。ウクライナのゼレンスキー大統領は1万人を超える北朝鮮兵がロシアに送り込まれ、戦闘に参加していると語った。
 北朝鮮に加え中国の軍事的脅威に日本はさらされており、抑止力を高めるべきだ。同時に、隣国で経済的なつながりが深い中国と対話を太くする取り組みも欠かせない。政権基盤がぐらついて外交に影を落とせば国益を損なう。
 政府はこれまでのように法案を原案通りに成立させるのは難しくなる。国会提出前に与党の意見を反映して了承を求める事前審査と野党との交渉の並行作業になる。野党から内閣不信任案が提出される可能性もあり、与野党で合意をつくれるかが試金石となる。
 与野党で税制や社会保障、安全保障といった国の根幹の政策を議論し直す機会にできないか。国民の目にみえる形で知恵を出し合い、幅広い声をくみ取った政策を実現するのが与野党伯仲の選挙結果に込められた民意だろう。
野党も建設的に関われ
 野党側にも注文をつけたい。
 衆院選の公約にこだわるあまり要求の言いっぱなしでは困る。政策に必要な財源について経済成長による税収増や予算の使い残しで対応するだけでは無責任だ。野党の主張を与党が丸のみする展開が繰り返されると財政や税制にゆがみが生じ、将来に禍根を残す。
 国民に本当に必要な政策と考えるなら、建設的な提案や与野党協議、国会審議を通じて実現を促す役割が少数与党時代の野党に求められる。国民に耳の痛い負担の議論からも逃げずに、持続可能な社会への改革案を競ってほしい。
 政策を磨いて政権担当能力を示すことで国民の安心感につながり、政権交代への道も広がっていくだろう。
国政が停滞し、国民生活に支障が生じる事態は避けなければならない。欧州では近年、少数与党や連立政権の国が少なくない。日本でも政党の調整力が試される。
 形骸化が指摘されてきた国会を与野党の熟議で活性化させたい。来年夏には参院選東京都議選を控え、内向きの政争にかまければ国民の厳しい評価にさらされる。政治の力量を示すときだ。

第2次石破内閣 外交安全保障を忘れるな 信なき首相の続投は残念だ(2024年11月12日『産経新聞』-「主張」)
 
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閣議を終え、石破茂首相(前列中央)とともに記念撮影に臨む新閣僚ら =11日夜、首相官邸(鴨川一也撮影)
 特別国会が召集され、衆院での首相指名選挙の決選投票で、石破茂首相(自民党総裁)が立憲民主党野田佳彦代表を破り第103代首相に選ばれた。宮中での親任式などを経て第2次石破内閣が発足した。
 石破首相は衆院選で、自身が設定した与党過半数という勝敗ラインを達成できなかった。国民の信を得られなかったにもかかわらず石破首相も森山裕幹事長も責任を取って辞任することはなかった。憲政の筋を踏まえない首相続投は残念である。
 石破首相に批判的な自民議員は少なくない。彼らが首相指名選挙で石破氏を選んだのは、安全保障政策などで非現実的な立民の野田氏に国の舵(かじ)取りを任せるわけにはいかないと考えた末の苦渋の選択だろう。
少数与党で展望描けず
 30年ぶりの少数与党政権として石破首相は再出発を図る。国内外の課題は山積し、政権基盤が脆弱(ぜいじゃく)とあっては石破首相の前途は多難というほかない。国政の停滞を憂えるばかりだ。
 真っ先に取り組むことになるのは政治とカネをめぐる問題である。石破首相は、年内召集予定の臨時国会政治資金規正法の再改正案を提出し、成立を期す必要がある。政治資金の透明性確保とパーティー収入不記載事件の再発防止に決着を図らなければならない。
 政策活動費廃止や調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)の使途公開、政治資金を監視する第三者機関設置などが焦点とされるが、外国人・外国法人のパーティー券購入の禁止も不可欠の課題である。
 自民、公明両党の与党は衆院キャスチングボートを握る国民民主党と、年収が103万円を超えると所得税が発生する「103万円の壁」の解消などについて協議しているが、財源確保の問題もある。
 重要なのはデフレからの完全脱却に向け、物価上昇を上回る賃上げを確実なものにし、自律的な経済成長を実現することだ。衆院過半数割れである以上、野党側との政策協議は欠かせないが、経済財政運営の大局は見失ってはならない。
 最も懸念されるのは、国会運営の混乱で日本の政治が内向きに終始し、国の平和と独立、国民の安全を守る政策遂行がおろそかになってしまうことだ。
 外交安全保障への関心を失っては大変なことになる。
 米国との同盟関係は、国家安全保障にとって死活的に重要である。石破首相は、米大統領選に勝利したトランプ前大統領と早期に直接会談し、同盟強化を確認しなければならない。
 中国、北朝鮮、ロシアの脅威に直面する日本は、日本防衛や台湾有事、朝鮮半島有事への米国の関与を常に確かなものにしておく必要がある。トランプ氏の関心を、日本および北東アジア、インド太平洋にも向けさせるのは石破首相に課せられた最も重要な責務である。
国の「基本」を守り抜け
 ロシアのウクライナ侵略は続き、派兵された北朝鮮軍がウクライナ軍と交戦する事態となった。「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」という危機感を石破首相は忘れず、侵略者ロシアが凱歌(がいか)をあげるような展開を許さない外交を展開すべきである。
 中東は喫緊の課題だ。戦火が拡大し、イスラエル・イラン間の「第5次中東戦争」の様相を呈する恐れがある。イランなどにいる日本人の帰国や安全確保を急ぐべきだ。エネルギー需給の面からも備えてほしい。
 防衛力の抜本的強化を確実に進めたい。募集難になっている自衛官確保策の推進や、有事を想定した空港、港湾、シェルター建設も課題だ。
 もう一つ懸念されるのは、与党が目先の国会運営にとらわれて、十分な議論もなしに国や社会の基本を乱す施策を受け入れてしまうことだ。
 自民は衆院で、予算委員会や法務委員会の委員長、憲法審査会の会長などの重要ポストを立民に譲った。憲法審会長に就く立民の枝野幸男元代表改憲の動きにブレーキをかけてきた人物だ。憲法審の議論が滞るなら改憲に前向きな政党で改憲原案の条文化を進めるべきだ。
 野田氏は衆院法務委員長を得たのは選択的夫婦別姓の実現が狙いだとSNSで明かし、「自民党を揺さぶるには非常に効果的だ」とも語った。石破首相と自民は、家族や社会のありように関わる基本問題の変更は絶対に受け入れてはならない。

第2次石破内閣発足 対立から対話の政治に(2024年11月12日『東京新聞』-「社説」
 
 自民党石破茂総裁が首相に再び指名された=写真。衆院選で自民、公明両党が過半数割れしたことを受け、少数与党として発足した第2次石破内閣。絶対的な力を持っていた自民党が数の力で押し通す「1強政治」から、与野党が丁寧な対話を通じて合意形成を探る政治への転換点である。
 衆院での首相指名選挙が30年ぶりに決選投票に持ち込まれたことが、石破首相と与党の置かれた状況の厳しさを物語る。
 衆院選の結果から読み取るべき有権者の意思は、自民党派閥の裏金事件に象徴される政治腐敗の拒絶と、自民党が主張を押し通し、多数の小政党と対立する「1強多弱」政治の終焉(しゅうえん)である。
 各党の獲得議席与野党伯仲となった結果、与党だけでは何も決められず、野党の賛成が得られなければ予算も法律も成立しない。有権者は国会運営や政策実現の責任を共有するよう与野党に求めたと受け止めるべきだろう。
◆裏金のけじめ、与野党
 世論を踏まえれば、首相の最優先課題が裏金事件のけじめであることは自明だ。国会による実態解明に協力し、政治資金の透明性を高め、再発を防止する法整備を早急に進めなければならない。
 野党側が求めていた使途公開の義務がない政策活動費の廃止、国会議員に月100万円支給される調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)の使途公開は、自民党も前向きな姿勢に転じた。年内に法改正を実現すべきだ。
 金権政治の温床と指摘されてきた企業・団体献金は多くの野党が禁止を求める。自公両党は存続させる構えだが、禁止に踏み込まなければ抜本改革はできず、政治の信頼も回復できない。
 少数与党はいつでも内閣不信任決議案が可決され得る。1強に慣れきった自公の政権運営は困難を極めるだろうが、与野党協議を通じて妥協点を探る当たり前の政治文化に転換する好機でもある。
 12月召集見通しの臨時国会では物価高対策を柱とする2024年度補正予算案が焦点。野党側の主張も取り入れて補正を成立させられるかどうかが、来年1月召集の通常国会での25年度予算案の成否を占う試金石となる。
 石破氏は安倍晋三氏の首相在任当時「安倍1強」に異を唱えてきた数少ない自民党議員の1人でもあり、丁寧な政権、国会運営ができるのか手腕を問われている。
 石破氏が野党党首と相次いで会談し、国会運営への協力を要請したのは当然だが、野党第3党の国民民主との政策協議を先行させたことは疑問だ。まずは野党第1党・立憲民主の野田佳彦代表と向き合うべきではなかったか。
 少数与党の政治状況では衆院過半数を占める野党側も重責を担う。特に150議席近くを獲得した立民は有権者が求めた政治の変化を実現しなければならない。
 立民は衆院予算委員長や政治改革特別委員長など重要ポストを獲得した。委員長は審議日程や採決の可否を最終的に判断できる。厳しい行政監視とともに建設的で責任ある国会運営に努めてほしい。
 同時に、党内での政策協議を充実し、与党側に積極的に提案すべきだ。国会運営や政策立案を重ねることが政権担当能力を養うことにもなるのではないか。
参院選の選択に備える
 衆院選では自公両党を過半数割れに追い込んだが、野党間の調整が間に合わず政権交代は実現できなかった。立民の準備不足は否めない。来年夏には参院選がある。直ちに、32ある1人区での野党候補一本化に向けた協議に入り、有権者の選択に備えるべきだ。
 少数与党であっても外交・安全保障の責任は石破内閣が負う。
 米国では来年1月、トランプ氏が大統領に返り咲く。ルールに基づく国際秩序の回復を促し、日米の通商関係や安全保障体制を巡っては日本側が不利益や負担増を押しつけられないよう、主体的な外交を展開しなければならない。
 石破氏は長年、在日米軍の特権的地位を定めた日米地位協定の改定を持論とし、多くの野党も賛同する。自国の利益最優先のトランプ氏との交渉は容易でなく、石破氏も首相就任後は持論を封印したが、野党の後押しがあれば強い交渉力になるのではないか。
 選挙は民主主義の根幹だ。与野党は自公過半数割れによる自民1強の終焉、与野党伯仲を望む民意を踏まえて誠実に向き合い、国会を合意形成の場としなければならない。政治の信頼回復には党利党略は無用である。

作家の幸田文さんは14歳のときに父親の露伴から掃除の仕方を…(2024年11月12日『東京新聞』-「筆洗」)
 
 作家の幸田文さんは14歳のときに父親の露伴から掃除の仕方を教わった。露伴の指導はかなり厳しかったようだ
▼『父・こんなこと』によるとはたきの房の先が障子の桟(さん)ではなく紙に触れることを許さない。「おまえの目はどこを見ている」「埃(ほこり)はどこにある」とうるさい。文さんがへそを曲げると「できもしない癖におこるやつを慢心外道という」
露伴の「はたき指南」より厳しい監視の目にさらされ、お小言と注文を頂戴することになるか。石破首相である。首相指名選挙では野党が一本化できなかったため、石破さん、なんとか当選できたが、少数与党に変わりはない。野党は自民党のはたきのかけ方ひとつにも目を光らせるだろう
▼野党が束になれば与党は予算案も法案も通せない状況の中、いかに野党の理解と協力を得るか。自民党はわがまま勝手に国会を運営してきた1強時代が既に恋しかろう。国民民主党にしてもすべて与党の言いなりにはなるまい
▼野党から多様な意見を聞いた上で、与野党間で丁寧に議論して、解決策を見いだす。そんな「熟議」の時代に入るのなら歓迎したいが、与野党の批判合戦と冷笑のはざまで「政治」がどこにも進めないような事態は避けたい
▼問われているのは野党も同じなのだろう。抵抗だけではこれもまた国民の不興を買う。与党への適度な「はたき」のかけ方というのが難しい。

第2次石破内閣 丁寧な政権運営心がけよ(2024年11月12日『新潟日報』-「社説」)
 
 ようやく本格的な始動となる。内閣には、国民生活と向き合い、野党とも丁寧に合意を形成する政権運営を求めたい。
 衆院選を受けた特別国会が11日召集され、自民党総裁石破茂氏が衆院本会議での首相指名選挙で、立憲民主党野田佳彦代表との決選投票の末、首相に選出された。同日夜、公明党との連立で第2次石破内閣を発足させた。
 第1次内閣は発足8日後に衆院が解散され、実績はほとんどない。第2次内閣は、衆院選で落選した2氏を含む3閣僚が交代し、他の閣僚は再任した。石破内閣の力量が試されるのはこれからだ。
 ただ、衆院で与党は過半数に届かず、法案審議や予算成立など野党との合意がなくては進まない。厳しい政権運営を強いられる。
 首相指名選挙の決選投票でも石破氏は過半数を得られなかった。
 衆院で17ある常任委員長ポストを巡っては、衆院選前は与党が15を占めていたが、八つが野党に配分される。中でも重要ポストである予算委員長は立民に割り当てられ、野党が30年ぶりに予算審議の主導権を握ることになる。
 自民党派閥裏金事件に伴う「政治とカネ」の問題の集中審議など、徹底追及される場面も多くなると想定される。
 政治改革について首相は、野田代表、国民民主党玉木雄一郎代表と個別に会談し、年内に見込まれる臨時国会での与野党合意を目指す考えを示した。
 首相は裏金議員の政治倫理審査会出席も促した。党内での指導力も問われるだろう。
 国民の厳しい目が注がれていることは、衆院選の結果が示した通りだ。今度こそ裏金事件の解明と、国民が納得できる政治改革の断行を急がねばならない。
 政権安定に向けて自民は、議席を大幅に増やし、キャスチングボートを握る国民民主を取り込もうとする姿勢があらわだ。
 2024年度補正予算案を、既に自民と公明に国民民主が加わった3党で協議している。政策ごとに野党と連携する「部分連合」への試金石になると見込まれる。
 政権維持には必要だが、単に数合わせであってはならない。国民本位の政策の実行が欠かせない。
 補正予算案は、生活支援策などを盛った経済対策が軸となる。年収が103万円を超えると所得税が発生する「年収の壁」については、国民民主が金額の引き上げが実現しなければ政権に協力しないと言明し、明記される方向だ。
 政治が停滞し、国民生活に影響を及ぼしてはならない。内外に課題が山積している中で、首相に求められるのは野党の主張を広く聞き、熟議に基づく政権運営に努めることだ。
 政権維持に汲々(きゅうきゅう)として、かじ取りを誤ることのないようにしてもらいたい。

(2024年11月12日『新潟日報』-「日報抄」)
 
 近年注目を集めるスポーツの一つがスラックラインだ。木の間などに渡した、細いベルトの上を渡る。バランス感覚や体幹の強さ、集中力が要求される
▼単に渡るだけでなく、ベルト上でさまざまなポーズを取ったり、ベルトの弾力を利用してトランポリンのようにジャンプしたり、楽しみ方は多彩だ。レクリエーションから本格的な競技まで、本県でも愛好家は多い
▼源流は綱渡りだろう。スラックラインは誰もが楽しめるよう安全性に配慮したスポーツであるのに対し、綱渡りは曲芸として発展した。落下して命を落とすリスクを伴うこともある。それゆえ危険を冒し、冷や汗を流しながら何かをなすことの例えとしても使われる
衆院選の結果を受け、きのう第2次内閣が発足した石破政権がそうだろう。自民・公明両党の議席過半数に届かず、衆院の首相指名は決選投票に持ち込まれた。最終的には石破茂さんが最多得票で首相に選ばれたが、過半数の票を得ることはできずに少数与党となった
▼与党だけでは予算案や重要法案は通せない。野党は自らの主張を通そうと手ぐすね引く。与党内にも「政治とカネ」の問題への不満が澱(おり)のようにたまっているらしい。石破政権を取り巻く環境は、内憂外患のような様相である
▼ただ、この政治状況は衆院選で示された民意がもたらしたものだ。有権者は、与野党がしっかりと政策協議をすることを望んだといえる。綱の上の政権はいかにバランスをとるのか、それとも足を滑らせるのか。

第2次石破内閣 丁寧な議論で政治改革を(2024年11月12日『信濃毎日新聞』-「社説」)
 
 衆院選を受けた特別国会で、自民党総裁石破茂氏が第103代首相に選出された。
 衆院選自民党公明党過半数を得られなかったため、首相指名選挙は立憲民主党野田佳彦代表との間で1994年以来、30年ぶりとなる決選投票が行われた。
 石破氏は閣僚の大半を再任した上で、第2次石破内閣を発足させている。2012年末の第2次安倍晋三内閣の発足以降、「自民1強」だった政治状況は一変し、国会運営で野党と真摯(しんし)に協議していく姿勢が欠かせない。
 衆院選で示された民意は、自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を契機とした政治不信だ。早急に取り組むべきは「政治とカネ」にかかわる改革である。
 石破氏は首相指名選挙に先立ち、野田氏、日本維新の会馬場伸幸代表、国民民主党玉木雄一郎代表と、それぞれ個別に会談。使途公開が不要な政策活動費の扱いなど、政治改革に関する協議で協力を要請した。
 野田氏は企業・団体献金の禁止を含む野党案を提出し、国会で審議したいとの意向を伝えた。馬場氏は月額100万円の調査研究広報滞在費(旧文通費)の使途公開などについて臨時国会までに結論を出すよう求めた。
 玉木氏は政治改革に関する与野党協議の場を設け、必要な法改正を行うよう要求している。
 自民党はこれまで、企業・団体献金の禁止などには消極的な姿勢を続けてきた。野党の要望を国民の声と受け止め、国会の場で丁寧な議論を積み上げて、最優先で「政治とカネ」問題を解決していく必要がある。
 国民民主党は経済対策の一環として、年収が103万円を超えると所得税が発生する「年収の壁」の見直しなども自民、公明に要請している。今後3党で協議していく方針だ。
 与党は政策ごとに野党と連携する「部分連合」を構築したい考えだ。国会運営を優先し、政策の財源や影響を曖昧にしたまま論議を進めることはあってはならない。
 衆院では野党が一致できれば野党提出法案が可決できる状況だ。野党連携は極めて重要になる。
 ただ、首相指名選挙の決選投票では、共産党以外の野党が無効票となることを承知の上で自党の党首に投票した。各党の思惑が異なる中、協調する難しさも浮き彫りになった。政治改革や経済対策、選択的夫婦別姓導入など、今後の国会で焦点になる法案で、野党が一致できるのかが問われる。

第2次石破内閣/政治改革の議論速やかに(2024年11月12日『神戸新聞』-「社説」
 
 きのうの特別国会で自民党石破茂総裁が第103代首相に選ばれ、第2次石破内閣が発足した。閣僚は衆院選で落選した法相、農相と、公明党の代表に就任した国土交通相を交代させ、他の閣僚は続投させた。
 与党の自民、公明両党は衆院選過半数を割り込み、野党が多数を占める「宙づり国会」の状況となる。首相指名も30年ぶりの決選投票となった。与党だけでは予算案や法案を通せない。首相は数の力で押し通すこれまでの「自民1強政治」を反省し、謙虚な政権運営を通じて着実に政策を実行する必要がある。
 与党過半数割れを受け、自公両党と議席を大きく伸ばした国民民主党が政策協議に入った。少数与党が政策を実現するために野党と話し合うことは否定しないが、政権維持を目的とする「数合わせ」ならば本末転倒だ。国民民主が是々非々を貫けるのか、有権者は注視している。
 3党は月内に取りまとめる経済対策や2024年度補正予算案、25年度予算案、税制改正について協議するという。自民は国民民主の主張を反映させ、政策ごとに連携する「部分連合」を念頭に置いている。
 国民民主が衆院選で掲げた、年収が103万円を超えると所得税がかかる「年収の壁」引き上げなどは有権者の一定の支持を得た。ただ主張通り実現すると、多額の税収減が見込まれるなど弊害も指摘される。経済対策や税制は暮らしに直結する。協議は慎重に進めるべきだ。
 与野党伯仲の国会では、幅広い党派の意見や主張を取り入れることが欠かせない。衆院の委員長ポストも野党に手厚く配分された。政策決定過程で与野党の調整が必要になる局面は増えるだろう。躍進した野党第1党の立憲民主党をはじめ各党と真摯(しんし)に向き合うのが筋である。
 本来、与野党が最優先で取り組むべき課題は「政治とカネ」を巡る抜本改革だ。衆院選での与党大敗は、自民が裏金問題を軽視し、実態解明や再発防止策を小手先で済ませたことに、民意が猛省を促した結果であることを忘れてはならない。
 「抜け穴」が指摘される政治資金規正法の再改正、政策活動費の廃止、政治資金を監査する第三者機関の設置など課題は多い。立民などが掲げる企業・団体献金の禁止も議論が不可欠だ。与野党は速やかに実現への筋道をつけてもらいたい。
 物価高対策をはじめ、人口減、財政再建、外交・安全保障など課題は山積する。求められるのは、国民の多様な声に耳を傾け、熟議を重ねて合意形成を図る努力だ。政治への信頼を取り戻すためにも、有権者の負託を受けた国会議員は「言論の府」の再生に尽くさねばならない。

第2次石破内閣 新たな合意形成確立せよ(2024年11月12日『山陽新聞』-「社説」)
 
 衆院選を受けた特別国会で石破茂首相=自民党総裁=が再び首相に選出され、公明党との連立による第2次石破内閣を発足させた。衆院選で自公は少数与党に転落し、野党の協力がなくては法案や予算案を通すことができない。与野党が伯仲するこの機会に、新しい合意形成の仕組みを確立する必要がある。
 首相は特別国会召集に先立ち、立憲民主党日本維新の会、国民民主党の各党首と相次いで個別に会談し、国会運営への協力を要請した。政権維持に向け、野党の意見を重視する姿勢を示した格好だ。野党が結束すればいつでも内閣不信任案が可決される状況であり、政権運営にはこれまで以上の丁寧さと緊張感が求められる。
 衆院の委員長ポストも野党に手厚く配分され、政府予算案の審議を仕切る予算委員長は立民が務める。政策決定で与野党の調整が必要になる場面が増えるのは確実である。政策ごとに国民に見える形で議論し、きちんと前に進めていくことが重要だ。
 10年以上続いた「自民1強」下では、国会での十分な議論や国民の幅広い理解がないまま、法律や政権の重要方針が決まった例は少なくない。数の力のみで押し切る政治を終える時だ。
 少数与党として野党との連携の鍵になっているのが、議席を伸ばした国民民主である。自公国の3党による政策協議は本格化しており、国民民主は経済対策の一環として、年収が103万円を超えると所得税が発生する「年収の壁」の見直しやガソリン減税を要請した。
 年収の壁は、同党の主張通り非課税枠を178万円に引き上げた場合、税収減は国と地方を合わせて1年間で7兆6千億円に上ると試算され、全国知事会などが懸念を示している。高所得者ほど減税の恩恵が大きくなるとの指摘もある。ガソリン減税は、ガソリンの使用量が増えて脱炭素に逆行すると批判される。効果や財源を慎重に見極めるべきである。
 政治改革は議論を急ぎ、決着をつけなければならない。改正政治資金規正法は先の通常国会で成立したが、依然抜け穴だらけのザル法で、自民、立民は臨時国会で再改正を目指す考えだ。調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)の使途公開など有権者が納得できる内容とすることが欠かせない。
 首相が看板政策に掲げる地方創生も待ったなしだ。始まってからの10年間、具体的な成果が乏しく、自治体向け交付金がばらまきに終わったとの批判は絶えない。東京圏への人口流出が止まらない地方は疲弊する一方である。
 首相は、交付金を当初予算ベースで倍増させることを目指している。求められるのは地方の自主性を引き出し、お金や人を地域で循環させる視点だ。仕切り直しで実効性が厳しく問われよう。

第2次石破内閣発足(2024年11月12日『山陽新聞』-「滴一滴」)
 
 先の衆院選の投票日、中学生の息子を連れて投票所に出かけた。18歳未満の子どもを同伴して入場できるようになったのは8年前。将来の投票率アップにつなげようと、公選法の改正で対象を幼児から広げた
▼神妙な顔でついてきた息子だが、後で感想を聞くと意外なことを言う。「自分の1票では何も変わらないよ」。いまから諦めや無力感を抱いているとは。親としてショックを受けつつ翌日の開票結果を教え、いかに国会の景色が変わったかを伝えている
▼残念なことに衆院選投票率は53・85%で戦後3番目の低さだった。有権者のほぼ半数は投票に行かない選択をしたわけだ。しかし、投票した人はいま、自分が投じた1票が持つ意味を感じているだろう
▼きのう発足した第2次石破茂内閣は1994年の羽田内閣以来の少数与党である。「自民1強」は崩壊し、数の力で押し切ることはできない。政策実現のためには野党との丁寧な合意形成が求められる
自民党総裁に就任するまで、権力に対して反対意見を述べる姿が国民の人気を得ていた石破氏だ。国民が期待するのは初心に立ち返り、「国民の納得と共感を得られる政治」を実践することだろう
▼大事なのはこれから有権者が政治家と各政党のふるまいを注視していくことである。次に1票を投じる際の重要な判断材料にしたい。

石破内閣継続 「政治とカネ」まず決着を(2024年11月12日『中国新聞』-「社説」)
 
 自民、公明の連立与党が過半数割れした衆院選を受け、きのう召集された特別国会で、自民党総裁石破茂氏が再び首相に選出された。
 30年ぶりの決選投票の末、続投が決まった。とはいえ、政権への野党取り込みは進まず、第2次石破内閣は、自公政権下では初めて少数与党内閣となった。野党の協力がないと法案も予算も通らない。政権運営の難航は必至だ。
 与党に染み付いた国会軽視の姿勢を改める好機と前向きに捉えたい。自公が政権に復帰した第2次安倍内閣以降、政府は数の力におごって国会論議を軽視し政策を決めていた。そうした手法は通用しない。国会への向き合い方の根本的な転換が迫られている。
 石破首相はきのう「野党の意見を誠実に承りながら、あらゆることを決めたい」と述べた。謙虚な姿勢を今後も貫けるかが問われる。
 早急になすべきことは明らかだ。「政治とカネ」問題の決着である。まずは、政治資金規正法の再改正を急がなければならない。
 石破首相は、政治資金をチェックする第三者機関の設置には言及してきた。しかし、それだけでは不十分だ。野党第1党の立憲民主党などが主張する企業・団体献金の禁止に踏み込むべきである。
 政策活動費の廃止や、調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)の使途公開・残金返納も実現が急がれる。こうした政治改革は、年内にも開催される臨時国会での対応が求められる。
 自民党の派閥裏金事件では、衆参政治倫理審査会への関係議員の出席が欠かせない。野党はもちろん、公明党の斉藤鉄夫新代表も石破首相に要望している。十数人の「裏金議員」が衆院選で当選したが、それで「みそぎが済んだ」と勘違いしてもらっては困る。選挙区の有権者だけではなく、国会の場で説明責任を果たす必要がある。
 そもそも安倍派の裏金問題は未解明だ。いったんやめかけたのに、誰がなぜ復活させたのか。徹底追及する責任は与野党双方にある。
 政治改革は、石破政権に課せられた重い宿題だ。片付けない限り、有権者の納得は得られないのだと、肝に銘じなければならない。
 政治改革の早期実現に向け、野党の責任も重い。衆院選を経て、立民や、日本維新の会、国民民主党の主要3党の議席数は自民党を上回り、影響力を増した。
 とりわけ動向が注目されるのは、議席を4倍に増やした国民民主党だ。公約に掲げた「年収の壁」解消へ、与党から政策協議を引き出した。
 ただ、この問題や政治改革で安易に妥協したのでは、石破内閣の延命に手を貸すだけだとの批判も強まるはずだ。与党となれ合い関係に陥ることは許されない。
 衆院選では、政治改革を進めよとの有権者の思いが示された。とはいえ、自浄能力を欠いた自民党任せでは不可能だろう。立民、維新、国民の3党を軸に結束して、与党に改革実現を強く迫れるのか、野党も問われている。

信なくば(2024年11月12日『中国新聞』-「天風録」)
 
 政治とは何か。弟子に問われ、孔子が説いた。「食を満たし、軍備を十分にし、民に信頼の心を持たせる」。三つのうち最も大事なのは民から信じ託されることだと諭す。「信なくば立たず」と
▲前政権以上に、この論語の言葉が染みる日々だろう。きのう石破茂首相が再選出された。決選で野党の無効票に助けられ、立憲民主党野田佳彦代表を退けた。30年ぶりの少数与党である。内閣不信任決議案を否決する数を持たない、いばらの道だ
▲政策決定の過程が変わる。花形の衆院予算委員長を立憲民主党が取り、自公の事前調整だけでは予算案が通らない。政策の優先度も変わる。改憲に前向きな勢力は総定数の3分の2を割り、選択的夫婦別姓に賛成の議員が7割超と世論並みに
▲民意がもたらした国会のありようだ。政権維持のため政策実現で釣り、小政党を連立に取り込む自民党の手法が古びて見える。首相には持論の安全保障政策を言う前に政治改革を求める。立憲民主党も熟議を促す論戦や政権担当能力が試されている
与野党論語の格言をもう一つ。「巧言令色、鮮(すくな)し仁」。意訳するとこうだ。言葉巧みで愛想いい政治家に限って民への思いやりに欠ける。

【第2次石破内閣】丁寧な議論で合意形成を(2024年11月12日『高知新聞』-「社説」)
 
 衆院選を受けた特別国会が召集され、首相指名選挙で石破茂首相(自民党総裁)が選出された。公明党との連立で発足した第2次石破内閣は少数与党であり、これまでのような「数の力」に頼った政権運営はもはや通用しない。
 法案や予算案を成立させるため野党の協力が欠かせなくなった。丁寧な議論を通じて政策づくりや国会運営で合意形成を図ることが重要になる。与野党伯仲の緊張感のある環境で互いに切磋琢磨(せっさたくま)するような関係を築くべきだ。それこそが、裏金事件を含めて「自民1強」体制に厳しい審判を下した衆院選結果が求める方向だろう。
 一方で、与野党を問わず、政局に目が行きすぎたり党利が先立ちすぎたりして、国政が必要以上に停滞することは避けなければならない。国民目線に沿った、責任ある対応が求められる。
 首相指名選挙で野党がまとまらなかったため、政権を継続できた石破首相だが、内閣不信任決議案が可決されるリスクを常に負うなど厳しい政権運営を迫られる。「野党の意見を誠実に謙虚に聞く」とする中、ただちに迫られるのは「政治とカネ」問題への対処だろう。裏金事件で失墜した政治への信頼を取り戻すのが先決だ。
 与野党とも年内の政治資金規正法の再改正などを目指す方針で、政策活動費の廃止や調査研究広報滞在費(旧文通費)の使途公開などがテーマになるが、企業・団体献金を巡っては党派間で考えに開きも見える。「国民の納得」が問われる。
 自公は、衆院選で躍進した国民民主党と協議しながら政策ごとに連携する「部分連合」を目指す考えだ。国民民主は2022年度当初予算などに賛成した経緯があって自公側には抵抗感が少なく、国民民主も「政策の実現」を掲げる。
 当面の焦点は、年収103万円を超えると所得税がかかる「年収の壁」の引き上げになる。国民民主が強く求めているが、多額の税収減が見込まれるため慎重論も根強い。譲歩せざるを得ない立場の与党も無条件にというわけにはいかず、「部分連合」の今後を占う。キャスチングボートを握った国民民主は、影響力を誇示しすぎれば反発もあり得る。
 議席を伸ばした立憲民主党も、予算委員長など重要ポストを得るなど自党の主張を反映できる余地は大きく広がった。政権交代を念頭に野党の協力体制を進める構えだ。
 懸念するのは、与野党の話し合いが進まず国政が混乱することだ。衆院選開票直後の共同通信世論調査では、選挙結果通り自公政権継続を「望まない」が53%に上ったが、石破氏の辞任は「不要」が65%だった。国政の安定を求めている民意をうかがうことができ、与野党ともそれを意識した議論や立ち回りが求められる。
 従来の自公政権の下では、選択的夫婦別姓の導入など議論の俎上(そじょう)に載りにくかったテーマもある。この機会に掘り下げるべきだ。

ラーメン宰相に?(2024年11月12日『高知新聞』-「小社会」
 
 ラーメンの魅力はなんといっても、麺とスープ、具の三つで成り立っている点だろう。専門家いわく、「それぞれの特徴と組み合わせ・バランスを考慮すると奥行きが深い」(奥山忠政著「ラーメンの文化経済学」)。
 いまや全国に多種多様なご当地ラーメンが存在するのも、それを物語る。政治家も、秘めた可能性を見逃さなかったようだ。永田町には「ラーメン文化振興議員連盟」があって、活動が興味深い。
 まず、ご当地ラーメンを生かして地方創生を進める。次に食料自給率の向上。ラーメンも使用原料は輸入が多く、国産の割合は14%程度という。これを「20%に引き上げたい」とするのが石破首相である。
 無類のラーメン好きで、2年半前の議連発足時から会長を務める。なかなか適任かもしれない。地方創生担当相や農相の経験があり、ライフワークの分野と重なる。ラーメンの奥深さと重ねて「ラーメンは人生そのもの」だとも語っている。
 第2次石破内閣が発足した。衆院選敗北を受け、少数与党での厳しい再出発。所得税の「年収の壁」、政治資金問題などが焦点になる中、政権運営には野党の主張も踏まえた絶妙なバランスが欠かせない。
 トランプ次期米大統領との関係構築など外交も懸案となる。スープに負けない麺のように強さが要る。そもそも政策実現にはゆで加減のようにタイミングが大切だろう。「ラーメン宰相」になれるだろうか。

少数与党内閣 熟議の国会運営に努めよ(2024年11月12日『西日本新聞』-「社説」)
 
 少数与党の第2次石破茂内閣が始動した。これまでのように、数の力に頼った政権運営はできない。国民の声に耳を澄まし、与野党で熟議と合意形成に努めてほしい。
 きのう召集された特別国会で、石破氏が第103代首相に選出された。
 衆院選で自民、公明両党の議席過半数を割ったため、衆院の首相指名選挙は石破氏と立憲民主党野田佳彦代表による決選投票となり、石破氏が多数票を得た。
 30年ぶりの決選投票は前途多難を思わせる。
 衆院では野党の賛成がないと、予算案や法案を通すことができない。野党がまとまって行動したり、与党議員の一部が造反したりすれば、内閣不信任決議案が可決される恐れがある。
 少数与党の内閣は1994年の羽田孜内閣以来だ。羽田内閣は内閣不信任案を突き付けられると総辞職に追い込まれ、首相在任64日、戦後2番目の短命政権に終わった。少数与党が政権を安定させるのは容易でない。
 石破首相は衆院選で躍進した国民民主党との政策協議を通じ、法案賛成を取り付けたい意向だ。国民民主が主張する「年収103万円の壁」の見直しについて、政策責任者が話し合いを始めている。
 首相は国民民主のほか、立民、日本維新の会の党首とも会談し、政治改革や経済対策などへの協力を要請した。思惑通りに運ぶかどうかは首相や与党の対応次第だろう。
 国会は様変わりする。衆院選前まで与党がほぼ独占していた常任委員長は与党10、野党7の配分となった。
 立民は、予算案をはじめ国政全般を議論する予算委員会の委員長ポストを握った。政権追及の舞台を差配し、揺さぶりをかける構えだ。野党の質問に対し、閣僚が木で鼻をくくるような答弁はもう通用しまい。
 政治改革特別委員会も立民が委員長席に座る。まず年内に予定される臨時国会で、自民派閥の裏金事件に象徴される「政治とカネ」の問題に決着をつけなくてはならない。
 衆院選の民意に従い、与野党が取り組む最優先課題であることは言うまでもない。政策活動費の廃止などは実現する見通しだ。自民が後ろ向きな企業・団体献金の禁止に合意できるかが焦点となる。
 立民には、国会運営への責任が重くなることを自覚してもらいたい。
 2012年の第2次安倍晋三政権以降は「自民1強」が定着し、重要政策であっても国会論議を軽視する政権運営が繰り返された。
 国会提出前の法案を自民の部会で議論し、了承を得る事前審査の慣例もこの際に見直したい。国会審議の空洞化、利益誘導の弊害が大きい。
 与野党が伯仲し、国会の緊張感が高まることを奇貨として、賛否が割れる対決法案でも丁寧な議論を重ねて合意点を探るべきだ。

「中間」という存在(2024年11月12日『佐賀新聞』-「有明抄」)
 
 暦の上では冬だというのに、まだ半袖をしまえないでいる。南の海でまた台風が生まれた、と天気予報は伝えていた。実はまだ夏なのかもしれない。そう思えるほど、春や秋の存在感が薄れてきた。「四季」から中間がなくなって、いまや「二季」だという人もいる
◆政治の世界は逆に、「中間」が存在感を増しているようである。「や」党でもなく「よ」党でもない。その間で立ち回る「ゆ」党。永田町辺りには、衆院選で躍進した国民民主党をこう呼ぶ人もいる
◆きのう特別国会で再選出された石破茂首相も、顔色をうかがいながら政権のかじを取る。少数与党だけでは予算も法案も成立しない。野党がまとまれば内閣不信任も可能となる。「伝家の宝刀」だった解散カードは首相だけが持つとは限らない
◆「どこも過半数を取れないときに、意思決定をどうしていくかというルールがない」。鼻息の荒い「ゆ」党側は語っている。これまで「数の力」一色で押し切る国会運営が幅を利かせたせいか、この国は当たり前の民主主義を忘れてしまっている
◆夏ばかりが長い「二季」の時代は自然災害の多発など受難が続く。中間をゆく「ゆ党」も党首に女難の相が浮かぶ。どんな立ち位置にも危うさは潜んでいる。新たな「熟議の政治」が実現するのか、また「決められない政治」に戻るのか。綱渡りが始まる。(桑)

第2次石破内閣発足 成果なければ先はない(2024年11月12日『沖縄タイムス』-「社説」)
 
 少数与党下の特別国会で、自民党石破茂総裁が30年ぶりの決選投票の末、首相に再選出された。石破首相は直ちに組閣に踏み切り、第2次内閣をスタートさせた。
 衆院本会議での首相指名選挙は、1回目で誰も過半数に届かず、自民、公明党が推す石破氏と立憲民主党野田佳彦代表の上位2人による決選投票にもつれ込んだ。事前に予測された通りの展開である。
 決選投票の結果は、石破氏221票、野田氏160票。造反組の出現も見られず、ここでも政権の思惑通りの決着となった。 
 仮に野党がまとまって野田氏に投票していれば、「数の力」で政権交代につなげることは可能だった。
 しかし日本維新の会馬場伸幸代表、国民民主党玉木雄一郎代表に投票することを決めており、共産党を除く野党6党派が、代表らの名を書いたため計84票が無効票となった。
 結果を見れば、野党の無効票は、立民を中心とした野党連立政権ではなく、自公連立政権の継続を選択したことになる。
 それにしても84票という無効票の多さには疑問が湧く。1回目と違い、決選投票は上位2人から選ぶというルールである。
 衆院選での議席減から代表選に立候補しないことを表明している馬場氏、不倫報道を認め謝罪したばかりの玉木氏。どちらにもくみしない姿勢を貫くのであれば、白票を投じるか、棄権するという道もあったのに、なぜ一度蹴られた名前を書いたのか。
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 衆院選で自公の連立与党は大敗を喫した。自民党の派閥裏金事件への怒りが有権者を動かし、政権へ不信任を突き付けたのだ。
 衆院選後、共同通信が実施した世論調査で、自公政権の継続を望まないとの回答が53%と半数を超えた。
 ところが立民の野田氏は決選投票で自身への投票を他党に呼びかけたものの一部を除いて応じてもらえなかった。
 一方、与党は過半数割れしたにもかかわらず、国民との「部分連合」に乗りだし、政権を継続させることに成功した。
 国民が野党でも与党でもない、その中間の「ゆ党」のスタンスを取り続ければ、連立政権の可能性はますます遠のく。
 どのような条件が整えば野党連立政権ができるのか。野党はこの問いに正面から向き合い、有権者に考え方を示すべきだ。
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 国会召集に先立ち首相は立民、国民の党首と会談した。俎上(そじょう)にのるのは政治資金規正法の再改正。企業・団体献金の禁止も含め協議を深めるべきだ。
 少数与党下の国会で欠かせないのは、野党との協調である。与野党伯仲の緊張感は、国会を活性化させ、民意を反映させる、またとないチャンスでもある。
 もし仮に野党が一致して石破政権の不信任案を提出すれば成立する可能性がある。首相はそのことを片時も忘れず、合意形成に努力し、新しい政治を根付かせなければならない。