所信表明演説・代表質問に関する社説・コラム(2024年11月30日・12月1・3・4日)

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代表質問 政治資金問題に決着をつけよ(2024年12月4日『読売新聞』-「社説」)
 
 山積する内外の課題について政府と与野党が建設的に論じ合い、より良い政策や予算を作ることが国会の役割だ。
 だが、政治資金問題などに焦点が当たる一方で、国家の根幹に関わる様々な問題の議論がなおざりになっている現状は、寒心に堪えない。
 石破首相の所信表明演説に対する各党の代表質問が、衆参両院の本会議で行われた。
 立憲民主党の野田代表は冒頭、政治改革を取り上げ、企業・団体献金の禁止を求めた。首相は「企業・団体献金が不適切だと考えてはいない」と反論した。
 立民は企業・団体献金のうち、労働組合や業界団体などが作った政治団体からの献金については、禁止対象から外す方針だ。
 企業や団体が政党に直接献金をした場合、政策を 歪 ゆが める恐れがあるためだというが、政治団体を経由すれば問題はない、という考え方は極めて分かりにくい。
 野田氏はまた、政治資金収支報告書に不記載があった自民党議員の政治倫理審査会への出席を求めた。対象の議員は数十人に上る。既に東京地検が捜査を終えているのに、多数の議員の弁明に時間を割くことに意味があるのか。
 代表質問で国民民主党浅野哲氏は、所得税が課され始める「年収103万円の壁」の178万円への引き上げを求めた。首相は引き上げには応じ、詳細は与党と国民民主の協議に委ねるとした。
 少数与党の石破内閣が、野党と協議して接点を探ろうとすることは理解できる。だが、財源の裏付けなしに、野党が要求する減税や歳出拡大策を 呑 の み続ければ、将来世代にツケを回すだけだ。
 緊迫の度を増す国際情勢にあって、日本はどのような役割を果たすべきか。国内では、少子化への対応や経済再生など、政策課題が目白押しとなっている。
 こうした問題を来年の通常国会で具体的に議論するには、まずは今国会で「政治とカネ」の問題や「年収の壁」の見直しを決着させ、いつまでも引きずらないようにしなければならない。
 一方、日本維新の会は代表選を行い、吉村洋文・大阪府知事を新代表に選出した。吉村氏は、自民党と協調することもあった前執行部の路線を見直す方針だ。
 維新が政権と距離を置けば、首相の政局運営は一層厳しさを増そう。国民民主を取り込んで乗り切りを図る戦術に終始するのではなく、正面から所信を述べ、国民の理解を求める努力が必要だ。

代表質問の答弁 「ゼロ回答」では合意遠い(2024年12月4日『信濃毎日新聞』-「社説」)
 
 議論を深めて合意を得ようとする意欲が感じられない。 臨時国会の代表質問における石破茂首相の答弁である。先の衆院選少数与党となって初めて迎えた本格的な国会だ。野党の協力なしに法案も予算案も成立しない。それなのに、石破首相は踏み込んだ答弁を避け、従来と同様の見解を繰り返した。
 今国会の焦点は、政治資金規正法の再改定など「政治とカネ」の問題や、経済対策の財源となる総額約14兆円の補正予算案だ。「政治とカネ」では企業・団体献金の是非や、使途公開が不要な政策活動費の廃止などが問われる。
 立憲民主党野田佳彦代表は政策活動費の全廃を要求し、企業・団体献金禁止を「改革の本丸」として「なぜ議論の俎上(そじょう)に載せようとしないのか」と追及した。
 石破首相は政策活動費を廃止する方針を示したものの、「外交や企業の営業秘密への配慮」として使途を非公開にする支出も温存する意向を表明。企業・団体献金は「不適切とは考えていない」と述べた。野党に対する「ゼロ回答」といえる。
 裏金事件に関係した議員の衆院政治倫理審査会への出席は「必要な説明責任を果たすよう促している」としただけだ。
 衆院選の結果は、政府と自民党の裏金問題に対する姿勢や、政治資金規正法の改定が中途半端に終わったことなどに対して、有権者の批判が表れた。石破首相は信頼を取り戻すために、「政治とカネ」問題の徹底した議論が欠かせないことを改めて認識すべきだ。
 一方通行の質問と答弁になる代表質問では、議論の限界もある。首相と全閣僚が一問一答形式で質問に答える予算委員会衆院で5日、参院で6日に開かれる。
 衆院の委員長は立民の安住淳氏だ。代表質問で浮き彫りになった政府と野党の認識の違いを前提に論点を整理し、議論を深める必要がある。与野党伯仲の国会論戦の試金石となる。
 気になるのは、国民民主の対応だ。同党が訴える政策「103万円の壁引き上げ」の要求を自公が取り入れることで、補正予算案の早期成立に向け、自公国3党が協力する方針を確認している。
 3党協力がさらに進めば従来と同様、密室交渉が中心となる。石破首相は国民民主の代表質問でも「103万円の壁」の引き上げ幅は「税調会長間で議論を深めてほしい」と述べた。公開の場での「熟議」が求められていることを忘れてはならない。

国会代表質問 企業献金禁止に決着を(2024年12月3日『北海道新聞』-「社説」)
 
 衆院はきのう、石破茂首相の所信表明演説への代表質問を行い、立憲民主党野田佳彦代表がまず自民党の裏金事件を受けた政治改革についてただした。
 焦点となっている企業・団体献金について、首相は「自民党としては不適切だとは考えていない」と述べ、野党が求める全面禁止を否定した。
 企業・団体献金は、平成の政治改革で禁止の方向を確認したはずである。それはリクルート事件をはじめさまざまな不祥事を踏まえ、腐敗や癒着につながりかねないと判断したからだ。
 政治とカネの問題はそれから30年たった今もなくなっていない。政治の怠慢により、これ以上先送りするのは許されない。
 今国会は、政治の信頼回復が最優先課題である。首相は抜本改革から逃げてはならない。
 首相は「避けねばならないのは献金で政策がゆがめられることだ。これは個人献金企業献金も違いはない」と述べた。
 だが自民党政治資金団体への昨年分の企業・団体献金は24億円に上る。資金力のある大企業や業界団体が政策要望をしながら巨額献金を続ける構図が、本当に政府・与党の意思決定に影響しないと言い切れるか。
 国民民主党は企業・団体献金について立場を明確にしていないが、野党は一致して禁止を求めるべきだ。
 政治資金を監査する第三者機関の設置について首相は「国会設置が基本だ」と指摘した。
 議員から独立性の乏しい組織が強制力のある調査を含め、適切な判断を下せるかは疑問だ。
 実効性ある厳正な組織のあり方を検討しなければならない。
 裏金議員の政治倫理審査会への出席については、前向き姿勢を示す参院だけでなく、衆院側にも「必要な説明責任を果たすよう促している」と述べた。
 裏金は実態解明がいまだに進んでいないことが最大の問題である。政倫審のみならず、旧安倍派幹部の証人喚問を含め、あらゆる手だてを尽くすべきだ。
 首相は、自らが連携を模索する国民民主党が求めた所得税の非課税枠「年収103万円の壁」の引き上げに関し、あらためて意欲を示した。一方で立憲民主党が要求した選択的夫婦別姓制度は「国民の意見が分かれている」などと慎重に答えた。
 所信表明では「幅広い合意形成を図る」と述べたが、結局与党にとって都合の良い意見を聞いているだけではないか。
 大切なのは民意がどこにあるかを見極めることだ。さまざまな意見を丁寧に聞き、困難な課題にも取り組まねばならない。

信頼回復「熟議」でこそ/代表質問スタート(2024年12月3日『東奥日報』-「時論」/『山形新聞』ー「社説」/『山陰中央新報佐賀新聞』-「論説」)
 
 自民党の裏金事件で増幅した政治不信は解消できるのか。その剣が峰に与野党ともに立たされた国会論戦がスタートした。各党は政治再生に向け、国民が納得する説得力ある主張を展開し、政府も積極的に応えてもらいたい。
 石破茂首相の所信表明演説に対する代表質問が衆院本会議で行われた。自民、公明の与党が先の衆院選で大敗後、初の本格的質疑である。
 首相は所信演説で、「国民の後押し」が政策推進に欠かせないとの認識を表明。前提になる信頼確保のため「誠心誠意取り組んでいく」と明言した。多様な意見を踏まえた「真摯(しんし)な政策協議で、よりよい成案を得る」ことが「民主主義のあるべき姿」だとも指摘した。
 首相を支える自公は衆院選過半数割れし、少数与党に転落。野党の協力が得られなければ、予算案も法案も成立しない状況に追い込まれてようやく「あるべき姿」に立ち戻ったといえる。
 遅きに失した感はあるが、所信演説で訴えた決意を実践すれば、信頼回復の一歩になろう。与野党伯仲による「熟議」の国会を選択した民意にも沿うはずだ。
 首相の姿勢を裏付ける試金石は、裏金事件を受けた抜本的な政治改革の断行である。
 焦点は、長年積み残されてきた企業・団体献金の禁止に踏み込むかどうかだ。大企業などと癒着し、政策をゆがめるとの懸念があり、立憲民主党野田佳彦代表は代表質問で見解をただした。
 首相は「自民党としては不適切だと考えていない」と答弁し、同献金の禁止を否定した。
 使途公開の義務がない政策活動費も取り上げられた。自民は廃止方針に転換したものの、政治資金のうち非公開の支出はあり得るとしている。
 野田氏は理由を尋ねたが、首相は外交やプライバシーへの配慮という従来の説明をなぞり、裏金関係議員の衆院政治倫理審査会への出席も「国会で議論していただく」と述べるにとどまった。
 これでは衆院選前の状態とほとんど変わらない。首相の所信演説は説得力を持たず、自民への疑念も収まるまい。首相は党総裁として指導力を発揮すべきだ。
 経済対策では、年収が103万円を超えると所得税が発生する「年収の壁」引き上げ方針に関し、やりとりが交わされた。国民民主党の最重要公約である。国会運営をにらんで同党の取り込みを優先している自公は容認し、首相も所信演説で打ち出した。
 代表質問でも同様の考えを繰り返したが、税収減の補填(ほてん)手段は曖昧だ。社会保険料が生じる年収106万円や130万円の「壁」問題もある。これらについて現実的な対応策を論議してこそ国民の理解は進むだろう。衆院で多数を占める野党も要求するだけでなく、財源確保などに政府、与党と同等の説明責任を負うとの自覚が必要だ。
 一方、衆院選後に実施された兵庫県知事選や名古屋市長選の結果は、野党を含む既成政党への忌避感の表れでもある。インターネット上で拡散した根拠なき批判や中傷が影響したといわれる。
 ただ、与野党有権者の不満をくみ取れなかったのも要因ではないか。政治不信が社会の分断、対立を深めぬよう徹底かつオープンな議論を通じ、合意点を見いだす責務が全政党にはある。

代表質問始まる 合意探る国会に程遠い(2024年12月3日『東京新聞』-「社説」)
 
 石破茂首相の所信表明演説に対する各党代表質問が衆院で始まった。少数与党への転落後、初めての論戦だが、初日の質疑を聞く限り、与野党が幅広い合意を探る新しい国会の姿には程遠い。
 首相には野党に歩み寄る謙虚さを、野党には政権批判にとどまらない積極的な提案を求めたい。
 立憲民主党野田佳彦代表は自民党派閥の裏金事件を受けた政治改革を巡り、首相が演説で企業・団体献金の禁止に言及しなかったことを「なぜ議論の俎上(そじょう)に載せようとしないのか」とただした。
 これに対し、首相は「自民党としては不適切だと考えていない」と譲らず、使途公開が不要な政策活動費の廃止についても野田氏の全廃要求を拒否。外交上の秘密やプライバシーに関わる一部の使途を非公開とする自民党案を維持する考えを示した。
 首相は、野党の理解を得なければ、法案も予算案も成立させられない厳しい国会の状況を理解しているのか。自民党の主張はあるにせよ、与野党合意に努めることが少数与党の首相の責任だと自覚すべきである。
 野田氏は一般会計の歳出が約14兆円と巨額になった2024年度補正予算案に関し「そもそも経済対策になじまないものも多数含まれ、スリム化を図る必要がある」と減額を求めたが、首相は「必要な施策を積み上げた」と取り合わなかった。野党第1党の要求を拒否して、どう成立を図るのか。
 選択的夫婦別姓の導入を巡っても、立民の石川香織氏が実現に向けて決断を促したが、首相は賛否を明言しなかった。
 賛意を示していた9月の自民党総裁選からは明らかな後退だ。衆院で賛成派が多数を占めた現実を直視すべきである。
 野党が政府・与党の問題点を追及し、与野党合意に向けて譲歩を引き出すことは当然だ。野田氏が唱える国会での「熟議と公開」による政策決定も支持したい。
 少数与党の国会では、野党も政策決定の責任を与党と共有していることを忘れてはならない。
 代表質問はきょう3日から参院でも始まる。政府と各党が原則的立場を主張する場合が多いとはいえ、問題点は明確になる。5日からは一問一答形式の予算委員会が始まる。率直かつ活発な論戦が、国民に分かりやすい形で行われることを期待したい。

国会代表質問/政治改革の覚悟が見えぬ(2024年12月3日『神戸新聞』-「社説」)
 
 石破茂首相の所信表明演説に対する各党の代表質問が始まった。
 石破政権は衆院選少数与党となり、自民、公明両党だけでは予算案や法案を通せない。山積する政治課題に首相が具体的な処方箋を語り、与野党が緊張感を持って論戦を重ね、丁寧に結論を導く熟議が求められる。だが首相は所信表明をなぞる答弁が多く、議論は深まらなかった。
 首相は所信表明で政権運営の基本方針として、自公連立を基盤に「他党からも丁寧に意見を聞き、可能な限り幅広い合意形成が図られるよう、真摯(しんし)に謙虚に取り組む」と述べ、野党への配慮を強くにじませた。一方で、自民派閥裏金事件を受け、多くの野党が廃止を求める企業・団体献金の扱いには触れなかった。
 合意形成に力を注ぐ姿勢は大事だが、信頼回復がなければ政治は前に進まない。密室での数合わせに走ることなく、国民本位の議論ができるのか、首相の本気度が問われる。
 立憲民主党野田佳彦代表は企業・団体献金の禁止を重ねて求め、「なぜ議論の俎上(そじょう)に載せようとしないのか」と首相の対応を批判した。
 首相は「自民党としては不適切だと考えていない」と否定した。幅広い合意形成を重視するというなら、避けては通れない問題だ。
 野田氏は使途公開不要な政策活動費の全廃も迫った。しかし首相は、外交の秘密などを理由に非公表の支出を残そうとしている自民案を維持する考えを示唆した。政治資金を監査する第三者機関は「国会内に置くことを基本」としたが、具体策は明らかにしなかった。裏金事件の実態解明に向けた再調査にも言及していない。これでは政治改革に対する覚悟を疑わざるを得ない。
 経済対策では、野田氏が巨額の補正予算案に緊急性や効果に乏しい事業も多く含まれるとして、野党の主張を取り入れ修正するよう求めた。財源は国債頼みであり、次世代の負担も増す。十分な審議が必要だ。
 国民民主党の議員は、与党と協議を進める「年収103万円の壁」の引き上げに伴う税収減対策などをただした。首相は「各党の税制協議で議論を深めてほしい」と述べた。政策決定に携わる以上、国民民主にも財源確保策を示す責任がある。
 首相は総裁選で前向きな姿勢を見せた選択的夫婦別姓制度の導入について「国会の議論を注視していく」と述べるにとどめた。与野党で共有できる政策課題の一つである。自民党内の慎重論を抑え、実現への道筋を探ってほしい。

財政健全化への努力を止める余裕はない(2024年12月1日『日本経済新聞』-「社説」)
 
 今年こそ、財政を平時に戻すはずではなかったのか。経済対策の裏付けとなる2024年度の補正予算案はバラマキの発想から抜け出せず、財政健全化に逆行していると言わざるを得ない。
 一般会計の追加歳出は13兆9433億円に膨らんだ。石破茂首相が衆院選で「昨年を上回る大きな補正予算」にすると述べ、それを達成するために無理やり額を積み増した感は否めない。
 物価高に苦しむ低所得層への支援はもちろん必要だ。
 しかし、3万円を給付する住民税の非課税世帯は7割が65歳以上の高齢者で、預金などの資産を持つ人が少なくない。自動車を使う人にだけ恩恵が及ぶガソリン補助金の継続を含め、本当に必要な人のところにお金が届くのかは大いに疑問だ。
 補正予算案では、新たに6兆6900億円の国債を発行する。追加歳出の半分近い額だ。
 日本経済は緩やかな回復を続け、24年度の税収は当初の見積もりより4兆円近く上振れする見込みだ。需要不足はほぼ解消している。にもかかわらず「脱デフレ」を旗印に国債を増発して歳出を拡大すれば、かえってインフレを助長するおそれがある。
 日銀の利上げ開始で「金利ある世界」が現実になり、安いコストで借金を重ねられる時代は終わった。財務相の諮問機関である財政制度等審議会が、新型コロナウイルス禍で膨張した財政が元に戻っていないとして、歳出の「平時化」を求めたのは当然だ。
 いまのままでは、政府が掲げる国と地方の基礎的財政収支プライマリーバランス、PB)を25年度に黒字化する目標の実現は難しい。日本の財政悪化が改めて意識され、金利が急騰したり、円安が加速したりするリスクを忘れてはならない。
 石破首相は危機感が乏しいのではないか。所信表明演説では「経済あっての財政」と述べるだけで、財政の健全化にどう取り組むかを何も語らなかった。
 国民民主党の要求をのんで実施する「103万円の壁」の引き上げで、税収は兆円単位で落ち込む。一方で年金、医療、介護といった社会保障や人口減への対応、防衛力の増強に必要な支出はこれから増える一方だ。
 無駄の多いバラマキ型の予算を続ける余裕はない。首相はそれを肝に銘じてほしい。

所信表明で共同使用 さらなる負担持ち込むな(2024年12月1日『琉球新報』-「社説」)
 
 沖縄の基地負担の軽減を言いながら、辺野古新基地の工事を強調し、自衛隊による米軍基地の共同使用に言及する。首相の言う「負担軽減」は県民の求める道筋とかけ離れ、むしろさらなる負担と危険を持ち込むものだ。
 石破茂首相は29日に衆参両院で所信表明演説を行った。沖縄県を含む基地負担の軽減や沖縄経済の強化に言及したのに続き、「在日米軍施設・区域の自衛隊による共同使用を進める」と述べた。
 首相の所信表明で、米軍基地の日米共同使用に言及するのは異例だ。10月に行った就任直後の演説にはなかった一文であり、意図的に盛り込んだことは間違いない。
 だが、何を目的に共同使用を進めるのか、どの施設を想定しているのかなど肝心の部分が判然としない。
 米軍基地を日米で共同使用したところで、県民の基地負担の軽減にはつながらない。保革を問わず歴代県政は過重な米軍基地の返還や部隊の削減を求めてきた。自衛隊も米軍施設を使用していくとなれば、今後も沖縄に基地を置き続ける固定化を助長することになる。
 運用面でも訓練や施設使用の頻度が上がり、事故や騒音など周辺地域に及ぶ影響は増す。県民の求める負担軽減とは正反対なのである。
 米軍基地を自衛隊が使用することで日本側が基地の運用に関与でき、米軍と地元の摩擦を軽減できるといった指摘はこれまでもある。しかし、共同使用の促進が自衛隊の南西シフトの一環である以上、沖縄全体の軍事要塞(ようさい)化が前提なのは間違いない。
 施設の日米共同使用については、「台湾有事」をにらんだ軍事的な要請となっている。昨年1月や今年7月の日米安全保障協議委員会(2プラス2)では、南西諸島での共同演習・訓練を確認するとともに、米軍嘉手納弾薬庫地区の日米共同使用を拡大する方針を明記していた。
 弾薬庫の共同使用は、島々での長期戦に備えて南西諸島の各地に弾薬を分散・保管する計画だ。自衛隊が米軍と一体となって継戦能力を高める狙いがある。今後、自衛隊による米軍基地の使用だけでなく、石垣島与那国島宮古島に展開する自衛隊の施設を米軍が使用することも視野に入れているとみられる。
 日米共同使用を推進するほどに、沖縄の過重な基地負担が続き、有事の際に攻撃目標となるリスクを増大させる。
 石破首相は沖縄の「基地負担の軽減」を掲げたが、米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設を押し進めるための方便としか受け取れない。海を埋め立てて県内に新たな軍事基地を造ることも、沖縄県民が求めてきた基地の整理縮小と相いれない。
 沖縄の負担軽減を言うのであれば、今回の所信表明に米軍基地の日米共同使用を盛り込んだ意図を、県民にただちに説明すべきだ。

石破首相の所信表明 共同使用 負担減に逆行(2024年12月1日『沖縄タイムス』-「社説」)
 
 首相の真意はどこにあるのか。これまでの発言や前政権の政策をなぞった内容が目立ち、新味に欠ける。石破内閣の方針はなお不透明だ。
 石破茂首相が所信表明演説を行った。
 前半に三つの重要政策課題を列挙。第一に外交・安全保障政策を掲げ、その中で「辺野古移設が唯一の解決策」など従来と変わらぬ姿勢を示した。
 一方、10月の就任後初めて行った所信表明で沖縄戦や戦後の米軍統治下に触れ、沖縄への共感を表明した文言はなくなった。
 代わりに表明したのが「在日米軍施設・区域の自衛隊による共同使用を進めるとともに、駐留に伴う諸課題の解決に取り組む」との方針である。
 石破氏は総裁選で、基地負担軽減の観点から日本側が米軍基地の管理権を持つ必要性に言及していた。
 日米地位協定3条は米軍の排他的管理権を認めている。米軍の許可がなければ国も県も基地内に入ることはできない。それが見直されるのであれば国内法の適用など大きな変化につながる可能性がある。
 しかし、石破氏は就任後、地位協定改定について全く触れていない。
 台湾有事を念頭に日米の軍事一体化は進み、訓練などでの一時的な共同使用はすでに実施されている。それを広げれば、自衛隊基地を米軍が使うことも含め日米の基地の機能強化や訓練の激化につながり、沖縄にとっては大幅な負担増になる。
 首相には管理権など具体的な説明を求めたい。
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 焦点の政治改革については、衆院選での敗北は国民からの「叱(しっ)責(せき)であった」と総括した。
 しかし、改革の中身として明確にしたのは政策活動費の廃止や第三者機関の設置だけだ。企業・団体献金の取り扱いについては言及せず、政治資金規正法の再改定は「年内に結論を示す必要がある」との表現にとどまった。
 企業・団体献金を巡っては立憲民主党など野党4党が全面禁止を主張している。与野党の合意形成の努力を惜しんではならない。
 石破氏は所信表明の冒頭と結びで1957年当時の石橋湛山首相の国会演説を引用。「民主主義のあるべき姿とは各党派が真(しん)摯(し)に政策を協議し、より良い成案を得ること」と述べた。
 安倍晋三政権以降続いた「1強政治」からの決別宣言と受け止めたい。
■    ■
 2024年度補正予算案は与党と国民民主党が事前の協議で合意したものの、規模ありきで緊急性の乏しい内容も目立つ。
 立民は減額修正を求める構えも示しており、誠実に向き合うべきだ。
 「103万円の壁」引き上げについても異論が出ている。地方財政に関わることでもあり中途半端な議論で終わらせてはならない。
 石破氏は「他党にも丁寧に意見を聞き、可能な限り幅広い合意形成を図る」と表明した。今国会での有言実行が求められる。

首相所信表明 合意形成、具体像見えぬ(2024年11月30日『北海道新聞』-「社説」)
 
 石破茂首相による2回目の所信表明演説少数与党転落に伴って「幅広い合意形成」を呼びかけたが、どのように協議を進めるのかその具体像や覚悟が見えない。代表質問や予算委員会を通じて新しい政治の姿を示すべきだ。
 首相は演説の冒頭と結びで、1957年当時の石橋湛山内閣の施政方針演説を引用した上で「民主主義のあるべき姿とは、多様な国民の声を反映した各党派が、真摯(しんし)に政策を協議し、より良い成案を得ることだ」と述べた。
 野党の協力が得られなければ、法案も予算案も成立しない状況では、政権運営に責任を有する首相が各党派間の合意を重視する姿勢を示したことは当然である。
 与党の「数」を背景に、国民の賛否が分かれる政策課題を列挙するこれまでのような首相演説の内容では、政権・国会運営は立ちゆかなくなるからだ。石破氏が主張してきた持論のうち、防災庁設置や地方創生推進の表明にとどめたことも理解する。
 一方、最重要課題の政治改革では使途公開が不要な政策活動費の廃止など自民党が容認した内容を並べるだけで、立憲民主党など野党側が禁止を求める企業・団体献金の存廃には言及しなかった。
 政治資金規正法の改正を審議する衆院政治改革特別委員会の渡辺周委員長は立民所属で委員数も野党の方が多い。首相は「法整備を含めて年内に結論を示す必要がある」と意気込むが、企業・団体献金の温存をもくろむ自民党の意のままに進めることはできない。
 首相は国民民主党の主張を受け入れ、年収103万円を超えると所得税を課す「103万円の壁」引き上げを演説で明言した。同党は見返りに2024年度補正予算案に賛成する方針だ。「数」の上では補正成立は確実だが、補正を審議する衆院予算委の安住淳委員長も立民所属で、与党の都合を押し通すことは難しい。
 補正には緊急性に乏しい中長期的事業も散見され、一般会計の支出は約14兆円と巨額。立民の野田佳彦代表は「規模ありきだ」として減額修正を求める構えで、首相は誠実に向き合う必要がある。
 首相は熟議を重視し、野党・自民党政調会長として改定に取り組んだ党綱領には「多様な組織と対話・調整し、国会を公正に運営し、政府を謙虚に機能させる」と明記した。有言実行の時である。

政治改革 後ろ向きなのか/石破首相の所信表明(2024年11月30日『東奥日報』-「時論」/『茨城新聞山陰中央新報佐賀新聞』-「論説」)
 
 石破茂首相が衆院選大敗後、初の所信表明演説に臨んだ。少数与党の国会情勢の下、政権延命の数合わせに走るのではなく、国民の期待に向き合う姿勢が求められる。持ち前の生真面目さを武器に、難局を正面突破する覚悟を示してほしい。
 所信表明は前半に重要政策課題を列挙したのが特徴だ。政権立て直しに向けた試金石となる。得意分野とされる外交・安全保障政策を第一に据えたのは、歴代首相の演説に照らし異例と言える。前回の所信表明が「石破カラーが見えない」と不評を買った反省だろう。
 だがやはり多くの国民の関心は、物価高対策などを盛り込む2024年度補正予算案や、自民党派閥裏金事件を受けた政治改革の成否にある。
 これらを真正面から問うた方が国民に響いたのではないか。いずれの課題も大切なのは理解できるが優先順位を間違えては元も子もない。
 焦点の政治改革について、衆院選敗北は国民からの「叱責(しっせき)であった」と総括し、使途が公開されない政策活動費の廃止などをうたった。しかし、演説全体の中では後段に追いやられた格好だ。
 しかも与野党が鋭く対立する企業・団体献金の扱いに言及がなかったのは残念と言わざるを得ない。自民党が主張するように、存続させるべきだと考えるのなら堂々と必要性を説き、廃止を求める野党に論戦を挑むのが筋ではないか。改革に後ろ向きと受け止められても仕方なかろう。
 内政面では、年収103万円を超えると所得税が生じる「年収の壁」を巡り「25年度税制改正で議論し引き上げる」と明言。少数与党政権運営に当たり国民民主党の主張に配慮した。だが財源について触れず、説得力を欠く。
 地方創生の再起動を訴え、「賃上げと投資がけん引する成長型経済」への移行、全世代型社会保障の構築を掲げた。安倍、岸田両政権の政策を踏襲するようで新味を欠く印象は否めない。一層の深掘りが望ましいだろう。
 首相がこだわる防災対策では「防災庁」の設置時期を26年度中と明記したのは評価できる。ただ目玉施策としてアピールしたいのなら、さらにスピードアップする指導力を見せてもらいたい。
 政策とは別に目を引いたのが、冒頭と末尾の2カ所で触れた1957年当時の石橋湛山首相による国会演説の引用だ。石破氏は「民主主義のあるべき姿」と解釈した上で「他党にも丁寧に意見を聞き、可能な限り幅広い合意形成が図られるよう真摯(しんし)に、そして謙虚に」取り組んでいくと誓った。長く続いた1強政治に距離を置く発言として書き留めておきたい。
 石破氏の首相就任から約2カ月が経過した。政治改革やアジア版NATO北大西洋条約機構)構想、選択的夫婦別姓導入など、9月に自民党総裁選の序盤で主張した持論の多くは、封印するか後退を余儀なくされた。
 最近の内閣支持率はやや持ち直したものの安定水準に達したとは言えない。現状のままでは来夏の参院選前に「石破降ろし」の圧力が強まりかねない不安定な状況だ。
 少数与党の身であれば内閣不信任決議案がいつ可決されてもおかしくない綱渡りが続く。一つ一つ実績を重ね、国民の信頼を取り戻すしか道はない。首相本人が誰よりも自覚しているはずだ。

(2024年11月30日『東奥日報』-「天地人」)
 
 学生アルバイトの多くが、年収103万円を超えると所得税が生じる「年収の壁」を意識して働いているという。壁を超えると扶養者である親の税負担も増す。正直最初はピンとこなかった。最近の学生はそこまで働いているのか。
 そう言う当方の大学時代がバイト漬けの日々だった。昭和の終わり、1980年代後半の県外のある地方都市。家庭教師、通信教育の電話オペレーター、喫茶店やうどんチェーン店のフロア係等々。
 当時の最低賃金は全国平均で時給500円を切る水準だった。40年近くで2倍かそれ以上に上昇している。本県は10月から55円引き上げられ953円になった。一方、103万円という所得税の非課税枠は30年間据え置かれたままだ。働き控えの傾向が強まり、人手不足に拍車をかけている。
 少数与党政権となり、初の所信表明演説に臨んだ石破茂首相は、国民民主党が求める「103万円の壁」の引き上げを表明した。税収減に伴う地方財政への影響にどう対応するか。社会保険料など制度全体を見渡した改革に踏み込めるのか。論点は多岐にわたり議論百出の様相だ。
 アルバイトを巡っては、いわゆる「闇バイト」対策の強化にも言及した。とかく日本の政治は若者の意見が反映されにくい「シルバー民主主義」と批判されてきたが、活発な政策論争で、若者を政治に引きつける好機となれば。

首相の所信表明演説 政治改革、覚悟が伝わらぬ(2024年11月30日『河北新報』-「社説」)

 少数与党への転落を受け、低姿勢を貫いてはいても、裏金事件への反省や政治資金制度の抜本改革を主導する決意は伝わらなかった。大敗した衆院選を受け、政治に対する不信やニーズに真剣に向き合ってきたのか、疑問が残る。
 石破茂首相がきのう衆院選後初の所信表明演説を行い、政治資金規正法の再改正などに「謙虚に、真摯(しんし)に、誠実に国民と向き合いながら」取り組む考えを強調した。
 衆院選の結果を「国民からの叱責(しっせき)」と捉え、使途公開義務のない政策活動費の廃止や資金を監査する第三者機関の設置、収支報告書のデータベース化などに向け、「議論を進める」と述べた。
 ただ立憲民主、日本維新の会、共産の3党などが目指す企業・団体献金の禁止には触れず、党として容認する姿勢を崩していない。
 首相は冒頭、石橋湛山の言葉を引用し、民主主義本来の姿は「多様な国民の声を反映した各党派による政策協議でよりよい成案を得ることだ」と表明した。
 衆院選で50議席を増やした立民をはじめ野党の声に正面から向き合わなければ、言行不一致のそしりは免れまい。
 共同通信が今月中旬に行った世論調査では、企業・団体献金を「禁止するべきだ」との回答が67・3%に達し、自民支持層でも51・7%と多数を占めた。
 質問項目が異なり、単純比較はできないものの、4月の調査では企業・団体献金の禁止が「必要」との答えは全体の54・5%で、批判が徐々に高まっているのは確かだ。
 「国民の叱責」は政治とカネを巡って、抜本改革に消極的な党の姿勢に向けられていることを忘れてはなるまい。
 演説では外交・安全保障、経済再生などに多くの時間を割いたものの、内容は新味に欠けた。10月の所信表明でも「地方を守る」「若者・女性の機会を守る」として、地方創生の再起動や男女の賃金格差是正を唱えていたが、新たな肉付けは乏しい。
 「地方創生2・0」は自治体に配る交付金の倍増を前倒しするとしたものの、何に取り組むのかについては抽象的な言葉が並んだ。
 女性の雇用を巡っては30代以降に非正規化が進む「L字カーブ」の解消に触れたが、衆院選で多くの党が公約した選択的夫婦別姓の導入については言及がなかった。
 衆院選で地方や女性の切実なニーズをくみ取ることできなかったのか、政党としての感度が疑われよう。
 経済対策では国民民主党の要求を受け、所得税非課税上限の引き上げを言明した。
 補正予算案審議などで同党の協力を得るための妥協策ではあっただろうが、野党との対話を単に国会対策の具としてはなるまい。政権が幅広い合意形成に本気で取り組むかどうか、この臨時国会で早速問われることになる。

石破首相所信表明 政治改革の覚悟見えず(2024年11月30日『秋田魁新報』-「社説」)
 
 臨時国会が召集され、石破茂首相が就任から2カ月足らずで2度目となる所信表明を行った。自民党派閥の裏金事件が響き、自民、公明両党の与党は先の衆院選過半数割れする大敗を喫した。どのように信頼回復を図るのか、その決意が注目点だったが、物足りない内容だったと言わざるを得ない。
 裏金事件は岸田政権の下で全容解明が進まず、改正された政治資金規正法も抜け道だらけだった。だからこそ今国会では、不信払拭のため政治改革に全力を挙げなければならないはずだ。残念ながら、その覚悟が伝わってこなかった。
 所信表明で石破首相は政治改革について、政策活動費の廃止などに言及する一方、焦点となっている企業・団体献金の在り方には一切触れなかった。その上で「年内に、必要な法整備も含めて、結論を示す必要がある」などと述べた。早くこの問題を済ませて政権運営を前へ進めたいとの意図が透けて見える。
 政治改革を急がなければならないのは当然だ。いつまでも立ち止まっているわけにはいかないだろう。だがそのためには、政治資金規正法の再改正に向けて、与野党間で徹底的に議論することが欠かせない。
 今度こそ抜け道のない改正法を成立させる必要がある。党利党略を超え、国民目線で臨むべきだ。
 政治改革を巡るこれまでの議論を見る限り、政策活動費の廃止や政治資金を監督する第三者機関の設置に関しては、与野党の隔たりはあまりないとみていいようだ。だが企業・団体献金については、立憲民主党など野党の多くが「腐敗の温床になっている」と禁止を訴える一方、自民党は「政治活動に不可欠だ」と譲らず、平行線をたどっている。
 年内に結論を示すと述べるのであれば、企業・団体献金に関する合意形成を急がなければならない。少なくとも自民が主張するような現状維持では、国民の理解を得られないだろう。石破首相のリーダーシップが問われる。
 経済対策については、岸田政権を踏襲して「賃上げと投資がけん引する成長型経済」を目指すとした。ただ、内容は新味に乏しい印象だ。就任以来、力を入れると強調している地方創生についても、交付金の倍増ありきで、これといった具体策は見えないままだ。
 石破政権は少数与党となり、自公のみでは予算案などが衆院を通らない。この状況を踏まえて、自公の連立を基盤に他党からも丁寧に意見を聞き、真摯(しんし)に謙虚に取り組むことを政権運営の基本方針に掲げた。
 来週は代表質問のほか、予算委員会などが開かれ、論戦が本格化する。一部の野党を取り込む数合わせの政治ではなく、幅広い与野党協議で議論を深め、一つ一つ丁寧に結論を出す熟議の政治を見せてもらいたい。

首相の所信表明演説 熟議で開く未来が見えぬ(2024年11月30日『毎日新聞』-「社説」
 
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衆院本会議で所信表明演説に臨む石破茂首相=国会内で2024年11月29日午後3時2分、平田明浩撮影
 熟議の国会を目指す姿勢自体は間違っていない。だが、政権トップの国家像が定まらなければ、論戦は深まりようもない。
 石破茂首相が臨時国会所信表明演説を行った。「可能な限り幅広い合意形成を図る」と述べ、野党の意見を丁寧に聞く考えを強調した。
 与野党が主張をぶつけ合う中から一致点を探るのが、本来の議会政治のあり方だ。首相がそうしたプロセスを重視する方針を示したのは当然である。
 首相は演説冒頭で、リベラル派の論客でもあった石橋湛山元首相の1957年の言葉を引用した。自民党が多数派を占める中でも数の力で押し切らず、野党の主張を尊重すると訴えた施政方針演説である。
 「自民1強」の強引な国会運営に長く異を唱えてきた首相にとって、与野党が伯仲した現状は政治手法を転換する好機でもある。
 だが、少数与党という弱点を、国民民主党などとの数合わせで補おうとしているように見える。国民本位の議論を尽くせるのか、本気度が問われる。
 内政・外交の懸案を巡っては、具体策が乏しかった。
 米国のトランプ次期大統領や中国の習近平国家主席とは、相互の国益に資するよう対話を重ねる意向を示すにとどまった。
 経済政策では、賃上げと投資による成長という岸田文雄前政権の方針を踏襲した。
 人口減少下にある日本の活力を取り戻すとも訴えたが、地方創生の交付金倍増を掲げた程度だ。
 二つの戦争とトランプ氏の復権によって国際秩序が大きく揺らぐ中、日本と世界を安定させるための青写真は提示されなかった。
 衆院選では「政治とカネ」の問題について有権者の厳しい審判が下った。それを受けての国会であるにもかかわらず、改革姿勢が後退したように映る。
 政治資金規正法の再改正に向けては、政策活動費の廃止など自民案をなぞるだけだった。多くの野党が廃止を求める企業・団体献金の扱いには言及しなかった。
 失われた政治への信頼を取り戻し、混乱の時代を乗り切る針路を示す。国会審議で首相が果たすべき責任である。

戦前の代表的なリベラル派言論人で…(2024年11月30日『毎日新聞』-「余録」)
 
キャプチャ
石橋湛山氏。石破茂首相が所信表明演説でふれた=1956年
 戦前の代表的なリベラル派言論人で、後に首相に就いた石橋湛山(いしばし・たんざん)(1884~1973年)は、戦後の占領期に「心臓大臣」と評された。蔵相として連合国軍総司令部GHQ)と諸課題で対立し、引かない強心臓ぶりをみせたためだ。その後、公職追放される原因になったとされる
▲その石橋内閣の1957年の施政方針演説を、所信表明演説の冒頭から引用した石破茂首相である。衆院選で与党が大敗し、少数与党政権で再出発を期す臨時国会だ。石橋の「力を合わせるべきことは相互に協力を惜しまず」という言葉を紹介し、野党との合意づくりに意欲を示した
▲首相は、衆院でカギを握る国民民主党が求める年収「103万円の壁」引き上げをさっそく明言した。演説の目玉が野党の主張受け入れというのも、様変わりした国会らしい
▲ただし、独自のメッセージはどうか。大敗の原因となった「政治とカネ」は4番目の項目だった。看板とする地方創生で交付金の倍増を強調しても、地方側は「103万円の壁」見直しで税収が奪われないかと、不安を募らせている
▲首相が敬慕する石橋は戦前、日本が全ての植民地を放棄する「小日本主義」を主張し、説を曲げなかった。「カラーを出すと党から叱られる」と、方針転換も目立った首相だ。議論重視は当然だが、理念も伴わないと数合わせ自体が目的になる▲石橋内閣は65日で終わった。急病で2カ月の休養が必要となり、潔く身を引いた。異例の国会、首相の胆力と覚悟が問われよう。

所信表明演説 目指す国家像が判然としない(2024年11月30日『読売新聞』-「社説」)
 
 石破首相が目指す国家像とは何なのか、判然としない演説だった。
 岸田前政権の経済政策を踏襲すると述べていることもあって、演説は政策の発信より、政治姿勢の説明に重きを置いたものとなった。
 首相は衆参両院の本会議での所信表明演説の冒頭、「率直に意見をかわす慣行を作り、相互に協力を惜しまず」と述べた。1957年の石橋湛山内閣の施政方針演説の一節を引用したものだ。
 そのうえで、「他党にも丁寧に意見を聞き、幅広い合意形成が図られるよう 真摯 しんし に謙虚に取り組んでいく」とも語った。
 首相は、湛山が論じた民主主義のありように言及したが、他党の意見に耳を傾けるのは当然だ。必要なのは、政府が目指す理念や基本政策を説明し、それについて協力するかしないか、議論を戦わせることではないか。
 首相は重要政策課題として、外交・安全保障、日本の活力回復、治安・防災の三つを掲げた。
 外交で、日韓首脳会談を頻繁に行う意向を示したのは良いとしても、国際社会は、尹錫悦大統領のような日本に好意的な姿勢の首脳ばかりではない。
 2国間の取引を重視する米国のトランプ次期大統領から、一層の防衛負担を求められたらどう対処するのか。中国の習近平国家主席には、日本の主権を侵害しないようクギを刺すと同時に、互恵関係の重要性を説く必要がある。
 政権基盤が 脆弱 ぜいじゃく で、延命に必死な首相が、硬軟織り交ぜた首脳外交をこなせるのだろうか。
 首相は、封印しているはずのアジア版NATO北大西洋条約機構)構想に関する検討会を自民党内に発足させた。アジアの実情を無視し、実現可能性も乏しい構想をなお推進するつもりなのかと、海外の疑念を招きかねない。
 与党は国民民主党との政策協議で、所得税がかかる年収の最低ライン「103万円の壁」を引き上げることで合意している。引き上げ幅や税収減に伴う財源の確保策は固まっていない。
 それでも首相が演説で「壁」の引き上げを打ち出したのは、今年度補正予算案への国民民主党の協力を確実にしたいためだろう。
 与野党伯仲の国会は、与党が「数の力」で押し切ることができないことから、建設的な議論につながると期待する声がある。
 だが、少数与党が政権維持のため、財源の裏付けのない無責任な野党の主張を丸 呑 の みするだけとなれば、弊害の方が大きい。

石破茂首相は難局打開へ政策の旗もっと鮮明に(2024年11月30日『日本経済新聞』-「社説」)
 
 石破茂首相が今秋2度目の所信表明演説に臨んだ。10月の衆院選を経て、政権は少数与党の不安定な基盤に立つ。外交や地方創生、防災への意欲は伝わったが、日本経済の活力を取り戻すための具体策はなおかすんでいる。難局を打開するには政策の旗をもっと鮮明にし、野党に協力を迫っていく気概が必要ではないか。
 首相は冒頭で「選挙で示された国民の声を踏まえ、他党にも丁寧に意見を聞き、可能な限り幅広い合意形成が図られるよう取り組む」と言及した。政府・与党は国会で野党と熟議を重ねてほしい。
 首相は重要政策として「外交・安全保障上の課題への対応」「日本全体の活力を取り戻す」「治安・防災へのさらなる対応」の3つの柱を示した。外交・安保を筆頭に据えたのは、石破カラーを意識した選択だろう。
 中国とロシアによる領空・領海侵犯などの威嚇行動、北朝鮮弾道ミサイル発射への対処力や抑止力の強化を強調。主張すべきは主張し、協力すべき分野は協力すると語り、「国益に基づく現実的外交」の推進を掲げた。
 成長戦略や税・社会保障改革への言及が乏しいのは残念だ。「地方創生の再起動」「賃上げと投資がけん引する成長型経済」「全世代型社会保障」というキーワードを列挙したものの、歴代政権の従来の取り組みと何がどう違うのか明確ではない。
 長期低迷の原因として触れた革新的な商品・サービスの不在、コストカット型経営は、どうすれば効果的に転換しうるのか。経済政策の肉付けを急いでほしい。
 気になるのは列挙した給付や負担軽減策に長期戦略が見えないことだ。低所得世帯への給付金、エネルギーや食料品の高騰対策、価格転嫁が困難な中小企業への支援のほか、国民民主党が求める「103万円の壁」やガソリンにかかる税金の見直し検討も表明した。
 物価高などへの一定の対策は必要だとしても、小刻みな給付や補助を不定期にくり返す発想では、政権がめざす高付加価値で成長型の経済には結びつかない。
 今国会は2024年度補正予算案の成立や政治資金規正法の再改正が焦点となる。並行して税制改正と予算編成の作業も進む。与野党は政局的な思惑で主導権争いを続けるのではなく、効果的な政策を迅速に実行していく視点で協議に臨んでもらいたい。

所信表明演説 対中認識が甘すぎないか(2024年11月30日『産経新聞』-「社説」)
 
 石破茂首相が臨時国会で、所信表明演説を行った。
 政権運営の基本方針として「国民の声を踏まえ他党にも丁寧に意見を聞き、幅広い合意形成が図られるよう、真摯(しんし)に謙虚に取り組む」と語った。
 首相は国民民主党が求めている「年収103万円の壁」の解消に向け、非課税枠の引き上げを表明した。少数与党に転じたことを受けての姿勢だが、前途は多難だろう。
 内政とともに大事なのが外交安全保障だ。驚いたのは中国に関する首相の認識だ。先の習近平国家主席との会談に関し「かみ合った議論を行うことができた」と改めて自賛したのは理解に苦しむ。首相は中国軍の活発な活動や深圳での日本人児童殺害などを巡る懸念を「率直に提起した」と語ったが、ほぼゼロ回答だったではないか。
 中国は日本人に対する短期滞在ビザ(査証)の免除措置を30日から再開すると発表した。首相は「私が指摘した」と誇ったが、そもそも中国は在留邦人を不当に拘束する国だ。最近では無差別殺傷事件も相次ぐ。喜ぶような話ではない。
 首相は「主張すべきことは主張する。協力できる分野では協力する。それが国益に基づく現実的外交だ」と述べた。主張なら誰でもできる。中国の行動を実際に改めさせるのが国益だと、なぜ考えないのか。
 台湾有事が懸念される中、対中抑止力を高めることが必要で、防衛力と日米同盟の強化が欠かせない。そのためにも首相とトランプ米次期大統領との会談は重要だ。首相は大統領就任前の面会は困難という理由で断られたが、トランプ氏は少なくともアルゼンチンの大統領とは会っている。引き続き早期の会談を模索すべきだ。
 北朝鮮による拉致問題については、金正恩朝鮮労働党総書記に会談を呼び掛けなかった。安倍晋三菅義偉岸田文雄の歴代首相は国会演説で金氏と向き合う決意を示してきた。石破首相が会談を求めなかったことが、北朝鮮に誤ったメッセージとなった可能性がある。
 憲法改正では岸田前首相は国会演説で「条文案の具体化」に言及していたが、石破首相は10月と今回の2つの所信表明演説で条文化を語らなかった。憲法改正の必要性を本気で訴えねばならない。

首相所信表明 合意形成、具体像見えぬ(2024年11月30日『東京新聞』-「社説」)
 
 石破茂首相による2回目の所信表明演説少数与党転落に伴って「幅広い合意形成」を呼びかけたが、どのように協議を進めるのかその具体像や覚悟が見えない。代表質問や予算委員会を通じて新しい政治の姿を示すべきだ。
 首相は演説の冒頭と結びで、1957年当時の石橋湛山内閣の施政方針演説を引用した上で「民主主義のあるべき姿とは、多様な国民の声を反映した各党派が、真摯(しんし)に政策を協議し、より良い成案を得ることだ」と述べた。
 野党の協力が得られなければ、法案も予算案も成立しない状況では、政権運営に責任を有する首相が各党派間の合意を重視する姿勢を示したことは当然である。
 与党の「数」を背景に、国民の賛否が分かれる政策課題を列挙するこれまでのような首相演説の内容では、政権・国会運営は立ちゆかなくなるからだ。石破氏が主張してきた持論のうち、防災庁設置や地方創生推進の表明にとどめたことも理解する。
 一方、最重要課題の政治改革では使途公開が不要な政策活動費の廃止など自民党が容認した内容を並べるだけで、立憲民主党など野党側が禁止を求める企業・団体献金の存廃には言及しなかった。
 政治資金規正法の改正を審議する衆院政治改革特別委員会の渡辺周委員長は立民所属で委員数も野党の方が多い。首相は「法整備を含めて年内に結論を示す必要がある」と意気込むが、企業・団体献金の温存をもくろむ自民党の意のままに進めることはできない。
 首相は国民民主党の主張を受け入れ、年収103万円を超えると所得税を課す「103万円の壁」引き上げを演説で明言した。同党は見返りに2024年度補正予算案に賛成する方針だ。「数」の上では補正成立は確実だが、補正を審議する衆院予算委の安住淳委員長も立民所属で、与党の都合を押し通すことは難しい。
 補正には緊急性に乏しい中長期的事業も散見され、一般会計の支出は約14兆円と巨額。立民の野田佳彦代表は「規模ありきだ」として減額修正を求める構えで、首相は誠実に向き合う必要がある。
 首相は熟議を重視し、野党・自民党政調会長として改定に取り組んだ党綱領には「多様な組織と対話・調整し、国会を公正に運営し、政府を謙虚に機能させる」と明記した。有言実行の時である。

首相の所信表明演説 信頼回復へ議論を尽くせ(2024年11月30日『福井新聞』-「論説」)
 
 石破茂首相は、衆院選の大敗後初となる所信表明演説を行った。少数与党となったことから、野党の協力なしには予算案や法案を通すことはできない。演説で首相が「幅広い合意形成が図られるよう、謙虚に取り組む」と述べた通り与野党が議論を尽くし、国民の期待に向き合う姿勢を示すことが政治の信頼回復への一歩となる。
 所信表明は前半に重要政策課題を列挙した。外交・安全保障政策を第一に据えたのは得意分野と考えてのことかもしれないが、歴代首相の演説に照らすと異例と受け取れる。前回の所信表明が「石破カラーが見えない」と不評だったのを踏まえてのことだろう。
 だが多くの国民の関心は物価高対策を盛り込む2024年度補正予算案や自民党派閥裏金事件を受けた政治改革の成否だろう。
 「政治とカネ」の問題に対する国民の不信感は根強い。首相は「選挙結果は、国民からの叱責(しっせき)だった」と総括し、使途が公開されない政策活動費の廃止、政治資金に関する必要な監査を行う第三者機関の設置などを進めるとした。だが与野党が厳しく対立する企業・団体献金の扱いについての言及がなかったのは残念と言わざるをえない。
 年収103万円を超えると所得税が生じる「年収の壁」を巡っては25年度の税制改正の中で議論し引き上げることを明言。国民民主党に配慮した。地方創生の再起動を訴え、「賃上げと投資がけん引する成長型経済」への移行、全世代型社会保障の構築を掲げた。
 補正予算案は経済対策の裏付けともなり、政府が最も重要視する。ガソリン料金を抑える補助や能登半島の災害対応、低所得者への給付金などが盛り込まれる。成立に向けて自民、公明両党は、国民民主と政策合意。予算案が成立する公算は大きい。ただ、各法案の成否については綱渡りが続く。
 一方、緊急性に乏しい事業によって規模が膨らんでいるとして立憲民主党は減額修正を求める構え。今の国会で野党第1党が主張する意義は大きい。幅広い合意を得るというなら自公両党は国民民主だけを取り込んで数合わせに走ろうとするべきでない。
 少数与党の身であれば内閣不信任決議案がいつ可決されてもおかしくない状況にある。一つ一つ実績を重ね、国民の信頼を取り戻すしか道はない。国会という公開の場で論議しながら幅広い合意を取り付けることが重要であり、与野党伯仲時代に応じた新しい国会の姿を示すべきだろう。

所信表明演説 首相は言葉通りに実行を(2024年11月30日『新潟日報』-「社説」)
 
 「政治は国民のものとの原点に立ち返り、謙虚に、真摯(しんし)に、誠実に国民に向き合う」と述べた。首相はその言葉通りに政権運営し、失われた政治への信頼を取り戻さねばならない。首相の政治姿勢を注視したい。
 石破茂首相が29日、臨時国会所信表明演説を行った。
 演説冒頭の政権運営の基本方針では、多様な国民の声を反映した各党派が、真摯に政策を協議し、より良い成案を得ることが民主主義のあるべき姿だと訴えた。
 他党にも丁寧に意見を聞き、可能な限り幅広い合意形成を図るとも述べた。
 少数与党の自民、公明両党は「年収の壁」を巡り、国民民主党の主張を取り入れる方向で同党と協議を進めている。単なる数合わせだと言われないためには、他の野党の主張にも、積極的に耳を傾けていくことが求められる。
 今国会の最大の焦点である政治改革では、野党第1党の立憲民主党などとの意見の開きは大きい。首相は年内に結論を示すとしている。どう合意形成していくのか、首相の指導力が問われる。
 三つの重要政策課題の第一に外交・安全保障政策を挙げた。
 中国やロシアの軍用機が相次いで日本領空を侵犯するなど、厳しい情勢の中で、日米同盟に基づく抑止力や対処力を維持、強化し、各国と対話を重ねるとした。
 「トランプ次期大統領とも率直に議論し、同盟をさらなる高みに引き上げていきたい」と会談への意欲を見せた。
 「さらなる高み」とは、具体的にどのような状態をいうのか曖昧だ。トランプ氏は、防衛費や在日米軍駐留経費などの負担増を求めるとの見方もある。
 日本の立場を説明し、理解してもらうためにも、トランプ氏との信頼関係の構築が急がれる。
 中国との関係は、先日会談した習近平国家主席と、「かみ合った議論を行うことができた」とし、あらゆるレベルで意思疎通を図ると自信を示した。
 日中間にはさまざまな課題がある。良好な関係を築き、解決へ向け前進できるよう期待したい。
 日本全体の活力を取り戻すことも重要政策課題とした。
 地方の人口減少に対する危機感を示し、地方創生は日本の活力を取り戻す経済政策であり、多様な幸せを実現するための社会政策だと強調した。
 深刻な状態にある財政状況の改善を進める考えを表明したものの、具体的な手法を示さなかったことは、懸念が残る。
 重要政策課題の第三に位置付けた治安・防災の対応では、避難所環境の改善といった事前防災の推進や「闇バイト」にも言及した。
 豊かで、安全・安心に暮らせる社会へ、石破内閣は総力を挙げて取り組まねばならない。

首相所信表明 民意に背かぬ政権運営を(2024年11月30日『信濃毎日新聞』-「社説」)
 
 石破茂首相が所信表明演説に臨んだ。政策面の独自色を抑える一方で、野党への配慮を強くにじませた。
 衆院選で自民、公明両党は少数与党に転落し、法案や予算案の成立には野党の協力が欠かせない。政権の苦境を色濃く映し出す。
 冒頭で政権運営の基本方針に触れ、「他党にも丁寧に意見を聞き、可能な限り幅広い合意形成が図られるよう、真摯(しんし)に、謙虚に取り組む」と低姿勢に徹した。
 経済対策では、国民民主党の主張を取り込み、年収103万円を超えると所得税が生じる「年収の壁」引き上げを明言した。
 看板政策の地方創生は、自治体への交付金倍増を前倒しすると説明。持論の日米地位協定改定を見据え、自衛隊による在日米軍施設の共同使用を進めると訴えた。
 一部に「石破カラー」はにじんだが、外交安保を含めた基本政策は前政権を踏襲した印象だ。自民党総裁選で唱えたアジア版NATO北大西洋条約機構)構想は引き続き封印した。
 防衛力の抜本的な強化を訴えたが、判断を先送りしてきた防衛増税の開始時期に言及しなかった。年収の壁引き上げによる税収減を補う財源にも触れていない。
 野党との摩擦回避を優先したのだろうが、難題を後回しにするのは無責任だ。代表質問や予算委員会で踏み込んだ説明を求める。
 首相が言及した「幅広い合意形成」は、2024年度補正予算案の審議で真価が問われる。
 与党と国民民主は事前の協議で経済対策に合意し、予算案成立への協力を確認した。だが、規模ありきの巨額予算は政策効果や緊急性に乏しい事業も目立つ。立憲民主党野田佳彦代表は減額修正を求める方針を示している。
 他党の意見を聞くという首相の言葉が本物なら、妥当性について国会の場で議論を重ね、必要なら修正も視野に入れるべきだ。野党も、実現を目指す政策については財源を曖昧にせず、責任ある説明で合意形成を図る必要がある。
 政治資金規正法再改定などの政治改革は、「年内に結論を示す必要がある」とした。立民などが求める企業・団体献金の禁止には触れていない。野党の主張に正面から向き合わず、小手先の対応でしのぐことは許されない。
 衆院選有権者が求めたのは「政治とカネ」を巡る不信感を拭うことであり、与野党伯仲の国会で緊張感のある議論を重ねることだ。首相はその民意に背かずに、政権を運営する責務がある。

石破首相の所信 伯仲国会を熟議につなげよ(2024年11月30日『京都新聞』-「社説」)
 
 臨時国会が開会した。先の衆院選で厳しい国民の審判を受け、30年ぶりに「少数与党」に転落した第2次石破茂政権が初の本格的な論戦に臨む。
 石破氏はきのうの所信表明演説で冒頭、「民主主義のあるべき姿とは、多様な国民の声を反映した各党派が真摯(しんし)に政策を協議し、より良い成案を得ること」と述べた。言論人出身で、戦後まもなく首相に就いた石橋湛山の施政方針をベースとした。
 言葉通り、与野党の開かれた熟議で、国内外の難局を乗り切る立法府の新たな形を示してもらいたい。
 これまで自民、公明両党の政権は、党内の事前審査で議案を了承した後、国会では野党の異論を軽んじ、数の力による強引な採決を常態化させていた。
 緊張感を欠いた政治が、裏金事件など一連の不祥事の根底にある。与野党伯仲の国会で、機能不全を改めねばならない。
 野党が衆院の予算委員長などのポストを押さえる中、合意を形成する民主政治が問われる。
 だが、所得税をめぐる「103万円の壁」など、自公が国民民主党を加えて進める協議は、従来の密室での数合わせと重なってみえる。躍進したとはいえ、衆院の約5%にとどまる国民民主の意見を最優先し、不透明な妥協に走るべきではない。
 石破氏は選挙結果を「政治資金問題や改革姿勢に対する叱責(しっせき)だった」とし、政治活動費の廃止や政治資金を監査する第三者機関設置を進めるとした。
 一方で、自民の金権体質の根元にある企業・団体献金には触れなかった。政策をゆがめ、不祥事を誘発してきた献金の禁止は、世論調査でも7割の国民が支持している。踏み込まねば、改革の本気度が疑われる。
 裏金事件では、参院政治倫理審査会自民党の関係議員全員が一転、出席する意向を示している。来夏の参院選を見越した通過儀礼にしてはなるまい。実態解明に向けた自民の再調査も改めて求めたい。
 経済対策では、物価上昇を上回る賃金上昇の実現や「103万円の壁」の引き上げなどに言及した。
 だが、「規模ありき」で14兆円近くに膨らんだ一般会計補正予算案は、電気・ガス代の補助再開など緊急性や効果に疑問が尽きない。財源は6兆円超の国債頼みで後世の負担が増す。十分な審議が要る。
 日米地位協定の改定を持論とする石破氏は、自衛隊による在日米軍施設の共同使用を進め「駐留に伴う諸問題の解決に取り組む」と触れた。実現への道筋を与野党で探ってほしい。
 野党は、重くなった責任を自覚する必要がある。
 国民民主のように減税を求めながら「財源は与党で」といった態度は慎むべきだ。野党第1党の立憲民主党は、特に真価が試されよう。

巨額の経済対策/必要性と効果を説明せよ(2024年11月30日『神戸新聞』-「社説」
 
 政府の総合経済対策が決まった。総額は約39兆円で、2024年度補正予算案の一般会計から13兆9千億円を支出する。新型コロナウイルス禍前を大きく上回る規模となる。
 景気を下支えし成長を促す目的というが、金額の大きさをアピールすることを優先させたようだ。従来の施策を寄せ集めた急ごしらえ感がぬぐえず、緊急性が低いものや効果があいまいな施策が目立つ。肝心の財源は約半分が国債頼みとなる。
 これでは、物価高騰に苦しむ国民の安心にはつながらない。政府は6月に決めた経済財政運営の指針「骨太方針」で、コロナ禍で膨らんだ歳出構造を「平時に戻す」と掲げた。それにも反している。
 なぜこれほど巨額の対策が要るのか。石破茂首相は、期待できる効果を含め、丁寧かつ具体的に説明せねばならない。
 経済対策の柱の一つは「物価高の克服」である。住民税が非課税となっている低所得世帯に3万円を支給し、そのうち子育て世帯には、子ども1人当たり2万円を上乗せする。困窮者への速やかな支援は必要だが、公平性に疑問符が付く。
 住民税非課税世帯は、7割超を65歳以上の世帯が占める。所得が少なくても、預金などの資産が多い高齢者にも恩恵が及ぶ。一方、住民税を納めながら低賃金で困窮する労働者は少なくない。中でも、ひとり親世帯の状況は厳しい。現役世代への目配りが不十分と言わざるを得ない。課税所得による線引きは、見直しが求められる。
 今回も、光熱費を抑える補助制度が盛り込まれた。電気とガス料金への補助金を来年1~3月に再開する。年内で終了予定だったガソリンに対する補助についても、段階的に縮小しながら延長する。
 こうした一律の補助金は富裕層ほどメリットが大きく、「ばらまき」との批判が根強い。市場の価格形成をゆがめる上に、国際的な脱炭素の潮流にも逆行する。これ以上続けるのは望ましくない。
 対策にはほかに能登半島の道路復旧、避難所となる学校体育館へのエアコン設置、地方創生に取り組む自治体への交付金創設などが並ぶが、見逃せないのは30年度までに人工知能(AI)や半導体産業の公的支援に10兆円以上を投じる点だ。
 緊急対策を盛り込む補正予算案は査定や国会での議論が甘くなりがちだ。巨額を投じる以上は当初予算案に計上し、費用対効果についての議論を深めるべきではないか。
 臨時国会では、経済対策の実効性を厳しく見極めることはもちろん、財源の確保とセットになった責任ある議論を与野党に強く求める。

石破首相の所信表明 「一極集中是正」はどこへ(2024年11月30日『山陽新聞』-「社説」)
 
 先月の衆院選後、初の本格論戦の場となる臨時国会が開幕し、きのう、石破茂首相が所信表明演説を行った。
 与党過半数割れとなった衆院選結果について、自民党の派閥裏金問題や改革姿勢に対する「国民からの叱責(しっせき)」と受け止めているとし、政治改革に「謙虚に、真摯(しんし)に、誠実に取り組む」と宣言した。
 「政治とカネ」問題に対する国民の不信感は根強く、今国会で一定の成果を示すことができなければ、自民の信頼回復は遠のくだろう。
 政治改革について具体的には、政党から議員に支出されて使途が公開されていない政策活動費の廃止、政治資金に関する必要な監査を行う第三者機関の設置、収支報告書のデータベース化、国会議員に月100万円が支給される調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)の使途公開などを挙げ、「党派を超えて議論し、年内に必要な法整備も含めて結論を示す必要がある」と語った。
 一方、演説の中では立憲民主党などが禁止を求める企業・団体献金については触れなかった。自民は容認する姿勢を崩しておらず、今後の与野党協議の争点になろう。
 首相は演説で「民主主義のあるべき姿とは、多様な国民の声を反映した各党派が真摯に政策を協議し、より良い成案を得ることだ」と述べた。与野党で丁寧に合意形成を図る姿を見せてもらいたい。
 地方創生については自治体に配る交付金を倍増し、前倒しで措置すると説明した。ICT(情報通信技術)を活用して地方の農林水産業、製造業、サービス業の高付加価値化を進めるとした。
 意外だったのは、演説で「東京一極集中の是正」に触れなかったことである。初代の地方創生担当相を務めた石破氏は地方創生に強い思い入れがあるとされてきた。先の衆院選の自民公約では政府関係機関や企業の本社機能の地方分散が盛り込まれていた。にもかかわらず、なぜ演説から抜け落ちたのか、首をかしげるばかりだ。年末には地方創生の「基本的な考え方」をまとめるという。その中では、一極集中是正の重要性や方向性を明示すべきである。
 演説では、持論としてきた防災庁の設置(2026年度中)をはじめ、事前防災の取り組みを進めていくと強調した。避難所の生活環境の改善を急ぎ、学校体育館の空調設備の設置を加速させる方針も示した。自然災害が激甚化する中、対策強化が急務であることは言うまでもない。
 しかし、日本で事前防災を論じる場合、避けて通れないのは東京一極集中の是正であろう。東京園(東京、神奈川、埼玉、千葉の1都3県)に人口の3割が暮らし、世界でもまれな一極集中が進む。首都直下地震に備え、あらかじめ機能や人口を分散しておくことは国家のリスク管理として、最も重要な事前防災の一つといえる。

石破首相の所信表明 「地方創生」道筋なお見えぬ(2024年11月30日『中国新聞』-「社説」)
 
 石破茂首相がきのう、少数与党になった衆院選後初めて、所信表明演説に臨んだ。
 真っ先に述べたのは「民主主義のあるべき姿」だった。評価しているという石橋湛山首相の1957年の施政方針演説を引用した上で「可能な限り幅広い合意形成が図られるよう、真摯(しんし)に謙虚に取り組む」と述べた。
 第2次安倍政権以降、政府に目立った国会軽視の姿勢を改めるつもりなのだろう。問題があったのだから、少数与党内閣として、改善するのは当然である。
 ただ、どんな政策に重点を置き、どうやって道を切り開いていくのか、石破内閣の考えはおぼろげなままだ。とりわけ、少子高齢化と東京一極集中のあおりで疲弊の目立つ地方を活気づける手だては今回も見えてこなかった。地方活性化は、石破氏が力を入れてきただけに不満が残る。
 熱意は伝わってきた。演説では「地方創生の再起動」を強力に進めるため、交付金を当初予算ベースで倍増する考えを改めて示した。地方の農林水産業や、サービス業の高付加価値化に加え、新たに文化芸術・スポーツの振興も試みていく、という。
 地域重視の考えは、防災対策の説明でも感じられた。地理的に不利な条件下にあり、財政的に厳しい地域でも決して見捨てないと強調した。
 激しい地震に襲われ、復旧の途上で豪雨にも見舞われた能登半島が念頭にあるようだ。水道をはじめ、ライフラインの復旧に手間取る事態を繰り返してはならない。
 地方を取り巻く課題は山積みの上、多岐にわたる。女性や若者にとって魅力ある働き方・職場づくりや男女間の賃金格差解消、持続可能な農山漁村など、意気込みだけでは解決は難しい。人々の意識も絡むだけに、政府の粘り強い努力が欠かせない。
 きのうあった地方創生に関する政府の有識者会議でも、性別役割分業の意識が残る点など、課題が指摘された。
 政府は地方創生の「基本的な考え方」を年末までにまとめるという。これまでの政治では反映されることの少なかった若者や女性の意見を踏まえ、多様な生き方のできる社会を地方から実現させる―。その環境づくりができるか。覚悟が問われている。
 地方重視を掲げた演説だったが物足りなさも感じた。例えば年収103万円を超えると所得税が生じる「年収の壁」を引き上げる方針を示した。民意には沿うものの、大穴のあく地方財政への手当てへの言及はなかった。穴埋め策なしでは自治体の不安は募る。
 地方創生の成功例として、宮崎県小林市の紹介動画を演説で取り上げていた。10年近く前に話題となった話だけに、今更という感じは否定できない。新しい事例はなかったのだろうか。
 自民党総裁に選ばれた直後に臨んだ所信表明とは違い、石破氏には熟慮する時間はあったはずだ。地方の創意を引き出し、実現に向け、どう後押しするのか。地域が元気を取り戻すための具体策を早急に示すべきである。

所信表明演説】国会軽視を改める機会に(2024年11月30日『高知新聞』-「社説」)
 
 重要政策で満足な説明や議論を省く国会軽視が続いてきた。しかし、衆院選大敗に伴う少数与党内閣ではそうした姿勢は通じない。国民の批判を受け止め、国会と真剣に向き合うことが基本だ。
 石破茂首相が所信表明演説を行った。首相は選挙結果を踏まえ、幅広い合意形成が図られるよう取り組む考えを示した。民主主義のあるべき姿を、多様な国民の声を反映した各党派が真摯(しんし)に政策を協議し、より良い成案を得ると位置付けた。
 10月の就任後初の所信表明演説では、国民の納得と共感を得ると訴えた。だが有権者の反応が冷ややかだったのは衆院選の結果で明らかだ。解散前に野党と論戦を交わす予算委員会を開催する必要性に触れながら、早期解散が有利という声に押されて実施せずに解散に踏み切った。本格論戦を避けた失望は大きい。
 もちろん、それだけではない。安倍政権からの1強政治の弊害に対して厳しい視線が向けられた。岸田政権下では国家安全保障戦略の見直しや防衛費の大幅増額、原発回帰が国民的議論を欠いたまま進んだ。自民党派閥裏金事件が発覚しても全容解明に取り組む姿勢は乏しく、「政治とカネ」問題を解消できないことが政治不信を膨らませた。
 首相は政治資金規正法再改正などについて、必要な法整備を含め年内に結論を示す必要があると述べた。政策活動費の廃止、政治資金に関する必要な監査を行う第三者機関の設置などを挙げる。立憲民主党などは企業・団体献金禁止を突き付ける。合意形成は簡単ではなく、中途半端にとどまれば信頼は高まらない。
 年収103万円を超えると所得税が生じる「年収の壁」は、2025年度税制改正で議論し引き上げると表明した。手取り増や深刻な働き手不足解消の一助になる期待がある。
 一方で国民民主党の要求を丸のみすれば税収の大幅減を招く。自治体に不安が広がるが、穴埋め策は明確にならない。来年夏の参院選を控え、地方の反発は避けたいのが本音で、首相が最重要課題と位置付ける地方創生にも影響しかねない。調整に困難を伴うことは必至だ。
 経済対策の裏付けとなる24年度補正予算案は緊急性に乏しい施策も盛り込まれた。税収は過去最高となる見通しだが財政状況は悪化する。丁寧な審議が求められる。
 外交・安全保障政策では、安保環境が厳しくなる中、抑止力・対処力を強化しつつ、各国との対話を重ねて望ましい環境をつくり出すと主張した。トランプ次期米大統領と率直に議論し、日米同盟をさらなる高みに引き上げるとする。国民への説明を優先すべきことだ。
 石破政権には与党の過半数割れに加え、首相の党内基盤の弱さがのしかかる。首相が望む「国民の後押し」をどう獲得するかが政権運営の鍵となる。
 対する野党も一枚岩になれないが、有権者の選択に応える責務がある。課題は多い。議論を深める姿勢が不可欠だ。

少数与党国会 国民に見える法案審議に(2024年11月30日『西日本新聞』-「社説」)
 
 政権与党が少数となって迎えた国会は、言論の府の機能を取り戻す好機である。与野党で丁寧な議論を尽くしてもらいたい。
 10月の衆院選後、初の本格論戦となる臨時国会が始まった。きのうは石破茂首相が衆参両院の本会議で所信表明演説をした。
 就任直後の首相の演説は、自民党内の異論に配慮してか「石破カラー」を封印した。今回も新味はない。
 あえて特徴を挙げるなら、国会運営のくだりだ。「他党にも丁寧に意見を聞き、可能な限り幅広い合意形成が図られるよう真摯(しんし)に、謙虚に取り組む」と冒頭に語った。
 衆院選の民意は与党に過半数を与えず、与野党伯仲の状況をつくった。数の力に物を言わせた「自民1強」とは違い、野党の協力を得なければ予算案も法案も通らない。
 厳しい環境は首相も重々承知しているようだ。言行の一致に期待する。
 今国会で法案審議や合意形成の過程を変えなくてはならない。開かれた国会の場で、法案採決までの議論が国民に見えることが重要だ。
 まず改めたいのは、自民党政権の慣行だった法案の事前審査である。政府が法案を国会に提出する前に、自民の了承を得る仕組みだ。
 国会で過半数議席があったため、事前審査に通れば法案の成立は確実になる。国会の法案審議を形骸化させる弊害は大きい。
 しかも党内論議は公開されない。どのような経緯で法案がまとまったかが明らかにならない問題点もある。
 今国会に向け、自民、公明の両与党は国民民主党を加えた3党で経済対策の協議を重ねた。与党は国民民主の政策を受け入れ、法案に賛成してもらう腹積もりだ。
 国民民主の幹部は「103万円の壁」の引き上げに3党が合意すると、まだ審議が始まっていない補正予算案に賛成する考えを示唆した。
 国会前に政党間で調整が必要なこともあるだろう。協議は否定しない。とはいえ、開会前に法案の賛否に言及するようでは形を変えた事前審査になりかねない。
 野党第1党の立憲民主党にも注文しておきたい。衆院予算委員会をはじめ多くの委員長ポストを獲得し、国会運営の重責を担う。野田佳彦代表が唱える「熟議と公開」を実践する力が試される。
 石破首相は所信表明演説の冒頭と締めくくりに、1957年の石橋湛山首相の施政方針演説を引用した。議論を重ねて協力すべきところは協力し、一部の利害でなく、国民全体の福祉を考える大切さを訴えた部分である。
 石橋氏はさらに演説で「国会に国民が寄せる信頼は、民主主義の基」と説いた。
 自民派閥の裏金事件で、国民の政治に対する信頼は大きく損なわれた。「民主主義の基」を取り戻すことも、今国会で与野党が背負う課題だ。

首相所信表明 幅広い合意形成へ熟議を(2024年11月30日『熊本日日新聞』-「社説」)
 
 石破茂首相が、衆参両院本会議で臨時国会所信表明演説を行った。石破内閣は30年ぶりとなる「少数与党」で国会に臨む。首相は「可能な限り幅広い合意形成が図られるよう謙虚に取り組む」と誓った。国内外に難題が山積する中、政治の迷走は許されない。
 不安定な国会の様相だが、望ましい政治に好転させる機会ともいえよう。憲政史上最長の第2次安倍晋三政権以降、自民党による独善的な国会運営がまかり通ってきた。年明けには通常国会、来夏には参院選を控える。今国会でまっとうな議論を交わせるか。「信頼いただけるよう誠心誠意取り組む」とした首相の役割は重い。
 そもそも少数与党となった引き金は、自民党の派閥裏金事件である。国民の政治不信は深刻だ。政治資金規正法の再改正をはじめとする政治改革について、首相は「法整備を含め、年内に結論を示す必要がある」と述べた。
 使途公開の義務がなく、党から議員に支出される政策活動費について、首相は廃止する考えだ。しかし、企業・団体献金の禁止には後ろ向きで、立憲民主党などと食い違いを見せている。
 以前ならば圧倒的な多数で再改正法案を押し通すのが常であった。首相は「国民の政治に対する信頼を取り戻すため、党派を超えて議論する」とした。与野党で一致点をどう見いだすか。政治改革へ「謙虚に、真摯[しんし]に、誠実に国民と向きあう」との誓いを着実に実行してほしい。
 また、国民民主党衆院選で公約した、年収103万円を超えると所得税が生じる「103万円の壁」の解消について、首相は「2025年度税制改正で議論し、引き上げる」と述べた。一方、国民民主は独自法案に、非課税枠を178万円に引き上げると明記している。
 自民、公明、国民民主の3党は既に税制協議を始めているが、政権維持のため密室の議論で妥協が図られるようなことになれば、国民の失望は膨らむ一方だろう。
 さらに首相は「地方創生は、日本の活力を取り戻す経済政策」と位置付けた。自治体への交付金倍増を前倒しで措置すると説明。地震と豪雨被害に遭った石川県能登地方の復旧・復興費を盛り込んだ24年度補正予算の早期成立を目指す。闇バイト事件を念頭に防犯カメラ整備などに注力すると宣言。石破内閣が具体化を目指す防災庁設置に向け、避難所の生活環境改善や内閣府防災担当の予算・人員面での抜本的強化を打ち出した。
 しかし、首相の独自色は濃くない。アジア版NATO北大西洋条約機構)構想など賛否が割れかねない持論の主張は控えた。綱渡りの国会運営を優先したといえよう。
 一方、立憲民主は予算委員長や法務委員長、憲法審査会長といった重要ポストを得た。国会で「熟議と公開」を実現する大きな責任を負ったといえる。党利党略に走らず、国民のための「幅広い合意形成」をけん引してほしい。

しがない?(2024年11月30日『長崎新聞』-「水や空」)
 
 手元の辞書には〈うだつが上がらなくて前途に望みが無い〉と、ずいぶんな語義が載っていて、用例には〈-暮らし、-稼業〉が示されている。「しがない」という形容詞がある
▲イシバシとイシバ。あっ、シがない。そうか、少数与党政権の前途を心配するあまり、言葉遊びでこっそり自虐を…の的外れでふざけた発見はさておき-。1957年に65日だけ首相を務めた石橋湛山氏の言葉を引きながら所信を表明した昨日の石破茂首相
▲「常時率直に意見を交わす慣行を作り」「相互に協力を惜しまず」「国民全体の福祉をのみ念じて」と、引用を重ねて民主主義のあるべき姿を語った。冒頭と結びの近くには「真摯(しんし)に、謙虚に」が語順を入れ換えて2回
▲「あるべき姿」は、できれば石破首相自身の言葉で話してほしかったが、彼なりの「変わろう」とする決意は伝わってきた気もする。与党が振り回してきた「数の力」はどこにもない
▲イシバシとイシバは大違い、と野党の評価はさんざんだが、その野党側にも自分たちの過去を真摯に顧みてもらわねばならない。どうせ最後は数で負ける-と、諦め半分の気楽な“野党根性”で反対やダメ出しを重ねてはいなかったか
▲これからしばらく、与党も野党も試され続ける。何回か書いた「緊張感」はそこにある。(智)