政府予算案 財政膨張繰り返すのか(2024年12月28日『北海道新聞』-「社説」)
来年度の政府予算案は一般会計歳出総額が115兆円超と当初ベースで過去最大となった。
税収増は財政健全化にかじを切る契機だったが、結局バラマキ路線は踏襲されてしまった。
自民1強時代と違い、政府案のままでの成立は不透明だ。不要な支出は抑え、修正も念頭に国会審議を深めてほしい。
石破茂政権は予算案が「賃上げと投資がけん引する成長型経済を実現する」と位置づける。
とはいえ賃上げ促進は中小企業の生産性向上や従業員確保支援など先週成立した本年度補正予算と同じような項目も多い。
ここ数年乱発する補正予算では未消化も目立つ。効果を見極めぬままの継続は疑問が残る。
民間の賃上げを反映し、公務員や保育士の給与引き上げも盛り込む。公立学校教員に残業代の代わりに払う教職調整額も支給率アップを進めるが、来年度の上げ幅はわずか1%である。
一般会計への圧迫を避ける一方で事後評価の目は届きづらくなる。ラピダスには追加支援も想定され、透明性を確保せねば国民の不信を招きかねない。
5年間の強化計画3年目となる防衛費は当初ベースで初の8兆円台。トマホークミサイル取得1年前倒しなどを計上した。
円安で米国からの調達コスト増も問題視されるが、与党内には物価高で増額論もくすぶる。さらなる上乗せは許されない。
政府は財政健全化の目標である国と地方の基礎的財政収支が来年度初めて黒字化する見込みと今年夏発表していた。
25年度政府予算案/歳出構造の見直し足りない(2024年12月28日『福島民友新聞』-「社説」)
歳出が青天井で膨らみ続け、財源は国債依存から脱していない。これでは財政健全化が遠のくばかりで、将来に不安が募る。
政府が2025年度の予算案を決めた。一般会計の歳出は115兆5415億円と、当初予算ベースで過去最大だった23年度の114兆3812億円を上回った。
歳入では、税収を78兆4千億円と見積もり、6年連続で過去最高を更新した。それでも歳出を賄うことができず、新たに28兆円の国債を発行する。
今年6月に閣議決定した経済財政運営の指針「骨太方針」では、コロナ禍で拡大させた歳出構造を「平時に戻す」としていた。この方針に相反した予算案であり、将来世代につけを回すのは無責任との批判を免れない。
これまで借金に依存した財政運営を続けたことで、24年度末時点で国・地方の長期債務残高は1315兆円に上る。しかし日銀の金融政策の正常化などを背景に、金利は上昇傾向にある。国債の利払い費が財政を圧迫しないためにも、財政健全化の取り組みを急がなければならない。
災害などで年度途中に大規模な補正予算の編成を余儀なくされる事態は起こり得る。歳出全体の半分以上を占める社会保障費や国債費で財政が硬直化するなか、緩んだ歳出構造を改めることが最も重要になる。与野党は予算のばらまきを競わず、国会で政策の中身を厳しく精査しなければならない。
復興庁関連の歳出総額は4864億円を計上し、24年度当初予算を158億円上回った。東京電力福島第1原発事故による帰還困難区域で、新たに避難指示解除の対象となる「特定帰還居住区域」の除染費用、福島国際研究教育機構(エフレイ)の事業費、風評対策の費用などが盛り込まれた。
政府が実施した行政事業レビューで、外部有識者が見直しを指摘した福島再生加速化交付金は24年度当初予算と同規模の599億円となった。復興途上にある被災地の実情を踏まえた対応とはいえ、無駄な歳出は許されない。国、自治体は、事業効果を最大限に引き出す取り組みが必要だ。
膨張一辺倒の予算編成は借金財政を一段と悪化させる。少数与党の下でバラマキ色が強まれば、リスクはさらに高まる。
政府の2025年度予算案は過去最大の115兆円強に上った。13兆円を超す巨額の補正予算が成立したばかりだ。コロナ禍で急増した歳出を平時に戻す方針を示していたが、道筋は見えない。
予算の3割以上を占める社会保障費は、高齢化によって膨らむ一方だ。防衛費も大幅に増え、初の8兆円台となった。
事業の費用対効果を精査することが不可欠だが、疑問符が付くケースも目につく。
好調な企業業績などを背景に、税収は最高の78兆円となる見通しだが、歳出を賄うには程遠い。28兆円超の国債を新たに発行し、借金に頼る構造は変わらない。
例年なら原案のまま成立するが、今回は年明けに行う野党との協議次第で修正も視野に入る。
予算は国民生活に深く関わる。与野党が幅広い観点から議論することは望ましい。
与党は「年収の壁」を123万円とする方針だが、178万円を主張する国民民主は受け入れていない。与党が丸のみすれば、国と地方の税収は年7兆~8兆円も減る。高校無償化も維新の試算では年6000億円が必要になる。
来年の参院選目当てに大盤振る舞いを競い合う事態は避けなければならない。
政府は財政健全化の指標である基礎的収支を25年度に黒字化する目標を掲げているが、野放図な運営が続く限り、達成は難しい。
与野党に求められるのは、政策の効果を見極め、財源問題から逃げずに議論を尽くすことだ。
来年度予算案 税収増も険しい財政再建の道(2024年12月28日『読売新聞』-「社説」)
安心して暮らせる社会の実現に、国の予算はどうあるべきか。日本経済の成長と財政健全化を両立させ、未来への資金を確保せねばならない。
政府は、2025年度予算案を閣議決定した。一般会計の総額は115・5兆円となり、24年度当初予算案から約3兆円増えて、2年ぶりに過去最大を更新した。
医療や年金などの社会保障費が38・2兆円となり、初めて38兆円を突破したことが大きい。
薬価引き下げや、医療費が高くなった場合に患者負担を抑える高額療養費制度の見直しなどの歳出改革を行ったものの、高齢化に伴う社会保障費の伸びは大きく、最終的には5585億円増えた。
歳出全体の3分の1を占める社会保障費のさらなる抑制策に取り組んでいくことが重要だ。
防衛費も前年度比約7500億増の8・6兆円で過去最大だったが、日本の厳しい安全保障環境を踏まえれば、不可欠な予算だ。
日本が賃金も投資も増える「成長型経済」へと移行する場合、物価と金利も上昇することになる。このため、利払い費がかさむことが避けられない。無駄な歳出は不断に減らしていく必要がある。
予算案で目を引くのが、税収を過去最大の78・4兆円になると見込んだことである。物価高や好調な企業業績を背景に、前年度より8・8兆円も増えるという。
それでも、政策に必要な予算を賄うには全く足りていない。このため、新たに28・6兆円の国債を発行する計画だ。財政健全化の道のりは険しい。
予算案では、年収が103万円を超えると所得税がかかる「年収の壁」を123万円に引き上げることに伴って、7000億円程度の税収減を見込んでいる。
国民民主党は178万円に引き上げるように要求し続けているが、その場合、7兆~8兆円の減収になると試算されている。
歳出の抑制が難しい中、大規模な恒久減税を行う余地は乏しい。現実的な議論が求められる。
規律なき予算の膨張に歯止めを(2024年12月28日『日本経済新聞』-「社説」)
危機対応を終わらせ、将来の成長につながる種をまく。今度こそ財政を「平時」に戻す一歩を踏み出すはずではなかったのか。政府が2025年度の予算案で、成長と財政健全化の両立に道筋をつけられなかったのは残念だ。
10月の衆院選で自民、公明両党が歴史的な大敗を喫し、今回の予算案は少数与党のもとで国会審議が進む。野党は攻勢を強めており、はじめから修正含みなのは異例だ。国家の未来を見据えた責任ある議論を与野党に望む。
景気回復も「平時」遠く
一般会計の総額は約115.5兆円と2年ぶりに増える。当初予算の規模としては、23年度の114.4兆円を上回って過去最大となる。医療など社会保障費や防衛費が膨らむのが主因で、110兆円を超すのは3年連続だ。
政府が6月に閣議決定した経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)は、新型コロナウイルス禍で膨らんだ歳出構造を「平時に戻す」と2年連続で明記した。実際には巨額の補正予算も加わり、平時が近づくどころか遠のいたといわざるを得ない。
日本経済の需要と供給の差を表す需給ギャップは0.4%で、7年ぶりにプラス転換する見込みだ。需要が供給を上回り、物価の上昇が顕著になるなかで「脱デフレ」を掲げて巨額の財政出動を続ける根拠はもはや乏しい。
社会保障費は高齢化の進展で38.3兆円と過去最高を更新する。歳出改革の本丸といっていい医療や介護の効率化に向けた取り組みは不十分なままだ。聖域に切り込む改革を避けていては、社会保障にかかる費用の急速な伸びについていけない。
財政を平時に戻す努力が緩んだ背景には、税収の好調にあぐらをかいた面がある。
25年度予算案の税収は物価上昇もあり前年度の当初より9兆円近く多い78.4兆円と、6年連続で過去最高を更新する。堅調な企業業績に加え、24年度に実施した定額減税による減収の影響がなくなることも金額を押し上げる。
税収が増える分、新規の国債発行額は7兆円近く減り、28.6兆円と17年ぶりに30兆円を下回る。ただ、これをもって財政の健全化に踏み出したと評価するわけにはいかない。財源の4分の1を国債に頼る厳しい財政状況は変わらないからだ。
政治が危機感を持て
もちろん、将来の成長につながる投資は必要だ。25年度予算案では、半導体や脱炭素などの分野に手厚く資金を配分する姿勢はみられた。根拠に基づく政策立案(EBPM)の仕組みを確立し「賢い支出」を徹底してもらいたい。
7年度予算案 膨張抑える改革が足りぬ(2024年12月28日『産経新聞』-「主張」)
政府が27日に閣議決定した令和7年度予算案の一般会計総額が当初予算ベースで過去最大の115兆5415億円となった。
重要度の高い施策に十分な予算措置を講じるのは当然だ。だからこそ既存の歳出構造に大胆に切り込む取り組みが求められたのに、目を引く改革がみられなかったのが残念である。
税収を過去最高の78兆円超としたのは、定額減税による減収がなくなるほか、物価高で税収が押し上げられる効果などもあるためだ。新規国債発行額は17年ぶりに30兆円を下回った。
歳出面では薬価改定で650億円近くの国費を削減する取り組みなどもあった。予備費の削減も妥当である。一方で石破茂首相が重視して倍増した地方創生の交付金や人工知能(AI)・半導体産業の基盤強化などの予算は効果を検証しつつ適切に執行することが問われよう。
歳出を巡っては当初予算以上に補正予算のあり方も見直すべきだ。コロナ禍以降、巨額の補正が常態化し、先に成立した6年度補正も13・9兆円に膨らんだ。中身が厳しく査定される当初予算とは異なり、補正は規模ありきになりがちだ。緊要性がもっと問われるべきである。
来年度予算案 歳出の効果見極めねば(2024年12月28日『東京新聞』-「社説」)
政府が2025年度予算案を閣議決定した=写真。一般会計の総額は前年度当初比2・6%増の115兆5千億円超と過去最大。少数与党のため予算案成立には野党の賛同が欠かせないが、野党の修正要求に応じれば、さらに膨張することになりかねない。
防衛費は9・4%増の8兆7005億円と過去最大。周辺情勢の緊張を受け、防衛力の抜本強化を図るためだが、軍事力への傾斜が妥当か議論を深めるべきだ。
ただ、歳出の約25%を国債で賄う状況は続き、日銀の利上げで利払い費増加も視野に入る。
安倍晋三政権が13年に始めた経済政策アベノミクスで、金融機関経由の日銀の国債引き受けが増えて国債依存が加速し、財政規律は緩んだ。コロナ禍以降、本来緊急対応であるべき補正の規模が拡大し、野放図な歳出も横行した。
会計検査院による23年度決算報告書によると、税金の無駄遣いは前年度を上回る約648億円に達し、査定が形骸化した予算編成の姿を浮き彫りにした。
立憲民主、日本維新の会、国民民主の野党3党は学校給食無償化案を国会に提出し、維新は高校授業料無償化案も求めている。与党と国民の協議次第では「年収103万円の壁」がさらに引き上げられる。実現には巨額の追加財源が必要で慎重な議論を求めたい。
決算報告を見れば予算の無駄を削る余地は大きい。与野党は予算案を精査し、国民の暮らしのための予算としなければならない。
25年度の予算案 将来に無責任なままでは(2024年12月28日『信濃毎日新聞』-「社説」)
政府が2025年度予算案を決めた。一般会計の総額は115兆円。当初予算ベースで過去最大を更新した。新型コロナ対策で膨張した予算構造を「平時」に戻す政府目標は遠くかすむ。
安易に借金を増やしてきたつけが回り、返済の負担が重くのしかかってくる。野放図に出費を膨らませる財政運営は立ちゆかなくなっているのに、深刻な事態への危機感は薄い。
■変わらぬ借金依存
それでも借金依存は変わらない。歳入(収入)のうち税収は過去最大の78兆円を見込むが、物価高で消費税収が押し上げられた要因が大きい。歳出規模には遠く及ばず、巨額の新規国債で財源の4分の1を賄う。この先も利上げが見込まれ、借金がさらなる借金を呼ぶ悪循環に陥っていく。
財政再建には、支出が適正か見極め、必要な財源を確保するしかない。その本気度がどこまであるのか疑わしい。
■財源は置き去りか
医療や年金、介護を含めた社会保障費は38兆円を超え、右肩上がりで増えている。
高額な医療費の支払いを一定にとどめる「高額療養費制度」を見直し、自己負担の上限額を引き上げる。薬の公定価格「薬価」も下げ、医療費を抑える。これらの歳出改革をしても、高齢化に伴う伸びにはまだ追い付かない。
とりわけ妥当性が厳しく問われるのは、過去最大の8・7兆円に膨らんだ防衛費だ。
政府は防衛力の抜本的強化を掲げ、27年度までの5年で総額約43兆円を投じる計画を示す。その3年目に当たり、敵基地攻撃能力の手段になる長射程ミサイルの配備などを進める。
どこまで安全保障に資するのか、専守防衛と整合するのか、周辺国との軍拡競争を激化させないか、いまだ根本的な議論や説明を欠く。「規模ありき」で計上された予算は精査されているのか。
予算案と併せて閣議決定した税制改正大綱には、所得税が生じる「年収103万円の壁」の123万円への引き上げを明記した。与党の自民、公明と野党の国民民主による協議は減税論に終始し、税収減を穴埋めする財源の論議は脇に置かれた。
国民民主は178万円を目指す立場を曲げていない。その場合は国と地方合わせて年7兆~8兆円の税収減になるとされる。安定財源の当てがないまま国債で賄えば、財政への打撃は深刻だ。
10月から児童手当を高校生年代に広げた代わりに、高校生年代の子を持つ親の扶養控除を縮小する方針が昨年末に決まっていたが、実施を見送った。
必要な財源を曖昧にし、政策の整合も取れない。現役世代の負担増を避け、将来世代が返す借金で当座をしのいでいくのは無責任だ。このままでは財政への信認が損なわれ、国債の格下げも想定しなければならない。
■政治の信認揺らぐ
先の臨時国会では、24年度補正予算が28年ぶりに修正された。少数与党のため、立憲民主党の要求を受け入れ、能登半島地震の復興予算を増額した。ただ、基金の積み増しといった緊急性を欠く支出を含む巨額予算は、根本的な見直しには至らなかった。
有権者に訴えてきた政策の実現を目指す上では、相応の財源を明示すべきだ。財政の持続性に責任を持ち、歳出の削減や負担増を含めた耳の痛い議論にも正面から向き合わなければならない。
多数派をつくる駆け引きのために危機的な財政事情に目をつぶるのなら、政治への信認もまた大きく損なわれる。
2025年度予算案 財政健全化へ努力続けよ(2024年12月28日『新潟日報』-「社説」)
増え続ける歳出に歯止めをかけることを考えねばならない。物価高対策などに迫られ、拡大圧力が強まる状況ではあるが、緩んだ財政規律を締め直す財政健全化への努力を忘れてはならない。
政府は27日、2025年度予算案を閣議決定した。一般会計の歳出総額は115兆5415億円となり、当初予算ベースで過去最大を更新した。
税収は78兆4400億円を見込み、6年連続で最高を更新した。
不足する財源を補うために、歳出の4分の1に当たる28兆6490億円を国債の発行で賄う。国債の新規発行額が当初予算で30兆円を下回るのは、08年度以来17年ぶりとなる。税収見込みが過去最高になったためだ。
ただ発行額は依然多く、借金依存体質から抜け出せていない。
政府は国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)を25年度に黒字化する目標で、達成できるかが焦点だ。
防衛費は過去最大となり、8兆7005億円を計上した。23~27年度の5年間で、総額約43兆円を投入する防衛力抜本的強化の3年目に当たる。
気になるのは、反撃能力(敵基地攻撃能力)に活用する長射程ミサイルの配備を25年度に始めることだ。長射程ミサイルには、米国製巡航ミサイル「トマホーク」導入に向けた費用も含まれる。
防災・復興費も注目される。石破茂首相肝いりの防災庁の26年度設置に向け、内閣府防災部局の予算は146億円と、24年度当初より倍増した。定員も現状から倍増し、220人とした。復興庁予算は10年ぶりに増額した。
社会問題になった闇バイトの対策には17億円を充て、取り締まり能力や、ネット上の有害情報の対策を強化する。卑劣な犯罪の根絶につなげねばならない。
国民生活にしっかり目配りする一方で、不要な支出は抑えていくことが肝心だ。
国の来年度予算案 持続可能な歳出規模なのか(2024年12月28日『京都新聞』-「社説」)
使う金を膨らませる一方、国民の安心や将来が見えないのは、どうしたことか。
政府が決定した2025年度当初予算案は、一般会計の歳出総額を115兆円の過去最大とした。
新型コロナウイルス対策で膨れあがった予算を「平時に戻す」としていたが、指針などなかったかのようだ。身の丈に合った持続可能な規模とは言い難い。
急速な高齢化で社会保障費がかさむ上、政治の思惑が積み重なった歳出増がのしかかる。
物価高に伴う消費税の実入り増などを受け、税収は6年連続で過去最高を更新したが、肥大化する歳出がはるかに上回り、借金依存の体質は続く。
際立つのは、初めて8兆円台に乗せた防衛費増だ。
5年間で総額43兆円を投じる防衛力強化の3年目。反撃能力(敵基地攻撃能力)に活用する長射程ミサイル開発、自衛官の処遇改善などを盛り込んだ。
数字ありきでの防衛費「倍増」は、中身の根拠も十分示されていない。23年度は、1300億円もの予算が使い残された。必要性の精査が不可欠だ。
社会保障費は38兆円で、過去最大を更新した。高齢化による伸びを、「薬価」引き下げと、医療費の支払いを一定に抑える「高額療養費制度」の見直しで一部圧縮はした形である。
看板とする地方創生や防災、闇バイトなど犯罪対策の積み増しに加え、学校教員に残業代の代わりに支給する「教職調整額」の引き上げ、子育て支援として育休給付や児童手当の拡充なども盛り込んだ。
前政権は異次元少子化対策の財源捻出として「歳出改革」を掲げていたが、増加の歯止めはかかっていない。保険料に上乗せする「支援金」など将来の負担増につながらないか。
先進国最悪の赤字財政を放置し続ければ、国際的な信認が揺らぎかねない。
きのう、石破茂首相は「財政健全化の旗を降ろすことはない」と述べた。ならば具体的な道筋を示してほしい。
伯仲国会での予算成立には、野党の協力が要る。予算委員長のポストを握る立憲民主党をはじめ、野党は責任の重さを自覚してもらいたい。目先の人気取りでなく、予算のひずみを正す議論を尽くさねばならない。
政府予算案/国会のチェックが重みを増す(2024年12月28日『神戸新聞』-「社説」)
政府はきのう、2025年度予算案を閣議決定した。一般会計の総額は115兆5415億円と、当初予算ベースで過去最高だった23年度を上回った。税収は78兆4400億円と過去最高を更新するが、歳出を賄いきれず新たに国債(借金)を28兆6490億円発行する。国債頼みの予算膨張はもはや常態化している。
これまでの予算審議は、衆院で過半数を占める政権与党が政府案を原案のまま成立させるのが通例だった。しかし10月の衆院選で自民、公明両党が大敗して30年ぶりの少数与党政権となり、野党の賛同なしには予算案の成立は不可能となった。
計上された施策は現状を踏まえた内容か。根拠や効果は示されているか。国会のチェックは重みを増す。野党は厳しく見極め、政府、与党もその指摘に耳を傾ける熟議の国会を実現させなければならない。
◇
予算案では08年度以来17年ぶりに新規国債発行額が30兆円を下回る。税収が8・8兆円増えたためだ。
しかしその主因は物価高による消費税収の増加や、24年度の定額減税が終わった反動であり、財政健全化が奏功したとは言い難い。
「石破色」はにじむが
社会保障費以外の政策支出の増加は9千億円で、大半となる7498億円を防衛費が占める。
23年度からの5年間で43兆円を確保するとの前岸田政権の方針に沿い今回は8・7兆円を計上。敵基地攻撃能力に活用する長射程ミサイル開発や自衛官の処遇改善に充てる。
焦点となった教員の待遇見直しは残業代に当たる「教職調整額」を現在の基本給4%分から段階的に引き上げ、30年度に10%とする。事務作業の見直しや部活動の地域移行など働き方改革の効果も、中間段階で検証する。
待遇の見直しは約50年ぶりだ。手当の引き上げも重要だが、教員が児童生徒にしっかり向き合える環境づくりを急ぎたい。
政府が地方創生に本格的に取り組んで今年で10年になるが、地方の衰退に歯止めがかからない。投じた予算が効果的に使われていないとの指摘もある。現場の発想に自治体が耳を傾け、実現に向け国とともに支援する枠組みを整えねばならない。
野党も責任を果たせ
24年度補正予算案に対して、野党の立憲民主党は歳出全体を削減する一方で能登半島地震の復旧関連予算は積み増す修正案を提出し、与党は一部を受け入れた。税制改正の議論で国民民主党が掲げた「年収103万円の壁」引き上げに与党が応じたのも、補正予算の賛成に取り込む狙いが透けて見えた。
与党は日本維新の会とも、維新が掲げる高校授業料無償化について実務者協議を重ね、来年2月中旬をめどに一定の結論を得る方針で一致している。これも、通常国会で25年度予算案が衆院採決されるタイミングをにらんだ動きと言える。
野党の主張を与党が受け入れ、共同で政策を練り上げること自体は評価できる。
ただ懸念されるのは来年夏の参院選もにらみ、政策が政局に利用される展開だ。必要な財源をどこに求めるかなどの議論を十分に煮詰めないまま与野党が政策合意を次々と重ねれば、ばらまきを繰り返すことになりかねない。
財政の逼迫(ひっぱく)度が増す中、次世代の負担をできる限り減らしながら環境の変化に応じた施策を練り上げる。その責任を果たすのは政府、与党だけではないことを、野党は直視する必要がある。
政府の2025年度予算案は、一般会計の歳出が115兆5415億円と当初予算ベースで過去最大となった。
長引く物価高への対応などで歳出の拡大圧力が高まりやすい状況にある上、与党は衆院で過半数割れしており、国会運営で協力を要請している野党との協議が予算成立には欠かせない。少数与党下で野党の要求をのむことによるさらなる膨張が心配だ。
防衛力強化については先の与党税制改正大綱で、財源の法人税とたばこ税の引き上げを26年4月に始めるとした。だが、残る所得増税は異論が強く、開始時期の決定を先送りにした。必要な財源を確保し続けられるか不透明だ。
懸念が拭えないのは、国債の返済費と利払い費を合わせた国債費も過去最大を更新することである。日銀の利上げを受けた長期金利の上昇に伴い、利払い費の算出に使う想定金利を引き上げることで利払いが増えて返済費もかさみ、先行きへの不安は募る。
歳入のうち、新たな国債発行は前年度より少ないが、依然として高水準で財政健全化は遠い。国・地方の長期債務残高は24年度末時点で1315兆円に上り、対国内総生産(GDP)比214%に到達する見込みとなっている。
格付け会社による国債の格下げリスクもあり、政府はこれ以上の債務増を避けたい考えだ。今後示される新たな財政試算で、国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)を25年度に黒字化する政府目標が達成できるかどうかが焦点となろう。
地方交付税の総額は、特別会計での調整を経た自治体への配分ベースで7年連続の増額だ。支出が増えている人件費や社会保障に対応するもので、自治体の借金である臨時財政対策債の発行額は初のゼロとなる。地方財政の健全化に寄与する形である。
与党は来年1月召集の通常国会で予算案を提出し、3月末までの成立を目指す。与野党間の政策協議は、国民民主党が主張する「年収103万円の壁」引き上げや日本維新の会が求める教育無償化を巡り本格化するとみられる。
とはいえ、さらなる予算の膨張は多額の借金を抱えることになり、少子高齢化が急速に進む日本において、深刻な懸念となる。将来世代に回るつけは膨らむ一方である。
政府予算案 聖域なき修正、ためらうな(2024年12月28日『中国新聞』-「社説」)
政府は2025年度予算案を閣議決定した。一般会計は115兆5千億円余り。当初予算ベースで史上最大を更新し、100兆円の大台を超えるのは7年連続となる。
夏の各省庁の概算要求の段階でも肥大化が懸念されていた。ほとんど追認した形になるが、10月の衆院選で自民党と公明党が大敗して予算編成を取り巻く政治状況は一変した。少数与党の下の予算審議はいばらの道であり、臨時国会で何とか成立させた補正予算以上の綱渡りとなろう。
政権から見れば予算案を無傷で通すことを当然視した前年までの感覚は、もう通用しない。歳入と歳出の構造から個別政策の細部に至るまで審議を通じて点検し、見直すべきは見直すという、本来なら当然のスタイルが必要だ。
高齢化の加速によって社会保障費が38兆2千億円強にまで増えたこと。「5年で43兆円」の計画で3年目を迎える防衛費が過去最大の約8兆7千億円に膨らんだこと。さらに異次元の金融緩和から脱する「金利のある世界」も見越し、借金の返済と利払いを合わせた国債費に28兆2千億円余りを計上したことだ。
財源難という印象がやや薄いのは、税収を過去最高の78兆4千億円以上と見積もるからだ。財源不足を補う新規国債の発行も、歳入の4分の1に当たる28兆円強と17年ぶりに30兆円を下回った。しかし物価高で消費税などの税収を押し上げた事情もある点も忘れてはならない。
財政当局の査定を素通りする「聖域化」した部分も少なくないはずだ。最たるものが防衛費だろう。自衛官不足に対応して処遇と勤務環境改善に振り向けるのはいいが、専守防衛を逸脱しかねない敵基地攻撃能力の強化に巨費をつぎ込むのは見過ごせない。
一方で国民に身近な教育では、公立学校教員の基本給に残業代の代わりに上乗せする「教職調整額」が数少ない焦点となった。文部科学省が概算要求で今の4%から13%への引き上げを求めて財務省が難色を示し、まず5%に上げて30年度までに10%へ段階的に増やすことで決着した。
教員の残業の在り方、働き方が絡む難しい問題である。ただ財務省側が「財源確保が難しい」とした理屈はどうなのか。同じことを大盤振る舞いの他省庁の事業にまともに主張しているとは思えない。財政健全化は当然のこととしても単に削りやすいところ、弱い立場の人たちに矛先を向けるだけなら許されまい。
参院選もにらみ、予算案が政局の駆け引きの材料となることが予想される。国民が知りたいのは暮らしの今とこれからに、どう関わるかだ。審議を通じて問題点を浮き彫りにし、与野党でためらいなく修正する姿勢を求めたい。
【25年度予算案】健全化の本気度に疑問符(2024年12月28日『高知新聞』-「社説」)
政府の2025年度予算案は、一般会計の歳出総額が115兆5415億円となり、24年度より3兆円以上増えて過去最大になった。100兆円超えは7年連続、110兆円超えは3年連続となる。
国の予算規模はコロナ禍で大きく膨らみ、政府は24年度から「平時に戻す」方針を掲げている。24年度は12年ぶりに前年度を下回ったが、わずか1年で「平時への回帰」が覆った形になった。
にもかかわらず政府は「財政健全化」を強調している。好調な企業業績などの影響で税収見込みが過去最高の78兆円余りとなり、新規国債発行が前年度を7兆円近く下回る28兆円台にとどまったためだ。
ただ、歳出に占める国債の割合は4分の1を占め、借金依存体質そのものが変わったわけではない。
ここ数年は年度途中に大型の補正予算が組まれ、当初予算の数字が持つ意味が薄れ、財政悪化を助長している。財政健全化に向けた本気度に疑問符が付く状況だと言える。政府は今後の見通しも含めて丁寧に説明する責任がある。
このうち防衛費は、5年で計43兆円を確保する方針に基づき初めて8兆円を超えた。しかし、そもそも十分な議論を経ないままの決定で、財源のめどはなお立たず、予算を執行しきれていない問題もある。在り方を問い直すべきではないか。
国債の償還や利払いに充てる国債費は、金利上昇により想定金利を見直した影響で、4・5%増の28兆円余りとなった。かねて不安視されてきた負担増が顕在化している。今後の金利環境を見通せば、負担はさらに増して財政全体を硬直化させる可能性も高い。
国、地方の長期債務残高は24年度末時点で1315兆円に上り、国内総生産(GDP)の2・1倍になる見込みだ。これ以上の債務増加は避けるべきで、財政健全化の議論を本格化させる必要がある。
予算案の歳出のうち投資的な分野では、「賃上げと投資がけん引する成長型経済」の実現に向けた政策を重点化した。人工知能(AI)・半導体や脱炭素などに力点を置き、石破政権肝いりの地方創生や防災も手厚く措置した。
首相が強調する「経済あっての財政」に基づけば、速やかに成長型経済を実現することが欠かせない。そのために個別の施策の実効性にこだわっていかなければならない。
25年度予算案 平時に戻す姿勢見えない(2024年12月28日『西日本新聞』-「社説」)
経済財政運営の指針、骨太方針に記された「歳出構造を平時に戻す」との政府方針はまたも空念仏に終わった。
政府が閣議決定した2025年度の一般会計予算案は歳出(支出)総額が115兆円を超え、当初予算ベースで2年ぶりに過去最大となった。
歳出の急拡大をもたらした新型コロナウイルス禍が収束し、エネルギー価格の急騰も落ち着きつつあるのに、平時に戻る気配はない。
これに伴い、新たな国の借金である新規国債発行額は28兆円台となり、17年ぶりに30兆円を下回った。財政健全化への一歩と受け止めたい。
それでも財政健全化目標である国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化を25年度に達成するのは困難とみられる。
与党が予算成立の数合わせのために野党の要求を受け入れれば、さらなる歳出拡大につながる。与野党が協議すべきは政策の妥当性だ。
アベノミクスに批判的だった石破氏が首相就任後に変節し、財政拡張路線を続けるのは問題だ。国会で個別の予算の必要性や費用対効果を厳しくチェックしてもらいたい。
2025年度沖縄予算案 平和な将来像を描けない(2024年12月28日『琉球新報』-「社説」)
防衛増強への傾斜が目に付く。これが沖縄の振興、自立的発展に資するのか疑問だ。
政府が2025年度当初予算案を閣議決定した。沖縄関係予算は24年度当初から36億円減の2642億円となった。県が要望する3千億円台を割り込むのは4年連続となった。
一方、防衛省予算の沖縄関連分では米軍普天間飛行場の返還に伴う名護市辺野古の新基地建設で約1919億円、普天間飛行場の補修工事費約87億円を計上した。県内の自衛隊施設整備費は約1030億円で、都道府県別では最大である。先島地域を中心に新たな施設整備を検討する事前調査費を盛り込んでいる。
この予算案を見て、県民は基地負担が軽減され、安心して暮らせる平和で自立した沖縄の将来像を描くことはできない。逆に米軍基地や自衛隊基地の負担が増え、軍事要塞化が進む島々のいびつな姿を予見するであろう。
施政権返還から53年、戦後80年を迎える沖縄の未来を築くはずの予算として評価することはできない。
新基地建設で政府は28日、大浦湾側の軟弱地盤の改良工事に着手すると発表し、県にも通知した。大みそか前の工事着手は県民を愚弄(ぐろう)するものに他ならない。このような強硬姿勢は25年度予算にも反映されていると言えよう。
来年の通常国会で沖縄の予算案を精査してもらいたい。総選挙で多数を占めた野党は存在意義を発揮し、予算案の実質審議に徹してほしい。
25年度沖縄関連予算で、県が使途を決めることができる一括交付金は、24年度比42億円減の721億円で、2012年度の制度創設以来、最低額である。一方、国から市町村などへ交付される沖縄振興特定事業推進費は24年度比10億円増で過去最高額の95億円を計上している。
19年度予算から始まった特定事業推進費は予算配分を通じて国が市町村をコントロールするような性格を有している。沖縄の自主・自立を揺さぶるものであり、本来の沖縄振興施策の在り方にそぐわない。むしろ、県内に分断を招く可能性がある。予算を通じて玉城デニー県政に介入するような意図があるならば許されるものではない。
沖縄関連予算や防衛予算の沖縄分に表れているのは沖縄振興施策の変貌である。
島しょ県であり、返還後も広大な米軍基地を抱えるという沖縄の特殊事情に対応し、本土との格差是正を目指すことが沖縄振興施策の原点であった。根底にあるのは沖縄戦による甚大な戦災とその後の27年にわたる米統治に対する「償いの心」であった。
政府が現在進める沖縄振興施策は、空港・港湾などのインフラ整備を含め、沖縄の軍事拠点化を促すものにゆがめられようとしている。沖縄振興の原点や「償いの心」に逆行するような予算編成を受け入れるわけにいかない。
沖縄予算4年連続減 国会で「なぜ」の検証を(2024年12月28日『沖縄タイムス』-「社説」)
「沖縄振興の経済効果を十分に域内に波及させ、実感していただけるよう、沖縄経済の強化に向けて支援を継続する」
県が併せて要望していた一括交付金も721億円で12年度の創設から最低となる中、「沖縄経済の強化」を実感することは難しい。
本年度は補正予算額が大きかったこともあるが、来年度の一般会計が115兆円と過去最大を更新したのとは対照的といえる。
コロナ禍からの経済回復を確実なものとし、地域の持続的成長につなげる予算となるのか。
産業振興など自立型経済の構築に向けた個々の事業を否定するものではない。とりわけ子どもの貧困対策の充実、新たに盛り込まれた子どものウェルビーイング(心身の健康や幸福)実現に向けた調査などに注目している。
しかし、新基地建設を巡る県と政府の対立が、それとは関係のない予算に影を落とし続ける問題は見過ごしにできない。
沖縄予算の減額が目立つようになったのは、新基地に反対する翁長雄志知事誕生以降の15年度からだ。
新基地を「踏み絵」にした対応と同時にあからさまなのが、県内部の分断である。
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沖縄関係予算の中でも、国が市町村に直接交付する特定事業推進費は10億円増の95億円を計上し、過去最高となった。
見え隠れするのは市町村に対しコントロールを強めたい政府のやり方だ。地域分断の狙いも透ける。
ただ特定事業費は制度導入からの5年間で、執行率が一度も6割にも達していない。使い残した不用額の合計は62億円余りに上る。
政治的思惑が漂う予算であるが故、見積もりや査定に甘さが生じているのではないか。
一括交付金が減額された時、不用額や繰越額の多さが指摘されたが、特定事業費はどうなのか。
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立憲民主党など野党からは予算の増額や、特定事業推進費の見直しなどを求める声が上がっている。
基地との関連性や国の裁量が高まる沖縄予算についてきちんとした検証が必要だ。
沖縄予算は県民のための予算であり、沖縄発展のための予算である。
振興のあるべき姿について踏み込んだ議論を求めたい。