高齢者が家族や介護職員などから虐待を受けた件数は昨年度(令和5年度)、1万8000件あまりで過去最多となり、このうちの90%あまりは家族や親族からによるものだったことが厚生労働省のまとめでわかりました。
このうち家族や親族などによる虐待件数は1万7100件で93.8%を占め、27人が死亡しました。
家族や親族による虐待を詳しく見ると、「種別」は
▽身体的虐待が最も多く65.1%
▽次いで心理的虐待が38.3%
▽ネグレクトが19.4%などとなっています。
また「虐待者の続柄」は
▽息子が38.7%と最も多く、次いで
▽夫が22.8%
▽娘が18.9%
▽妻が7.6%などとなっています。
さらに「虐待の発生要因」は、複数回答で
▽虐待を受けた人の認知症の症状が56.4%
▽介護疲れや介護ストレスが54.8%
▽虐待した人の理解力不足が47.7%などとなりました。
介護する人を支える取り組み 相談にのる喫茶店
家庭で介護する人を支えるための取り組みが地域で進められています。
愛知県春日井市でNPOが運営する「家族介護者支援センターてとりんハウス」は、喫茶店として営業する店舗で、火曜日から土曜日の朝7時半から午後4時まで営業時間中はいつでも、訪れた人の介護の相談に応じています。
介護の経験や専門の知識があるスタッフが、悩みを聞いたりアドバイスをしたりするほか、必要に応じて行政と連携して支援につなげています。
昨年度は533人の相談を行ったということです。
認知症の82歳の妻を自宅で介護している84歳の男性は「妻の介護をする中でいろいろ悩むことがあり、気持ちがうつのようになったこともあった。医師からこの場所を紹介してもらって週に4、5回来て、介護のいろいろな悩みを相談したり同じ境遇の人たちと話したりすることで自分自身の介護への理解が深まって、気持ちも和らいだ」と話していました。
「介護する人は自分の家族だからこそ『なんとかしなければ』とみずからを追い詰めてしまい孤独感を感じていることが多く、悩みを話せる場所があると悩みを抱えているのは自分だけではないことがわかり、救われるところがある」
この施設では介護者の支援事業として春日井市から月5万円の補助を受けていますが人件費や食材費などで毎年度、赤字が続いているということで、岩月さんは「介護者の居場所となる施設がもっと広がってほしいが、現実的にはマンパワーや金銭的な課題もあり維持が難しく、まだ少ないのが現状だ。介護者支援の重要性をもっと知ってもらいたい」と話していました。
専門家「個人の問題でなく 社会の状況で起きている」
家族介護の問題に詳しい日本福祉大学の湯原悦子教授は高齢者虐待が高い水準になっている要因として、次のように指摘します。
日本福祉大学 湯原悦子教授
「介護に必要なさまざまな機関への問い合わせや申請などが必要で、介護する家族などがそうしたことができない人も多い。また医療の進歩によって長寿化が進み、それに伴って家族の介護をする期間も長期化していることが考えられ、介護疲れやストレスがたまってしまう状況もある。高齢者虐待は個人の問題ではなく、社会の状況によって起きていることだ。同じような状況の人を知り合うことは『この人は自分の状況を分かってくれるのでは』とみずからの境遇と重ね合わせることもでき、自分の介護に必要なことを学びとる上で非常に効果的だ。現状は介護者を支援する条例などは各地で作られ始めているが、全国的に広く介護者がみずからの生活を守るために使えるサービスを設けることが必要だ」