経済対策に関する社説・コラム(2024年11月23・24・25・26・30日)

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 自民、公明両党は2025年度の税制改正でガソリンにかかる税金の軽減策の議論を始める。10月の衆院巨額の経済対策/必要性と効果を説明せよ(2024年11月30日『神戸新聞』-「社説」)
 
 政府の総合経済対策が決まった。総額は約39兆円で、2024年度補正予算案の一般会計から13兆9千億円を支出する。新型コロナウイルス禍前を大きく上回る規模となる。
 景気を下支えし成長を促す目的というが、金額の大きさをアピールすることを優先させたようだ。従来の施策を寄せ集めた急ごしらえ感がぬぐえず、緊急性が低いものや効果があいまいな施策が目立つ。肝心の財源は約半分が国債頼みとなる。
 これでは、物価高騰に苦しむ国民の安心にはつながらない。政府は6月に決めた経済財政運営の指針「骨太方針」で、コロナ禍で膨らんだ歳出構造を「平時に戻す」と掲げた。それにも反している。
 なぜこれほど巨額の対策が要るのか。石破茂首相は、期待できる効果を含め、丁寧かつ具体的に説明せねばならない。
 経済対策の柱の一つは「物価高の克服」である。住民税が非課税となっている低所得世帯に3万円を支給し、そのうち子育て世帯には、子ども1人当たり2万円を上乗せする。困窮者への速やかな支援は必要だが、公平性に疑問符が付く。
 住民税非課税世帯は、7割超を65歳以上の世帯が占める。所得が少なくても、預金などの資産が多い高齢者にも恩恵が及ぶ。一方、住民税を納めながら低賃金で困窮する労働者は少なくない。中でも、ひとり親世帯の状況は厳しい。現役世代への目配りが不十分と言わざるを得ない。課税所得による線引きは、見直しが求められる。
 今回も、光熱費を抑える補助制度が盛り込まれた。電気とガス料金への補助金を来年1~3月に再開する。年内で終了予定だったガソリンに対する補助についても、段階的に縮小しながら延長する。
 こうした一律の補助金は富裕層ほどメリットが大きく、「ばらまき」との批判が根強い。市場の価格形成をゆがめる上に、国際的な脱炭素の潮流にも逆行する。これ以上続けるのは望ましくない。
 対策にはほかに能登半島の道路復旧、避難所となる学校体育館へのエアコン設置、地方創生に取り組む自治体への交付金創設などが並ぶが、見逃せないのは30年度までに人工知能(AI)や半導体産業の公的支援に10兆円以上を投じる点だ。
 緊急対策を盛り込む補正予算案は査定や国会での議論が甘くなりがちだ。巨額を投じる以上は当初予算案に計上し、費用対効果についての議論を深めるべきではないか。
 臨時国会では、経済対策の実効性を厳しく見極めることはもちろん、財源の確保とセットになった責任ある議論を与野党に強く求める。

経済対策閣議決定 規模優先の印象否めず(2024年11月26日『秋田魁新報』-「社説」
 
 政府が物価高対応などを盛り込んだ経済対策を閣議決定した。2024年度の一般会計補正予算案に13兆9千億円程度を計上する。数兆円ほどだった新型コロナウイルス流行前を大きく上回る規模で、財源は国債頼みとなる公算が大きい。
 国債発行残高は1千兆円を超え、先進国で最悪の財政状況といわれる。このままでは財政再建が遠のく一方だ。コロナ対応が落ち着き「平時の歳出に戻す」と6月に閣議決定した方針にも反する。
 日本経済は7~9月期の実質国内総生産(GDP)が2四半期連続のプラス成長となっている。そもそもこの状況で、大規模な財政出動を伴う経済対策を行う必要はどれほどあるのか。
 10月15日の衆院選公示日に石破茂首相は「昨年を上回る大きな補正予算を成立させたい」と表明した。政権浮揚を狙い規模を優先させた印象が否めない。
 経済対策の柱の一つは、住民税が非課税の低所得世帯に対する3万円の給付金。子育て世帯には子ども1人当たり2万円を上乗せする。物価上昇の折、生活が厳しい世帯が支援を必要としているのは確かだろう。
 電気・都市ガス代を抑制する補助金も物価高対応として盛り込んだ。酷暑対策で今年10月使用分まで3カ月限定で復活させたが、暖房で需要が高まる来年1~3月の使用分で再度復活させる。12月で終了予定だったガソリン代を抑える補助金も段階的に縮小して1月以降も継続する。
 これらの補助金は高所得世帯も恩恵を受けるものであり、ばらまきと言われても仕方がない。これまで延長や再開を繰り返し、予算累計額は既に11兆円を超えた。化石燃料の消費を促し、脱炭素に反する面もある。
 「地方創生」に取り組む自治体に配る新たな交付金の創設も掲げた。交付額を従来より倍増させる考えだが、過去10年の取り組みで東京一極集中は是正されていない。十分な検証もないままの増額方針は疑問だ。
 経済対策には年収が103万円を超えると所得税が生じる「年収の壁」の引き上げ方針も盛り込まれた。少数与党となった自民・公明両党が、国会運営で協力を得ようと国民民主党の要求を受け入れたものだ。
 「働き控え」の一因とされる壁を引き上げることで、人手不足の緩和やパート従業員らの手取り増が期待される。ただ今後の議論で決まる引き上げ幅によっては国と地方の大幅な税収減が見込まれる。その穴埋めを国債発行に頼れば財政を一層悪化させてしまう。恒久的な財源の議論は避けて通れない。
 国の補正予算は景気悪化や災害への緊急対応などが本来の目的だ。財政規律の緩みは将来につけを回すことになりかねない。予算案は28日召集の臨時国会に提出される。各党は将来世代への責任を自覚し、真摯(しんし)に議論することが求められる。

ガソリン減税は脱炭素や財源との整合を(2024年11月26日『日本経済新聞』-「社説」)
 
 自民、公明両党は2025年度の税制改正でガソリンにかかる税金の軽減策の議論を始める。10月の衆院選で「手取りを増やす」と訴えて躍進した国民民主党の要求を受け入れ、総合経済対策に検討を明記した。
 ガソリンなど燃料油の課税体系は複雑なうえ、当初目的と異なる社会保障などの財源にも流用されている。それらを整理し、財源確保や脱炭素の流れと矛盾せぬよう最適解を探してもらいたい。
 1リットル53.8円のガソリン税は、本則分(28.7円)と特例的な上乗せ分(25.1円)からなる。国民民主は物価高対策として、価格高騰時に上乗せ分を免除する「トリガー条項」の適用を主張。全国平均のガソリン価格が160円を3カ月連続で超えると課税を止め、逆に3カ月連続で同130円を下回れば再開する仕組みだ。
 2010年に創設されたが、翌年の東日本大震災の復興財源確保のため特例法で凍結してきた。
 目先の物価高対策に中長期の財政収入にかかわる税を使うのは賛成できない。特にトリガー条項は発動・停止時に価格が大きく変動する。値下がりを見越した買い控えや値上がり前の駆け込み需要が生じ、販売現場の混乱が必至だ。
 今回の税制改正における検討に意義を見いだすとすれば、あるべき税体系への見直しだろう。
 もともと道路特定財源だったガソリン税は09年に一般財源化された。10年に上乗せ分の廃止を決めたものの、財源確保の観点から「当分の間維持する」とした経緯がある。それが際限なく続いているうえ、流通の過程で消費税が二重に課されているのも問題だ。
 ただし上乗せ分を単純にやめればいいわけではない。財務省の試算では国・地方で計年1.5兆円分の税収減につながる。価格下落に伴って消費が増えれば、脱炭素の取り組みにも逆行する。
 与党はガソリン税だけでなく自動車関係諸税全体で見直しを検討するとしている。税収中立や脱炭素との整合性を考えれば、妥当といえよう。受益者負担の原則に立つなら、ガソリン税は老朽化する道路の補修費や脱炭素支援などの財源に用途を限るのも一案だ。
 総合経済対策で規模を縮小しつつ延長を決めたガソリン補助金は、一日も早く打ち切るべきだ。市場の価格形成をゆがめ、脱炭素にも逆行する政策を、いつまでも続けるのは許されない。 

政府の経済対策 規模でなく妥当性の議論を(2024年11月26日『京都新聞』-「社説」)
 
 緊急性や政策効果が不確かなまま、「規模ありき」の大盤振る舞いを繰り返すのか。
 政府が経済対策をまとめた。裏付けとなる2024年度一般会計補正予算案は14兆円に迫り、23年度の13兆円を上回る。
 物価高に対応し、経済の底上げを図るというが、内容より最初から「昨年度を超える」前提で進んだように見える。財源は国債頼みとなる公算で、財政健全化の目標も遠ざかりかねない。
 経済対策の柱では、住民税が非課税の低所得世帯に3万円を給付し、うち子育て世帯には子ども1人当たり2万円を上乗せするという。
 生活費増にあえぐ困窮世帯への支援は必要だ。ただ非課税世帯の大半は高齢者で、一定の資産を持つ人も含む。一方、対象外でも低賃金で厳しい暮らしを送る非正規労働者らは多く、幅広い目配りが要る。
 電気・都市ガス代への補助を来年1~3月に再開し、年内で終了予定だったガソリン補助金も延長することにも違和感を禁じ得ない。
 これまで延長を繰り返し計11兆円の巨費を充てながら、効果検証は不十分だ。いずれも高所得者や大企業にも恩恵が及び、国際的な脱炭素の流れにも逆行する。
 補正予算の趣旨に合わない支出を含む点も見過ごせない。
 人工知能(AI)や半導体産業に複数年度で10兆円以上の公的支援をする枠組みを創設し、石破茂首相肝いりの地方創生事業では新たな交付金をつくる。中長期的な成長戦略としながら、補正規模の「かさ増し」に潜り込ませた印象が拭えない。
 補正予算は本来、当初予算成立後に起きた景気の急速な悪化や災害への対応が目的で、財政法は「特に緊要となった経費」などに限り支出を認めている。
 かつて1兆~3兆円で推移していた補正予算は、新型コロナウイルス禍で急増した。政府は経済財政運営の「骨太方針」で、膨らんだ歳出構造を「平時に戻す」と昨年から明記し、財政健全化の指標である基礎的財政収支プライマリーバランス)の黒字化目標も掲げる。それなのに惰性で大型補正を組むのでは政策の整合性が問われる。
 さらに、多額の補正予算が未執行のまま繰り越されていると会計検査院が度々指摘していることも、事業の吟味が不十分な実態を浮き彫りにしている。
 経済対策には「手取りを増やす」という国民民主党の訴えに沿い、所得税控除を現行103万円から引き上げることやガソリン減税の検討も明記した。
 国と地方の税収の大幅減など課題も多く、社会保障改革とも絡むため、丁寧な検討が要る。
 補正予算案は28日に始まる臨時国会に提出される。与野党は政治的な思惑を超えた責任ある審議を尽くし、問題点を正さなければならない。

政府の経済対策 規模ありきは容認できぬ(2024年11月25日『信濃毎日新聞』-「社説」)
 
 物価高対応などを盛り込んだ経済対策を政府が閣議決定した。
 必要な経費として13兆9千億円を計上した2024年度一般会計補正予算案を、28日からの臨時国会に提出する。
 低所得世帯への給付金やガソリン料金の補助継続といった生活支援に加え、半導体産業の振興、「闇バイト」対策といった幅広い事業がメニューに並ぶ。
 自治体や民間の支出分を合わせた全体の事業規模は、39兆円程度になると推計している。
 並んだ対策それぞれに、一定の意義はあろう。ただ、厳しい財政状況を押してでもいま本当に必要な事業かどうか、真剣に検討した上での決定とは思えない。
 石破茂首相が「昨年を上回る大きな補正予算を成立させたい」と言い始めたのは、衆院選が公示された10月15日。少数の政権幹部で決定し、財務省に通告があったのは前日深夜だったという。
 中身より先に規模が決まっていたことになる。有権者に大盤振る舞いをアピールし、選挙を有利に運ぼうとしたのではないか。
 23年度の補正予算は13兆1992億円で、事業規模は37兆4千億円。なぞったように上回る金額が打ち出された形となった。
 財政規律を顧みない「規模ありき」の編成と言わざるを得ない。国会で徹底的に精査し、必要性を見極めていかねばならない。
 補正予算はそもそも、災害などで当初予算では足りなくなった場合に緊急に編成するものだ。物価高に苦しむ人を支えるなら対象を十分に絞るべきだろう。
 中長期的に考えるべき産業政策をわざわざ含めたのも理解しがたい。予算規模を満たす狙いがあったのではないか。
 ここ数年、補正予算は新型コロナ対策などで膨張が続いた。コロナ前の19年度に3兆2千億円だったのが、20~22年度は31兆6千億~73兆円で推移した。
 こうした状況を踏まえ、政府は今年6月に決定した経済財政運営の指針「骨太方針」で、「歳出構造を平時に戻す」と掲げていたはずだ。大きな方針を安易に覆したとの批判は免れない。
 国の財政は長年、政策に必要な経費を税収などで賄うことができず、借金、つまり国債の発行に頼る状態が続いている。1990年度末に166兆円だった国債の発行残高は増加を続け、現在は1000兆円を超えている。
 目先の人気取りのため財政負担を安直に先送りすることなど、到底容認できない。

経済対策 生活向上へ真摯な論戦を(2024年11月25日『琉球新報』-「社説」)
 
 政府は、低所得世帯への給付金などを柱とした経済対策を閣議決定した。必要な経費として2024年度の一般会計補正予算案に13兆9千億円程度を計上する。
 予算規模は23年度の約13兆2千億円を上回る。無駄を省き、物価高騰に苦しむ国民の暮らしを真に支える施策となるよう、与野党には真摯(しんし)な国会論戦を求めたい。
 経済対策には、年収103万円を超えると所得税が発生する「年収の壁」の引き上げが明記された。今後はその引き上げ幅や財源が議論の焦点になる。
 「年収の壁」引き上げでは、先の衆院選で躍進した国民民主が最低賃金の上昇率に基づき、178万円への引き上げを要求しているが、税収減を懸念する与党は慎重姿勢だ。政府与党内では一定所得以上の富裕層への適用を制限する案や、地方税の個人住民税を国税所得税と分離して議論し、非課税枠を引き上げる場合は所得税より幅を小さくする案も浮上している。
 地方自治体には税収減への懸念も根強いが、衆院選で手取り増を公約にした国民民主は議席を大幅に伸ばした。共同通信社世論調査でも「年収の壁」見直しには69・9%が賛成している。
 8、9月の実質賃金は前年同月比で減少している。経済対策には最低賃金全国平均1500円への引き上げ目標や賃上げ促進などを盛り込んだが、高止まりする物価に追い付いていない現状が続く。
 減収分の補塡(ほてん)は検討すべきだが、政府は国民が求める施策に向き合うべきだ。一定条件で社会保険の加入が必要になる「106万円の壁」なども合わせて議論し、多くの国民が手取り増を実感することで消費喚起につながり、景気回復に伴う税収増につながる可能性もある。
 経済対策では、住民税が非課税となっている低所得世帯を対象に3万円を支給することや、ガソリン代を抑える補助金の継続、電気・都市ガス代の補助も再開する。地方創生では交付金を倍増する方針を掲げた。
 物価高の影響が大きい低所得世帯への手厚い支援は評価できよう。しかし電気・都市ガスの補助金は終了と再開を繰り返している。ガソリン代補助も年内を期限としていた。地方創生では、14年のスタート以降も地方からの人口流出、東京一極集中には歯止めがかからない。補助金の効果やこれまでの地方創生の取り組みの効果を検証し、次の施策につなげなければ、ばらまきとの批判は免れない。
 ガソリン減税については「自動車関係諸税全体の見直しに向けて検討し、結論を得る」とした。ガソリン税には、暫定税率廃止に伴い創設された特例税率が含まれているほか、消費税も課せられており「二重課税」の指摘もある。「年収の壁」とも合わせ、税の在り方について議論すべき時期に来ていると言えよう。

経済対策 バラマキ排す国会論議を(2024年11月24日『北海道新聞』-「社説」)
 
 物価高対応を柱に、政府は地方自治体や民間企業の支出分を含め計39兆円規模に及ぶ新たな経済対策を閣議決定した。
 このうち本年度一般会計補正予算案には昨年度補正を上回る13兆9千億円を計上する。家計支援や能登半島地震・豪雨復興など喫緊の課題に絞った内容なのか精査が必要であろう。
 これまでも巨額の補正予算の多くが未消化で繰り越されたことは会計検査院が指摘している。アベノミクス以降のバラマキ踏襲を排するべきである。
 経済対策を巡り少数与党である自民、公明は国民民主の「年収103万円の壁」引き上げ要求を受け入れた。国民民主は補正予算案に賛成意向という。
 事前に丸のみする姿勢には問題がある。衆院選有権者与野党伯仲での審議活性化を求めたことを忘れてはならない。
 経済対策には「手取りを増やす」という国民民主の訴えに沿い、所得税控除を現行の103万円から引き上げることやガソリン減税検討を明記した。
 だがいずれも来月の税制改正大綱に盛り込む内容で、補正予算案には直接関係なく違和感が残る。予算案通過と引き換えに税制論議の主導権を握る思惑が先行し不透明さは拭えない。
 物価高対応では低所得世帯への給付金や、現在中断している電気・ガス料金支援の来年1~3月再開のほか、3年近く続くガソリン代補助も継続する。
 困窮する家計への支援は欠かせないが、バラマキがインフレを促す逆効果もある。そもそも急速な円安という原因を解消しなければ効果は薄れるだけだ。
 立憲民主が独自にまとめた補正予算案は7兆4千億円と政府案の約半分だ。与党の事前審査を通れば可決していた従来と違い、国会の場で修正も含めた実質的な審議が求められる。
 一方で人工知能(AI)や半導体産業には一般会計とは別に特別会計を通じ2030年度までに10兆円以上財政支援する。
 千歳で次世代半導体の製造を目指すラピダス(東京)も対象で、デジタル化や経済安全保障の観点から投資は必要という。
 重要な産業戦略の枠組みは年度途中の経済対策でなく、本予算案で腰を据えて審議するのが筋だ。米IBMから技術支援を受けるラピダスだが、米国はトランプ次期政権で半導体産業の自国回帰を進める恐れもある。
 財政制度等審議会では有識者委員から「一時の勢いで推し進める」ことに懸念が出た。特別会計で目の行き届かぬことがないよう、国会は投資効果を厳しくチェックしてほしい。

政府の経済対策 「規模ありき」でいいのか(2024年11月24日『中国新聞』-「社説」) 
 
 「規模ありき」でかき集めた政策が、物価高にあえぐ国民の暮らしを本当に改善できるのか。甚だ疑問だ。
 政府が新たな経済対策を閣議決定した。民間支出などを含めた総額は39兆円に上る。裏付けとなる2024年度補正予算案の一般会計から13兆9千億円の支出を見込む。昨年度の補正予算を7千億円上回る規模だ。
 中には当初予算に入れるべき政策や中長期的な事業も散見される。補正予算は財政法に従い、緊急に必要となった経費に限るのが筋だ。
 そもそも政府の経済財政運営の指針「骨太方針」では、新型コロナウイルス対策で膨らんだ歳出構造を「平時に戻す」と掲げている。23年度に続き巨額の補正予算案を組んでいては財政健全化の本気度を疑われても仕方あるまい。
 政府は今夏、25年度の国と地方の基礎的財政収支プライマリーバランス)が34年ぶりに黒字化するとの試算を公表した。これまで通り補正予算の財源を国債に頼るなら、黒字化が見通せなくなるのは確実だ。軸足の定まらない対応と言わざるを得ない。
 補正予算案が膨れ上がった責任は石破政権にある。石破茂首相は衆院選公示日の第一声で「昨年を上回る大きな補正予算を成立させたい」と宣言していた。自民、公明両党の苦戦が予想された選挙対策だったのは明らかだろう。
 象徴的なのは電気・ガス料金の補助金を来年1~3月に再開することだ。使用量が増える冬に家計を支える狙いは分かるが、そもそもはロシアのウクライナ侵攻で燃料価格が一時的に高騰したことへの時限措置だったはずだ。燃料価格は落ち着き、大手電力会社の多くが過去最高益を上げた。今の料金体系が適切かを検証する方が先ではないか。
 継続が決まったガソリン料金への補助金も、石油元売り会社に給付する今のやり方で十分に家計を支援できているのか疑念が残る。恩恵は車を持っている人に限られ、脱炭素化にも逆行する措置である。少なくとも廃止時期を明確にする必要がある。
 住民税の非課税世帯に3万円を給付する政策は、資産があって裕福な高齢者も対象となる。低賃金で働く人を含め、物価高で困窮する層に絞った支援策を探るべきだ。貴重な財源は、真に支援が必要な人たちや地域に重点的に振り向けてもらいたい。
 経済対策全体を見ても急ごしらえの印象だ。地方創生の交付金は25年度予算での倍増を掲げただけで中身は曖昧なまま。過去10年の効果や事例を検証し、自主的で特色ある取り組みにつなげてほしい。
 安倍政権以降の自民1強体制下で歳出のたがが緩み過ぎた。少数与党となった今こそ、与野党一体で財政規律を取り戻さなければならない。
 補正予算案を審議する28日召集の臨時国会で、政府・与党は政策協議を進める国民民主党だけでなく、他の野党の意見も真摯(しんし)に受け止めて議論を深める必要がある。その過程で新たなばらまきが生まれるようでは本末転倒だ。各党に自覚と責任を求めたい。

借金と文豪(2024年11月24日『高知新聞』-「小社会」)
 
 文豪の借金話は枚挙にいとまがない。その中で川端康成は、金を借りることへの感覚が人とは違っていたようだ。親交が深かった僧侶で作家の今東光が雑誌のインタビューで語っている。
 大正の頃、一緒に菊池寛の家を訪ねた。川端は1時間ほど黙ってから「200円要るんです」。すみませんが…という空気ではなかったらしい。鋭い目で1時間見つめられた菊池は観念したのかどうか。金を渡すと、「さよなら」。
 川端は造詣の深い美術品収集家でもあった。とはいえ、何千万円もする絵を「それいただきましょう」。どう金を工面するのか。今東光には見当がつかない。「あるやつが出せばいいんだから」という考えに見えたと笑う(山口謡司著「文豪たちのずるい謝罪文」)。
 政府の経済対策が決まり、国民民主党が求めていた年収「103万円の壁」の引き上げが盛り込まれた。諸式高騰の折。手取りが増えれば、助かる家庭も多いだろう。今後は、どこまで引き上げるかの綱引きになってくる。
 ただ、壁が178万円になると年7兆~8兆円の税収が減るという。地方自治体からは、教育や子育て支援といった「行政サービスに支障を来す」の悲鳴も。穴埋めの金はどう工面するのか。国民民主もそこは、「与党の責任だ」。
 防衛費増、少子化対策。昨今の政府は財源があいまいな政策が目立っている。責任ある政治ならば、川端流の見当がつきにくい借金頼みでは困る。

政府の経済対策 暮らしを支える内容か(2024年11月24日『沖縄タイムス』-「社説」)
 
 前年度の補正予算と似たメニューが並び、緊急性のない事業も目に付く。これでは「ばらまき」と言われても仕方ない。
 政府が新たな経済対策を決定した。
 物価高を克服するため、住民税非課税の低所得世帯へ配る3万円の給付金が目玉だ。そのうち子育て世帯には子ども1人当たり2万円を上乗せする。
 昨年は定額減税を受けられない非課税世帯へ7万円を支給した。
 今回は賃上げで賄いきれない部分を補うことを重視し、子育て世帯に手厚くした形だ。低所得世帯ほど物価高の影響は深刻だ。暮らしへの目配りは理解できる。
 12月に終了予定だったガソリン代の補助は縮小しながら継続する。電気・都市ガス代の補助は来年1~3月に再開する。
 家計負担が大きく困窮層の支援につながる一方、大企業ほど恩恵を受ける側面もある。一時しのぎの延長ではなく、困窮層に絞った効果的な対策につなげるべきだ。
 本来、補正予算での大規模な経済対策は緊急的な施策である。財源不足の中、より効果的な支出が求められる。
 ところが、石破茂首相は衆院選公示日に「昨年を上回る大きな補正予算を成立させたい」と表明した。
 経済対策にかかる経費として一般会計補正予算案に13兆9千億円を計上。地方自治体や民間企業の支出分を合わせた事業規模は39兆円に上る。
 いずれも前年度を上回る。「規模ありき」の感は否めない。
■  ■
 昨秋の経済対策で当時の岸田文雄首相は、実質国内総生産(GDP)成長率1・2%程度が見込めるとした。
 しかし今年7~9月の成長率は0・9%にとどまっている。同じようなメニューで物価高を克服できるのか。
 経済対策の決定に際し石破首相は「暮らしが豊かになったと感じてもらうためには、現在、将来の賃金、所得が増えることが必要だ」とした。それについて異論はない。
 だが、人工知能(AI)や半導体産業へ複数年にわたり公的支援する枠組みの設置などは本来、当初予算に計上すべきである。
 地方創生に取り組む自治体には新たな交付金を配分する。一方、交付金を巡っては自治体の使い方に対する懸念も出ており、都度効果の検証が欠かせない。
■  ■
 年収103万円を超えると所得税が発生する「年収の壁」の引き上げも盛り込まれた。
 選挙で公約した国民民主党が主導権を握り、今後引き上げ幅などの協議が始まるが、恒久的な減税策は国や地方の財政への影響が大きい。政治的アピールの材料とするのではなく、慎重な議論が必要だ。
 補正予算は真に急がなければならない対策に重点的に充てられるべきだ。膨張する予算案に無駄はないのか。首相は国会で丁寧に説明すべきだ。

経済対策閣議決定 政権維持へ、大型補正またも(2024年11月23日『河北新報』-「社説」) 
 

 働く人の手取りを増やして経済を底上げし、物価高を克服するという。誠に結構な狙いだが、裏付けとなる財源の決定はまたも先送りだ。
 国債依存が深まり、財政健全化がさらに遠のくばかりではない。深刻な税収減に見舞われかねない地方からは早くも悲鳴が上がっている。
 所得税の非課税枠拡大やガソリン減税の検討などで政策合意した自民、公明、国民民主の3党はもはや「負担増」を巡る議論から逃れられないことを認識すべきだ。
 政府はきのう、物価高への対応などを盛り込んだ新たな経済対策を閣議決定した。
 事業規模は地方自治体や民間企業の支出分を含め計39兆円程度。関連経費として2024年度の一般会計補正予算案に約13兆9000億円を計上し、年内の成立を目指す。
 石破茂首相は衆院選が公示された先月15日、福島県いわき市での第一声で「経済対策を基に大きな補正予算を編成したい」と述べ、23年度を上回る規模にすると表明した。
 「政治とカネ」の問題を巡る逆風をかわし、予算を握る与党の強みをアピールする思惑が当初から透けて見えた。
 政府は財政健全化の指標である基礎的財政収支プライマリーバランス)を25年度に黒字化する目標を掲げる。実現には24年度補正予算の歳出規模を前年度の13兆1992億円より大幅に抑えなければならないはずだった。
 補正予算は本来、当初予算を組んだ後、想定外の支出が必要な場合に編成すべきものだ。政権維持の道具になっていないか、疑問が残る。
 少数与党となった自、公両党は国民民主の主張をのみ、所得税がかかり始める年収「103万円の壁」引き上げを明記し、暫定税率廃止などによるガソリン減税を検討する方針も盛り込んだ。
 政府の試算では、国民民主が求めるように非課税枠を178万円にした場合、国・地方合わせて年間7兆~8兆円の税収減となり、ガソリン減税では約1兆5000億円の減収となる。
 現時点でこれらを補う財源は見いだせず、全国知事会長の村井嘉浩宮城県知事が「県や市町村はたちどころに財政破綻する」と懸念を示したのも当然だろう。
 今後本格化する25年度税制改正を巡る議論で思い切った改革を打ち出さない限り、いずれの財源も国債頼みとなる公算が大きい。
 税制改正の議論では防衛費増額のための法人、所得、たばこ3税の増税や、年末に期限切れとなる中小企業減税の扱いなど難題が山積みだ。特に防衛増税の実施時期は22、23年と2年連続で決定を先延ばししてきた経緯がある。
 政権の都合で財政規律を置き去りにしてきたツケが、この物価高のさなかに回ってきたと言える。逃げ続けてきた「負担増」の判断に、今度こそ向き合わねばなるまい。

【政府の経済対策】「賢い支出」考えたい(2024年11月23日『福島民報』-「論説」)
 
 政府は、物価高への対応などを柱にした経済対策を閣議決定した。昨年度を7千億円ほど上回る13兆9千億円程度が関連経費として一般会計補正予算案に計上され、財政膨張路線の手じまいには至らない見通しとなった。政策効果の高い歳出を希求する経済用語「ワイズ・スペンディング(賢い支出)」の精神に国民一人一人が立ち戻り、国家予算の在り方を再考する時期を迎えている。
 石破茂首相は衆院選期間中から、昨年度の13兆1992億円を上回る補正予算の編成を目指すとしてきた。少数与党として来年夏の参院選を見据えれば、政権は国民の家計支援に一層重きを置いた政策運営に傾くとの見方も少なくない。新型コロナ禍でふくれ上がった財政状況に危機感を抱き、健全化に取り組む必要がある。
 経済対策には、103万円の「年収の壁」引き上げが明記された。税制改正に向けた議論では、地方財政への影響を考慮した制度設計が不可欠だ。手取りの増加分を貯蓄に回さず、消費に向ける流れをいかに生み出すかといった視点も求められよう。
 電気・都市ガス代の補助再開やガソリン料金の支援を巡る項目も盛り込まれた。物価高と止まらぬ値上げが生活を圧迫する厳しい現状は十分に理解できる。ただ、段階的に縮小するとはいえ、ガソリン料金の抑制策は化石燃料への依存を長引かせ、省エネの技術開発の足かせになるという指摘も忘れてはならない。
 地方の立場からすれば、石破首相の「一丁目一番地」である地方創生への手厚い後押しも望みたい。インバウンド(訪日客)が観光振興の起爆剤となっているが、受け入れ体制の充実に向けた費用を補助するとした。将来的な誘客の呼び水となる制度構築と財政的な支援に向けたさらなる検討があってもいい。
 与党内をはじめ、衆院選で他党が掲げた公約にも十分に目を配るべきだ。例えば、先の自民党総裁選の立候補者は福島市の演説会で、「各地に日本経済を駆動するエンジンをたくさんつくる」と表明した。地域ごとの特色ある産業集積は経済安全保障の機能を高め、地方活性化に資する可能性を秘めている。成長戦略こそ、未来への最も賢い支出だろう。(菅野龍太)

22兆円規模の経済対策 生活底上げにつながるか(2024年11月23日『毎日新聞』-「社説」)

 

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経済対策が報告された政府与党政策懇談会で発言する石破茂首相(右から2人目)=首相官邸で2024年11月22日、平田明浩撮影
 いくら予算の規模を膨らませても、物価高に苦しむ国民の暮らしを底上げできるとは限らない。
 石破茂首相が就任して初の経済対策がまとまった。22兆円規模の大型財政出動となる。
 柱に据えたのは、ガソリン代と電気・ガス料金への補助金支給を継続することだ。高所得者にも恩恵が及ぶばらまきである。
 物価高で最も打撃を受けたのは低所得者だ。本来、そうした人の支援に重点を置くべきである。
 だが、対策で示された手法には疑問符が付く。
 低所得者に3万円を給付するが、対象は従来と同様、住民税がかからない年収100万円以下などの世帯だ。高齢者が7割以上を占め、所得が少なくても、預金などの資産を持つ人がいる。一方、対象外でも、低賃金で困窮する非正規労働者は多い。
 注目されるのは、「103万円の壁」解消に向けた対応を盛り込んだことだ。衆院選過半数割れした自民、公明両党との協議で、国民民主党が求めていた。
 所得税がかからない水準を「年収103万円以下」から引き上げる。約30年間据え置かれたため、物価上昇などに応じた見直しは必要である。
 ただ国民民主は幅広い層の減税を目指している。主張する178万円に上げると、高所得者ほど減税額が大きくなってしまう。
 税収の減少も年7兆~8兆円に上ると試算されているが、穴埋めする財源はあいまいなままだ。
 少数与党の自公が政権維持を優先したとみられても仕方がない。
 物価高を上回る賃上げ実現には日本経済の地力を強めることが不可欠だ。この点も新味に乏しい。
 首相肝煎りの地方創生を「成長の主役」と位置付け、新たな交付金創設を表明した。だが政府が地方創生を掲げて10年が経過しても東京一極集中には歯止めが掛かっていない。これまでの交付金の効果の検証も不十分なままだ。
 半導体生産などを後押しするため多額の資金を投じるが、国際的な出遅れを挽回できる保証はない。過去の支援も失敗続きだった。
 大盤振る舞いによって、借金漬けの財政がさらに厳しくなるのは必至だ。将来世代へのツケを増やす事態に陥ってはならない。

経済対策決定 惰性でバラマキを続けるのか(2024年11月23日『読売新聞』-「社説」)
 
 政策効果を吟味せず、規模ありきで歳出を膨らませたと言わざるを得ない。日本の成長力を高める施策にこそ、資金を重点的に投じるべきだ。
 政府は、物価高への対処などを掲げた経済対策を閣議決定した。これを受けた2024年度補正予算案は、一般会計からの支出が13・9兆円程度で、前年度補正予算の13・1兆円を上回る。
 民間支出を含めた事業規模は39兆円程度に上るという。
 日本経済は、賃金と投資がともに増える「成長型経済」へと転換を図るべき局面にあり、資金は戦略的に使っていく必要がある。
 コロナ禍の影響も薄れ、景気が緩やかな回復を続ける中、政府自らが昨年6月、経済成長と財政健全化を両立させるために、「歳出構造を平時に戻していく」との方針を決めていたはずだ。
 それにもかかわらず、予算規模が膨らんだのは、石破首相が、先の衆院選の期間中に内容の吟味がないまま、前年度を上回る規模にすると言及したことが大きい。
 その結果、必要な施策を精査して積み上げたものではなく、はじめから規模ありきで、バラマキ型の補正予算案となった。
 巨額な支出に見合う効果が乏しく、惰性で続けている施策の典型が、住民税の非課税世帯への3万円の給付金だろう。コロナ禍以降、この種の給付金は何度も繰り返され、昨年秋の対策でも7万円の給付金が盛り込まれた。
 住民税の非課税世帯は、65歳以上の世帯が大半を占め、金融資産が多い高齢者にも恩恵が及ぶ。むしろ現役世代への支援を手厚くすべきだとの声も根強い。
 電気・ガス代への補助金制度を、来年1月から3月まで再開し、年内を期限としていたガソリン補助金を延長することも問題だ。
 こうした補助制度には既に、総額11兆円を超える予算が充てられた。財政を圧迫するだけではなく脱炭素の流れにも逆行しよう。
 物価高を克服して、日本経済を強化していくためには、脱炭素やデジタル化、人手不足を解消する省力化といった重要分野に、資金を活用していくことが大切だ。
 AI(人工知能)・半導体分野へは、30年度までに10兆円以上の支援を行うという。リスクを精査しながら着実に進めてほしい。
 対策には、年収103万円を超えると所得税がかかる「103万円の壁」の見直しも明記した。人手不足の緩和などの利点と財源確保策のバランスを考慮し、適切なあり方を検討してもらいたい。

これほど巨額の経済対策は必要なのか(2024年11月23日『日本経済新聞』-「社説」)
 
 今回も「まず規模ありき」だった。22日に閣議決定した巨額の経済対策は、財源を国債の増発に頼る公算が大きい。どれだけの効果を期待できるかもみえない。次の成長につなげる「賢い支出」からほど遠いのは残念だ。
 経済対策では、2024年度補正予算案の一般会計から13.9兆円の支出を見込む。財政投融資特別会計を含めた「財政支出」は21.9兆円ほどになり、民間資金も合わせた事業規模はおよそ39兆円に膨らむ見通しだ。
 石破茂首相は先の衆院選のさなかに「(約13兆円だった)昨年を上回る大きな補正予算」を成立させると表明した。
日本経済は緩やかな回復を続けている。巨額の財政支出は物価高を助長するおそれもある。だからこそ政府は6月に決めた経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)で、新型コロナウイルス対策で膨張した歳出を平時に戻すと明記したはずだ。
 にもかかわらず、なぜ昨年を上回る必要があるのか。首相ははっきりと説明すべきだ。
 はじめから歳出規模が決まった急ごしらえの経済対策だけに、これまで実施してきた政策の復活や延長が目立つ。
 物価高対策として、電気・ガス料金の補助を25年1〜3月に再び実施する。23年1月に開始し、いったん終了したあと24年8〜10月に復活させたものだ。
 年内を期限としていたガソリン補助金も、規模を縮小して延長する。市場の価格形成をゆがめ、脱炭素にも逆行する政策をだらだらと続けるのには賛成できない。
 半導体人工知能(AI)分野の強化には、30年度までに10兆円以上を投じる方針を盛り込んだ。成長の種をまく支出は必要だ。根拠に基づく政策立案(EBPM)の視点で、効果をしっかり見極めてもらいたい。
 今回の対策には、所得税がかかる年収の最低ラインである「103万円の壁」の引き上げを明記した。野党の国民民主党が要求し、与党の自民、公明両党がのんだ。
 国と地方で7兆〜8兆円の税収減が見込まれる。その財源をどうするかは先送りした。国民民主が財源は「政府が考えるべきだ」と主張するのはあまりに無責任だ。
 日本の財政が危機的な状況にあるのは変わりない。与野党は責任を共有し、成長と財政健全化の両立を目指すべきだ。

総合経済対策 予算の無駄は許さない(2024年11月23日『東京新聞』-「社説」)
 
 政府が、物価高対策として低所得者向けの給付や電気・都市ガス料金の補助再開などを盛り込んだ総合経済対策を閣議決定した。対策の財源となる2024年度補正予算案は一般会計の支出分だけで約13兆9千億円に膨れ、23年度の13兆1千億円も上回った。
 ただ、対策には緊急を要しない中長期的な課題への対応も盛り込まれており、28日召集の臨時国会では、無駄な予算の膨張を抑えるために真剣な議論を求めたい。
 議論の焦点は、衆院選で躍進した国民民主党が引き上げを求めた「103万円の壁」。年収103万円を超えると所得税が課されるもので同対策には「引き上げ」が明記されたが、具体的内容は12月の税制改正に議論を委ねた。25年度税制改正大綱に引き上げ幅など中身が反映される見通しだ。
 「103万円の壁」の引き上げは手取り増につながる可能性が高く、基本的に異論はないものの、社会保険料が発生する「106万円の壁」「130万円の壁」もあり、世帯によって負担が生じる年収の境目が異なる。
 より多くの世帯で手取りが増えるよう、税金と社会保険の「壁」の双方を合わせて、きめ細かく見直すことが必要ではないか。負担の公平性や財源の確保にも配慮して議論を深めてほしい。
 今回の対策では物価高騰の打撃をより強く受ける住民税非課税世帯に3万円をめどに給付し、子育て世帯には子ども1人当たり2万円を加える。生活必需品の高騰は収まらず、生活困窮世帯への給付はやむを得ないが、住民税を払う所得があっても生活苦の世帯は多い。政府は線引きの根拠について丁寧に説明する必要がある。
 対策には人工知能(AI)と半導体産業への公的支援や「闇バイト」事件に対するネット監視の強化なども盛り込まれた。重要だが中長期的課題でもあり、予期せぬ事態に対処する補正予算の趣旨にはそぐわない。
 会計検査院は決算検査報告で22年度補正予算のうち1兆4873億円が翌年度に繰り越されたと指摘し、5985億円を「不用」と認定した。各省庁が政権の優先課題を利用して予算を水膨れさせていたことが裏付けられた形だ。
 限りある予算を省益拡大の具にすることはもはや許されない。政府の無駄を省き、暮らしを支える対策と予算に注力してほしい。

経済対策決定 財政悪化の懸念拭えない(2024年11月23日『山陽新聞』-「社説」)
 
 政府が新たな経済対策を閣議決定した。裏付けとなる2024年度一般会計補正予算案は13兆9千億円程度に上り、23年度補正予算の13兆1992億円を上回る見込みだ。経済を底上げし、物価高に対応する狙いがあるとはいえ、財源は国債頼みになる公算が大きく、財政悪化の懸念は拭えない。
 政府は、財政健全化の指標である基礎的財政収支プライマリーバランス)を25年度に黒字化する目標を掲げ、今年夏に公表した中長期試算で同年度に8千億円程度の黒字になると見込んでいた。ただし、歳出効率化を前提とし、24年度途中の補正予算も考慮しておらず、目標達成は厳しくなったと言わざるを得ない。また、政府の経済財政運営の指針「骨太方針」には新型コロナウイルス禍以降に膨らんだ歳出を「平時に戻す」と明記しており、巨額の支出は整合性を問われよう。
 経済対策は、低所得で住民税が非課税となっている世帯への給付金、電気・都市ガス料金補助の再開、ガソリン料金の高騰を抑制する補助の継続などを盛り込んだ。
 地方創生に関しても、地域資源を最大限活用した農林水産業や観光産業などの高付加価値化を支援する方針を掲げた。国には使い道を厳しくチェックするだけでなく、地方の自主性を引き出す視点が求められよう。
 対策作りで焦点となったのは、自民、公明両党が「部分連合」を目指す国民民主党の要求を盛り込むかどうかだった。3党協議の結果、国民民主が求めてきた年収103万円を超えると所得税が生じる「年収の壁」の引き上げと、ガソリン税減税の検討を明記した。
 年収の壁が見直されれば、手取りが増え、働く時間の抑制や企業の人手不足の解消につながる面もあろう。
 だが、国民民主の主張通り103万円から178万円まで引き上げた場合、国と地方で年7兆~8兆円の税収減が見込まれる。このうち地方分は約4兆円。さらに所得税の33・1%は地方交付税の原資になっており、1兆円強を失う計算になる。
 地方の首長からは「困るのは自治体だ。行政サービスに大きな影響が生じる」(全国知事会で税財政分野担当の河野俊嗣宮崎県知事)といった声が上がる。地方の懸念は当然であり、地方向けの財源を十分に確保しなければならない。精緻な議論が必要だ。
 ガソリン税に関しては「自動車関係諸税全体の見直しに向けて検討し、結論を得る」とした。暫定税率を廃止した場合、国と地方の税収が年間計1兆5千億円減る。こちらも税収の穴を埋める手だてが欠かせない。
 加えて、減税でガソリン価格を抑えれば、省エネへの意欲がそがれ、化石燃料への依存が続くことになる。脱炭素社会を目指す政府の目標と矛盾する点も問題だ。

【国の経済対策】必要性や効果の精査を(2024年11月23日『高知新聞』-「社説」)
 
 物価高に苦しむ国民の生活を支える施策は必要だが、財政悪化や財源不足の懸念は放置できない。必要性や費用対効果の精査が必要だ。
 政府は、事業規模で約39兆円に上る経済対策を決定した。その裏付けとなる費用約13兆9千億円を計上した2024年度一般会計補正予算案を臨時国会に提出する。事業、予算ともに23年度を上回る規模で、石破茂首相は「賃金や所得を増やすよう全力を尽くす」と強調した。
 ただ、今回の経済対策は、9月の自民党総裁選や10月の衆院選に際して支持獲得のために浮上した経緯がある。補正予算の財源の多くは国債頼みになる公算が大きい。基礎的財政収支プライマリーバランス)の25年度黒字化を目標に掲げる政府の方針とは逆行する部分がある。
 黒字化には、新型コロナウイルス禍で最大73兆円(20年度)にまで膨らんだ補正予算を、1兆~3兆円台だったコロナ前に戻す必要があった。また、年度途中の緊急の財政需要に対応するのが補正予算の本来の趣旨であることを踏まえれば、規模の膨張には疑問符もつく。
 少数与党になった自民、公明両党と、国民民主党の協議で、国民民主が求めてきた「年収の壁」引き上げなどの項目も明記された。細部は今後に委ねられたが、それも含めれば対策の実質規模はさらに膨らむ。
 「年収の壁」の見直しなどは税収減に直結する。総じて財政面、財源面の懸念は後回しにされているのが実情だ。将来に責任を持った議論が求められる。
 経済対策は「日本・地方経済の成長」「物価高の克服」「国民の安心・安全の確保」を柱とした。このうち物価高対策は、低所得者向け給付金や電気・ガス代の支援再開、ガソリン代補助の継続を盛り込んだ。
 低所得者ほど物価高の負担感が大きく、むしろ対応が求められる局面だ。一方で、エネルギー料金の支援は、富裕層や好業績企業にも恩恵が及ぶ。脱炭素化にも逆行する。ばらまきの要素が強くないか、必要性を吟味すべきだ。
 経済成長では、半導体人工知能(AI)産業に対する10兆円以上の公的支援に向けた枠組みをつくるほか、地方創生関連の交付金、賃上げ目的の中小企業支援策などを盛り込んだ。ただ、多くは継続的に取り組んでいるものだ。補正対応の必要性があるのか。「総額ありき」だったのでないか。説明が求められる。
 「年収の壁」見直しなど税制改正の方向性を、経済対策で担保したのは異例と言えるだろう。今回の3党協議は、少数与党の石破政権が国民民主と連携する初の事例であり、ひな型になる可能性を考えれば政治的な意味も小さくない。
 一方で、国民民主の要求が強く反映された結果、税収減による財源面の不安も膨らんでいる。協議のヤマ場はこれからで、予断を許さない。これまで自公のみで決まっていた政策をどう決めていくか。他の野党も含めて、国会、国政の転換点にあるとの意識で臨む必要がある。