「紀州のドン・ファン」不審死 須藤早貴被告無罪判決について弁護士が見解 「自分で摂取の可能性」消せず「消去法」に失敗した検察(2024年12月13日『デイリースポーツ』)

 須藤早貴被告無罪判決について弁護士が見解 ※写真はイメージです(moonrise/stock.adobe
 2018年に「紀州ドン・ファン」と呼ばれた和歌山県田辺市の資産家野崎幸助さん=当時(77)=に覚醒剤を飲ませて殺害したとして、殺人罪などに問われた元妻須藤早貴被告(28)の裁判員裁判和歌山地裁は12日、無罪判決を言い渡した。
 須藤被告への判決について、弁護士法人ユア・エースの正木絢生代表弁護士がデイリースポーツの取材に応じた。
 正木弁護士は無罪判決の理由を「直接証拠がなく、状況証拠しかない中で、『疑わしきは被告人の利益に』という刑事裁判の大原則に従い、検察官が集めた状況証拠を総合しても、被告人が罪を犯したと認めるには合理的な疑いの余地があるとの判断がなされた」と説明した。
 一方で、検察側は物的証拠がないことは承知の上で「消去法での有罪」を狙ったとの見方もされているが、この点には「裁判所は『被告人以外の第三者による他殺の可能性や自殺の可能性はないと言える』とし、この範囲では検察官の消去法は成功しています」と解説。一方で「しかし、野崎さんが自分で摂取した可能性を消去できなかったという点で、消去法に失敗したということだと思います」とも説明した。
 また野崎さんの死因は急性覚せい剤中毒で、経口摂取とされていることから「覚せい剤は非常に苦い物質と言われており、覚せい剤使用事犯で口から摂取する犯行は見当たりません」とし、「野崎さんの意思に反して致死量の覚せい剤を口から摂取させることが可能だろうか、という疑問が裁判所にあったのかもしれません」と推察した。
 今回の裁判は、裁判員裁判で行われた。この点に関しては「複数人の裁判員が評議、評決を行うことにより、無罪判決を出すハードルが低くなっていたのではないかとも考えられます」と指摘。一方で、裁判員の裁判後のコメントなどから「裁判員は混乱したり感情的になったりすることなく情報を共有し、不明点をきちんと理解したうえで評議を重ね、慎重に無罪の判断を下したようです。今回、裁判員裁判であることから無罪判決が出たという結論にはならないといえます」とした。
 検察側による控訴の可能性については「第一審で無期懲役を求刑した事案で無罪判決が出たときに、検察官が控訴しないことはほぼない」と回答。「結局、証拠をどう見るかの違いなので、検察官は自分の見方が正しいと主張して控訴すると予想されます」とした。

ドン・ファン公判、裁判員「中立の立場で感情と切り離し考えた」「被告は真摯に裁判受けている印象」(2024年12月12日『読売新聞』) 
 
キャプチャ
傍聴券を求め、地裁に並ぶ人たち(和歌山市で)
 「紀州ドン・ファン」と呼ばれた和歌山県田辺市の会社経営者野崎幸助さん(当時77歳)の死亡を巡り、裁判員が導き出した結論は無罪だった。和歌山地裁で12日、元妻、須藤早貴被告(28)に言い渡された判決後、裁判員を務めた20歳代の会社員男性が記者会見に応じた。
 公判は9月以降、23回に及んだ。男性は「裁判の期間が長く、(審理内容の)記憶が薄れる不安があったが、裁判官、裁判員のみんなでメモを取って共有した」と明かし、「証人や証拠が多かったため、判決を出すことが難しかった」と振り返った。
 須藤被告については「真摯(しんし)に裁判を受けている印象だった」と述べた。
 今回、検察側は多数の状況証拠で立証した。男性は「有罪の目で見ると、有罪に見える。無罪の目だと無罪に見える。中立の立場で、感情と切り離して考えた」という。その上で「評議でしっかりと話し合った答え」と判決内容に自信を見せた。