百田氏の暴言 言語道断の女性蔑視だ(2024年11月14日『北海道新聞』-「社説」)
そうすれば女性は焦って子どもを産む―との趣旨だったようだ。批判を浴び、百田氏は発言を撤回し謝罪したが、それで済む話ではない。
女性に「産む役割」を強要し、その尊厳を傷つけた言語道断の蔑視発言である。暴言とすら言えよう。
百田氏は、故・安倍晋三元首相と共著本を出すなど親密な関係が知られた。家族などの伝統的価値観の重視を訴え、昨年設立した日本保守党は先の衆院選で3議席を獲得し、政党要件も満たした。税金を原資とする政党交付金の支給対象だ。
国政に責任を負う公党の代表としての品位を著しく欠き、少子化対策の議論をおとしめた。そうした人物をトップに置く党の見識も問われる。
8日配信の番組で、同党事務総長の有本香氏が「子どもがいることが幸せという価値観をどう取り戻すか」と尋ねた。
百田氏は「小説家のSFと考えてくださいよ」などと前置きし、「女性は18歳から大学に行かせない」「25歳を超えて独身の場合は生涯結婚できなくするとか。皆焦るで」と述べた。
物議を醸すことを織り込んだ「炎上」狙いだった可能性はあろう。経済的理由や社会構造に関する言及もあった。だとしても、右派論客として一定の影響力を持つ人物の発言を荒唐無稽だと見過ごしてはなるまい。
底流にある「若いうちに結婚、出産することが女性の生き方として望ましい」といった考えは、保守の政治家たちに今も根強く残る価値観だからだ。
女性と出産を巡る問題発言はこれまでも繰り返されてきた。
しかし、性や出産では本人の意思が尊重されるべきだ。
自分の生き方を自分で決め、望む人は安心して子を産み育て、思う存分に働ける社会が求められている。
その実現こそが、あるべき少子化対策のはずだ。
百田氏の差別発言 女性の尊厳軽視が甚だしい(2024年11月14日『河北新報』-「社説」)
「SF小説としての仮定」などと言い添えれば許されると考えること自体、女性の尊厳と人権を軽んじている表れだ。発足したばかりとはいえ、いやしくも国政政党のトップである。議員ではなくとも、自身の発言が及ぼす影響を認識し、多種多様な背景を持つ国民がどう受け止めるかを考えるべきではないか。
日本保守党の百田尚樹代表が、ユーチューブの配信番組で差別発言をした。
「これはええ言うてるんちゃうで」などと述べた上で、少子化対策について「30超えたら子宮摘出とか」「女性は18歳から大学に行かさないくらいの構造が必要だ」「25歳を超えて独身なら、生涯結婚できない法律にすれば焦る」と話した。
批判を受け、百田氏は9日にX(旧ツイッター)に投稿。「『やってはいけないこと』『あくまでSF』とくどいくらい言った上での『ディストピア的喩(たと)え』」と釈明した上で、「表現のドギツさは否めない」と謝罪した。10日には発言を撤回した。
一方で、発言に関する一連の報道について、Xに「悪意ある『切り取り』の発信」とも投稿している。批判を受けた理由を理解しているのか。
保守党は百田氏らが昨年設立し、先月の衆院選で、共同代表の河村たかし前名古屋市長らが3議席を獲得。比例の総得票数の割合が2%に達し、公選法が規定する政党要件を満たした。少数政党であろうと、高い人権意識が求められることに変わりはない。
問題の動画で、百田氏は「若い娘にどういう風に子どもを産ますかやね」「いつまでも若いと思っているから」と述べた。男性が抱える問題や政府の施策に関する言及はほとんどなく、少子化の原因を女性の責任と短絡的に捉えていることが分かる。
子どもを持つことを巡る価値観の多様化も指摘。「覆すには社会構造を変えるしかない」と話し、今回問題となった「少子化対策」を挙げた。
人権感覚の乏しさにとどまらず、結婚や出産という極めて個人的な領域に国家が踏み込み、強制力を持たせることを社会構造の変革と考えている点も看過できない。
変えるべきは結婚や出産に対する有形無形の圧力であり、産みたい人が産めない社会だ。百田氏は「夫は仕事、妻は家庭」などの性別役割分業が念頭にあるのかもしれないが、もはや共働き世帯は専業主婦世帯の3倍に上る。父親も育児と仕事を両立できる環境を整え、母親の負担減を図ることが急務だろう。
百田氏は自身の発言を猛省するとともに、少子化対策に政治がどう貢献できるかを、あらためて考えてほしい。この際、ジェンダーについても学んではどうか。固定的な性別役割意識が現代社会にもたらした負の影響を知ることは、今後の政治活動に必ず役立つはずだ。
▼世間にあてがわれた「女」の役割ではなく「自分」を生きたい。切実な訴えが湧き上がってから、はや半世紀を超える。声はうねりを起こし、まず米国、続いて日本や欧州で女性解放運動「ウーマン・リブ」となった
▼1970年11月14日に本邦初の大会が開かれたことから、きょうはウーマン・リブの日だ。先頭で活躍し、今夏亡くなった田中美津さんによると、男女平等を建前にしつつ公然と性差別をする社会を告発する運動だったという
▼ビラをまき、デモも辞さない彼女らへの風当たりは相当だったに違いない。当時の本紙をめくれば、からかい半分の記事や「良妻賢母」「夫唱婦随」であるべきだ、との読者投稿が目立つ
▼各地に共感を広げた後、リブ自体は数年で下火となったが、たいまつは次の世代がつないだ。手を取り合って立ち上がる。自分の言葉で語る。そんな力が財産として残った
▼女性が生き方を選ぶ権利を軽んじる考えはいまだあり、先日も、ある政党代表が妊娠や出産にまつわる妄言を吐いていた。それでも「許さぬ」と撤回に追い込めるほど、今の世は前進もしている。