なぜ日本の裁判所は「国民を支配するための道具」と化したのか…元判事の法学者が明かす、衝撃の『ウラ事情』(2024年11月8日『現代ビジネス』)

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「裁判官」という言葉からどんなイメージを思い浮かべるだろうか? ごく普通の市民であれば、少し冷たいけれども公正、中立、誠実で、優秀な人々を想起し、またそのような裁判官によって行われる裁判についても、信頼できると考えているのではないだろうか。
残念ながら、日本の裁判官、少なくともその多数派はそのような人々ではない。彼らの関心は、端的にいえば「事件処理」に尽きている。とにかく、早く、そつなく、事件を「処理」しさえすればそれでよい。庶民のどうでもいいような紛争などは淡々と処理するに越したことはなく、多少の冤罪事件など特に気にしない。それよりも権力や政治家、大企業等の意向に沿った秩序維持、社会防衛のほうが大切なのだ。
裁判官を33年間務め、多数の著書をもつ大学教授として法学の権威でもある瀬木氏が初めて社会に衝撃を与えた名著『絶望の裁判所』 (講談社現代新書)から、「民を愚かに保ち続け、支配し続ける」ことに固執する日本の裁判所の恐ろしい実態をお届けしていこう。
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『絶望の裁判所』 連載第3回
『裁判官にとって「国民はただの記号にすぎない」…裁判所が「理念」を捨ててまで「正義を踏みにじるワケ」』より続く
「苦い真実」を知っていただこう
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なぜ、日本の裁判所、裁判官は、「国民、市民支配のための装置、道具」の役割に甘んじているのだろうか?
裁判所組織と裁判官個人の双方の観点から、また、私自身の私的な体験をも交えつつ、それを説き明かし、読者に「苦い真実」を知っていただき、それをきっかけとしてこれからの司法のあるべき姿について考えていただくことが、この書物の目的である。
前記のような経歴をもつ私の、本書を執筆するに当たってのスタンスは、「法律実務や法律実務家(以下、この意味で、「実務」、「実務家」という言葉を用いる)の実際を知る一学者」というものである。つまり、基本的な分析については、あくまで学者として、できる限り冷静、厳密、客観的に行うが、自分の先のような体験とそれに基づく知識をも織り交ぜながら語っていきたい。また、自分の体験を語る場合にも、その客観的な意味付けを忘れないようにしたい。
日本を震撼させた衝撃の名著『絶望の裁判所』から10年。元エリート判事にして法学の権威として知られる瀬木比呂志氏の新作、『現代日本人の法意識』が刊行されます。
同性婚は認められるべきか?」「共同親権は適切か?」「冤罪を生み続ける『人質司法』はこのままでよいのか?」「死刑制度は許されるのか?」
これら難問を解き明かす共通の「鍵」は、日本人が意識していない自らの「法意識」にあります。法と社会、理論と実務を知り尽くした瀬木氏が日本人の深層心理に迫ります。
批判すべきところは批判するしかない
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裁判所、裁判官批判の書物はこれまでにかなりの数書かれてきたが、左派、左翼の立場から書かれたものやもっぱら文献に頼った学者の分析が大半で、裁判所と裁判官が抱えているさまざまな問題を総合的、多角的、重層的に論じたものはほとんどない。本書においては、そのような事実を踏まえ、できる限り広い視野から、根源的かつ構造的な分析と考察を行うように努めた。
一つ付け加えれば、本書において、私は、前記のとおり、おそらく過去にあまり例のない包括的、徹底的な日本の裁判所、裁判官批判を行ったが、基本的には、個々の裁判官個人の心にひそむ人間性までをも否定するつもりはない。
また、私は、現在でも、裁判官と呼ぶにふさわしい裁判官は日本にも一定の割合で存在すると考えている。さらに、高位の裁判官や本文で詳しく触れる最高裁判所事務総局系の裁判官の中にも、人間として評価するに足りる人物は存在するとも考えている。
ただ、彼らが、社会との関係、裁判官集団との関係の中で果たしている役割について考察するときには、それはそれ、これはこれとして、批判すべきところは批判するしかない。それが、「実務を知る一学者」としての私の役割であり、また義務でもあると考えるからである。
なお、私は、思想的には広い意味での自由主義者であり、また、個人主義者でもあると思うが、いかなる政治的な立場にも与してはいないことも、お断りしておく。
それでは始めよう。
『東大に合格し在学中に司法試験にも合格…「エリート街道」を駆け上がった法学者が「本当はやりたかった事」』へ続く
日本を震撼させた衝撃の名著『絶望の裁判所』から10年。元エリート判事にして法学の権威として知られる瀬木比呂志氏の新作、『現代日本人の法意識』が刊行されます。
同性婚は認められるべきか?」「共同親権は適切か?」「冤罪を生み続ける『人質司法』はこのままでよいのか?」「死刑制度は許されるのか?」
これら難問を解き明かす共通の「鍵」は、日本人が意識していない自らの「法意識」にあります。法と社会、理論と実務を知り尽くした瀬木氏が日本人の深層心理に迫ります。
瀬木 比呂志(明治大学教授・元裁判官)

裁判所の正体:法服を着た役人たち 単行本(ソフトカバー) – 2017/5/18
瀬木 比呂志 (著), 清水 潔 (著)
 
忖度と統制で判決は下る!
原発差止めで「左遷」、国賠訴訟は「原告敗訴決め打ち」、
再審決定なら「退官覚悟」……驚愕、戦慄の実態!
 
 
最高裁を頂点とした官僚機構によって強力に統制され、
政治への忖度で判決を下す裁判官たち。
警察の腐敗を暴き、検察の闇に迫った辣腕事件記者の
清水潔(文庫X『殺人犯はそこにいる』)が、
元エリート裁判官・瀬木比呂志(『絶望の裁判所』)とともに
驚くべき裁判所の荒廃ぶりを抉り出す!
 
まえがき 清水潔
 
第1章 裁判官の知られざる日常
なぜ裁判官に一礼するのか
裁判官は人間じゃない?
法廷に遺影を持ち込めない理由
傍聴が裁判に与える影響
裁判官はどんなところに住んでいるか
裁判官はどうやって判決を下すのか
裁判所の強固なヒエラルキー
裁判官の出世 ほか
 
第2章 裁判所の仕組み
裁判官に庶民の心はわかるのか
裁判官の天下り
裁判官の給与体系
裁判官の反社会的行為
裁判官が統制される三つの理由
裁判官を追いつめる新たな再任制度
個人の問題か制度の問題か ほか
 
第3章 裁判とは何か
「押し付け和解」が生まれる理由
民事裁判官と刑事裁判官はどこで分かれるか
刑事裁判とは何か
民事系裁判官からみた刑事系裁判官の特徴 ほか
 
第4章 刑事司法の闇
足利事件──冤罪はなぜ生まれるか
北関東連続幼女誘拐殺人事件──誤っていたDNA型鑑定
裁判官は鑑定書をちゃんと理解しているか
桶川ストーカー殺人事件──ゆがめられた判決 ほか
 
第5章 冤罪と死刑
死刑制度とその機能
司法ジャーナリズムは機能しているか
ジャーナリズムと司法の劣化は相似形 ほか
 
第6章 民事司法の闇
名誉棄損裁判の高額化
スラップ訴訟
国家賠償訴訟で国が有利な理由
原発訴訟と裁判官会議
原発訴訟の判決・決定
憲法訴訟について ほか
 
第7章 最高裁と権力
最高裁の統制の方法
最高裁長官と事務総局がもつ絶大な権力
裁判官が国の弁護士に?──三権分立は嘘だった
最高裁判決に拘束力はない?
最高裁と時の権力の関係
憲法の番人」ではなく「権力の番人」 ほか
 
第8章 日本の裁判所の未来
求められる国民のあり方
法曹一元化を提言した理由
国のあり方は司法で変わる
日本の裁判所とジャーナリズムが進むべき道
 
あとがき 瀬木比呂志

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