実現遠い女性の最高裁トップ…「男女差別の訴訟も扱うのに」 検察と弁護士界では誕生(2024年7月10日『東京新聞』)

 
 日本弁護士連合会で4月に初の女性会長が誕生したのに続き、検察トップにも女性が就いた。「法曹三者」で唯一残るは裁判官。トップの最高裁長官に女性が就任する見通しがない中、まずは最高裁判事に女性を積極的に登用するよう求める声が高まる。(中山岳)
◆悲惨な事件を女性検事の担当にするのを避ける雰囲気さえあった昔
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検事総長となった畝本直美氏
 女性初の検事総長となった畝本直美氏(62)は男女雇用機会均等法が成立した1985年、司法試験に合格した。同期で検事になった41人のうち女性は4人だけ。「検察で女性が珍しかった時代。悲惨な事件の捜査や裁判を子育て中の女性検事に担当させるのをためらう雰囲気もあった」と振り返る。
 自らが管理職になってからは、部下には男女問わず経験を積めるような環境を目指してきた。「今はどの職場にも女性がいるのは当たり前。性別にかかわらず、個性や事情に合わせて能力を伸ばすことが重要だ」と変化を強調する。
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 男女共同参画白書によると、法曹三者の女性の割合は近年、2~3割まで増えた。今年4月に日弁連会長に渕上玲子弁護士(69)が女性で初めて就き、話題となった。
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日弁連会長の渕上玲子弁護士
最高裁判事15人のうち女性は3人
 一方、最高裁長官に女性が就いたことはない。
 9日、戸倉三郎長官(69)が8月に定年退官することなどに伴う新長官や2人の新判事が決定したが、すべて男性。判事15人のうち女性が3人という状況は当面変わらない。
 「社会に残る性別役割分業の意識を変えるため女性がリーダーになることが重要だという意識が、最高裁にはあまり強くないのではないか。男女差別を争点にした訴訟も扱うのに、真に公正な判断ができるのか」。法曹三者や法学者らでつくる日本女性法律家協会前会長の佐貫(さぬき)葉子弁護士(75)は疑問視する。
 懸念が表れた一例に挙げるのが、選択的夫婦別姓を認めない民法の規定の違憲性が争われた訴訟で初めてとなった2015年最高裁判決。当時も女性判事は3人。女性判事は全員が違憲と判断したが、男性判事で違憲としたのは2人だけで、男性判事10人の多数意見で「合憲」と判断した。2次訴訟も合憲と判断し、現在3次訴訟が起きている。
◆「ガラスの天井」女性裁判官が最高裁判事になっていない
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 これまで最高裁判事になった女性は9人しかいない上、そもそも裁判官出身者はゼロ。全員が弁護士や、官僚など行政官出身だ。
 「最高裁が女性の幹部登用に消極的だと言わざるをえない。女性長官の実現以前に、女性裁判官が最高裁判事になっていない、『ガラスの天井』がある状態だ」。行政官出身の元最高裁判事桜井龍子(りゅうこ)さん(元労働省官僚。旧姓は藤井で、最高裁判事就任前は旧姓で活動していた。横尾和子の後任、女性3人目、初の戦後生まれ。77)も苦言を呈する。
 最高裁長官は、全国の裁判所の人事や予算など司法行政を担う最高裁事務総局の要職や、全国に八つある高裁トップの長官を経験した人から選ばれるのが慣例とし、課題を挙げる。
 「まずは女性裁判官から最高裁判事を選ぶようにし、15人中5人は女性が担うようになってほしい」