孤立死 「死ぬことだけは管理する あとはご自由に」という社会(2024年10月21日『毎日新聞』)

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 今年1~6月に自宅で死亡した1人暮らしの人は全国で3万7227人(暫定値)いて、うち65歳以上の高齢者は2万8330人だったとする調査結果を、8月に警察庁が公表しました。内閣府の「孤独死孤立死」の実態把握に関するワーキンググループの座長も務める、早稲田大学文学学術院教授の石田光規さんに聞きました。【聞き手・須藤孝】
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一人でベンチに座って新聞を読む男性写真と本文は関係ありません
 ◇ ◇ ◇ ◇
 ――調査結果をどうみますか。
 ◆今回のデータは死後経過日数が入っているのが特徴です。公的な機関による全国調査は初めてですが、さまざまなデータを見てきた立場からは、孤立死が増えていることが明確に示されたと思います。
 2011年に、ニッセイ基礎研究所が東京都のデータをもとに全国推計をした報告書がありますが、それよりも大きな数字になっています。孤立死は都市部で多いので、東京都のデータをもとにすると過大になりがちなのですが、それでも今回の数字のほうが大きかったのです。
 ――マイナスのものという決めつけがあります。
 ◆高齢者の1人暮らしは確実に増えていきます。孤立死の可能性はだれにでもあります。あまり悲惨だと言うと、レッテル貼りになってしまいます。
 ◇最後まで一人ではいられない
 ――孤立は個人の自由だという考え方もあります。
 ◆介入を嫌う気持ちはあるでしょう。政府も押しつけと取られないよう、慎重に対応しています。
 ただ、私たちは最後まで一人ではいられません。死後の処理は必ず自分以外の人がしなければなりません。死んでしまえば、社会とつながってしまうのです。
 ――結局は社会が対応しているということでしょうか。
 ◆孤立死は増えすぎて、医療・福祉の現場は負担に耐えられなくなりつつあります。身元引受人がおらず、どういう人かもわからないなかで救命措置をしなければならず、死亡した場合も対応が必要になります。破綻が表面化するのもそう遠くありません。
 「おれは好きなように死ぬからほっておいてくれ」と言っても、その手前のことをどうするかを考えなければならなくなっています。
 ◇仕組みをどうつくるか
 ――対応が必要ということですね。
 ◆つながりは必要だと考えるならば、仕組みを作らなければなりません。つながりは必要ないと言うならば、支障が起きないようなシステムだけを整備するか、です。
 ドライな仕組みを一度作ってしまうと逆戻りは難しくなります。コストがかかるウエットなものは削られるからです。つながりが必要ならば、意識的に保つ努力が必要になります。
 このテーマで自治体から講演に呼ばれることが増えています。危機感があるからだと思います。ただ、孤立・孤独の問題が本格化するのはこれからです。
 ◇これから本格化する
 ――どういうことでしょうか。
 ◆現在50歳前後の団塊ジュニアの世代は、現在の高齢者と違い、未婚率が高くなっています。家族を持たない人が大きなボリュームで高齢者になっていきます。日本社会にとってははじめてのことです。孤立死は間違いなくより深刻な問題になっていきます。
 ――地域に果たせる役割はありますか。
 ◆戦後日本は、地縁、血縁、会社の縁のなかで、地縁を一番先に捨てました。地縁がなくなったところで家族もいないとなると、結局のところ、近くに住んでいる人を見直さざるを得なくなります。
 といっても、昔の町内会を復活させるのは不可能です。だれもが参加できるような地域の場を作ることでしょうが、簡単ではありません。
 ――暗い社会が見えてきています。
 ◆極端な方向に行くのではないかと懸念しています。生前の自由は保障する代わり、勝手に死なれるのは困るから、死ぬことだけは管理する、というような社会です。望ましい社会ではありませんが、そうなっていくのではないかと感じています。(政治プレミア)