広がる若者の孤独死 3年間に東京23区で742人確認、発見に死後4日以上が4割超(2024年7月21日『産経新聞』)


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東京都庁と高層ビル群=東京都新宿区(本社ヘリから、川口良介撮影)
 誰にもみとられず1人暮らしの自宅で亡くなる「孤独死」した若者(10~30代)が、平成30年~令和2年の3年間に東京23区で計742人確認され、うち約4割が死亡から発見までに4日以上を要していたことが21日、東京都監察医務院への取材で分かった。独居高齢者らに限らず、若者にも孤独死のリスクが広がっている実態が浮き彫りになった。
孤独死」に関する法律上の定義はなく、行政や自治体で異なるが、監察医務院は«自殺や死因不詳などの異状死のうち自宅で死亡した1人暮らしの人»としている。
監察医務院が令和2年までの3年間に取り扱った1人暮らしで異状死した10~30代の若者は計1145人。このうち職場や路上などを除く自宅で死亡した「孤独死」は64・8%(742人)に上っていた。
742人を年代別に見ると、最も多かったのは「30~39歳」で、402人。「20~29歳」(325人)、「15~19歳」(15人)が続いた。「15歳未満」は該当がなかった。「20~30代」は年々増加傾向にあることも分かったという。
 
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一方、死亡から発見に至る日数については、最多が「2~3日」の248人で、「0~1日」の189人が続いた。ただ「4~7日」も127人いて「8~30日」も114人を確認。「31日超」も64人で、4日以上が計305人と全体の4割超を占めた。
孤独死をめぐっては高齢者が社会問題化しているが、今回明らかになった監察医務院の統計からは、若者も長期間発見されないなど、深刻化している実態が浮かんだ。
監察医務院は孤独死の死因別の統計は取っていないが、742人の多くは自殺とみられる。
若者の孤独死増の背景には、社会との接点や関係を断ち生活の能力や意欲を失って「セルフネグレクト(自己放任)」に陥っている若者の存在が指摘されており、国などの対応が急がれている。

孤独死」背景に「セルフネグレクト」 引きこもり、外部と関係断ち実態顕在化しにくく(2024年7月21日『産経新聞
 
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若者の間でも誰にもみとられずに亡くなる「孤独死」の深刻化が危惧されている。高齢者も含め孤独死につながる要因は経済的困窮や認知症など多岐にわたるが、生活を維持する意欲や能力を失う「セルフネグレクト」も背景にあるという。外部との関わりも断ってしまうなどし実態が顕在化しにくいのも実情だ。
セルフネグレクトは必要な治療やケアの拒否のほか、身体を清潔にしない、ネズミや害虫、家屋内にゴミや排泄物の放置などが例として挙げられ認知症で判断能力や意思決定能力が低下しているケースもあるという。
ニッセイ基礎研究所の平成23年の調査によると分析した孤立死事例の約80%が「セルフネグレクト」で、孤立死に至る大きなリスクを負う状態と示された。
死後、発見が遅れて遺体が腐敗すれば、死因が判然としない事例が増えるほか、不動産価値の下落、身寄りがない場合は葬儀の対応といった自治体の負担増加など、社会経済的な影響も指摘されている。
政府は孤独・孤立を個人ではなく社会全体の問題と捉えて対策に乗り出しており、昨年は孤独死孤立死の実態把握を目的とした作業部会を開いた。
これまで孤独死孤立死は法的定義がなく、全国規模での年間の発生件数も明らかになっていなかったが、警察庁は今年5月、自宅で死亡した1人暮らしの人数を初めて公表した。
それによると、1~3月に全国警察が取り扱った6万466人の遺体のうち、自殺を含む自宅で死亡した1人暮らしの人は2万1716人。うち65歳以上の高齢者は1万7034人と約8割を占め、年間で約6万8千人と推計される。
ただ、孤独・孤立は高齢者に限った問題ではない。全国の16歳以上の2万人に聞いた政府の実態調査では、「孤独感がある」と答えた人(「たまに」などを合わせ)は39・3%に上り、最多は30代の46・1%だった。
20代は45・3%、40代も42・5%。一方、60代は36・2%、70代が30・5%で、現役世代の孤立感が強い傾向が出ており若者を含めた孤独・孤立への対策が求められる。(王美慧)
元教員の29歳女性語る実態「迷惑かけてはいけない」
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セルフネグレクトに陥っていたという元教員の女性
「親にも知られず死ぬかもしれなかった」。福岡県に住む元教員の女性(29)は、数年前に1人暮らしでセルフネグレクトに陥った実態を明かした。
平成31年に新卒で特別支援学校の教員になり初任者研修を受けた。完璧主義で人一倍責任感が強く、最初は新たな環境に慣れようと必死でもあった。「全力を出さなければ」。そう自分に言い聞かせ、休日でも常に仕事のことばかり思い浮かぶようになった。
職場では明るく振る舞ったが、通勤時に涙が出るなど次第に追い詰められ、約2カ月後に適応障害と診断された。病休を取得。数カ月後に復職したものの、翌年に再び休職した。「誰にも迷惑をかけてはいけない」。親にすら最低限の連絡しかせず、自宅にこもった。
一日中、無気力でベッドや床に横たわった。着替えや買い物、食事の気力もなく、2日に1回しか、食べない日も多かった。あらゆる人との接触を拒み、ため込んだゴミは夜中に捨てた。「死人みたいな生活だった」
以前からセルフネグレクトの傾向があった。高校時代にいじめを受け、浪人して入った大学では同期生と打ち解けられなかった。オンラインゲームにはまり、1日14時間は遊んだ。単位取得のための授業以外は外出しなかった。
休職を気軽に相談できる人など身近にはいなかった。家族からも距離を置き、孤独死も頭によぎった。教員は辞めた。ただ、治療薬を服用し、精神状態が少し回復したタイミングでアルバイトを始め、そうした生活を脱することができた。「もし死んでいたら、親が気付くまでに3カ月はかかったと思う」。そう振り返った。
東邦大看護学部、岸恵美子教授の話
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東邦大看護学部・岸恵美子教授(王美慧撮影)
これまでセルフネグレクトは高齢者の問題と捉えてきたが、若者に照準を合わせなければいけない。20~74歳以下の5千人に調査した結果、50歳以上より20~40代のセルフネグレクトのリスクが高いことが判明した。周囲に相談しないと答えた割合も若者が高かった。
海外でも若者に関するセルフネグレクトの研究は知る限りなく、表面化してこなかった。今後はリスクが高まる要因や背景を分析し、予防や対応を検討する必要がある。
高齢者の孤立死の8割は生前にセルフネグレクト状態だ。若者も最悪の場合は孤立死に至り、引きこもりや安定した職業に就けない人が増える可能性がある。社会的孤立状態にある人を早期に支援しなければ、国としても損失だ。
現状、国は既存の制度の対象になりにくい事例も包括的に対応する重層的支援体制整備事業でセルフネグレクトに対応する方向だ。ただ、相談対応だけでは命や人権に関わる深刻な事例が起こりえる。定義が不明確なため自治体の調査にもばらつきがあり、法制度化しないと命を救えない