政治の中枢襲撃 許されぬ言論への暴力(2024年10月24日『京都新聞』-「社説」)
車内からガソリンの入ったポリタンクが見つかった。犯行時にガスマスクや防護服を身に付けており、計画的だったとみられる。
機動隊員3人がのどに軽いけがをした。人通りの多い平日であれば、より大きな被害が出た可能性もあった。
容疑者は調べに対し、黙秘している。取材に応じた父親によると、選挙の供託金制度に不満を漏らしていたという。
詳しい動機や経緯など真相の解明を求めたい。
選挙活動中に政治家らを狙った襲撃事件が続いている。
なぜ最初の党本部で制止できずに、車による移動まで許してしまったのか。内部からは「失態」との声も上がる。
警察は今回の事態を重く受け止め、警備体制と対処について検証し、再発防止を徹底しなければならない。
米国でもトランプ前大統領が7月、選挙集会の演説中に銃撃されて負傷し、9月にも未遂事件が起きた。3年前にあった同氏支持者らによる連邦議会議事堂の襲撃をはじめ、力によって言論を封じる凶行の連鎖が危ぶまれる。
政治家や政党の主張と自分たちの考えの相違を見定め、1票の行使によって意思を示し、民主主義を守りたい。
政権中枢を襲撃 選挙への暴力許さない(2024年10月23日『東京新聞』-「社説」)
東京・永田町の自民党本部と首相官邸が相次いで襲撃された。衆院選期間中に政権の中枢施設を襲ったことは、民主主義の根幹である選挙に対する暴力と断じるほかない。どんな理由があっても、決して許容してはならない。
19日午前6時前、男が自民党本部に火炎瓶のようなものを5本ほど投げ込んだ後、ワンボックスカーに乗り込み、約600メートル離れた首相官邸の防護柵に突っ込んだ。男は警官らに発煙筒を投げ付け、その場で逮捕された。
男は調べに黙秘しているが、父親の話では原発政策や選挙の供託金制度に不満を抱いていた。警視庁は男の車や自宅から未使用の火炎瓶や空き瓶、ポリタンクを押収し、計画的事件とみている。動機や背景の解明を待ちたい。
警備の課題も指摘しなければならない。党本部への襲撃に続き、官邸まで車で移動することをなぜ阻止できなかったのか、検証が必要だ。土曜の早朝で現場付近の人通りは少なく、警官が軽傷を負う程度にとどまったが、平日なら深刻な被害が生じかねなかった。
政治に対する暴力が国内でも続く。2022年7月に安倍晋三元首相が参院選遊説中に銃撃され、亡くなった。23年4月には当時の岸田文雄首相が衆院補選の応援演説中に爆発物を投げ込まれた。暴力の連鎖を深く憂慮する。
今回の衆院選を含め、街頭演説の警備が強化されたことはやむを得ないが、有権者が候補者らと接する機会を過度に制限しては民主主義は成り立たない。聴衆のヤジを取り締まるようなこともあってはならない。適切な警備の在り方を引き続き検討してほしい。
意見や主張の違いがあっても、言論で妥協点を探るのが民主主義だ。その核心をなす選挙に暴力が割って入る余地は一切ない。襲撃事件を与野党ともに非難し、選挙活動を続けたのは当然だ。
政治への暴力は、言論に信頼が失われ、民主主義が機能不全に陥った時に起きやすい。私たち有権者が27日の衆院選で投票し、民意を十分に反映した政権をつくることが、民主主義から暴力を排除する最も有効な道である。
民主主義の根幹である国政選挙中に、政党や政府中枢に暴力で何かを訴えようとした愚行だ。決して許されるものではない。
東京都の自民党本部に19日、男が火炎瓶のようなものを5本ほど投げ、機動隊の車両が一部焼損した。男は続いて、車で首相官邸前の防護柵に突っ込んだ。現場で対応した機動隊員3人が喉に軽いけがをした。警視庁は公務執行妨害の疑いでこの男を逮捕した。
男が乗っていた車からは、ガソリンなどの入ったポリタンク20個や、着火剤が取り付けられたガラス瓶が見つかった。けが人などがさらに生じる恐れがあった。
警視庁の調べに、男は黙秘している。一方、家族によると、男は自公政権の原発政策や選挙の供託金制度に不満を抱いていたという。ただ、どのような理由であっても、暴力を手段として政治に圧力をかけることを正当化しうるものではない。
警察には、有権者が候補者の政見を知る機会を妨げることがないよう配慮しつつ、同様の凶行への備えを徹底してほしい。
一昨年の参院選では、安倍晋三元首相が銃撃により殺害され、昨年の衆院補選では、当時の岸田文雄首相の演説前に爆発物が投げ込まれる事件があった。米国で7月に、演説中のトランプ前大統領が銃撃され、けがをしたのは記憶に新しい。国内外で政治家に対する凶行が相次いでいる中で、政党本部などの警備が十分に機能しなかったのは、憂慮すべき事態だ。
首相官邸はもちろん、国会のすぐ近くにある自民党本部は、機動隊などが通常から厳重な警備態勢を敷いている。それにもかかわらず、火炎瓶を投げられた後、国会議事堂を挟んで約600メートルの首相官邸まで逃走を許したのは、警備の失態との非難を免れまい。今回の事件を許した原因などの検証が不可欠だ。
東京の治安を担う警視庁はローンオフェンダーを専門に扱う担当課の来春設置に向けた準備を進めている。ただ、東京以外でも同様の事件が起きる恐れは否めない。警察庁には、各道府県の警察と情報やノウハウの共有を進めることが求められる。
民主主義脅かす凶行を許すな(2024年10月22日『日本経済新聞』-「社説」)
機動隊員3人が煙を吸うなどして軽いけがをした。
警視庁によると、公務執行妨害容疑で現行犯逮捕した49歳の男の車にはガソリンの入ったポリタンク20個が積まれていたという。一歩間違えれば人命にかかわるような惨事になる恐れもあった。
容疑者は黙秘しており、現時点で詳しい動機などは不明だ。父親によると、過去に反原発の活動に注力し、選挙の供託金制度に不満を漏らしたという。犯行に至る経緯や背景についても捜査を尽くさねばならない。
いずれも、特定の組織などに属さない「ローンオフェンダー」(単独攻撃者)の犯行と指摘される。孤独のうちに社会に対する不平や不満を募らせ、テロや凶悪事件を起こす。そうした風潮の広がりを止めねばならない。
意見の違いがあっても、選挙や議論を通してよりよい社会を目指すのが民主主義の姿だ。そこに暴力が介入する余地は一ミリたりともない。その前提を、社会全体であらためて共有したい。
車内からはポリタンクが約20個見つかり、中身の大半はガソリンだった。機動隊の車両が一部焼損し、対応した機動隊員3人が喉に軽いけがをしている。
逮捕容疑は、官邸前で防護柵に突っ込み、発煙筒のようなものを警察官に投げた疑いだ。逮捕後は黙秘している。
動機など不明な点が多く、事前にどこまで計画していたのかも分からないが、民主主義の基盤である衆院選挙の期間中に、政治の中枢施設が暴力の標的になった事実は重い。
選挙期間中に政治家を狙った事件はここ数年相次いでいる。
2022年7月の参院選では、演説中だった安倍晋三元首相が奈良市で銃撃され死亡。23年4月の衆院補選では、和歌山市で岸田文雄首相(当時)の演説直前に爆発物が投げ込まれた。今回で3回連続して大型国政選挙の期間中に暴力事件が起きたことになる。
候補者が選挙で言論を戦わせ、有権者が賛同できる候補を選択するのが民主主義の根幹だ。政治や言論を封じる暴力やテロは許されない。暴力で言論を排除する行為は、民主主義を葬ることを改めて認識しなければならない。
与野党は事件を一斉に批判している。石破茂首相は「民主主義が暴力に屈することは絶対にあってはならない」、立憲民主党の野田佳彦代表は「言語道断で許しがたい」と述べている。日本維新の会の馬場伸幸代表、国民民主党の玉木雄一郎代表、共産党の小池晃書記局長らも批判を強めた。
全国の警察は今回の衆院選で、与野党幹部の遊説を厳戒警備している。聴衆と一定の距離を保ち、聴衆エリアが鉄柵で囲われることも多い。金属探知機による検査なども行われている。今回の事件で、警戒態勢がさらに厳しくなる可能性もあるだろう。
必要以上に過剰な警備も表現を封じてしまう恐れがある。演説に対するやじなど、聴衆らが街頭で声を上げることは政治的な意見の表明だ。警察は暴力を封じ込めつつ、言論と表現を守っていかねばならない。
自民本部に火炎瓶 選挙の安全確保に万全を(2024年10月21日『産経新聞』-「主張」)
火炎瓶のようなものが投げ込まれた自民党本部付近で活動する捜査員=19日午前、東京・永田町(岩崎叶汰撮影)
東京・永田町の自民党本部で19日、男が火炎瓶のようなものを複数回投げつけた。
車内には何らかの方法で燃やした跡があった。約20個のポリタンクも残されており、中身は大半がガソリンだったという。大惨事になっていた恐れがある。党本部前では火炎瓶を投げる前に、高圧洗浄機のようなもので液体を噴射していた。
議会制民主主義の一翼を担う政党の本部と、首相が執務を行う官邸を標的にした今回の犯行を強く非難する。民主主義に対する暴力は許されない。衆院選期間中でもありなおさらだ。
交流サイト(SNS)では「制限選挙をどうにかしろ」などと選挙の供託金制度廃止を訴えていた。衆院選への出馬を目指したが、供託金を出せず立候補できなかったことがあるようだ。警察には動機や背景を徹底的に捜査してもらいたい。
自民党本部は昭和59年に隣接する駐車場の無人トラックに積んだ火炎放射装置で放火されたことがある。中核派の犯行だった。昭和期には過激派のデモ隊などによる火炎瓶を使った事件が数多く発生し、警察官に殉職者が出たこともある。
事件では警備に当たっていた警視庁機動隊の車両の一部が焼け、隊員3人が喉の痛みを訴えた。早朝だったこともあり、一般の通行人が負傷することはなかったが、演説の場などに火炎瓶が投げ込まれれば、大惨事になりかねない。
(2024年10月20日『山形新聞』-「談話室」)
▼▽海外では「モロトフ・カクテル」と呼ばれたりしている。一説には1930年代のスペインが発祥。手近な材料で作ることができ、その“レシピ”は世界中に拡散した。といっても酔える酒ではない。火炎瓶のことだ。
▼▽初めて使われたスペイン内戦で次々と戦車を破壊し、威力が知れ渡った。今では、近代的な武器を持たない側の、抵抗の手段というイメージか。ただし、危険な武器であることに変わりはない。国内ではかつて、過激派が投じた火炎瓶で警察官が死亡する事件も起きている。
▼▽昨日早朝のニュース速報に慄然(りつぜん)とした。東京の自民党本部に、男が火炎瓶とみられるものを投げ付け、軽ワゴン車で首相官邸に突入を図った事件である。車内には灯油などを入れるポリタンクが複数あった。詳細はまだ不明だが、極めて凶悪な犯行であることは間違いない。
▼▽何より動機の解明が待たれる。折しも衆院選のさなか。安倍晋三元首相が銃撃されて亡くなったのも、岸田文雄前首相が爆発物で狙われたのも、選挙期間中だった。今回の凶行の背景に政治的思想があろうとなかろうと、火炎瓶は民主主義そのものに向けて投じられたのだ。
衆院選のさなかに、政党の中枢が襲われた。民主政治の根幹を揺るがすような暴力は許されない。
東京・永田町の自民党本部に火炎瓶が投げ込まれ、警備中の警察車両などが焼けた。
車の中には10個ほどのポリタンク、火炎瓶や発煙筒のようなものなどが積まれていた。
男性は調べに黙秘しているという。かつて原発再稼働に反対する活動に関わったとされる。国政選挙への出馬を考え、供託金に不満を抱いたこともあるという。
警視庁は捜査を尽くし、全容を解明する必要がある。
近年、選挙期間中に政治家が襲われる事件が続く。
米国でも今年7月、大統領選に向けた屋外の集会で演説していたトランプ前大統領が銃撃され、負傷した。その後も襲撃未遂事件が起きている。
主義や意見の対立があっても、議論を重ねて物事を決めていくのが民主政治だ。その根幹をなすのが選挙である。言論を暴力で封じるような行為が横行すれば、民主主義の破壊につながる。
安倍氏や岸田氏の事件後、警察は要人警護や選挙活動の警備を強化してきた。警察庁は今回、改めて警戒警備の徹底を全国の警察に指示した。ただ、候補者の主張を有権者が直接聞く機会が過剰に制約されないよう、バランスを取る必要がある。
衆院選は投開票日まで1週間を残す。日本の政治を誰に託すべきか、国民が判断する機会が守られなければならない。
自由な言論を卑劣な暴力で封じるような行為は、断じて許されない。
現職の首相や経験者を標的にした事件が相次ぐ事態に強い憤りを覚える。米国ではことし、トランプ前大統領が2度も銃撃された。民主主義をないがしろにする風潮が強まっているとすれば、何としてもたださねばならない。
今回は埼玉県に住む49歳の男が現行犯逮捕された。防護柵に突っ込んだ後に車を降りて発煙筒のようなものを警察官に投げた疑いだ。車内には燃えた跡が残り、複数のポリタンクもあったという。一歩間違えば、多くの犠牲が出ていた恐れも否めない。
動機の追及はこれからだが、どんな理由であれ許されるはずはない。背景まで徹底して解明してもらいたい。
石破首相は事件後に鹿児島県内で街頭演説し、「民主主義が暴力に屈することは絶対にあってはならない」と述べた。衆院選に関わる全ての人に共通する思いだろう。
深刻なのは、民主主義の根幹である国政選挙中に襲撃事件が続いていることだ。
国政選挙は、政党や候補者が主義・政策の違いを言論で訴え、より多くの国民の支持を競う。政治家や政党の主張が自分とは異なるからといって、暴力や脅迫で訴えるなど言語道断である。
今回の事件に当てはまるかは不明だが、近年は単独でテロを実行する「ローンオフェンダー」が問題視されている。事件の前兆把握が難しく、未然に防ぎづらいのが特徴だ。政党関係施設や要人の警備・警護と併せ、効果的な対策を検討してもらいたい。
安倍元首相の銃撃事件をきっかけに自民党と世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の癒着が表面化したことで、ネットや交流サイト(SNS)の一部には容疑者を擁護する言説も見られる。犯罪を肯定することなどあってはならない。極めて危険な考えだ。
世界を見渡せば、言論や対話の危機はトランプ氏の銃撃事件にとどまらない。中東では、敵対する国や組織のトップ殺害を誇るニュースが連日のように伝わる。わが国の政治を、そんな混迷に陥らせるわけにはいかない。
衆院選は残り1週間。暴力で選挙がゆがめられることはないと、証明する必要がある。むろん今まで以上の警備や警護の引き締めも求められる。各党、各候補者はひるむことなく、最後まで論戦に力を尽くさねばならない。