小林聡美『わたしの、本のある日々』は2016年から約6年、毎月2冊の本を紹介した雑誌連載をまとめたものだ。多読の方なんだろうなと勝手に思っていたが、自分は読書家ではないと幾度も念を押すように書かれている(まえがきに〈原稿を納めたら心はもう、来月の本のこと〉とあり「わかる!」と思わずつぶやいてしまった)。しかし、しんどくても「読んでは書き」を繰り返しているとそれはやがて自身の貴重な記録となる。〈読み返してみると(中略)「こんなに、ほんとに読んだのね」と不思議な感動をおぼえます〉というあとがきの言葉にも強く共感した。
取り上げられている約140作の多くがノンフィクションで、意外にも(? )小説は少ない。登山、俳句、食関連のエッセー、高峰秀子や岸惠子ら名優たちの随筆、韓国の絵本。45歳での大学入学や猫との暮らしなど、慎ましく明かされる私生活にそれらの本が自然に存在している。選書も毎回大変だっただろうけれど、伝わってくるのは読むという行為がもたらすふくよかな喜びだ。
『黄色いマンション 黒い猫』小泉今日子[著](新潮社)
同年代の俳優、小泉今日子の『黄色いマンション 黒い猫』(新潮文庫)は自伝的一冊。〈ファンの人たちにバレて、騒がれて、住民に文句言われて、次のマンションを探す〉繰り返しだったアイドル時代、親らしくなさが愛らしかった母、地元・厚木の思い出、秘められたいくつかの恋、仕事や遊びの真ん中にあった原宿……人や街の記憶が、ふと取り出されるように綴られる。〈過ぎてしまった時間に対して案外薄情なのかもね、私って〉とさらりと述べる潔さ、飾り気のないたたずまいが恰好いい。
映画やドラマで度々共演している2人だが、現在NHK-BSで放送中の『団地のふたり』では共に50代の幼なじみを演じている。藤野千夜の原作(双葉文庫)は、人や、人にまつわるものが古びることに潜む面白さがリアルな生活感をもって描かれていて、穏やかな笑いが自然にこぼれる。これみよがしではない会話場面の巧さは、この作者ならではだ。
協力:新潮社 新潮社 週刊新潮
Book Bang編集部