3年ぶりの政治決戦で自公政権は信を得られるのか―。国民に政治不信が広がる中、衆院が解散された。派閥裏金事件の逆風が直撃する自民党は非公認議員を上積みしたものの、石破茂首相への追及は厳しさを増し、党内の亀裂も深刻化する。対する野党も共闘協議は足踏み続きで、「一強多弱」を抜け出す見通しは立たない。27日の投開票に向け、与野党の攻防が本格化した。
◇「裏金は決め付け」
政権発足から過去最短となる解散を控え、「判断材料を可能な限り提供する」とうたってきた首相。討論で浮かび上がったのは、真相解明に背を向け、「裏金議員」を少しでも擁護しようとする従来の自民と大きく変わらない姿勢だ。
自民は9日朝の選対本部会議で、非公認とする裏金議員を6人から12人に増やした。討論で野田氏が「公認は30人超。大半ではないか」とかみつくと、首相は「甘いとかいいかげんだとは一切考えていない」と強弁。非公認議員が小選挙区で当選すれば追加公認を検討すると早くも明言した。
野田氏は旧安倍派会計責任者への有罪判決を踏まえ、派閥幹部の関与を明らかにするよう再調査を繰り返し要求したが、首相は「いろんな事実関係があるのだろう」とのらりくらり。「これは裏金隠し解散だ」。要領を得ない答弁に野田氏はいら立ちをあらわにした。
◇単独過半数に党内関心
首相は9日夜の記者会見で勝敗ラインは「自公過半数」と語ったが、党内の関心は自民単独過半数(233議席)を維持できるかどうかに集まる。首相周辺では「解散が1週間遅れるごとに20議席減る」との懸念が強く、岸田文雄前首相や菅義偉元首相らが「早い方がいい」と周囲に漏らしていたことも背中を押した。
裏金議員の非公認に踏み切ったのも「どうすれば勝てるかとの観点から判断」(首相)した結果。政府関係者は「裏金議員へのペナルティーがなければ、特に都市部の小選挙区や比例代表は壊滅的になる可能性もあった」と語る。
ただ、2週間超にわたる事実上の選挙戦での最大の論点は「政治とカネ」。論戦を通じて首相の主張が有権者の理解を得られるかは見通せない。
選対本部会議での決定に出席者から拍手は一切起こらず、党内にはきな臭い雰囲気も漂う。「帰って来られない人がどれだけ出るかだ」。自民中堅はこう述べ、単独過半数を割り込めば政権運営への影響は避けられないとの認識を示した。
◇一本化困難
立民の野田氏は今月、維新、共産、国民3党に、裏金議員の選挙区で野党候補を一本化することを提案。しかし、維新の馬場伸幸代表は眼中にないと言わんばかりに、9日の党首討論を「自民と維新で改革合戦をやりましょう」と締めくくった。共産の田村智子委員長は9日の記者会見で「一本化は難しい」と言明した。