代表質問に関する社説・コラム(2024年10月8日)

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衆院本会議で立憲民主・野田代表の質問に答える石破首相(7日)

代表質問 選挙期間含め政策論争深めよ(2024年10月8日『読売新聞』-「社説」
 
 政治とカネの問題や経済情勢、外交政策など、与野党は幅広いテーマを取り上げたが、政府側から踏み込んだ答弁は引き出せなかった。
 国会論戦は明日で終わり、衆院は解散される見通しだ。内外に課題は山積している。政府と与野党は選挙戦で、政治とカネの問題だけでなく、重要政策を正面から論じ合わねばならない。
 衆院本会議で、石破首相の所信表明演説に対する与野党の代表質問が行われた。各党が焦点を当てたのは政治とカネの問題だ。
 首相は、政治資金収支報告の不記載で党員資格停止などの重い処分を受けた自民党議員は、原則として非公認とする方針だ。
 立憲民主党の野田代表は「自民党は不記載議員の大半を公認するのではないか」と追及した。
 首相はこのほか、不記載があっても処分を受けていない議員については公認するものの、比例との重複立候補は認めないという。
 党として厳しい姿勢を示す狙いなのだろうが、首相は当初、誓約書を提出すれば公認し、重複立候補も認める構えだった。
 世論の批判を浴びて方針が二転三転したことで、かえって首相のぶれの大きさを印象付け、支持に影響が出る可能性もある。
 そもそも小選挙区で敗れた人が比例で復活当選する仕組みは、「有権者の意思を反映していない」との批判がつきまとってきた。
 重複立候補の扱いは不記載議員の懲罰の手段としてではなく、民意の公正な反映のあり方として、与野党ともに検討し直す性格のものだ。この機会に重複立候補の見直しを論じ合ってはどうか。
 日本維新の会の馬場代表、共産党の志位議長は、いずれも企業・団体献金の禁止を訴えた。
 適法な手段で浄財を集めることまで禁じるというなら、政治活動に必要な資金をどう確保すればいいのか。その代替策を示さないのは無責任に映る。
 このほか中東情勢について、野田氏が「独自外交で緊張緩和に努めるべきだ」と述べたのに対し、首相は「情勢安定化に向けて積極的な外交を行う」と応じた。
 イスラエルアラブ諸国双方と良好な関係にある日本は、仲介の役割を果たせるはずだ、と言われている。首相は主体的な外交を展開する必要がある。
 国民民主党の玉木代表は、税収が増えた分を所得税の恒久減税に充てるよう主張した。
 衆院選を意識したバラマキのような主張は慎むべきだ。

不記載議員の「非公認」でけじめは十分か(2024年10月8日『日本経済新聞』-「社説」)
 
 自民党が派閥の政治資金パーティーで不記載のあった議員の次期衆院選での扱いを決めた。重い処分を受けた幹部は非公認とし、他の議員も比例代表への重複立候補を認めない。石破茂首相(自民党総裁)が6日に森山裕幹事長らと協議し、記者団に説明した。
 政治資金問題への対応が甘いとの批判を考慮し、執行部は一定のけじめとしたい考えだ。だが衆院解散の直前での方針決定に、党内では反発する声も強い。
首相は非公認とする議員について①党から「選挙における非公認」以上の重い処分を受けた②非公認より軽い処分が継続中で政治倫理審査会での説明責任を果たしていない③地元で十分に理解が進んでいない――のいずれかに該当する場合との考えを示した。
 下村博文文部科学相西村康稔経済産業相、高木毅元復興相、萩生田光一政調会長ら6人が該当し、非公認の議員がさらに増える可能性もある。
 自民党の党紀委員会は4月、派閥の資金パーティーの裏金問題で39人の処分を決めた。不記載額が500万円未満の45人は幹事長による「注意」とした。
 不記載があった議員を公認する場合も、比例代表への重複立候補は認めない。小選挙区で落選したにもかかわらず、当選者の得票にどれだけ迫ったかを示す「惜敗率」の高い順に比例復活する現制度にはかねて廃止論がくすぶる。
 次の選挙で不記載議員が復活当選すれば、これまで以上に批判にさらされただろう。重複立候補を見送る判断は妥当だといえる。これを機に現行制度の問題点と見直しの方向性について、与野党で話し合うべきではないか。
 臨時国会では7日に衆院代表質問が始まった。立憲民主党野田佳彦代表は、自民党の不記載議員への対応について「大半が公認される。本当に国民の理解を得られるかどうか、よく考えてほしい」と再考を促した。首相は「国民の信頼を回復するために今後さらに行うべきことについて適切に判断する」と述べるにとどめた。
 不記載議員の扱いの是非は、27日投開票の衆院選有権者が最終判断を下す。一方で派閥ぐるみの裏金問題を引き起こした責任は重い。自民党は改正政治資金規正法の6月の成立を踏まえ、資金の流れを監査する第三者機関の制度設計など残る課題に向けた行動を衆院選で明示してもらいたい。

首相の国会答弁 判断材料が全く足りぬ(2024年10月8日『東京新聞』-「社説」)
 
 石破茂首相の所信表明演説に対する各党代表質問が始まった。首相は27日投開票の衆院選で最大の争点となる「政治とカネ」を巡り答弁書を読み上げる場面が目立ち、有権者に十分な判断材料を示したとは言い難い。
 首相は裏金議員の一部を公認しない方針を表明したものの、立憲民主党野田佳彦代表は「大半が公認される。国民の理解を得られるのか」と追及。首相は非公認が何人になるか「現時点では確定していない」と述べるにとどめた。
 国民の多くは裏金づくりを脱税と受け止め、党内処分が一部にとどまったことに不公正との怒りを抱く。自ら制定した法律に反する国会議員が今なお在職していること自体が不条理に映る。
 首相は、裏金議員の一部を非公認とすることで、旧安倍派議員らの反発に強い姿勢を示したつもりかもしれないが、内向きの理屈に過ぎない。裏金議員は全員非公認とするのが当然ではないか。
 自民党議員が裏金を原資に違法な香典を配った事件に続き、旧石破派でも政治資金パーティー収入の不記載が明らかになった。首相は就任時「新しい事実が判明すれば調査」と明言していたが、野党の再調査要求に慎重姿勢を崩さなかった。前言を翻すのか。
 政治資金規正法再改正への決意も見えなかった。使途公開が不要な政策活動費の「将来的な廃止」には触れたが、自民党総裁選で複数の候補者が訴えた即時廃止に、なぜ踏み込めないのか。
 野党が全廃を求めた企業・団体献金は「先の通常国会で見直しは行われなかった」と存続を容認した。自身が若手議員として加わった「平成の政治改革」で決まった廃止の方針を否定するなら、初心を忘れたというほかない。
 首相は代表質問に先立ち「自分の言葉で語る」「衆院選の判断材料を誠心誠意、提供したい」と述べていたが、用意した答弁の繰り返しで論戦は緊張感を欠いた。
 8日の参院代表質問、9日の党首討論後に衆院解散の予定だが、国民が投票で十分に判断できる材料が整うまで国会を解散せず、会期を延長して議論すべきである。