長い闘いにようやく終止符が… 袴田巌さんの無罪確定  検察が上訴権を放棄(2024年10月9日『静岡朝日テレビ』)

 静岡地裁袴田巌さんに出した無罪判決について、検察は上訴権を放棄し袴田さんの無罪が確定しました。58年にも及ぶ闘いにようやく終止符が打たれました。
 9月26日に袴田巌さんに出された静岡地裁の無罪判決。検察は9日、この判決に対する上訴権を放棄しました。これによって、袴田さんの「無罪」が確定。58年間に及ぶ冤罪との闘いに終止符が打たれました。
 いっぽうで、捜査当局側は異例の対応を見せています。
◆袴田ひで子さん:
「これで一件落着で、本当に裁判が完全に終わるということでとてもうれしく思っております。私はさっきちょっと聞いた時にね、これでやっぱり終わるんだと思って、58年の苦労というか、そういうものが吹き飛んじゃったと言いますかね、喜びしか今のところありません」
 8日夕方、急遽会見の場に姿を見せた袴田ひで子さん。弟・巌さんの無罪判決に対し、検察が控訴を断念したことを受けて喜びの言葉を口にしました。
 袴田巌さんは58年前、旧清水市で、みそ会社専務一家4人が殺害された事件で死刑が確定。しかし再審で、静岡地裁は9月26日、袴田さんに無罪判決を言い渡しました。
 検察による控訴期限が2日後に迫る中で出た「控訴断念」の知らせでした。姉・ひで子さんは会見でこう振り返りました。
◆袴田ひで子さん:
「連絡を受けたときというのは、うれしいとかなんとかよりも、なんだそうかと思った。だけど、本当にこういうふうになって、これで一件落着で、誰にも何も言われないということ、それから、巌が死刑囚じゃなくなるということは、とてもうれしいものがあります。
 控訴断念を判断した検察側にも動きが。検察のトップ、畝本(うねもと)直美(なおみ)検事総長が異例の談話を発表したのです。
●畝本直美検事総長(談話より一部抜粋):
「検察は、袴田巌さんを被告人とする令和6年9月26日付け静岡地方裁判所の判決に対し、控訴しないこととしました。再審開始を決定した令和5年3月の東京高裁決定には重大な事実誤認があると考えましたが、憲法違反等刑事訴訟法が定める上告理由が見当たらない以上、特別抗告を行うことは相当ではないと判断しました」
 一方、静岡地裁の判決で証拠が「捜査機関のねつ造」と断定されたことについては…
●畝本直美検事総長(談話より一部抜粋):
「本判決が『5点の衣類』を捜査機関のねつ造と断じたことには強い不満を抱かざるを得ません」
 この談話に、袴田弁護団の小川秀世事務局長は苦言を呈しています。
◆小川秀世弁護士:
「非常に私は納得がいかないというか。むしろ端的に言うとけしからん内容だったというふうに思っています。検察なんて全然反省するような、そういうあれがないじゃないですか」
 また、事件発生当時に捜査を担当した静岡県警も異例の対応を見せました。けさ取材に応じた県警の津田隆好(つだ・たかよし)本部長は。
静岡県警 津田隆好本部長:
「袴田さんが長きにわたって法的地位が不安定な状況に置かれてきたことについて申し訳なく思っております」
 記者からは裁判所が証拠のねつ造を認定したことについて質問が飛びました。
静岡県警 津田隆好本部長:
Q:県警としてはこの認定についてどのように受け止めているのか?
「それにつきましては、皆さんご承知のとおり、昨日は検察のトップであられます検事総長がコメントを出されておりますので、その通りかと思っております」
Q:静岡県警としても、捏造については認めることはできない?
「我々コメントする立場にございませんが、検事総長がお話しになられておりますので、それはそれでそういうことかなというふうに考えております」
Q:あくまで県警としてのコメントは避けるということで?
「訴訟当事者ではありませんので、なかなかそこは言いづらいところでございますけれども、検事、検察が訴訟されていた中で、そのトップである検事総長がお答えになられておりますので、そういうことかなというふうに考えております」
 9日検察が上訴権を放棄したことで、袴田巌さんの「無罪」が確定しました。
長生きしてもらいたい
 2014年に静岡地裁で再審開始決定の判断を下し、袴田さんを死刑囚の身でありながら釈放した村山浩昭元裁判長は、検察の判断をどう見たのでしょうか。
静岡地裁元裁判官・村山浩昭弁護士:
「やはり静岡地裁の判決に対しては非常に強い不満が表明されているというのはわかりました。ただ、やはり検察の中でそういう議論が当然あったんだろうなということが推測されます。最終的にその無罪判決を覆すということが難しいという判断をされたというのは、やはり良識的な賢明な判断だったというふうに私は思っています」
 また、東京高裁で裁判長を務めた経験を持ち、現役裁判官時代に30件以上の無罪判決を出した元裁判官の木谷明弁護士は、検察が判決内容を「承服できないものである」としていることについて…
◆木谷明弁護士:
「やっぱりやってもだめだというのは本心にあるんだけれども、ちょっとこの負け惜しみを言っている感じがします。控訴したってね、結論を動かすことは事実上不可能ですよ。それは検事が分かっているんです。分かっているけど負け惜しみ言ってるんですね」
 冤罪事件を闘う厳しさを見てきた木谷弁護士。ひで子さんへの思いを語りました。
◆木谷明弁護士:
「今まで本当に苦しい闘いをしてきたわけですから、これから少なくとも心安らかに過ごしてほしいと思いますけれども」
 自由を取り戻した袴田さんについて、ひで子さんは…。
◆袴田ひで子さん:
「もう88歳ですからね。あまり多くを望みませんが、巌にはせめてもう少し長生きしてもらいたいと思っております。(シャバに出てから10年でチュンになったじゃ、これじゃ面白くないから)もう10年ぐらいは生かして、生かしてというとおかしいけど生かしていただきたいと思っております」
「生活そのものはごくごく平凡に静かに暮らしていければいいと思っております」



袴田氏無罪確定へ。検事総長のコメントに大竹「ずいぶん悔しそうな言い方に俺は聞こえた」(2024年10月9日『文化放送』)
 
10月9日(水)、お笑い芸人の大竹まことがパーソナリティを務めるラジオ番組「大竹まことゴールデンラジオ」(文化放送・月曜~金曜13時~15時30分)が放送。東京新聞の「袴田さん、無罪確定へ 検事総長、再審控訴断念を表明」という記事を取り上げ、大竹がコメントした。
1966年の静岡県一家4人殺害事件で死刑が確定した袴田巌さん(88)の裁判をやり直す再審で、無罪とした静岡地裁判決に対し、畝本直美検事総長は8日、控訴しないと表明した。事件発生から58年を経て、袴田さんの無罪が確定する。畝本氏は談話で「結果として相当な長期間、法的地位が不安定な状況に置かれた。申し訳なく思う」と謝罪した。最高検は再審請求手続きが長期間に及んだことについて検証する方針。
袴田さん、無罪確定へ 検事総長、再審控訴断念を表明
砂山アナ(アシスタント)「この検事総長の談話として、「静岡地裁判決が捜査機関による証拠の捏造認定した点に強い不満を抱かざるを得ない」と、こういう不満も表明しつつ熟慮を重ねた結果、検察が控訴しその状況が継続することは相当ではないとの判断に至ったと説明したとあります。また、こちらは朝日新聞の一面なんですが、当時の報道をお詫びしますということで、東京本社の編集局長の名前入りでお詫びのコメントが出ています。再審を経て、いったん死刑囚となった袴田巌さんの無罪が確定します。無実の人を死刑にしていたかもしれないことの重大性を改めて痛切に感じます。袴田さんが逮捕された1966年当時、朝日新聞は犯人視して報道していました。逮捕当初は「葬儀にも参列 顔色も変えず」といった見出しで伝え、「自白」した際には「検察側の追及をふてぶてしい態度ではねつけてきていたが、ついに自供した」とも書いています。明らかに人権感覚を欠いていました。こうした報道が袴田さんやご家族を苦しめたことは慚愧(ざんき)に堪えません。袴田さん、ご家族、関係者のみなさまに心からおわびいたします。と、出ています。東京新聞毎日新聞は、静岡地裁の判決が出た次の日にお詫びの記事を出してるんですけども、朝日新聞はこの検察の控訴断念を受けて、お詫びの記事を出しています」
朝日新聞の当時の報道、おわびします 袴田巌さん無罪確定へ
大竹「無罪が出てよかったですね袴田さんと思うんだけども、それにしても58年間ですよね逮捕から。各新聞はお詫びを載せてますけど、これやっぱ何が足らなかったかというと、各新聞が検察の発表を鵜呑みにして、そのままのことを載せていったと。やっぱりこれで思うのは、真犯人はどこかにいるんじゃないかとか、無実で58年間もとか思うよね。ということになってくるとやっぱし取り調べ大事だよね。青木さんなんかと話してると、取り調べとか、裁判とかの時に証拠を持ってるのが検察だけで、証拠は検察がその中から選んで出しているというようなことじゃダメだと。ここから根本的に変えるというのが1つと、それからもう1つ。さっき言った取り調べの段階とそれから人質司法みたいなことと、もう本当にこういう判決が出た場合、もっと抜本的なことをやらないとまたこういう冤罪事件は産まれちゃうかもしれないなと。検事総長は女性の方で、今までやったことで、申し訳なかったと言っているけれども、でも、言い方もずいぶん悔しそうな言い方にちょっと俺は聞こえた。これからこういう冤罪事件が生まれないためには何が必要か、考えなくちゃまた生まれちゃうことになるよね」