「PFAS」妊婦の血中濃度が子の染色体異常と関連? 信州大グループが分析、国は「追加調査」に否定的(2024年10月4日『東京新聞』)

 
 発がん性の疑いがある有機フッ素化合物(PFAS(ピーファス))について、信州大の研究グループが、妊娠中の母親のPFASの血中濃度が上昇すると、生まれてくる子どもの染色体異常の発生が増える傾向があるとした研究結果を発表した。化学物質などの健康影響を探る環境省の「エコチル調査」のデータを分析して明らかにした。

◆濃度が倍増すると異常の割合が2.25倍

 PFASと染色体異常の関連性の研究はほとんどなく、新たな健康リスクの可能性として浮上した。エコチル調査のデータを使った研究で、PFASの健康影響の可能性が指摘されるのは初めて。
 エコチル調査に参加する信州大の野見山哲生教授らの研究グループが、全国の妊婦約2万5000人の血中濃度と、生まれた子どもの染色体異常の関連性を分析した。それによると、PFASの一種PFOS(ピーフォス)の血中濃度が母体で倍増するごとに、子どもの染色体異常の割合が2.08倍になると推定できるとした。PFNA(ピーエフエヌエー)では1.81倍、7種類のPFAS合計では2.25倍になるとした。染色体異常は流産を引き起こすほか、出生児の先天異常として21トリソミー(ダウン症候群)の原因になることなどを挙げた。

◆「新たな枠組みの研究が必要」

 一方で、染色体異常を確認したのが44症例と少なく、流産が発生しやすい妊娠12週より前の妊婦のデータが得られていない点などから「研究結果を慎重に解釈するべきだ」とした上で、「結果を確認するために今後の研究が必要だ」とも言及している。
 野見山教授は本紙の取材に「生物学的なメカニズムに関する実験研究や、父親の精子に着目したPFASと染色体異常の研究、妊娠前からの追跡調査等が必要だ。新たな枠組みの研究が求められる」と語る。

環境相「様々な研究の一つ」

 今回の研究結果について、伊藤信太郎環境相は9月20日閣議後会見で、「さまざまな研究の一つと認識している」と言及。追加調査の必要性については、染色体異常との関連性が見られなかったという研究もあるとして、「今回の研究のみに基づいて、妊婦のPFASの血中濃度の検査を行うべきだと結論づけることはできない」と答えた。
 国内外の研究では、PFASは腎臓がんリスクや血中コレステロール値の上昇、免疫力の低下、胎児・乳児の成長阻害などの関連が指摘されている。昨年12月には世界保健機関(WHO)の専門組織がPFASの一種PFOA(ピーフォア)について「発がん性がある」と認定した。(松島京太)

 エコチル調査 環境省が2011年から実施している全国15地域、10万組の母子を対象とした追跡型の疫学調査。妊婦の血中の化学物質や子どもの健康状態について分析し、化学物質などの健康影響を調査する。PFASの影響が指摘される腎臓がんなど一般に発症率の低い健康リスクとの関連性が明らかになりにくいなどの課題がある。首都圏の調査対象地域は神奈川、千葉で、PFAS汚染が問題となっている東京・多摩地域は含まれていない。