韓国大統領が戒厳令に関する社説・コラム(2024年12月5・6・7・8・10・11・13・15・16・17日)

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4日未明、ソウルの大統領府で「非常戒厳」解除を発表する韓国の尹錫悦大統領(聯合=共同)
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韓国野党は尹錫悦大統領への追及の手を緩めない方針だ(ソウル、7日)=ロイター

韓国大統領弾劾可決 地域の不安定化、回避を(2024年12月17日『秋田魁新報』-「社説」)
 
 韓国国会が、「非常戒厳」を一時宣言した尹錫悦(ユンソンニョル)大統領の弾劾訴追案を可決した。尹氏は職務停止となり、首相が権限を代行。憲法裁判所が180日以内に罷免するかどうか判断する。
 
 野党の弾劾案は2度目の提出だった。前回は与党「国民の力」の退席で廃案となったが、今回は与党の一部議員が賛成に回ったことで可決された。
 韓国大統領の弾劾訴追は2016年の朴槿恵(パククネ)元大統領に続き3例目。軍を国会に突入させるという民主主義を脅かす行動を取り、国政を混乱させた尹氏の責任は重い。可決は当然だ。
 与党議員の造反を招いたのは尹氏自身といえる。国民に謝罪し、自身の任期を含む今後の対応を与党に一任する考えを示していたのに、1度目の弾劾案が廃案となった後、戒厳令を正当化し、辞任も拒否する談話を発表した。
 戒厳令に対してはもとより、与党の退席に対しても世論の批判が高まっていた。尹氏の態度硬化を受けて、与党内に「弾劾しかない」という考えが広がったとみられる。
 韓国憲法は、戦時やそれに準ずる「国家非常事態」に陥った際に大統領が戒厳を宣言できると規定している。尹氏は、4月の総選挙で大勝した野党が政府高官らへの弾劾訴追を乱発したことを「国政をまひさせている」などと批判。戒厳令は「国民に危機状況を知らせ、憲法秩序を守り回復するためだった」と主張している。
 野党側は、今回の戒厳令憲法と法律に違反し、国会議員らの違法な逮捕も試みられたとして「罷免が早く実現するよう闘い続けなければいけない」と訴えている。憲法裁が罷免の結論を出した場合、60日以内に大統領選が実施される。尹氏に対しては内乱容疑での捜査も進められている。法に基づいて手続きが進められ、早期に政治が安定することが望まれる。
 中国が覇権主義的な行動を強め、北朝鮮が核・ミサイル開発を進める中、日米韓の連携が重要性を増している。韓国政治が停滞し、東アジア地域の不安定化を招くことは避けなければならない。
 日米韓の首脳は昨年8月、首脳や閣僚による会談を定例化させ、中長期にわたって協力していくことで合意した。米国ではトランプ政権の発足を控えており、3カ国の連携が改めて問われる局面でもある。
 日本重視の尹政権下では日韓関係の改善が進められた。憲法裁の判断や捜査の行方次第では、新政権で対日政策が転換される可能性がある。そうなったとしても、日韓関係が後戻りしないようにしたい。
 石破茂首相は弾劾案可決前の記者団の取材に対し「日韓関係の重要性は何ら変わらない」と述べた。日本は韓国側と緊密に意思疎通を図る姿勢を引き続き打ち出し、協力関係を維持していく必要がある。

韓国大統領弾劾/対話で正常化への道筋探れ(2024年12月17日『福島民友新聞』-「社説」)
 
 韓国国会が「非常戒厳」を宣言した尹錫悦(ユンソンニョル)大統領に対する2度目の弾劾訴追案を可決した。野党に加え、与党の一部議員が賛成に回り、可決に必要な在籍議員の3分の2を上回った。
 尹氏は宣言直後の談話で「国民の皆さまに心よりおわびする」と謝罪し、自身の任期を与党に一任すると明言していた。しかし2度目の採決前の談話では、与党が求める早期退陣を拒否、戒厳令についても「兵力投入は1、2時間に過ぎない」などと正当化した。
 前言を撤回し、責任を回避するような姿勢に国民は不信感を募らせ、世論調査では弾劾への賛成意見が7割を超えた。尹氏のリーダーとしての資質が疑われるなか、厳しい世論を踏まえ与党議員が離反したのは当然だろう。
 大統領としての権力を乱用し、国内を大きな混乱に陥れた責任は極めて重い。弾劾を真摯(しんし)に受け止め、自身の進退を考えるべきだ。
 尹氏の大統領としての職務は停止され、韓悳洙(ハンドクス)首相が代行する。憲法裁判所が180日以内に弾劾の妥当性を審理し、認められれば罷免される。尹氏は「私は決して諦めない」と強気の姿勢だ。
 韓国の政府高官の不正を調べる「高官犯罪捜査庁」や警察などは、尹氏が内乱の首謀者とみて捜査している。捜査当局は身柄拘束に乗り出す可能性もあるという。
 今後、憲法裁での審判と並行し捜査が本格化する。政治の混乱が長期化するのを避けるためにも、戒厳令の宣言という暴挙に至った真相の解明を急ぐ必要がある。
 与野党の激しい対立が今回の事態を招いた一因とされる。最大野党「共に民主党」は政府高官の人事案を何度も否決し、予算案に強硬に反対するなど、尹政権を執拗(しつよう)に追い込んだ面は否めない。
 一方、4月の総選挙で大敗した与党は保守政権の維持を優先し、弾劾訴追案についても曖昧な対応に終始するなど混乱を助長した。
 今後、罷免による大統領選を見据え、与野党の対立がさらに先鋭化する事態は韓国国民も望んでいないはずだ。与野党は議論を重ねて、事態収拾を図るべきだ。
 戒厳を進言したとされる前国防相が逮捕され、警察を管轄する閣僚も辞任した。内乱の疑いで警察庁長官らも逮捕されている。安全保障や治安を所管する組織の混乱に国民の不安が広がっている。
 日本にとっても隣国の混乱は大きな打撃で、経済活動や安全保障などの不安要素になる。米国も含め、政府間の実務者レベルで緊密な連携を維持し、影響を最小限に食い止めなければならない。

韓国大統領弾劾/対話で正常化への道筋探れ(2024年12月17日『福井新聞』-「論説」)
 
 韓国国会が「非常戒厳」を宣言した尹錫悦(ユンソンニョル)大統領に対する2度目の弾劾訴追案を可決した。野党に加え、与党の一部議員が賛成に回り、可決に必要な在籍議員の3分の2を上回った。
 尹氏は宣言直後の談話で「国民の皆さまに心よりおわびする」と謝罪し、自身の任期を与党に一任すると明言していた。しかし2度目の採決前の談話では、与党が求める早期退陣を拒否、戒厳令についても「兵力投入は1、2時間に過ぎない」などと正当化した。
 前言を撤回し、責任を回避するような姿勢に国民は不信感を募らせ、世論調査では弾劾への賛成意見が7割を超えた。尹氏のリーダーとしての資質が疑われるなか、厳しい世論を踏まえ与党議員が離反したのは当然だろう。
 大統領としての権力を乱用し、国内を大きな混乱に陥れた責任は極めて重い。弾劾を真摯(しんし)に受け止め、自身の進退を考えるべきだ。
 尹氏の大統領としての職務は停止され、韓悳洙(ハンドクス)首相が代行する。憲法裁判所が180日以内に弾劾の妥当性を審理し、認められれば罷免される。尹氏は「私は決して諦めない」と強気の姿勢だ。
 韓国の政府高官の不正を調べる「高官犯罪捜査庁」や警察などは、尹氏が内乱の首謀者とみて捜査している。捜査当局は身柄拘束に乗り出す可能性もあるという。
 今後、憲法裁での審判と並行し捜査が本格化する。政治の混乱が長期化するのを避けるためにも、戒厳令の宣言という暴挙に至った真相の解明を急ぐ必要がある。
 与野党の激しい対立が今回の事態を招いた一因とされる。最大野党「共に民主党」は政府高官の人事案を何度も否決し、予算案に強硬に反対するなど、尹政権を執拗(しつよう)に追い込んだ面は否めない。
 一方、4月の総選挙で大敗した与党は保守政権の維持を優先し、弾劾訴追案についても曖昧な対応に終始するなど混乱を助長した。
 今後、罷免による大統領選を見据え、与野党の対立がさらに先鋭化する事態は韓国国民も望んでいないはずだ。与野党は議論を重ねて、事態収拾を図るべきだ。
 戒厳を進言したとされる前国防相が逮捕され、警察を管轄する閣僚も辞任した。内乱の疑いで警察庁長官らも逮捕されている。安全保障や治安を所管する組織の混乱に国民の不安が広がっている。
 日本にとっても隣国の混乱は大きな打撃で、経済活動や安全保障などの不安要素になる。米国も含め、政府間の実務者レベルで緊密な連携を維持し、影響を最小限に食い止めなければならない。

韓国大統領弾劾 駆け引きより立て直しを(2024年12月17日『信濃毎日新聞』-「社説」)
 
 韓国の国会が、尹錫悦大統領に対する弾劾訴追を可決した。
 罷免すべきかどうかを憲法裁判所が180日以内に判断する。
 異論を力で封じるために国会へ軍を突入させた。民主主義国家の指導者として許されない暴挙だ。過去の軍事独裁政権を想起させ、市民に強い衝撃と失望を与えた。
 尹氏は弾劾採決に先立って出した談話で戒厳令を正当化し、辞任も拒んだ。野党が国政をまひさせたとし、「国民に危機状況を知らせるため」と抗弁している。
 根拠を示さないまま選挙の結果に疑いの目を向け、選挙管理委員会に軍を派遣したのは不正を調べるためだ―とも主張した。
 一方的な理屈は裏付けを欠き、市民感覚とも懸け離れているだろう。政権を担う力も失われ、職務停止に追い込まれた。
 内乱容疑での捜査も進むが、事情聴取のための出頭を拒んでいる。事態はより混沌(こんとん)としてきた。
 大統領権限は韓悳洙首相が代行する。トップ不在の事態が当面続き、外交力はそがれる。トランプ氏の米大統領復帰に伴う国際環境の変化に十分対処できるのか。
 国防相警察庁長官が逮捕され、治安や安全保障面の不安も高まる。韓氏が捜査対象となる可能性もある。国政の停滞は避けられず、内需が低迷する経済の立て直しにも影響を与えかねない。
 尹氏の罷免を想定し、次期大統領選を見据えた与野党の主導権争いが激化している。
 革新系最大野党「共に民主党」の李在明代表は、国会と政府による「国政安定協議体」の設置を提案した。大統領選に向けて、事態の収拾を主導する姿をアピールする思惑があるのだろう。保守系与党「国民の力」は拒否する考えを示した。
 与党は、政権を奪われないための時間稼ぎで一度は弾劾訴追を廃案に追い込んだ。だが世論の猛反発に押し負け、少なくとも12人が造反して可決された。党内の分断を招いた責任を問われ、韓東勲代表は辞任を表明。政治の混迷は深まるばかりだ。
 戒厳令を正当化する理由にはならないが、保革の対立が極まった現状は正視すべきだ。政権との対話を拒み、強引な国会運営を続けた野党にも省みるべき点はある。
 国内の混乱によって国際的な信用も失いつつある。政治空白の長期化で、朝鮮半島情勢は不安定さを増す。党利党略の駆け引きに終始せず、与野党が国政を早期に立て直すことを望みたい。

韓国大統領の弾劾 速やかに政治混乱の収拾を(2024年12月17日『京都新聞』-「社説」)
 
 韓国国会は、尹錫悦(ユンソンニョル)大統領に対する弾劾訴追案を可決した。
 強行した「非常戒厳」は憲法違反として、野党が出した2度目の弾劾案に与党議員の造反による賛成が広がり、「退場宣告」を突きつけた形だ。
 尹氏は職務停止となり、権限は韓悳洙(ハンドクス)首相が代行する。
 これに対し、尹氏は「決して諦めない」と談話を発表し、争う姿勢を示している。
 今後、憲法裁判所が180日以内に罷免の是非を判断する。裁判官9人のうち6人の賛成で罷免となれば、60日以内に大統領選が行われる。2016年に罷免となった朴槿恵(パクウネ)大統領に続き、弾劾訴追は3例目となる。
 最長で240日間にわたって「大統領不在」となる。
 国内外に多大な影響を及ぼす政局混乱の長期化は極力、避けるべきだ。
 再提出の弾劾案可決は、国民の批判世論の高まりからだろう。尹氏は、4月に与党が大敗した総選挙は結果がねじ曲げられたと主張。戒厳の発令について、国政運営を妨害する野党の行動を知らせるためだったと正当化した。
 戒厳令では、軍兵士を選管本庁舎に送り、職員の携帯電話を押収した。国会にも突入させ、「議員を引っ張り出せ」と指示したとの証言も出ている。
 与党に任期を委ねるとした意向を翻して開き直る姿勢に、世論の7割以上が弾劾を求めた。
 このため、1回目の弾劾案採決には出席せず、廃案とした与党も、2回目は少なくとも12人の議員が賛成に回った。与党代表は辞意を表明した。
 与党は朴氏の弾劾訴追の後、下野した「悪夢」を引きずったのではないか。党利党略に走った責任は重い。
 憲法裁での審判と並行し、捜査当局の捜査も焦点だ。現職大統領には不訴追特権があるが、告発された内乱罪は例外だ。当局は尹氏を首謀者とみており、戒厳を進言したとされる前国防相警察庁長官らを内乱容疑で逮捕した。
 尹氏は、検察による2度の出頭要請には応じていないが、内外から厳しい目が向けられるだろう。
 首相のトップ外交への対応には限界がある。大統領の不在は、東アジアの安全保障環境にも影響を与えかねない。
 来年は日韓国交正常化60周年の節目で、首脳同士の相互訪問「シャトル外交」の活発化が期待されていた。しかし、今月に予定されていた中谷元・防衛相の訪韓は見送られ、年明けで調整されていた石破茂首相の訪問も困難になった。
 多国間協力に後ろ向きな米国のトランプ氏の大統領就任を控え、日韓の緊密な意思疎通は欠かせない。
 速やかな政治混乱の収拾と、政権体制の再構築が求められている。

韓国大統領弾劾/与野党は安定化に最善を(2024年12月17日『神戸新聞』-「社説」)
 
 混乱する韓国政治は、司法の判断を仰ぐ段階に入った。与野党は内政や外交への影響を抑え、早期の安定化に最善を尽くしてほしい。
 尹錫悦(ユンソンニョル)大統領に対する2度目の弾劾訴追案が国会で可決され、尹氏は職務停止となった。今後は憲法裁判所が尹氏を罷免するかどうかを180日以内に判断する。大統領の権限を代行する韓悳洙(ハンドクス)首相は「危機を必ず克服する」と宣言した。
 1度目の採決は与党「国民の力」のほとんどの議員がボイコットしたが、今回は国会議員300人全員が参加した。賛成は204票と可決ラインの200を超えた。与党は弾劾反対の党方針を改めて確認した上で臨んだものの、少なくとも12人が造反したことになる。
 弾劾を求める強い世論に配慮せざるを得なかったのだろう。与野党間だけでなく、与党内の対立の深刻化が懸念される。
 可決を受けて、尹氏は「決して諦めない」との談話を出した。最大野党「共に民主党」は、大統領による非常戒厳の宣言は内乱容疑に当たるとして刑事告発した。捜査の手が迫る中、尹氏は辞任を拒否し、徹底抗戦にかじを切った。
 しかし、憲法裁判所の審判の結果がどうあれ、軍の力で異論を排除しようとした尹氏が国民の信頼を回復できるとは到底思えない。直近の世論調査で支持率は11%と就任後最低を更新した。
 国民向けの談話の中で尹氏は「軍部隊の投入は1、2時間に過ぎない」などと釈明した。強権発動を矮小(わいしょう)化するような発言であり、看過できない。一方、国会議事堂への突入に関与した軍司令官は「扉を壊して議員を引っ張り出せと(大統領から)指示された」と証言している。
 司法や議会での徹底した調査が求められる。検察出身の尹氏は、捜査に協力するべきだ。
 韓国は国内消費の不振が続き、成長の原動力となってきた輸出にも陰りが見える。政治の混乱が長引けば経済への打撃はさらに大きくなり、国民生活にしわ寄せが及ぶ。世界経済への影響も避けられまい。そうした事態を避けるには、与野党が現実路線で協調することが求められる。
 米国と中国の対立激化や北朝鮮とロシアの軍事協力の進展など、安全保障環境は不透明さを増している。来年1月には、同盟国軽視のトランプ氏が米大統領に復帰する。
 対日融和に努めてきた尹政権下で、米国の主導により日米韓の連携枠組みを制度化する動きが進んでいた。今の国際情勢を鑑みれば、尹氏不在で3国の協力が後退することは避けねばならない。日本は連携維持を粘り強く働きかける必要がある。

【韓国大統領弾劾】混迷の長期化を避けよ(2024年12月17日『高知新聞』-「社説」)
 
 民主化後初めての戒厳令に突き進んだ責任を明確にする必要がある。同時に、保革の対立が激化して政情が不安定化することは避けなければならない。混乱を長期化させないことが肝要だ。
 韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領は弾劾訴追で職務停止となった。「非常戒厳」宣言は憲法違反だとして野党が国会に提出していた。
 1度目の弾劾案は与党「国民の力」のボイコットで廃案となった。世論の反発は強く、2度目は与党議員の一部が造反して可決した。
 憲法裁判所が罷免の可否を180日以内に判断する。5年任期の半分が残る尹氏は争う姿勢を示している。
 尹氏は戒厳令を正当化する見解を示している。宣言は司法の対象とならない統治行為であり内乱罪に当たらないとする。与党が求めた早期退陣を拒否した。
 戒厳令は国民に過去の軍事独裁政権を思い起こさせ、拒否感は強い。尹氏の支持率は一段と下落した。
 尹氏は、戒厳令は国民に危機的状況を知らせ、憲法秩序を守り回復するためだったと主張する。国会は野党が過半数を占め、思うように政権運営ができないことへの憤りがにじむ。だが、民主政治と過激な手段を持ち込むことを結び付けるのは無理がある。
 軍を国会のほか中央選挙管理委員会に突入させる極端な行動の背景には、与党が大敗した4月の総選挙を不正と主張する勢力の影響を受けたとの見方が出ている。政権内部での情報共有の在り方など、戒厳令に至る全容の解明が求められる。
 当局は尹氏が内乱の首謀者とみて捜査している。政府高官の不正を調べる「高官犯罪捜査庁」(高捜庁)や警察などでつくる捜査本部が尹氏に出頭を求める。これまでに検察も事情聴取のため出頭を要請したが、尹氏は応じていない。拒否を繰り返せば身柄拘束に乗り出す可能性が指摘される。
 尹氏の職務停止を受け、韓悳洙(ハンドクス)首相は代行体制を本格化させた。バイデン米大統領と電話会談して米韓同盟の発展へ努力する意向を伝達したほか、閣僚からも日韓、日米韓協力の発展への発言が聞かれる。戒厳令は国民はもとより、国際社会を驚かせた。経済への影響も見過ごせず、信頼の立て直しは急務だ。
 与野党は国政運営を巡る主導権争いを続けている。野党が攻勢を強める中、国民の力の韓東勲(ハンドンフン)代表は辞任を表明した。党内結束を乱した責任を問われた格好だ。
 韓氏は尹氏を早期辞任させ国民の理解を得る考えだったようだが、尹氏は拒否した。国政から尹氏を排除するには弾劾案への賛成が必要だと表明した一方、党方針は反対を維持した。分かりにくい対応が与党の分裂と混乱を映し出す。
 国政混乱の収拾策は簡単にはまとまりそうにない。最大野党「共に民主党」が提案した国会と政府による協議体の設置には、与党は難色を示す。早期の正常化に向けた冷静な対応が求められる。

韓国大統領弾劾 真相究明し混乱広げるな(2024年12月17日『西日本新聞』-「社説」)
 
 民主主義の危機を訴える国民の声に応えた判断である。韓国国会は「非常戒厳」を宣言した尹錫悦(ユンソンニョル)大統領の弾劾訴追案を可決した。
 尹氏の職務は停止された。当分の間は事実上の大統領不在となり、職務は韓悳洙(ハンドクス)首相が代行する。与野党は政治の混迷を最小限に抑えなくてはならない。
 弾劾案は「非常戒厳は憲法違反」と主張する野党が提出した。1度目は与党が投票を棄権して廃案になったが、今回は与党の一部も賛成した。
 直近の世論調査では弾劾への賛成が75%に達していた。連日の大規模デモで尹氏の罷免を求める国民の反発に、与党議員はあらがえなかったのだろう。
 採決の2日前に尹氏が国民に発した談話も、弾劾可決の決定打になったと言える。
 異例の非常戒厳を「野党の議会独裁に対抗するため」の統治行為と正当化し、大統領辞任を否定した。反省はうかがえなかった。
 さらに野党が大勝した4月の総選挙について、北朝鮮からの影響を受けた不正選挙の疑いがあると述べた。
 こうした主張は、一部のユーチューバーや極右団体が唱える真偽不明の「陰謀論」と類似している。国民に強い違和感を与えた。
 尹氏や非常戒厳に関与した軍と警察のトップに対して、内乱罪などの容疑で捜査が始まっている。
 突然の非常戒厳は多くの謎に包まれている。捜査を通じて真相と大統領の責任を明らかにしてもらいたい。尹氏は捜査に応じるべきだ。
 今後は憲法裁判所が180日以内に弾劾の妥当性を審理する。憲法裁が妥当と判断すれば、尹氏は罷免される。
 弾劾訴追された韓国大統領は1987年の民主化以降、盧武鉉ノムヒョン)氏、朴槿恵(パククネ)氏に次いで3人目だ。朴氏は憲法裁の判断で罷免された。
 今回の非常戒厳は保守派と革新派の激しい対立と、それがもたらす社会の断絶を改めて印象づけた。韓国が抱える大きな難題だ。
 韓国政治の混迷はトランプ次期米政権下の日米韓協力をはじめ、国際情勢に影響を及ぼす。政治空白に乗じ、北朝鮮が挑発行為を一段と強める恐れがある。
 韓国の対外イメージにも響く。韓国を訪れる外国人観光客は減り始めている。外国からの投資控えも起こり得る。
 経済や国民生活へのしわ寄せを防ぐのは政治の責務だ。政治の停滞を避ける点では与野党の協力が欠かせない。
 尹氏の強いリーダーシップで改善が進んだ日韓関係への影響も憂慮される。今の政情で尹氏が罷免されて大統領選が行われると、日本との関係強化に否定的な政権が誕生する可能性がある。
 日韓関係が深刻な痛手を被らないように、日本政府は外相同士で意思疎通を継続するなど、十分な対応を取る必要がある。

遠い向こう岸の火事ならず、尹氏の弾劾訴追案可決(2024年12月16日『産経新聞』-「産経抄」)
 
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韓国の国会で尹錫悦大統領への弾劾訴追案の可決を発表する禹元植議長(右)=14日、ソウル(共同)
「北窓塞(ふさ)ぐ」という言い回しがある。北向きの窓に板を打ち付けるなどし、冷たい北風が吹き込むのを防ぐ。「北塞ぐ」ともいい、歳時記には冬の季語として載っている。江戸の八百八町では、人々の死活を握る営みでもあった。
▼冬の火事は、北風に乗って延焼したからである。商家などの土蔵は東か南に戸があり、窓は北面していた。中の家財に火が移らぬよう、粘土で北窓を塗りつぶしておくのが「火事の季節」の作法だったという(山本純美著『江戸の火事と火消』)。
▼狭い海を挟んだ向こう岸の火事は、燃え広がるのか収まるのか。火の勢いが見通せない。戒厳令に打って出た韓国の尹錫悦大統領に対し、国会が弾劾訴追案を可決した。戒厳軍の動員など常軌を逸した振る舞いを、憲法裁判所が裁くことになる。当分は国政の混乱が続くだろう。
▼政治の空白を突いて、北朝鮮が挑発してくる恐れがある。北と軍事同盟を結ぶロシアや、台湾併吞(へいどん)を狙う中国もいる。反日的かつ親北的な野党の姿勢も踏まえると、日韓関係の後退で収まるとは思えない。ともあれ、中露朝に面した「北窓塞ぐ」は、わが国にとって焦眉の急だ。
▼北東アジアの安全保障環境は、一層の厳しさを増している。少なくとも日米の結束にはわずかな緩みも許されず、トランプ次期政権との連携は死活に関わる。どこまで備えを進めているのか。石破茂首相には早々に道筋を示してほしいものである。
▼江戸に話を戻すと、商家が失火したときなどは、土蔵の1つをわざと燃やし世間に詫(わ)びた。韓国による今回の失火は、政治家たちが頭を下げて済むものでもない。<遠火事の容易ならざる煙かな>栗山武司。火の勢いと風の向きに、私たちも警戒を怠るまい。

韓国弾劾案可決 真相の究明を徹底的に(2024年12月16日『東京新聞』-「社説」)
 
 韓国国会が14日、「非常戒厳」を宣言した尹錫悦(ユンソンニョル)大統領の弾劾訴追案を可決し、尹氏の職務が停止された。憲法裁判所が180日以内に罷免の可否を判断する。
 野党の政治行動を封殺しようとするに至った真相の徹底解明と憲法との整合性についての審理を進めると同時に、分断や混乱を広げないよう、韓国の与野党や社会には冷静な対応を求めたい。
 訴追案の採決では少なくとも12人の与党議員が賛成票を投じた。市民の怒りが弾劾に慎重だった与党議員の背中を押した形だ。
 尹氏は採決2日前の談話で、国会への兵力投入を「秩序維持のためで、国会の機能をまひさせる意図はなかった」「野党の亡国的な行動を知らせる象徴的なもの」と釈明。野党が多数を占める国会を「自由民主主義の憲政秩序を破壊する怪物」だとも語った。
 しかし、報道によると、内乱容疑で逮捕された警察庁長官は取り調べに対し、非常戒厳宣言後に尹氏から電話が6回かかり「国会議員を逮捕しろ」と指示されたと証言した。非常戒厳を解除させないよう国会審議を実力で抑え込もうとしたのなら、尹氏の説明に説得力は全くない。
 尹氏は拘束すべき人物のリストに、与野党の代表や国会議長に加え、野党代表の裁判で無罪判決を言い渡した現職判事も挙げた、と伝えられている。
 昨年から「緊急措置」に言及していたとの報道もあり、早い段階から立法や司法を力で弾圧しようとしていた可能性も浮上する。事実なら「憲政秩序を破壊」したのは尹氏自身にほかならない。
 政治目的達成のため、強権的手法や法的根拠に乏しい手段を採れば民心が離れるのは当然だ。日本を含め、すべての為政者は「他山の石」にしなければならない。
 非常戒厳を巡る動きは、民主的に選ばれた指導者が民主主義を破壊しかねない危うさも示した。憲法裁の判断を見守るとともに、民主主義を守るにはどうすべきか、考える機会にもしたい。
 攻勢を強める進歩(革新)陣営と保守陣営との争いが激しくなるのは必至だが、社会の分断が拡大すれば、韓国の経済や国際的な信用にも影響を与えかねない。混乱長期化のツケは結局、市民自身に回る。民主主義への信頼を回復するには、対立を過度にあおらず、冷静に議論することも必要だ。

韓国大統領弾劾 混乱最小限にとどめねば(2024年12月16日『新潟日報』-「社説」)
 
 民主主義を脅かしたにもかかわらず、それを正当化するのでは、国民感覚と著しく懸け離れ、支持されるはずがない。弾劾可決は当然の帰結と言うほかない。
 当面の間、韓国の政情不安定化は避けられない。日本をはじめ国際社会への影響を見据え、混乱を最小限にとどめてもらいたい。
 韓国国会は、尹錫悦(ユンソンニョル)大統領の「非常戒厳」宣言は憲法違反だとして、野党が提出した弾劾訴追案を可決した。尹氏は職務停止となり韓悳洙(ハンドクス)首相が権限を代行した。
 戒厳令を受けた弾劾訴追案は2度目だ。1度目は尹氏が混乱をわびる談話を発表したこともあり、与党が廃案に追い込んだ。
 その上で与党は尹氏の早期退陣を求めていたが、尹氏は改めて国民向けの談話を出し「国民に危機状況を知らせ、憲法秩序を守り回復するためだった」として戒厳令を正当化した。弾劾や捜査にも立ち向かうと表明していた。
 権力維持のために手段を選ばない強権姿勢が鮮明だ。民主主義を踏みにじっておきながら、開き直るのでは、与党内で造反の動きが拡大したのは当然だ。
 今後は、憲法裁判所が罷免するかどうかを180日以内に判断する。6人以上の裁判官が賛成すれば罷免され、棄却された場合は尹氏が大統領に復帰する。
 尹氏は弾劾案可決を受け「決して諦めない」との談話を出し、憲法裁で争う姿勢を示した。
 これに対し、最大野党「共に民主党」の李在明(イジェミョン)代表は、罷免が最速で実現するよう共に闘おうと国民に訴えている。
 罷免の賛否を巡る対立が激化するのは必至だろう。韓国国内に広がる分断の深まりが危惧される。
 非常戒厳を巡っては、弾劾訴追とは別に、検察や警察なども内乱容疑の捜査を本格化させている。
 現職大統領には不訴追特権があるが、内乱罪は例外だ。政府高官らの不正を調べる高官犯罪捜査庁も捜査を開始している。尹氏の身柄拘束の可能性が指摘される。
 既に尹氏と共謀したとされる金龍顕(キムヨンヒョン)前国防相のほか、国会に警官を投入し議員の進入を阻んだ疑いで警察庁長官とソウル警察庁長官が逮捕された。
 韓国警察のトップらが逮捕される異例の事態だ。治安をつかさどる機関のトップが不在では、国民の不安は大きいに違いない。
 米国を含む日米韓の安全保障協力への影響も懸念される。
 3国間連携は、尹氏の主導で進んだ日韓関係の改善が後押ししてきただけに、韓国国政の不安定化は不安要素になる。核・ミサイル開発を進める北朝鮮への抑止力も弱まりかねない。
 尹氏の代行をする韓首相は、バイデン米大統領と電話会談するなど代行体制を本格始動した。韓氏は野党とも対話し、混乱収拾と秩序の安定に尽くさねばならない。

政治は違えど(2024年12月16日『高知新聞』-「小社会」)
 
 選挙に勝って政治家になるには昔から「三バン」が必要と言われる。手元の国語辞典にも載っている。「すなわち、地盤(勢力)・看板(評判)・鞄(かばん)(金力)」であると。
 昭和20年代の本紙紙面にも見受けられる言葉。一体、いつから引きずっている価値観だろう。政治参加の「足かせ」になりやすく、国会議員の世襲が増える背景だと指摘されてきた。
 自民党のリーダー選びも伝統的に同じ面があった。小泉純一郎氏と橋本龍太郎氏の事実上の一騎打ちとなった2001年の総裁選。共同通信は当時、配信記事で「橋本氏は『三バン』が最大の武器」と紹介している。いずれも世襲議員で、結果は小泉氏が勝利したが。
 その点、お隣韓国は民主化が1987年と遅かった分、足かせが少ないのかもしれない。政治経験が乏しい人も大統領候補に担がれて、実際に当選する。少しうらやましくなる。
 ただし、選ばれた大統領が国民の期待に応えられるかどうかは別問題。そこが韓国政治の悩ましさだろう。検事から大統領に転身した尹錫悦(ユンソンニョル)氏は、軍や警察を動かして民主主義をねじ伏せる「非常戒厳」の愚行に出た。

民主主義の価値(2024年12月16日『佐賀新聞』-「有明抄」)
 
 学生時代に楽しんだゲームの一つに、戦国時代を舞台にした「信長の野望」がある。自国を富ませ、他国と戦いながら天下統一を図るシミュレーションゲーム
◆封建主義やそれに抵抗した市民革命は流血を伴うことが多かった。それを変えたのが「民主主義」だろう。韓国でおととい、「非常戒厳」宣言に端を発した尹錫悦(ユンソンニョル)大統領の弾劾訴追案が可決された。尹大統領は今後、罷免される可能性があり、政権交代につながるかもしれない。対立を深め、国民を分断する争いは悲しいが、“無血革命”ではある
◆一方、シリアでは独裁を続けたアサド政権が崩壊した。反体制派によって今後、民主主義に向かえば喜ばしい。ただ、武力行使から生まれるものは少ない。仮に戦闘で問題が解決したように見えても負けた側の悲しみ、怒りは世代を超えて受け継がれる
◆2012年のきょう12月16日は衆院選の投開票日だった。自民党公明党が圧勝し、民主党から政権を奪還した選挙である。それから12年を経た今、自公政権少数与党となり、政権運営に苦慮している
◆ただ、異論や少数意見に配慮しながら論議し、より良い方向に持っていくことが民主主義。「声なき声」にも耳を澄ます政治を期待する。協調と友好の第一歩は互いの声に耳を傾けること。欲と野望はゲームの世界だけにしたい。(義)

韓国大統領弾劾 混乱招いた責任重大だ(2024年12月15日『北海道新聞』-「社説」)
 
 韓国の国会は、「非常戒厳」を宣言した尹錫悦(ユンソンニョル)大統領に対する弾劾訴追案を可決した。
 弾劾案を提出した野党に加え、与党の一部議員も賛成に回り、可決に必要な国会の在籍議員の3分の2を上回った。
 世論の反発が尹氏だけでなく与党にも向けられ、造反した議員が相次いだと言える。
 韓国憲法戒厳令は戦時などの非常事態に限定されている。尹氏が国政の停滞を理由に宣言したことは、民主国家のリーダーとしてあってはならない対応だ。国民の怒りは当然である。
 尹氏の責任は極めて重い。十分に自覚する必要がある。
 尹氏の職務は停止され、韓悳洙(ハンドクス)首相が大統領の職務を代行する。憲法裁判所が180日以内に弾劾の妥当性を判断し、認めれば尹氏は罷免される。
 また、司法当局は尹氏について内乱容疑で立件を視野に捜査を進めている。当面、国政の混乱は避けられまい。
 韓国は早期に事態を収拾し、安定を取り戻してもらいたい。
 与党は7日に行われた1度目の弾劾案採決では、投票をボイコットして廃案に持ち込んだ。
 だが、尹氏は12日に出した国民向けの談話で与党が求める早期退陣を拒んだ。さらに非常戒厳は「統治行為だ」と正当化し「弾劾にも捜査にも堂々と立ち向かう」と主張したため、国民の反発がいっそう強まった。
 弾劾に賛成する世論は7割を超える。与党は国民の怒りを軽視していたと言うほかない。
 軍関係者らの証言では、尹氏は非常戒厳に際して与野党の幹部を拘束し、国会内の議員を引きずり出して弾劾案の解除要求決議を防ぐことを狙っていた。
 また軍を中央選挙管理委員会に突入させ、野党が大勝した4月の総選挙が不正だとする疑惑を立証する計画だったという。
 政敵を力で排除したり、選挙結果を根拠なく覆そうとしたりすることは民主主義の根幹の否定だ。決して認められない。
 尹氏側近の金龍顕(キムヨンヒョン)前国防相や、警察庁長官らが内乱などの疑いで逮捕された。尹氏も内乱の疑いで告発され、出国禁止措置を受けている。
 混乱の長期化が懸念される中ではなおさら、野党は党利党略を優先してはならない。
 尹氏は日韓関係の改善に尽力し、日米韓で東アジアの安全保障環境の安定に取り組んだ。
 米国でトランプ次期大統領が来月就任し、国際情勢は不透明さを増している。こうした時こそ隣国同士の日韓の連携が重要だ。両国政府は信頼関係の維持に努めることが欠かせない。

韓国大統領の弾劾可決 民主否定が自滅招いた(2024年12月15日『茨城新聞山陰中央新報』-「論説」)
 
 韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領が民意によってその権力を封じられた。非常戒厳を一時宣言した尹氏に対し、韓国国会は弾劾訴追案を賛成多数で可決した。尹氏は職務停止となり、憲法裁判所が最長180日間をかけて罷免するかどうかを審理する。尹氏は、野党の攻勢で政治が停滞していることを理由に民主主義を危機に陥れ、自滅を招いた。
 尹氏に対する弾劾訴追案の採決は今回が2度目。1度目は与党のほぼ全議員が投票をボイコットして廃案になったが、世論は強く反発していた。可決には国会(定数300)の在籍議員のうち3分の2以上の賛成が必要だ。野党と無所属の議員は計192人で、可決には与党から8人以上の賛成が必要だった。
 今回、一部の与党議員が賛成に回ったのは、尹氏が戒厳令は正当な措置と主張したほか、与党側からの早期辞任要求を無視し「弾劾にも捜査にも堂々と立ち向かう」と発言したことが大きい。尹氏が強大な権力の座にあり続けるのは適切ではなく、国政から排除するには弾劾しかないとの見方が広がったのは当然だ。
 国民の代表により構成される国会から、尹氏が大統領に値しないと判断された意味は重い。戒厳令では、言論の自由三権分立の原則を制限することが可能となり、国会には軍が侵入した。自らの意に沿わない主要政治家の逮捕も命じたとされる。常軌を逸した行動の全容解明が今後の課題だ。
 尹氏は、テレビを通じた国民向け談話で、戒厳令は「国民に危機状況を知らせ、憲法秩序を守り回復するためだった」と強調。中央選挙管理委員会への兵力投入は、与党が大敗した4月の総選挙の背景に北朝鮮によるハッキング攻撃があったからだと主張した。十分な証拠を示さず、陰謀論にくみして選挙結果を否定すれば、同様に選挙で選ばれた自らの地位の否定につながることに、なぜ思いが至らなかったのか。
 韓国での弾劾訴追は今回で3度目だ。2016年には、朴(パク)槿(ク)恵(ネ)大統領が知人の国政介入事件を巡って「国民の信頼を裏切った」として弾劾され、17年に罷免された。04年に弾劾された盧(ノ)武鉉(ムヒョン)大統領は、その後に憲法裁が棄却したことで任期を全うしている。
 尹氏は軍事政権を想起させるような強権的手法で異論を封じ込め、権力を掌握しようとした点で、過去の弾劾ケースとは大きく異なる。内乱の疑いで捜査も進んでおり、国民の怒りが収まるのは容易ではないだろう。
 一方で懸念されるのは、政治の不安定化がより進むことだ。米国でのトランプ政権発足を控え、日米韓の連携が改めて問われるタイミングに韓国政治が機能停止に陥ってしまえば、地域の安全保障への影響は大きい。
 核・ミサイル開発を続ける北朝鮮への警戒も怠るわけにはいかず、挑発的行動を取ってきた場合の対処は大丈夫か。また、尹政権下で急速に改善が進んでいた日本との関係も不透明となった。日米をはじめ国際社会の懸念にどう対応するか、韓国は考える必要がある。
 韓国内にも、物価高や少子高齢化など喫緊の課題が数多くある。大統領選を視野に政争が激化する中、こうした問題の解決が後回しになってしまえば、虚無感が社会に漂うことになる。政治の役割を忘れず、国政を安定させるために、与野党双方の努力が求められている。

韓国大統領を弾劾訴追 法治に反した当然の報い(2024年12月15日『毎日新聞』-「社説」)
 
キャプチャ
戒厳令は「高度な政治判断に基づく統治行為だった」という談話を発表する韓国の尹錫悦大統領=12日、ロイター
 韓国国会が、尹錫悦(ユンソンニョル)大統領の弾劾訴追案を可決した。
 憲法や法律の規定に反して戒厳令を出し、国会に軍を動員して内乱を企てたと断じた。法治国家の指導者としてあるまじき行為であり、当然の判断だ。
 憲法裁判所が審理する間、大統領としての職務は停止される。罷免が決まれば、後任を選ぶ大統領選が実施される。首相が職務代行を務めるものの、最長240日間にわたって国家元首が事実上不在となる。
 混乱を長引かせた一因は与党の対応にある。
 7日にあった1回目の採決では大半の議員が欠席し、廃案に追い込んだ。尹氏が直前に進退を党に一任すると表明したことで、早期退陣させられると見誤ったからだ。弾劾となれば党内の亀裂が深まり、党勢の衰退につながりかねないとの懸念もあった。
 しかし、尹氏は今回の採決を前に出した談話で戒厳令を正当化し、弾劾の動きや内乱容疑での捜査には「最後まで戦う」と辞任を拒否した。欠席戦術が国民の反発を招いたこともあり、賛成に転じる与党議員が相次いだ。
 内政の混乱は外交にも影響を及ぼしている。
 年内に予定されていた中谷元・防衛相、年明けで調整が進んでいた石破茂首相の訪韓がともに見送られた。来日したオースティン米国防長官は、当初予定していた韓国訪問を取りやめた。
 東アジアの安全保障環境は厳しさを増しており、日米韓の連携が揺らぐようなことがあってはならない。
 3カ国首脳は昨年8月の会談で、首脳や外相、防衛相らの会談を少なくとも年1回開くことで合意した。自衛隊と米韓両軍による合同演習を実施し、科学技術や保健医療など幅広い分野で協力を進めることも確認した。
 戒厳令後も、対北朝鮮政策やインド太平洋戦略に関する外務省局長級の3カ国協議は続いている。だが、連携を深めるには首脳や閣僚レベルの対話を維持することが欠かせない。
 東アジアの平和と安定を図るためにも、民主的手続きに基づいて韓国の政治混乱が早期に収拾されることが望ましい。

弾劾訴追案可決 混迷さらに深まる韓国政治(2024年12月15日『読売新聞』-「社説」)
 
 韓国の尹錫悦大統領に対する 弾劾 だんがい 訴追案が可決された。尹氏は憲法裁判所での弾劾審判を通じて徹底抗戦する構えを見せており、政治の混乱の収拾は見通せない。
 訴追案可決によって、尹氏の大統領権限は即時停止された。韓国の権力不在が長期化し、日韓関係はじめアジア情勢に悪影響が及ぶことを懸念する。
 尹氏が宣言した非常戒厳をめぐり、韓国の国会に左派系野党が提出した2度目の弾劾訴追案には、野党のほか、保守系与党から8人以上が賛成に回った。
 与党は当初、尹氏を早期に辞任させることで事態を収拾するつもりだった。このため、1回目の訴追案の採決をボイコットして不成立に追い込んだが、尹氏が退陣を拒んだことから、与党内にも弾劾やむなしの声が広がった。
 尹氏は、なおも復権を目指している。可決後、「決して諦めない」とする談話を発表した。採決に先立つ別の談話では、野党が国政運営を妨害していることを国民に知らせることが非常戒厳の目的だったと弁明している。
 だが、国民への周知のために軍を動員するなどという一方的な理屈が、国民の理解を得られるとは到底思えない。権力を乱用し、国内を大混乱に陥れた責任は免れないのではないか。
 尹氏は内乱容疑で検察や警察などの捜査対象にもなっている。弾劾審判と捜査が並行して進む異常事態である。
 今後は与野党間の対立に加え、与党内や捜査機関同士の主導権争いが激化するだろう。しかし、政治的な駆け引きに終始せず、法に基づいた手続きで民主的に秩序回復を図る努力が求められる。
 憲法裁での審判で裁判官9人のうち6人以上が 罷免 ひめん に賛成すれば、尹氏は失職し、60日以内に大統領選が行われる。
 与党の支持率は、尹氏への対応をめぐって急落している。一方、野党は攻勢を強めている。尹氏が対日関係の改善を進めてきたことについて、野党は「屈辱外交」と批判してきた。
 来年は日韓国交正常化60周年の節目を迎えるが、野党の影響力が増せば、日韓関係が再び後退するのは必至だ。北朝鮮の動向にも警戒が欠かせない。
 岩屋外相は11日、非常戒厳宣言後、初めて韓国外相と電話会談し、「いかなる状況でも、日韓関係の重要性は変わらない」との認識で一致した。今後も実務者間で意思疎通を続けることが大切だ。

尹大統領の弾劾で地域の安定損なうな(2024年12月15日『日本経済新聞』-「社説」)
 
 非常戒厳をめぐる問題で混乱が続く韓国国会は14日、野党が提出した尹錫悦大統領の弾劾訴追案を可決した。尹大統領の職務は停止され、「大統領不在」の異常事態が当分続くことになる。内政や外交への広範な悪影響を強く懸念する。
 野党に加え、前回は棄権した与党議員の一定数が賛成に回り、可決に必要な国会在籍議員の3分の2を超える204票に達した。
 今後180日以内に憲法裁判所が弾劾の是非を審査する間、韓悳洙首相が大統領の権限を代行する。憲法裁が弾劾訴追を妥当とみなせば尹氏は罷免され、60日以内に大統領選を実施する。
 弾劾訴追の一義的な責任は民主政治を否定する強硬手段に走った尹氏にある。少数与党という不安定な政権基盤のもとでの強権的な政治手法は理解を得られない。
 国民向け談話では、野党が大勝した4月の総選挙について北朝鮮の影響を受けた不正選挙の疑いがあるなどとし、非常戒厳の判断は正当だと訴えた。早期退陣を否定して法廷闘争への自信も示した。保革両陣営の分断と憎悪がここまで深まったことに驚かされる。
 与党との一切の妥協を拒むような野党の姿勢にも問題がある。政権交代が繰り返されながら最近5代の大統領のうち盧武鉉朴槿恵、尹3氏が国会で弾劾訴追されたのは異様と言わざるを得ない。
 非常戒厳を進言したという金龍顕前国防相らに続き、戒厳令に関与したとして警察庁とソウル警察庁のトップ2人も逮捕された。検察は非常戒厳宣言が憲法秩序を乱す目的だった疑いがあるとみて尹氏への捜査も進めている。
 政治停滞の長期化は国外にも波及する。尹氏は日韓関係を改善させたほか、日米韓3カ国協力や北大西洋条約機構NATO)との連携を進めてきた。就任以降、強力な指導力を発揮してきた外交・安全保障政策への打撃は大きく、日本の安全にもかかわる。
 非常戒厳は対外イメージの悪化を招き、輸出主導型の韓国経済にもマイナスだ。外国人観光客の減少に加え、投資家が韓国から遠ざかる恐れもある。稼ぎ頭の半導体や自動車など韓国企業の業績に跳ね返る悪循環も危惧される。
 地域情勢は悪化しており、与野党が足の引っ張り合いをしている場合ではない。韓国の政治リーダーらは、大局的な見地で危機的状況を乗り越えてほしい。

尹氏の弾劾可決 北の工作への警戒強めよ(2024年12月15日『産経新聞』-「主張」)
 
 一時戒厳令を宣布して韓国内で批判されている尹錫悦大統領への弾劾訴追案が、韓国国会で可決された。大統領権限は停止され韓悳洙首相が代行する。
 憲法裁判所が180日以内に弾劾の是非を決める。認められれば尹氏は失職し、大統領選が実施される。
 弾劾手続きと並行して、内乱事件の容疑者として尹氏への捜査も進行中だ。拘束、逮捕される可能性もあり、韓国政治の混乱が続くのは必至だ。
 こうした中、忘れてはならないのが北東アジアの厳しい安全保障環境である。
 北朝鮮は公式メディアで、韓国の戒厳令宣布について「独裁の銃剣を国民に突きつける衝撃的な事件」「韓国社会の脆弱(ぜいじゃく)性が露見」と報じた。自国の体制の優位をアピールしたかったのだろうが、独裁国家である北朝鮮にその資格はない。
 韓国の前国防相は内乱の疑いで逮捕された。韓国軍の規律の緩みも指摘される。北朝鮮がこれに乗じて、SNSや韓国内に扶植したスパイを利用して世論工作を仕掛けたり、軍事挑発に走ったりする恐れがある。警戒は怠れない。
 尹氏は12日の談話で「国民に危機的状況を知らせ、憲法秩序を守り回復するためだった」と戒厳令を正当化した。「弾劾であれ、捜査であれ、私は堂々と立ち向かう」と述べた。
 自身の任期を与党側に一任するとしていた方針を翻し、大統領職にできる限りとどまる姿勢を示したとみられている。
 これにより尹氏は、早期退陣で混乱の収拾を目指した与党側とも対立することになった。14日の採決では、尹氏の強硬な態度に少なくとも12人の与党議員が弾劾への賛成に転じた。
 親北左派の最大野党「共に民主党」の李在明代表は尹氏による戒厳令正当化を「国民への宣戦布告」と批判した。
 李氏は、次期大統領の有力候補のひとりと目されるが、公選法違反で有罪判決を受けている。半年以内に予想される上告審判決で有罪が確定すれば被選挙権を失う。
 尹氏が大統領にとどまる姿勢を示し、李氏が弾劾を急いだのは、次期大統領選をにらんだ政争の性格がある。
 日本は韓国の政情不安が当面続くと覚悟し、用心して外交防衛政策を進める必要がある。

韓国大統領弾劾可決 国政の混乱、収拾を急げ(2024年12月15日『中国新聞』-「社説」)
 
 「非常戒厳」宣言をした韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領に対する、弾劾訴追案がきのう韓国国会で可決された。
 7日の1度目は与党が採決をボイコットして不成立にしたが、世論が強く反発していた。2度目の今回、与党から造反者が出て可決されたのは、尹氏が政治的に見放された結果と言える。
 尹氏の職務は停止され、今後は憲法裁判所が罷免するかどうかを180日以内に判断する新たな段階に移る。罷免がまだ確定したわけではないが、政権を維持する求心力はもはやなかろう。混迷する国政を正常化するためにも、自ら職を辞す決断が必要だ。
 内乱容疑などで大統領府が捜索され、尹氏立件は不可避とみられる。弾劾案不成立の際には「政局安定案は党に一任する」と反省の態度を示したが、12日になって「弾劾であれ、捜査であれ、堂々と対抗する」と開き直りとも取れる談話を出した。訴追案可決後には「最後まで諦めない」とも。非常戒厳宣言を正当化するような態度は論外だ。
 直近の世論調査で支持率が就任後最低の11%に下落したのもうなずける。弾劾賛成が75%を占めたのは尹氏の態度が大統領にふさわしくないと国民が判断したのだろう。
 尹氏の支持者には、非常戒厳宣言を「憲法の枠内で行われた統治行為であり、司法審査の対象にならない」と正当化する声がある。しかし、いくら国会運営が行き詰まったといっても、政治家を拘束したりメディアを支配したりするような手続きが正当化されるはずがない。軍を国会議事堂などに突入させた責任は極めて重い。
 国会に軍部隊を派遣した陸軍特殊戦司令官は、尹氏から電話で「扉を壊して(本会議場の)中にいる議員を引っ張り出せ」と指示されたと明かしている。中央選挙管理委員会に軍を突入させてもいる。その内容は戦時や国家非常事態という、憲法が認めた非常戒厳の行使要件とは懸け離れていると言わざるを得ない。
 前国防相が内乱容疑で逮捕されたほか、韓国メディアは警察庁長官なども逮捕されたと伝えた。大統領自身も捜査対象である。韓国という民主主義国家で起きているとは信じられない事態と言えよう。
 保守系与党「国民の力」の韓東勲(ハンドンフン)代表は党として弾劾案賛成が必要だと表明したが、尹氏に近い勢力は反発していた。次期大統領選を見据え、党勢回復の時間を稼ぎたいという思惑が国民に見透かされた感がある。
 国会で多数を占める最大野党「共に民主党」側にも責任はあろう。政府高官の人事案を何度も否決し、予算案に強硬に反対するなど尹政権を執拗(しつよう)に追い込んだ。政権交代のたびに、こうした戦術が繰り返されることに閉口する国民も少なくないのではないか。
 来月に予定されていた石破茂首相の訪韓も延期されるなど、急速に改善が進んでいた日韓関係も不透明になった。日本だけでなく、国際社会の懸念にどう対処するのか。韓国政界は一刻も早い正常化に努めなくてはなるまい。

戒厳令の夜に(2024年12月15日『中国新聞』-「天風録」)
 
 この人を執筆に駆り立てるのは、二つの問いだった。「世界はどうしてこんなに暴力的で苦しいのか」「同時に、世界はどうしてこんなに美しいのか」。ノーベル文学賞を受賞した韓国人作家ハン・ガン(韓江)さんである
ストックホルムでの受賞記念講演で語っていた。「アジア人女性初の受賞」という以上の注目を集めたのも無理はあるまい。尹錫悦(ユンソンニョル)大統領が「非常戒厳」を一時宣言するなど韓国の民主主義が危機にさらされたからだ
▲深夜の国会に突入する兵士の蛮行に、1980年の「光州事件」を想起した人は多かったはずだ。民主化を求める市民が軍に虐殺された。ハンさんはこの事件を題材に代表作「少年が来る」を書いた。死者たちの痛みをより合わせ、人類の経験として
▲野党の反対を反国家行為とみなし力で封じようとした尹氏の暴挙は、冒頭の問いの前者に重なる。後者はあの夜、国会周辺に集まった市民の勇気。スマホを手に、あまたの犠牲の上に築いてきた民主社会を守るために
▲二転三転した尹氏の弾劾訴追案がきのう可決された。尹氏には「陰謀論」への傾倒まで指摘されている。韓国社会の新たな痛みを、人類の痛みとして受け止めたい。

尹大統領の弾劾可決 韓国の民主主義示した(2024年12月15日『琉球新聞』-「社説」)
 
 民主政治を揺るがす強権を発動した大統領が、国民の代表である立法府により、ついに職務を停止された。
 韓国国会は14日、2度目の提出となった尹錫悦(ユンソンニョル)大統領の弾劾訴追案を可決した。国会などに軍を突入させた「非常戒厳」を憲法違反と断じ、与党からの賛同者も出て尹氏は弾劾された。
 一度は廃案となった弾劾訴追案が再採決で可決に至ったのは、民主主義を守るために声を上げた韓国国民の力によるものに他ならない。
 国会前で連日デモが開かれ、弾劾に賛成する世論は75%に上った。自らの政権維持のために職権を乱用した大統領の行為を許さず、民主的な手続きによって弾劾を成立させる原動力となった。韓国の民主主義の力を示した。
 弾劾訴追の可決で、韓国は事実上の大統領不在の状態となる。今後、憲法裁判所が罷免するかどうかを180日以内に判断する。尹氏は弾劾裁判で争う構えを見せ、混迷は続く。秩序回復は容易ではないが、尹氏の職務停止を一歩として一日も早い混乱の収束へ向かうことが必要だ。
 非常戒厳の宣言と解除以降、尹政権は機能停止に陥っていた。尹氏と共謀して内乱で重要任務を担った疑いで金龍顕(キムヨンヒョン)前国防相が逮捕され、現職大統領にも捜査の手が迫る事態となっている。
 尹氏は12日に発表した談話で、戒厳令は「司法審査の対象にならない統治行為だ」として、内乱罪には当たらないと主張した。尹氏が辞任を拒んでいる以上、韓国の統治機能を立て直すには弾劾しかなかったといえる。
 弾劾訴追の議決書は「尹氏は大統領として正常な国政運営が不可能で、内乱を首謀した捜査対象者だ」と結論付け、再び非常戒厳を宣言する可能性があることや、国民の統合、政局の安定のために弾劾罷免が必要とした。
 野党だけで弾劾に必要な3分の2の賛成に届かなかったが、与党議員の一部に造反が出た。尹氏が早期退陣の求めを無視し、戒厳令を正当化する談話を発表したことで、これ以上擁護できないという認識が与党内に広がった。
 政権交代を恐れる与党が7日の採決をボイコットし、最初の弾劾訴追案を不成立に追い込んだことに世論が強く反発したことも大きかった。再び採決を棄権することは国民の理解を得られないと判断したことは間違いない。
 軍事政権時から続く非常戒厳を宣言できる大統領権限は、1人の権力者に強い権限を持たせる危うさを露呈させた。今回の戒厳令では国会だけでなく選挙管理委員会にも軍隊を派遣した。与党が大敗した4月の総選挙で不正があったという、根拠のない“陰謀論”に尹氏が傾倒している可能性が指摘されている。
 韓国の憲法秩序を取り戻すために、権力の暴走を防ぐ民主的な統治について改めて向き合う必要がある。

韓国の事態に学ぶなら(2024年12月14日『琉球新報-「金口木舌」)
 
 立法・司法・行政の一部や全てを軍に移管させる「戒厳」。市民生活は大きく制限され、自由は二の次に。その言葉を知ったのは、米国映画「マーシャル・ロー」(1998年)だ。題名は戒厳令を意味する
▼大学ではこの映画を引き合いに戒厳について学び、長く軍政が続いた韓国で過去に何度も出されたことを知った。それでも、歴史上の出来事だとしか捉えられなかった
▼その考えが一変した。K―popなどで身近な存在となった韓国で3日、尹錫悦大統領が「非常戒厳」を宣布した。自分の身に降りかかるかもしれないと感じたのは私だけではないはずだ
▼戦後の日本国憲法には戒厳令に関する規定はない。ただ、同様の効果が見込まれるのが、自民党憲法改定で掲げる緊急事態条項の導入だ。韓国の事態を受け、改めて賛否両論の意見が飛び交っている
▼緊急事態条項は、戦争や大規模災害といった非常事態に対処するため政府の権限を強化する規定だ。尹大統領による権力の乱用は、野党多数で早期収束したにすぎない。隣国で起きた騒動に学ぶのなら、整備すべきは権力を制限する規定ではないか。

尹大統領の弾劾不成立 混乱の長期化を懸念する(2024年12月11日『毎日新聞』-「社説」)
 
キャプチャ
韓国の国会前で尹錫悦大統領の弾劾を求めるデモを行う人々=ソウルで2024年12月7日午後7時12分、日下部元美撮影
 これでは政治の混乱が長引くばかりだ。早期に収拾しなければ、東アジアの安定にも影響が出かねない。
 韓国国会で、正当な理由なく戒厳令を出した尹錫悦(ユンソンニョル)大統領の弾劾訴追案が採決されたが、必要な投票数に達せず成立しなかった。
 与党代表は弾劾容認を示唆していたが、尹氏の謝罪談話で流れが変わった。与党議員の大半が採決を欠席し、廃案に追い込んだ。
 当面は首相が大統領の職務を代行し、尹氏に早期退陣を受け入れさせる代替案を与党は提示している。弾劾を回避し、権力の維持を図ろうとする動きだ。
 しかし、国会で過半数議席を持つ野党は訴追案を繰り返し提出する構えだ。大統領の不訴追特権のない内乱罪での捜査が進んでおり、尹氏は出国禁止処分を受けた。国政を担える状況ではない。
 懸念されるのは、内政の混乱が外交に波及することだ。
 尹氏は日韓関係を大きく改善させ、10年以上途絶えていた首脳のシャトル外交を復活させた。文在寅(ムンジェイン)前政権下では、徴用工問題を巡って「国交正常化以降で最悪」の状況に冷え込み、歴史認識問題での対立が経済・貿易や安全保障面にまで飛び火していた。
 核・ミサイル開発を加速する北朝鮮への対応で不可欠な日米韓の連携を強化した。3カ国の協力を軸に、インド太平洋戦略を掲げて地域の平和と安定に関与する姿勢も打ち出した。
 東アジア情勢は緊迫している。
 ウクライナ侵攻を続けるロシアは北朝鮮との同盟関係を復活させた。東・南シナ海での中国の威圧的な行動も懸念材料だ。
 米国では来月、トランプ次期大統領が就任する。中国製品への高関税による米中対立の激化が予想されており、地域経済への影響は避けられない。
 良好な日韓関係と緊密な日米韓連携を保つ重要性がかつてなく高まっている局面である。尹氏のリーダーシップの下で進んできた日韓の関係改善が停滞しないようにすべきだ。
 日韓両国政府には、実務レベルでの協力を通じて信頼関係を維持することが求められる。今回の事態による影響を最小限に抑える努力を尽くさなければならない。

迷走の韓国政局 党利党略の異常な空白だ(2024年12月11日『信濃毎日新聞』-「社説」)
 
 韓国の捜査機関が尹錫悦大統領の捜査を始め、立件の可能性が高まっている。「非常戒厳」の宣言を巡る内乱や職権乱用の容疑だ。
 与党「国民の力」の韓東勲代表は早期退陣を求めた上で、国政を韓悳洙首相と共に運営する方針を示している。
 包囲網が狭まり、尹氏自身が政権を担う力は失われている。韓国の内政や外交は機能不全に陥りつつある。政治空白の解消には、尹氏が早期に辞任を受け入れることが避けられない情勢だ。
 大統領には「不訴追特権」があるが、内乱罪は例外に当たる。刑法は憲法秩序を乱す目的で暴動を起こした場合に内乱罪を適用すると規定し、首謀者には死刑または無期刑を科すと定める。
 尹氏は国政運営の行き詰まりを理由に戒厳令を強行。憲法が要件とする戦時や国家非常事態には当たらない権力の乱用だろう。
 なぜ理解しがたい暴挙に出たのか、真相究明が欠かせない。民主主義を危険にさらした法的、政治的責任は免れない。
 韓代表は「(尹氏が)外交を含む国政に関与しない」と表明したものの、首相が大統領の職務を代行する法的根拠は明確ではない。違憲と指摘され、尹氏が本当に権限を委譲するかも分からない。
 憲法は、大統領が欠員や事故で職務遂行できない場合に首相が代行すると定める。現状は「事故」とは言えず、与党が関与する根拠も乏しい。
 代行する首相が国防上の権限を行使できるか、不透明な事態が続く恐れもある。国防省は軍の統帥権が「法的には大統領にある」としている。尹氏は直近でも行政安全相の辞任を裁可して人事権を行使している。今後も国政に口出ししない保証はない。
 与党の対応は、尹氏の排除をアピールして収拾し、時間稼ぎを図ったと見られている。党勢を回復する間がないまま大統領選に至れば、最大野党「共に民主党」が政権を奪うとの見方が支配的だ。党利党略で政治的な混迷を長期間放置していては、国民への責任を果たしているとは言えない。
 弾劾訴追案は与党の投票放棄で一度は廃案になったが、共に民主党は可決まで何度でも提出する構えだ。政府提出の予算案や法案が成立するめどは立たない。
 尹氏は談話を発表し、自身の任期を含めた政局安定策を与党に一任すると表明した。弾劾と捜査が並行する異常事態である。自ら責任を持って進退を判断すべき時ではないか。

【韓国政治の混乱】国民の反発と向き合え(2024年12月11日『高知新聞』-「社説」)
 
 過激な手段で自らの権力を維持しようとした姿勢に国民の失望と反発は大きい。政局は流動化が進む。政治の安定を取り戻し、国民生活への影響を防ぐことが急務だ。
 韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領が「非常戒厳」を宣言して1週間になる。国会の解除要求決議可決とその受け入れで突然の強硬策は短期終結したものの、混乱は続いている。
 国会では尹氏の弾劾訴追案が廃案となった。最大野党「共に民主党」など6党が非常戒厳は憲法違反として提出したが、与党「国民の力」のほぼ全員が退席して投票の成立要件を満たさなかった。野党は再提出の構えを崩さない。
 尹氏が職務を継続することへの国民の反発は強い。ソウル中心部では市民らが尹氏の退陣を求めてデモが行われ、弾劾案の採決時には国会に推計15万人が集まったとされる。
 与党では弾劾案の賛否を巡り亀裂が表面化した。戒厳令を容認したと受け止められることへの警戒感もある。それでも保守政権の維持を優先して、弾劾を阻止した。
 尹氏は弾劾採決に先立ち、国民への謝罪談話を発表し、任期短縮の受け入れなどを示唆した。与党議員の造反を避け、引き続き与党が国政運営を担う狙いとみられる。
 国民の力の韓東勲(ハンドンフン)代表は、尹氏の早期退陣を主張し、退任までの国政運営を韓(ハン)悳洙(ドクス)首相と共に担う方針を示した。だが、尹氏が国政から距離を置くかどうかは明確でない。尹氏排除の法的根拠は不明で、憲法違反との指摘もある。
 与党としては、次期大統領選をにらみ党を立て直す時間を稼ぎたいのが本音だろう。共に民主党の李在明(イジェミョン)代表は前回大統領選では尹氏に僅差で敗れたが、次期大統領選での有力候補と目される。ただ、数々の不正疑惑で起訴され公判が続いている。刑が確定すれば出馬できなくなるため、与党は確定判決を待ちたいようだ。言うまでもなく、党利党略を優先すべきではない。
 尹氏の政治姿勢は独善的と評され、支持率は低迷していた。国会は共に民主党議席過半数を握り、政権運営は思うに任せない状況だった。尹氏は野党が弾劾訴追や予算の削減で国政や司法をまひさせていると訴え、非常戒厳を宣言した。
 戒厳令下で軍隊が暴走しなかったのは幸いだったが、国会だけでなく選挙管理委員会にも突入していたことが判明した。与党が大敗した4月の総選挙を不正選挙と捉える勢力に尹氏が呼応した動きとされる。また情報機関は、与野党幹部ら政治家を収監する狙いがあったと報告した。民主主義とは相いれない行為であり、全容の解明が欠かせない。
 韓国検察は、尹氏に非常戒厳を進言したとされる金龍顕(キムヨンヒョン)前国防相を内乱容疑などで取り調べ、尹氏の立件も取り沙汰されている。法務省は尹氏を出国禁止とした。
 日韓関係への影響も危惧される。尹政権で劇的に改善したが、経済分野や安全保障に影を落とす。収拾への動きが注視される。

韓国政治の混迷 与野党攻防より国家安定を(2024年12月10日『河北新報』-「社説」)
 
 韓国政治が一刻も早く安定を取り戻すよう願わずにいられない。東アジアの平和のためにも、政治空白を早急に埋めてほしい。
 韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領による唐突な「非常戒厳」宣言を憲法違反だとして、野党側が提出した弾劾訴追案は国会の成立要件を満たさず廃案となった。しかし、政局は混迷したままだ。
 採決をボイコットした与党「国民の力」の韓東勲(ハンドンフン)代表が国民向け談話を発表し、尹大統領の早期退陣を改めて主張した上で、尹氏は辞任するまでの間「外交を含む国政に関与しない」と述べた。
 韓代表は重ねて、韓悳洙(ハンドクス)首相と緊密に協議しながら今後の国政運営に当たっていく方針を表明した。
 対する最大野党「共に民主党」選出の禹元植(ウウォンシク)国会議長は「大統領権限の恣意(しい)的な委譲」と批判している。憲法国民主権の原則に沿っておらず「明白な憲法違反だ」と反発した。
 同党の李在明(イジェミョン)代表も「法的根拠もなく、与党代表と首相が国政をつかさどるというのは(戒厳令に続く)『第2次内乱』だ」と強く批判している。
 韓国国内では、国会周辺に15万人規模の国民が集まる騒動となった。
 大半は、民主主義国家にあるまじき尹氏の暴挙を非難し弾劾訴追案の廃案に反発して集まったとみられる。ただ、与野党の攻防を次の大統領選に向けた政治的駆け引きと見透かした国民による抗議の側面もあるのではないか。
 専門家からも、与党が弾劾訴追案を投票ボイコットで廃案に追い込んだ背景にあるのは、党勢衰退への懸念に他ならないとの見立てが出ている。世論の批判が高まる中、尹氏の国政からの排除をアピールして事態の収拾を図る考えだろう。
 野党は、大統領権限を代行する法的根拠が不明だとして強く反発している。共に民主党は早ければ明日にも臨時国会を開き、尹氏の弾劾訴追案を再び提出する方針という。
 一連の与野党の攻防は、民主主義を脅かしたことに対して高まった国民の怒りとは、あまりに乖離(かいり)していると言わざるを得まい。国政を党利党略で混乱させるのは許されることではない。
 韓首相が談話で「米韓同盟と日米韓協力を強固に維持していく」との意向を強調したが当面、外交にも混乱は避けられまい。
 台湾有事への備え、北朝鮮による核兵器開発など、東アジアには一刻の猶予も許されない問題が山積している。日米韓による緊密な連携と協力が不可欠であり、そのためには韓国の政治空白を最小限に抑えることが必要だ。
 改善傾向にあった日韓関係だけでなく、東アジアの平和と安定を維持する重要な構成国として、韓国の早急な混乱収束を望みたい。

韓国弾劾不成立 混乱の早期収拾を図れ(2024年12月10日『東京新聞』-「社説」)
 
 韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領に対する弾劾訴追案は成立せず、廃案となった。政権は維持されたが、野党は新たな弾劾訴追案を提出する構えで、当面は混乱が続く。
 韓国に根付いた民主主義を混乱させた尹氏は責任や進退が問われて当然だが、韓国の市民生活や日韓関係を含む東アジア情勢の安定のため、混乱収拾に向けた与野党間の対話と努力も期待したい。
 弾劾訴追案は7日、採決前に保守系与党「国民の力」議員の大半が退場。投票者数が規定を満たさず、不成立となった。
 与党は、2016年に朴槿恵(パククネ)氏の弾劾訴追案が与党内からの造反で可決し、後に政権を失った悪夢の再現を避けたかったようだ。刑事裁判を抱える最大野党「共に民主党」の李在明(イジェミョン)代表が有罪判決を受け、大統領選に立候補できなくなるまで、尹氏の進退問題を引き延ばす思惑も透けて見える。
 ただ、党利党略との批判は免れず、与党の韓東勲(ハンドンフン)代表は弾劾訴追案廃案への批判を避けるためか、尹氏が辞任まで「外交を含め国政に関与しない」と説明し、韓悳洙(ハンドクス)首相とともに国政運営に当たる考えを8日の談話で示した。
 これに対し、野党側は新たな弾劾訴追案の提出、採決を目指している。大統領権限代行についても野党選出の禹元植(ウウォンシク)国会議長は「明白な憲法違反だ」と指摘。李代表も「(戒厳令に続く)『第2次内乱』だ」と強く批判している。
 非常戒厳宣布や権限代行の違憲性を追及することは、民主主義国の議員として当然であり、検察による尹氏の捜査と並行して、政治の場でも検証されるべきだ。
 ただ、混乱長期化は市民生活や国際関係に悪影響を及ぼす。
 3日夜の非常戒厳宣言で、韓国の通貨ウォンや株価は一時急落。政治の不確実性が増せば経済活動の足を引っ張り、保守、進歩(革新)間の分断がさらに深まれば社会の不安定化は避けられない。
 弾劾訴追案の不成立を受け、韓首相は8日の談話で、林芳正官房長官も9日の記者会見で、日米韓3カ国の連携が重要だと、それぞれ強調した。核・ミサイル開発を進める北朝鮮や海洋進出の動きを強める中国がこの機に乗じて緊張を高めないよう、日米韓の結束を示すことが欠かせない。
 非常戒厳宣言の影響を広げないために、混乱の早期収拾を図るよう韓国の与野党に望みたい。

韓国政治の混迷 日本との関係憂慮深まる(2024年12月10日『山陽新聞』-「社説」)
 
 韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領が「非常戒厳」を宣言したのは憲法違反だとして野党側が提出した弾劾訴追案は、与党のボイコットにより投票の成立要件を満たさず廃案となった。
 だが、戒厳令に対する国民の反発は強く、野党は可決されるまで弾劾訴追案を出し続けて尹氏の責任を徹底追及する構えだ。一方、与党代表は、尹氏の早期退陣を主張。尹氏は辞任するまでの間「外交を含む国政に関与しない」とし、代表が首相と緊密に協議しながら国政運営に当たっていく方針を表明した。いずれにせよ、韓国政治の混迷が続くのは避けられない状況だ。
 そもそも、尹氏が非常戒厳を宣言したことは、根拠不明で唐突であり、正当性を欠く暴挙と言うほかない。
 尹氏は、非常戒厳宣言の中で、野党が国会で政府高官らへの弾劾訴追案を繰り返し提出したことなどに関して「憲法と法によって成り立った国家機関をかく乱するもので、内乱を画策する明白な反国家行為」と批判。国会が「自由民主義体制を崩壊させる怪物になった」とも断じ「憲政秩序を守るため」として非常戒厳を宣布するとした。
 韓国の憲法では、大統領が「戦時・事変またはこれに準ずる国家非常事態」の場合に戒厳を宣布できると定めている。しかし、現在の韓国がそうした状況ではないのは明らかである。恣意(しい)的に強権を発動し、国会に軍を突入させるなどした尹氏こそが、民主主義を破壊する行為を行ったと断じざるを得ない。
 韓国政治の混迷が続くことで強く懸念されるのが、尹政権下で改善が進んできた日韓関係への悪影響である。
 尹氏は2022年5月に就任して以降、対日関係の修復を積極的に進めてきた。両国間の懸案だった元徴用工訴訟問題では、日本企業の賠償金を韓国側が肩代わりする解決策を発表し、日韓関係の正常化を果たした。首脳同士が相互に訪問する「シャトル外交」も再開させた。
 しかし尹氏のこうした対日姿勢に韓国内では、日本に譲歩しすぎだとの批判も出ている。内政面では岩盤保守層と言われる高齢者などを除き、国民の多くから「独善的」と愛想を尽かされた形となっており、4月の総選挙でも与党は大敗した。国民や野党との信頼関係は既に崩れていた。
 国際情勢に与える影響も憂慮される。米バイデン政権は、軍拡を進める中国や北朝鮮を抑止するため、韓国との関係を重視してきた。昨年8月には独立形式で初の日米韓首脳会談を開催している。
 だが、多国間連携に懐疑的なトランプ次期大統領の就任が来年1月に迫る。日米韓の連携をいかに維持し強化していくかが問われよう。
 韓国は東アジアの安定化に重要な役割を持つ。今後の為政者が誰になるのかは見通せないが、まずは今回の混乱を最小限に抑え、事態を収拾することが求められる。

大統領弾劾廃案 韓国の長期混乱が心配だ(2024年12月10日『西日本新聞』-「社説」)
 
 韓国国会に提案された尹錫悦(ユンソンニョル)大統領の弾劾訴追案は、与党議員の大半が投票を棄権したため廃案となった。韓国政治は混乱の長期化が避けられそうにない。
 弾劾訴追案は、尹氏が唐突に宣言した「非常戒厳」が憲法違反だとして野党6党が共同提出していた。
 与党「国民の力」の議員のほとんどは議場を去り、採決に必要な議員数に満たなかった。結果的に、国会は非常戒厳で国民を混乱させた責任を明確にできなかった。
 与党の対応は揺れた。韓東勲(ハンドンフン)代表は採決前日、弾劾訴追案に賛成する意向を表明していたが、採決直前になって当初の方針通りに反対することを決めた。
 与党には保守系朴槿恵(パククネ)大統領が弾劾の後に罷免され、革新系の文在寅(ムンジェイン)政権の誕生を許した苦い経験がある。
 尹氏の弾劾案が可決されて来年にも大統領選となれば、最大野党「共に民主党」に政権を奪われる可能性がある。ただし李在明(イジェミョン)代表は刑事裁判を抱えており、有罪判決が確定すれば大統領選に立候補できなくなる-。
 こうした読みから、与党は世論の批判が野党に向かうまで時間稼ぎをして、体制を立て直そうとしたようだ。そうであれば、内向きな判断と言わざるを得ない。
 採決当日になって尹氏が国民への謝罪談話を発表したことで、与党は弾劾に反対する方針を固めた。
 尹氏は非常戒厳で国内を混乱させたことについて「国民に不安と不便をかけた」と謝罪し、進退は「与党に一任する」と述べた。
 国民への謝罪は、非常戒厳を解除して直ちに行うべきだった。
 暴挙を反省し、記者会見をして国民の声に耳を傾けるのが当然だ。わずか2分間の談話で済む問題ではない。尹氏には引き続き、非常戒厳に至った経緯を明らかにする責任がある。
 大統領職にとどまることになったとはいえ、尹政権はレームダック(死に体)も同然だ。野党は弾劾訴追案を再提出する構えを見せる。検察当局の捜査も始まった。
 与党内では、憲法改正で大統領任期を短縮する案が出ている。国民の力の韓代表は、尹氏は退陣まで職務から排除され、首相と党が協議して国政運営に当たると述べた。どこまで可能か疑問だ。
 韓国は当分の間、国内政治の対応で手いっぱいになり、外交に力が割けないだろう。北朝鮮や中国の動きで緊張が高まる東アジアの安全保障環境への影響が気がかりだ。
 野党の弾劾訴追案には、日本との関係を重視した尹氏の外交を指弾する内容が含まれている。懸念は来年で国交正常化から60年を迎える日韓関係にも及ぶ。
 野党は数の力で政権を揺さぶることばかりに注力せず、韓国が国際的な信頼を回復するように努めるべきだ。

尹氏の弾劾案不成立/政治空白つくってはならぬ(2024年12月8日『福島民友新聞』-「社説」)
 
 東アジア情勢が緊迫するなかで、韓国の政治空白が長期化することは国内のみならず、国際社会への影響も極めて大きい。与野党などは責任ある行動で、民主主義が機能していることを示さなければならない。
 韓国の国会できのう、野党6党が「非常戒厳」を憲法違反だとして提出した尹錫悦(ユンソンニョル)大統領の弾劾訴追案は不成立となった。与党「国民の力」の議員が1人を除き議場を退席したことにより、可決に必要な3分の2に出席議員が満たなかった。
 尹氏は弾劾訴追こそ避けられたものの、非常戒厳の宣布により世論、与党に対する求心力は失っている。訴追案の不成立で、事態はむしろ混迷を深める方向に向かっているのは否めない。
 尹氏はきのう午前、国民向けの談話を発表し、非常戒厳の宣布を謝罪した上で、「法的、政治的な責任を回避しない」「私の任期を含めて政局を安定させる方法は与党に一任する」と述べた。直接選挙で選ばれた大統領であれば、与党ではなく国民に判断をゆだねるのが筋だ。対応を与党に一任するというのは理にかなっていない。
 国民や国会を置き去りにして、戒厳宣布を独善的に進めた責任は極めて大きい。自ら辞任することを検討すべきではないか。
 与党の対応も強い非難に値する。韓東勲(ハンドンフン)代表が「主要な政治家を逮捕、収監しようとした」とした上で、「韓国と国民を守るために大統領の早急な職務執行停止が必要」と述べ、一度は訴追案に反対しないことを示唆していた。ほどなく党として反対方針を示すというのは整合性を欠く。
 訴追案に反対するのであれば、全議員が出席した上で否決するのが本来の姿だろう。退席による不成立は、尹氏と同様に民主主義を軽んじる態度だ。大統領に適切な対応を促すことができず、さらに混乱を深めた。
 尹氏が今後の対応を与党に一任するとしているのを踏まえれば、採決前に政情安定に向けた与党としての考えを示すべきだった。韓代表には、国民に対して尹氏の進退などに関する対応について、その時期などを含めて説明することが求められる。
 対応が問われるのは、国会で多数を占める野党側も同じだ。政府高官の弾劾訴追案を繰り返し提出し、予算案に強硬に反対するなど、政権との対話姿勢に欠ける面があるのは否めない。政情が不安定な状況下で、こうした戦術は国内外の理解を得られるものではないことを肝に銘じるべきだ。

韓国弾劾不成立 事態の収拾はさらに遠のいた(2024年12月8日『読売新聞』-「社説」)
 
 韓国の尹錫悦大統領に対する 弾劾 だんがい 訴追案は不成立となったが、事態収拾にはほど遠い。混乱がさらに広がるのは避けられないだろう。
 尹大統領が宣言した戒厳令をめぐり、韓国の国会(定数300)で、左派系野党が提出した弾劾訴追案の採決が行われた。可決には全議員の3分の2以上の賛成が必要だったが、与党議員の大半は議場から退席した。
 これに先立ち、尹氏はテレビを通じて談話を発表し、非常戒厳を宣言したことについて謝罪した。辞任には言及しなかったが、「法的、政治的な責任問題は回避しない」と述べ、今後の政局安定策を党に一任する考えを示した。
 4日に非常戒厳の解除を発表して以降、尹氏が公の場に現れたのはこれが初めてである。唐突な宣言で国内外に衝撃を与えたことについて、もっと早く自分の言葉で説明すべきではなかったか。
 大統領の一連の対応が国民の間に不信を広げたのは間違いない。与党内でも一時、弾劾訴追案に賛成する動きが出た。尹氏の謝罪を踏まえていったん反対することでまとまったが、尹氏の早期退陣を求める声はくすぶっている。
 今後も尹氏の進退をめぐる与野党間の攻防が続くことになる。野党は、可決されるまで弾劾訴追案を提出し続け、尹政権を揺さぶる方針を示している。
 国会は野党が過半数を握る。尹氏が国政の停滞の打破を理由に非常戒厳という強権的な手法に打って出たのは、暴挙と言うほかないが、数の力で押し切ろうとする野党の行動も混乱を増幅させる一因となっている。
 今後の展開は予断を許さない。新たな弾劾訴追案が提出され、可決されれば、大統領はただちに職務停止となる。憲法裁判所が 罷免 ひめん の判断を下せば、大統領は失職し、大統領選が行われる。尹氏が辞任した場合も、選挙となる。
 韓国では、保守派と左派の対立が固定化している。保守派の尹政権は対日・対米関係を重視し、北朝鮮には厳しい姿勢をとってきた。次期大統領選の結果次第では、こうした外交方針が根本から覆される恐れがある。
 すでに米国のオースティン国防長官は、韓国への訪問をとりやめたと伝えられる。石破首相や中谷防衛相も検討していた訪韓を当面延期せざるを得ない状況だ。
 韓国内政の混迷が日韓関係をはじめ国際秩序に悪影響を及ぼさないよう、与野党の当事者が努力を尽くすことを望みたい。
 

韓国大統領の弾劾案巡る混乱長期化を懸念する(2024年12月8日『日本経済新聞』-「社説」)
 
 韓国国会で尹錫悦大統領の弾劾訴追案が7日、廃案になった。与党が採決に加わらず、投票が成立しなかった。尹氏は引き続き大統領職にとどまるものの、韓国政治の混乱は続く見通しで、地域の安定を揺るがしてはならない。
 野党6党が共同提出した弾劾案は尹氏による非常戒厳宣言が「憲法違反にあたる」とした。尹氏は7日の談話で「国民に不安と不便をかけ、心からおわびする」と謝罪した。軍隊を動員して力ずくで異論を封じるのは民主国家であってはならない暴挙である。
 与党「国民の力」の韓東勲代表は一時、尹大統領の速やかな職務停止を求め、弾劾案に賛成する意向を示していた。同党は最終的に弾劾案への投票を棄権した。
 尹氏が5年の大統領任期の短縮も示唆して処遇を与党に一任したことも影響したようだ。与党内に事態の収拾策として、憲法改正による大統領任期短縮案がある。
 弾劾案への投票の成立には国会議員の3分の2の200人が必要だった。野党は弾劾案を改めて国会に提出する可能性が高い。
 最大の難局をひとまず乗り切ったものの、尹氏の求心力が低下するのは間違いない。野党は与党に反発して政権攻撃を強める構えだ。廃案に納得しない世論が呼応すれば、尹氏は再び窮地に陥る。
 韓国内の分断をここまで深めた原因は、国会で多数を握る野党にもある。世界各地でいま民主主義や法の支配が問われている。弾劾の賛否をめぐる意見の違いを暴力などの動きにつなげず、あくまで民主的な対話で事態を収拾する方策を見いだしてもらいたい。
 尹氏は戒厳令に象徴される独善的な手法を改めなければならない。とりわけ矛先が向けられる金建希夫人の不正疑惑への対応や、物価高などでも、国民の声に真摯に耳を傾ける努力が欠かせない。
 韓国の混乱が長期化すれば国際協調への余波が懸念される。
 尹氏は一貫して国際協調路線を進めてきた。日米韓3カ国の結束が乱れれば、北朝鮮や中国の軍事行動への抑止力に響く。ロシアと急接近する北朝鮮の出方は特に警戒が要る。尹氏による日本重視の外交を野党が指弾しているのも気がかりだ。
 近く来日するオースティン米国防長官が訪韓を見送るなど混乱の影響がすでに表面化している。地域安保に隙が生じないよう日米韓は結束を固めるべきだ。

尹氏の弾劾不成立 大統領の職が務まるのか(2024年12月8日『産経新聞』-「主張」)
 
 韓国国会で尹錫悦大統領への弾劾訴追案が不成立となった。
 尹氏はひとまず、大統領の職にとどまることになった。だが、世論調査では国民の7割が弾劾訴追に賛同していた。野党は国会で過半数を占めている。予算案や法案の成立は見通せず、閣僚らの弾劾も続くであろう。
 尹氏が一時宣布した戒厳令は国家の危機ではなく政権の危機を打開しようとした色彩が濃厚で、正当性を欠いていた。
 与党議員も戒厳令を暴挙とみなしている。検察などの捜査が始まっている。
 尹氏は7日午前の謝罪談話で「私の任期を含め、今後の政局安定策はわが党(与党)に一任する」と述べたが、国民の納得は得られまい。求心力回復の見込みが立たない尹氏は、いつまで大統領の座にとどまれるのだろう。韓国政治の混乱が続くことは必至だ。
 そこで留意すべきは、北東アジアには北朝鮮や中国、ロシアという核武装した専制国家が存在する点である。特に北朝鮮ウクライナを侵略するロシアに加担している。ロシアが北朝鮮の核・ミサイル戦力強化に手を貸すことで脅威は深刻化する。北朝鮮による軍事的挑発、世論工作も警戒せねばならない。
 尹政権の政策全てが否定されるのは極めて危うい。現実的な安全保障観を持っていた尹政権は、親北左派の文在寅政権下で過去最悪となった日本との関係改善を進めた。米韓同盟の強化にも努めた。米国の核戦力を含む拡大抑止の強化を求め、昨年8月の日米韓首脳会談では「台湾海峡の平和と安定の重要性を再確認」した。
 対照的なのが野党側だ。最大野党「共に民主党」が中心に起草した弾劾訴追案は、尹氏を「北朝鮮、中国、ロシアを敵視し、日本中心の奇異な外交政策固執した」「日本寄りの人物を政府の要職に任命するなどの政策で東アジアで孤立を招き、戦争の危機を引き起こした」と批判した。まるで北朝鮮や中国の立場で世界を見ているようだ。尹政権による外交安保政策が失速すれば日米韓協力による抑止が損なわれ、かえって「戦争の危機」を高めかねない。
 韓国の国民や政治家は、戒厳令への批判と尹政権の外交安保政策の妥当性を混同しないでもらいたい。

韓国大統領の弾劾不成立 国民の納得得られまい(2024年12月8日『中国新聞』-「社説」)
 
 韓国の国会はきのう、尹錫悦(ユンソンニョル)大統領の弾劾訴追案を採決する本会議を開いた。投票者数が規定に達せず廃案となった。尹氏は大統領の職務を続ける。
 野党側は「非常戒厳」宣言を出した尹氏の弾劾訴追案を出し続ける構えで、攻勢の手を緩めるとは思えない。政局は混迷を深めるだろう。民主的な手続きの下で、一刻も早い正常化を望みたい。
 もともと野党勢力だけで在籍議員300人の3分の2には届かず、可決には与党「国民の力」から最低8人の造反が必要だった。与党議員の大半は採決前に議場を退場し、投票しなかった。議長や野党議員が投票するよう呼びかけたが、応じたのは数人にとどまった。
 棄権という政治的な手法は認められていても、今回の場合は、民主主義の根幹を揺るがす暴挙に出た大統領の職務の続行を承認することになる。与党の判断が、国民の理解を得られるとはとても思えない。
 国会周辺にはきのう、警察の推算で約15万人もの国民が集まった。賛否双方ともいたが、大多数は尹氏を非難していた。廃案を受けて、国民の反発は強まるだろう。
 尹氏はきのう朝、テレビで国民向けに談話を発表し、非常戒厳宣言で国民を不安にさせたとして「心からおわびする」と謝罪した。「責任を回避しない」「第2の戒厳は決してない」「任期を含め、今後の政局安定策はわが党に一任する」などと述べたが、辞任には触れなかった。譲歩の姿勢を示し、与党議員の造反を防ごうとしたのだろう。
 弾劾訴追案が可決された場合、尹氏は職務停止となり、韓悳洙(ハンドクス)首相が権限を代行。憲法裁判所が罷免を妥当とすれば、再び大統領選が行われるところだった。
 国民の力の韓東勲(ハンドンフン)代表は当初、反対する党方針を決めたが、尹氏が非常戒厳の中で主要政治家を逮捕しようとしていたことから「大統領の速やかな職務執行停止が必要」と一転、賛成の意向を示していた。
 ところがきのう尹氏が談話を発表すると、再び反対姿勢に戻った。与党には、尹氏が大統領を罷免されれば、次期大統領選で不利な戦いを強いられるとの懸念があるのだろう。
 与野党の攻防は、次の大統領選に向けた政治的な駆け引きに移っているようにも見える。民主主義を脅かしたことに対して高まる国民の怒りに対し、あまりにも思いが乖離(かいり)していないか。党利党略で国政の混乱を長引かせることは許されない。
 与党は弾劾を阻止したが、尹氏は国民の信頼を失い、大統領を長く続けられる情勢ではないだろう。混迷が長引くと思われ、先行きに懸念が募る。
 外交も混乱が避けられない状況だ。台湾有事への備えや北朝鮮核兵器開発など、東アジアには問題が山積している。日米韓の密接な協力関係が欠かせない。政治的な空白を最小限に抑えることが重要だ。

韓国大統領弾劾採決 真相究明し民主政治守れ(2024年12月8日『琉球新報』-「社説」)
 
 韓国国会は7日、尹錫悦(ユンソンニョル)大統領の「非常戒厳」は憲法違反だとする弾劾訴追案を採決したが、ほとんどの与党議員が退席して採決を棄権したことで、必要な3分の2の賛成には届かず、不成立となった。
 大統領の職務を停止する事態を回避したとはいえ、強権を発動した尹氏の弾劾罷免を求める大勢の国民が国会周辺に集まった。退陣を求める世論はさらに強まるだろう。韓国の最高検察庁は特別捜査本部を設置して進めており、刑法の内乱罪の適用を巡る捜査の行方も焦点となる。
 韓国の内政、外交とも混乱の長期化が避けられない。それでも韓国の民主政治を後戻りさせないため、徹底した真相の究明が必要だ。
 韓国大統領の弾劾訴追は直近では2016年の朴槿恵(パククネ)氏がある。知人による国政介入などの不祥事が違法行為として糾弾された朴氏と比べても、内乱罪で告発された尹氏の行為は問題が大きいと言わざるを得ない。
 尹氏が宣言した非常戒厳は戒厳令の一つの形態で、戦時などの非常事態に市民の権利を制限できる。政治活動やメディア、SNSを含む言論、出版などを広範囲に規制でき、憲法を一部停止させてしまう強い権限だ。
 非常戒厳を宣言した3日夜から4日未明にかけて軍が国会本館に突入。与野党代表の拘束計画に加え、中央選挙管理委員会にも兵士が展開した。政権運営に行き詰まった尹氏が、力を使って国会の機能を止めようとした。大統領自らが民主国家の転覆を謀ったクーデターと言うべき衝撃的な事態だ。世界の政情にも深刻な影を落としている。
 尹氏は7日午前、テレビ放送で談話を発表した。国民に不安を与えたことを謝罪したものの、辞任を含めた進退に言及しなかった。「任期を含め、今後の政局安定策はわが党に一任する」と述べ、与党とともに継続して政権運営していく意欲をほのめかした。
 国民への謝罪の体をとってはいるが、野党の弾劾訴追案に賛成しないよう与党議員に働き掛ける保身のパフォーマンスだったのではないか。尹氏が「法的、政治的な責任問題を回避するつもりはない」と言うならば、辞任して混乱の収束を図るべきだ。退陣して新たな大統領の選出に向かうことで、政治の空白期間を短くできたはずだ。
 与党「国民の力」の韓東勲(ハンドンフン)代表は6日に「大統領の速やかな職務停止が必要だ」と表明していた。韓代表自身は国会議員ではなく弾劾訴追案の採決に加わっていないが、与党といえども擁護できないほど重大な事態という認識の表れだろう。採決では野党の呼び掛けに応じ投票に戻る与党議員もあった。
 最高権力者がなぜ民主主義を覆す暴挙に至ったのか。内閣や軍中枢を含めた首謀関係を議会と司法で明らかにしていくことが、政府への信頼を取り戻すために不可欠だ。

韓国弾劾案「不成立」 免れない大統領の責任(2024年12月8日『沖縄タイムス』-「社説」)
 
 韓国大統領による「非常戒厳」が政治の混乱を深めている。
 尹錫悦(ユンソンニョル)大統領による戒厳宣言は憲法違反として国会で野党などが求めた弾劾訴追案は7日本会議の直前、与党議員のほとんどが退席し不成立となった。
 尹氏は大統領としての職務を続けることになる。
 尹氏は同日午前、戒厳宣言後初めて国民に対する談話を発表した。
 戒厳宣言は「国政の最終責任者である大統領としての切迫感から始まった」と釈明。戒厳令の過程で国民を不安にさせたことを「心からおわびする」とし、今後の政局安定策を与党に一任すると述べた。
 談話はたったの2分間。謝罪としては不十分であり、説明が尽くされたとも言い難い。
 戒厳令下では、軍が中央選挙管理委員会の庁舎にも進入していた。
 野党が大勝した今年4月の総選挙について、保守系ユーチューバーなどが「不正選挙」説を主張しており、金龍顕(キムヨンヒョン)前国防相は「違反がなかったか判断するためだった」としている。
 軍部が選挙結果に介入するようなもので民主主義の根幹に関わる。
 与党の代表からも、尹氏が戒厳令で「主要な政治家を逮捕し収監しようとした」との指摘が公然と上がっている。
 かつてない強権発動により異論を排除しようとしたことは明らかだ。何の責任も取らず職務を続けるということは考えられない。
■    ■
 国防省は戒厳宣言の際に兵士を国会などへ投入した軍の司令官3人を職務停止にした。
 軍が国会の敷地内に進入する事態を招いた責任は免れない。尹氏も厳しく問われるべきだ。
 弾劾を避け、尹氏の任期短縮で矛先を納めようとする与党側の対応にも疑問符が付く。
 尹氏や金前国防相らは内乱罪などでも告発されている。そうした中、内政のかじ取りや、外交の職責を全うできるのか。
 こうした与党の対応は、韓国国内の分断と対立も深めている。国会周辺には弾劾を求める市民が押し寄せた。
 尹氏の支持率は就任後最低の16%、不支持率は75%に達している。
 そもそも憲法で定められた大統領の任期を、党の都合で短縮すること自体がおかしいのではないか。
 混乱を収束できない与党の責任も問われている。
■    ■
 戒厳宣言後は外交の混乱も続いている。
 オースティン米国防長官は予定していた韓国への訪問を見送った。石破茂首相が来年1月に調整している韓国訪問も困難な情勢となっている。
 混乱の長期化は、北朝鮮との関係をさらに不安定化させる恐れもある。
 野党などは採決されるまで弾劾案を繰り返す構えだ。尹氏は「法的、政治的な責任問題を回避しない」と言うなら、国会の判断を待たず自ら身を引くべきだ。

韓国政局の混迷 地域の不安定化を危ぶむ(2024年12月7日『信濃毎日新聞』-「社説」)
 
 尹錫悦大統領が「非常戒厳」を宣言した韓国の政局が、混迷の極みにある。
 野党提出の弾劾訴追案に反対していた与党からも、「国民を大きな危険に陥れる懸念が大きい」と尹氏を見放す声が上がった。
 弾劾訴追案が可決されれば大統領の職務は停止され、憲法裁判所が罷免するかどうか判断する。
 正当性を欠く時代錯誤の戒厳令を振りかざし、民主主義を脅威にさらした責任は重い。民主国家を率いる資格を失っている。
 尹氏は野党が国政をまひさせたとし、戒厳令によって「北朝鮮共産勢力の脅威から国を守る」「憲政秩序を守る」と強弁した。憲法が要件とする戦時や国家非常事態に当たらない。権力の乱用だ。
 国会の決議を受けて解除はしたが、民主主義の基盤を成す国会に軍を突入させた。与野党代表の拘束計画もあったとされる。
 憲政秩序を守るどころか破壊した。大統領にとどまれば、同じ過ちを繰り返すのではないか。
 かつて軍事独裁政権が戒厳令で市民を弾圧した記憶を呼び覚まし、社会に不安と混乱をもたらした。市民の感覚との隔たりは目を覆わんばかりだ。
 混迷が長く続くことは必至の状況だ。朝鮮半島情勢の不安定化を招く恐れもある。
 米バイデン政権は軍拡を進める中国や北朝鮮を抑止するため、日米韓の連携を重視した。北朝鮮弾道ミサイル情報の即時共有や米韓合同軍事演習を重ねた。
 来年1月には多国間連携に懐疑的なトランプ氏が米大統領に返り咲く。韓国の政権が機能不全に陥っていれば、安全保障協力への影響は大きい。キャンベル米国務副長官は「尹氏は重大な判断ミスを犯した」と公然と批判した。
 折しも北朝鮮とロシアの軍事同盟となる条約が発効した。北朝鮮ウクライナに侵攻するロシアを軍事支援し、技術協力を見返りに核・ミサイル開発を加速させる可能性がある。
 北朝鮮は南北統一を放棄し、憲法で韓国を「敵対国家」と定めたとされる。南北を結ぶ道路や鉄道を爆破するなど挑発を繰り返す。韓国の混乱に乗じて軍事的な緊張を高める恐れもある。
 尹政権では、冷え込んだ日韓関係が大きく改善した。来年に国交正常化60周年を迎えるが、政権が代われば日韓関係に再びきしみが生じかねない。
 東アジアの平和と安定のためにも、韓国には政治空白を早急に埋めてもらいたい。

韓国政治の混乱/異様な「暴走」を非難する(2024年12月6日『神戸新聞』-「社説」)
 
 民主主義国として安定していた韓国の政治が大混乱に陥っている。発端は、尹錫悦(ユンソンニョル)大統領による「非常戒厳」の宣言だ。軍の力を頼みに自らの権力を守ろうとした。民主主義のルールを無視する暴挙であり、強く非難する。
 世界に激震が走ったのは3日夜である。尹大統領が緊急談話を発表し、野党が国会を利用して行政や司法をまひさせていると批判。「自由憲政秩序を守るため」として、1987年の民主化以降初となる戒厳令を宣布した。
 これを受けて、戒厳司令部が政治活動の禁止やメディア統制を含む布告令を出し、武装兵が国会本館に突入する事態となった。市民や学生を弾圧した軍事政権時代の光景と重ね合わせ、衝撃を受けた国民は多いに違いない。
 非常戒厳は、国会の決議を受けて約6時間後に解除された。全閣僚は辞意を表明している。野党は明らかな憲法違反があったとして、大統領の弾劾訴追案を国会に提出した。早ければ7日にも採決される。尹氏の求心力低下は不可避だろう。
 尹氏は2022年に就任した。国会は今年4月の総選挙で勝利した野党が過半数を占め、政権運営は停滞していた。野党は官僚らの弾劾訴追案を相次ぎ提出し、大統領夫人の不正疑惑も国民の反発を買った。支持率が2割と低迷する中、窮地から脱するために無謀な策に打って出たとみられる。
 追い込まれていたとはいえ、大統領の緊急談話は異様と言わざるを得ない。野党の行動を「反国家行為」と決めつけ、「北朝鮮の共産勢力から大韓民国を守る」と主張した。根拠は不明である。
 神戸大大学院の木村幹教授(朝鮮半島地域研究)は「大統領自らが北朝鮮による陰謀論めいた話を持ち出したことに驚いた。極端な意見を止める人が周りにいない。それほど彼は孤立している」とみる。
 韓国の混乱が長引けば、東アジアの安全保障や世界経済に及ぼす影響は無視できない。与野党イデオロギー対立を超えて早期の収拾に努めてほしい。尹大統領は日韓関係改善の旗を振ってきただけに、日本にとって痛手となろう。日本政府は両国関係を後退させないよう、外交努力を重ねる必要がある。
 民主主義下でも権力の「暴走」は起こり得ることを、韓国の混乱は示した。同時に、逮捕の恐れがある中でも戒厳解除要求決議を可決した国会議員や、議事堂周辺に集結した市民の抗議は、法にのっとって暴挙を止めた。世界各地で揺らぐ民主主義への信頼を、韓国の人たちがつなぎとめた功績は小さくない。

韓国大統領戒厳令 民主主義を覆す暴挙だ(2024年12月6日『琉球新報』-「社説」)
 
 韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領は3日夜、国民向けの緊急談話で「非常戒厳」を宣言し、国会に軍部隊を派遣した。
 与野党の議員らが急きょ国会入りし、戒厳の解除を要求する決議案を可決した。戒厳令は6時間程度で撤回されたが、野党勢力を力で抑え込もうと強権を発動した行為は断じて許されない。民主主義を根底から覆す暴挙と言わざるを得ない。
 現代の韓国は軍事クーデターによって政権が代わってきた歴史の延長線上にある。軍事独裁政権の強い推進力によって開発や発展が進んだ側面もあるが、野党勢力や民衆を弾圧したことで深い分断と傷を残した。
 北朝鮮とは休戦協定を結んでいるが、常に軍事的衝突に備えなければならず、韓国の憲法では大統領に非常戒厳を宣言する権利を定めている。しかし、あくまで戦時やそれに準ずる緊急事態を想定したものだ。尹氏の突然の戒厳令は到底受け入れられない。
 非常戒厳は政治活動や既存メディア、SNSを含む言論、出版などを広範囲に規制できる大統領権限である。尹政権は4月の総選挙で大敗し、国会では野党の厳しい追及にさらされ、支持率は低下している。
 尹氏は緊急談話で国会の議席過半数を握る最大野党「共に民主党」が国政をまひさせているとして「憲政秩序を守るため、非常戒厳を宣布する」と表明したが、全く理由にならない。少数与党に転落したのは自らの政権運営が国民の支持を失った結果だ。
 与党の大敗の背景には、少子高齢化や経済格差、対中関係、北朝鮮問題などへの国民の不満がある。独善的と批判される政治手法への批判を力ずくで封じ込めようとしたことで、さらに支持を失うことになろう。
 死者や行方不明者を多数出した軍事政権下の弾圧を思い出させる戒厳令を出したことで、国民の不安と怒りは頂点に達している。実際に軍隊が派遣された国会前には多くの市民が詰めかけ、兵士らと対峙(たいじ)するなど、緊迫した事態となった。
 野党6党は4日、戒厳令は「憲法違反」だとして尹氏の弾劾訴追案を国会に提出した。6日か7日の採決で調整が進んでいる。与党「国民の力」から賛成する議員が出るかどうかが今後の焦点だ。
 民主主義の根幹は、多様な意見を尊重し、政治に反映させることだ。大統領という最高権力者の立場であっても、時間のかかる合意形成のプロセスは無視できない。思うように政治を動かせないからといって大統領権限を乱用するようでは、民主国家の指導者は務まらない。
 韓国の政情不安は日本との関係にも影を落としかねない。東アジアの平和は各国の政情が安定してこそ成り立つ。韓国が民主政治の原理に立ち返り、平和裏に安定を取り戻すことを期待する。

韓国の非常戒厳 民主主義否定する暴挙だ(2024年12月5日『北海道新聞』-「社説」)
 
 韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領が、野党が国政をまひさせているとして突然、非常戒厳を宣言した。
 戒厳司令部が政治活動の禁止と言論の統制を布告して軍が国会に突入したが、国会は戒厳解除を要求する決議を可決した。尹氏は憲法の規定に従い、宣言から約6時間後に解除を表明して軍を撤収させた。
 低支持率と少数与党のために政権運営が行き詰まる中で、尹氏は事態打開を狙って強硬手段に踏み切ったのだろう。
 だが非常戒厳は戦時やそれに準じる国家非常事態で宣言できると憲法で規定されている。今回は恣意(しい)的な発動と言うほかなく民主主義を否定する暴挙だ。
 野党は尹氏の弾劾訴追案を国会に提出した。与党からも責任を問う声が強く、大統領府の側近は一斉に辞意を表明した。尹氏の任期は2027年まであるが、辞任圧力が強まっている。
 与野党は混乱を最小限に抑え、対話を通じて収束を図ってもらいたい。
 韓国の戒厳令は、軍の弾圧で多くの市民が犠牲になった光州事件などが起きた1980年代初頭以来で、87年の民主化後は初めてである。
 民主化は長期の軍事独裁政権の後、市民の粘り強い闘いで勝ち取ったものだ。尹氏の強権発動はその歴史と成果を台無しにしたと言わざるを得ない。
 2年前に発足した尹政権は独善的とも言われる政治手法が批判され、支持率は低迷した。今年4月の総選挙で与党が惨敗したことで、与野党対立はさらに激しさを増していた。
 野党は政権や検察などへの弾劾訴追案を多数発議し、政府予算案の削減も迫って尹氏を追い詰めた。政争を優先せず冷静な対応が求められる。
 韓国では長年、保革が激しく対立し、国を二分してきた。理念の違いに加え、経済や地域などの格差が分断に拍車をかけている。与野党ともこうした問題に目を向ける必要があろう。
 尹政権は対北朝鮮で強硬姿勢を取り、南北関係は悪化している。北朝鮮が核・ミサイル開発を加速し、ロシアとの軍事協力を進める安全保障環境の中、韓国の安定化は欠かせない。
 尹氏は日韓関係の改善に尽力した。来年は国交正常化60年で、石破茂首相とは対話の頻度を高めることで一致していた。首相は来月の訪韓を調整していたが、影響は避けられまい。
 トランプ次期米大統領の就任を控え、国際情勢は不透明感が増している。こうした時こそ隣国同士の日韓が連携して対応することが重要である。

国際社会にも経緯説明を/韓国の非常戒厳宣(2024年12月5日『東奥日報』-「時論」/『山形新聞』ー「社説」/『茨城新聞山陰中央新報』-「論説」)
 
 韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領が緊急談話を発表し、非常戒厳を宣言した。国会で過半数を占める野党が政府高官の弾劾訴追案を繰り返し提出するなどし、国政をまひさせているとして「憲政秩序を守る」ことを理由に挙げているが、民主主義の根幹を脅かす暴挙で到底理解できない。戒厳は6時間で解除されたが、強大な権力を突如行使した尹氏は、韓国内だけでなく国際社会に対しても経緯を詳しく説明すべきだ。
 尹氏の戒厳宣言に対しては、野党のほか与党からも批判が噴出し、国会は解除を要求する決議案を全会一致で可決した。韓国憲法は、国会議員の過半数が戒厳の解除を要求した場合、大統領は応じなければならないと規定している。戒厳直後に与野党が拒否を突き付けたのは、韓国世論は尹氏の説明を受け入れていないことを意味する。6時間で戒厳が解除されたのは当然の流れだ。
 韓国で非常戒厳が出されたのは、1987年の民主化以降で例がない。戒厳直後に稼働した陸軍大将をトップとする戒厳司令部は、布告令で「国会や地方議会、政党の活動と、政治的結社、集会、デモなど一切の政治活動を禁じる」とした。民主主義の根幹を軍靴で踏みにじる内容に、多くの人が軍事独裁時代の圧政を連想しただろう。
 三権分立の制限など、大統領に強大な権力を与える戒厳は、韓国憲法で戦時やこれに準ずる国家非常事態の際に宣布できると記されている。だが今回、そうした状況が韓国で起きていたとは考えられない。
 尹政権が少数与党で国政運営に苦慮していたことは事実だが、それが国民の権利を制限する理由とはならない。政治的な問題は政治の場で解決すべきことであり、軍を用いて反対勢力を抑え込もうとするのであれば、その手法は軍事政権と何ら変わらず、民主国家の名に値しない行為であることは明白だ。
 戒厳に対して、韓国の保守系メディアも「あまりに衝撃的で非常識」(中央日報)など、一斉に批判している。5年の任期を折り返した尹氏は支持率が20%前後に低迷しており、そうした状況を打開するために戒厳を利用したのであれば、世論の怒りがさらに高まるのは必至だ。今後、尹氏が弾劾される可能性も現実味を帯びており、政治の混乱が長期化することも予想される。
 深刻なのは、韓国の与党や政府内からも、尹氏の判断力を疑う声が出ていることだ。韓国メディアは、戒厳の宣言を尹氏の側近や与党幹部も知らなかったほか、憲法で定められた手続きを踏んでいなかったと伝えている。早急な事実関係の解明が不可欠だ。
 日本政府は、尹氏を日韓関係改善の立役者として高く評価してきた。日本重視の姿勢をとってきた尹氏によって、歴史問題で冷え切っていた両国関係が再び動き出したのは間違いない。だが、今回の事態によって石破茂首相の1月訪韓など、首脳同士が相互訪問する「シャトル外交」は極めて不透明な状況となった。
 尹氏との良好な関係を強調してきた政府は、日韓が民主主義という価値を共有しているという基盤に立ち、尹氏に混乱の収拾と自制を促すことが求められている。民主主義を重視する姿勢をはっきりと示すことが、今後の日韓関係の発展にとって重要だ。

韓国大統領が戒厳令 民主主義を脅かす暴挙だ(2024年12月5日『毎日新聞』-「社説」)
 
キャプチャ
国会への突入を試みる韓国軍の兵士=ソウルで2024年12月4日午前0時34分、日下部元美撮影
 民主主義の原則を破壊する権力の乱用である。政権運営の行き詰まりを打開するための強権発動は言語道断だ。
 韓国の尹錫(ユンソン)悦(ニョル)大統領が「非常戒厳」を宣言した。これに伴い、あらゆる政治活動を禁じ、報道機関を統制下に置く布告が出された。
 大統領が戒厳令を出すことは憲法で認められているが、戦時などに限られる。「野党が憲政秩序を踏みにじっている」という主張は正当化の理由となりえない。
 解除を要求する決議が国会で採択されたことを受け、尹氏は約6時間後に撤回した。
 国会で過半数議席を持ち、対決姿勢を強める野党によって追い込まれていた。閣僚や検事らの弾劾訴追案が相次いで可決され、来年度予算案の審議では大統領室の機密費などが削られた。
 しかし、少数与党での政権運営を余儀なくされているのは、尹氏の強権姿勢に批判が集まり、4月の総選挙で敗北した結果である。自らの意に沿わない野党の振る舞いを「内乱を企てる反国家行為だ」と決めつけるのは、時代錯誤も甚だしい。
 韓国では1980年代まで続いた軍事政権時代、戒厳令がたびたび出された。流血の事態に発展することもあった。
 今回は軍や警察の部隊が国会周辺などに動員されたが、大きな衝突は起きなかった。
 与野党の指導部は即座に反対姿勢を鮮明にし、大統領の暴走に歯止めをかけた。法にのっとった形で正常化が図られ、民主主義が定着していることが示された。
 野党は大統領の弾劾訴追に動いており、政局が落ち着きを取り戻すには時間がかかりそうだ。韓国政治の迷走は、北東アジアの安定にとっても好ましくない。
 国際情勢は揺れ動いている。北朝鮮はロシアとの軍事的な協力関係を深め、核・ミサイル開発を加速している。米国では来月、国際協調に背を向けるトランプ次期大統領が就任する。
 バイデン米政権下で強化された日米韓の連携をいかに維持していくかが問われる局面だ。
 日韓が従来以上に足並みをそろえていく必要がある。そのためにも、韓国の指導者には混乱の早期収拾を求めたい。

「小説に登場する主人公のモデルとなった少年たちを…(2024年12月5日『毎日新聞』-「余録」)
 
キャプチャ
80年5月20日、光州市中心部の全羅南道庁前広場を封鎖する鎮圧軍とにらみ合うデモ隊=朝鮮日報提供
キャプチャ2
韓国国会前に集まり、戒厳令に反対してスローガンを叫ぶ人々=ソウルで4日、ロイター
 「小説に登場する主人公のモデルとなった少年たちを含む無辜(むこ)の人々のおびただしい死が、今日の韓国の民主的な社会の尊い礎になった」。韓国の作家、ハン・ガン(韓江)さんの「少年が来る」を訳した井手俊作さんがあとがきに書いている
▲1980年5月、戒厳令下の韓国で軍が民主化運動を弾圧した「光州事件」がモチーフ。女性ではアジア初のノーベル文学賞の授賞理由には「歴史のトラウマに向き合い」という言葉があった
韓国映画にも現代史の闇に切り込んだ佳作が多い。学生運動家の拷問死事件を追った「1987、ある闘いの真実」。光州事件を生んだ全(チョン)斗(ドゥ)煥(ファン)元大統領のクーデターを描く「ソウルの春」。民主化の定着でタブーもなくなったのだろう
▲そんな韓国社会の現状とは懸け離れた不可解な暴挙に映った。尹錫(ユンソン)悦(ニョル)大統領が強行した45年ぶりの戒厳令。国会での野党の反対を「反国家行為」とみなし、力で封じ込めようとしても国民がついてくるはずもない
▲軍が国会に派遣されたものの集まった議員や市民には手を出せなかった。国会決議を受け、尹氏は6時間で戒厳令解除に追い込まれた。人権が抑圧された時代を思い浮かべて反対に動いた人も多かったのではないか
▲「これからはあなたが私を導いていくように願っています」「明るい方へ、光が差す方へ、花が咲いている方へ」。事件で倒れた少年たちに祈るような冒頭の小説の一節である。歴史の歯車を戻すことはできない。一刻も早い政治の正常化を願う。

韓国「戒厳令」 強権が招いた混乱を憂慮する(2024年12月5日『読売新聞』-「社説」)
 
 韓国の尹錫悦大統領は国政の停滞を「戒厳令」という強権手法で打破しようとしたのだろうが、かえって自らを窮地に追い込む結果となった。
 韓国の内政が大混乱に陥れば、日韓関係はじめ東アジアの安全保障環境に悪影響を及ぼすのは必至だ。事態を憂慮する。
 尹大統領は3日夜、突然、国会を含む一切の政治活動を禁止する非常戒厳を宣言した。
 国会で多数を占める左派系の野党勢力が政府高官の 弾劾 だんがい 訴追案の提出などを連発し、国政をまひさせたことを「北朝鮮に従う反国家勢力」の行動だとみなし、自由憲法秩序を守るためと強調した。
 非常戒厳の宣言は、1979年に当時の朴正熙大統領が暗殺された時に発令されて以来となる。87年の民主化以降では初めてだ。
 だが、国会が非常戒厳の解除を求める決議案を可決したため、尹氏は宣言から約6時間後に解除を発表した。国会には一時、軍隊が入り、抗議する市民が周辺に集まるなど情勢が緊迫した。激しい衝突に至らなかったのは幸いだ。
 北朝鮮の強権体制を非難し、自由秩序を守ると言いながら、国会に軍を入れるなど強権をふるったのでは、本末転倒である。
 野党は、非常戒厳の宣言は「憲法違反だ」と主張し、尹氏の弾劾訴追案を国会に提出した。
 可決には全300議員のうち3分の2以上の賛成が必要だ。与党は108議席と、3分の1以上を占めるが、造反者の数次第では可決され、憲法裁判所が 罷免 ひめん の是非を判断することになる。
 韓国政治の混迷が、日韓関係に与える影響を懸念する。尹氏は就任以降、一貫して対日関係の改善を推進してきた。
 懸案だった元徴用工(旧朝鮮半島出身労働者)訴訟問題を巡り、韓国政府傘下の財団が賠償金相当額を支払う解決策を示し、日韓関係を正常化させた。岸田前首相との間で、互いの国を定期的に訪問するシャトル外交も復活した。
 尹氏の決断は高く評価されなければならないが、韓国内では野党を中心に「日本に譲歩しすぎだ」との批判が根強い。
 尹氏の任期はあと2年半弱で、今回の騒動でさらに求心力を失えば、日本との協力や、日米韓による連携にも支障が及ぶ。
 北朝鮮は核・ミサイル開発を進め、ロシアに派兵してウクライナ侵略にも加担している。韓国の混乱の長期化は、北朝鮮を利するだけだ。つけいる隙を与えないよう、事態の早期収拾を期待する。

韓国民主化の歴史を否定する「非常戒厳」(2024年12月5日『日本経済新聞』-「社説」)
 
キャプチャ
韓国国会に尹錫悦大統領の弾劾訴追案を提出する野党各党の国会議員ら(4日、ソウル)=ロイター
 
 民主主義のルールから逸脱し、軍事独裁時代をほうふつとさせる暴挙と言わざるを得ない。韓国の尹錫悦大統領が「非常戒厳」を宣言した。国会の決議を受け、間もなく解除に追い込まれたが尹氏の求心力低下は避けられまい。
 韓国の非常戒厳宣言は44年ぶりで、民主化以降は初めてである。尹氏は野党が国政をまひさせているとして「内乱を企てる反国家行為だ」などと非難したが、尹氏の判断こそが民主化の歴史を否定するものと断じられよう。
 4月の総選挙で与党が大敗し、国会は野党が過半数を握ったまま停滞している。尹氏は野党が官僚らの弾劾訴追を連発し、予算案の修正を迫るなど政権攻撃を強めていることを理由に挙げた。金建希夫人の疑惑への追及にもいら立ちを募らせていたとみられる。
 戒厳司令官が出した布告令は、政党の活動や集会、デモなど一切の政治活動を禁じ、メディアも統制する内容だ。「憲政秩序を守るため」などとしたが、軍隊を動員する強権的な手法が国民の幅広い理解を得られるはずもない。
 総選挙の結果は民意である。物価高が暮らしを直撃するなかで、独善とされ、支持率も低迷する尹氏は野党に歩み寄るべきだった。数の力で押し切ろうとする野党の態度も目に余る。韓国の安定は地域の秩序の維持に欠かせない。事態の収拾を急いでほしい。
 野党各党は尹氏の弾劾訴追案を国会に提出した。近く採決される見通しだが、保守系与党から一定の同調者が出れば可決される。「非常戒厳」という実力行使に及んだ尹氏への反発の声が与党内でもあがっている。
 米韓の核抑止のための政府間協議が延期されたとの報道もある。懸念されるのは北朝鮮の動向だ。韓国を「敵対国家」と位置づけ、尹政権との対決姿勢を先鋭化している。ロシアに大規模な部隊を派遣しており、朝鮮半島情勢が緊迫する展開に備えねばならない。
 東アジア安全保障の要となる日米韓3カ国の協調体制で、尹氏が果たしてきた役割は大きい。就任以来、対日融和路線を先頭に立って推し進めてきただけに、日本にとっても憂慮すべき事態だ。
 中谷元防衛相が年内に訪韓し、石破茂首相も来年1月にソウルで尹氏と会談する方向で調整してきたが、事態は流動的だ。日韓関係への影響も最小限にとどめなければならない。

尹氏が一時戒厳令 正当性欠く深刻な過ち(2024年12月5日『産経新聞』-「主張」)
 
 戒厳令の発出は深刻な過ちだった。これをきっかけに隣国韓国の政情が不安定化することを懸念する。
韓国の尹錫悦大統領は3日夜、革新系最大野党「共に民主党」が、多数派を占める国会を利用し、国政や司法を麻痺(まひ)させているなどとして、非常戒厳を宣布した。与野党は強く反発し、国会で4日未明、解除要求を決議した。尹氏は宣布から約6時間後に戒厳令を解除した。
 尹氏は戒厳令について「北朝鮮の共産勢力の脅威から韓国を守る」とした。戒厳司令部の布告は「自由民主主義や国民を守る」ために、一切の政治活動などを禁じた。
 だが、今回の戒厳令の方が自由と民主主義に反しており、出すべきではなかった。軍事政権による戒厳令は過去の話だったはずだ。先進国の一員と見られるようになっていた韓国の戒厳令騒動は、国のイメージ低下も招こう。
 戒厳令の権限は大統領にあるが要件を満たしていたとはいえない。正当性が感じられないからこそ、野党に加え、与党も世論も批判しているのだろう。
 朝鮮戦争は休戦中で、韓国は今、北朝鮮などと交戦状態にない。南北の体制間競争は韓国が圧倒的に優勢だ。大規模な騒乱や災害に直面してもいない。
 尹政権は大統領夫人の疑惑や、野党による閣僚などへの相次ぐ弾劾要求で立ち往生していた。支持率は低迷していた。
事態打開へ戒厳令に頼ったのであれば、あまりに唐突で理解できない。北朝鮮のスパイが国内にいるなら通常の手続きで捜査、摘発すればよかった。尹氏は民主主義国の為政者失格の烙印(らくいん)を押されても仕方ない。
 尹政権発足後、日米韓3カ国は安全保障協力を強めてきた。北朝鮮の脅威を抑止し、「台湾海峡の平和と安定」を守る上で必要だったからだ。
 韓国の混乱で日米韓の結束は乱れたとみて周囲の専制国家が挑発してくる恐れがある。日本政府や自衛隊は警戒を怠らないでほしい。
 韓国は混乱を早期に収拾すべきである。主要野党は尹氏の弾劾訴追案を国会に提出した。可決されれば、憲法裁判所が罷免の可否を判断する。求心力を失った尹氏は事態収拾のため進退を決断しなければならないのではないか。

国の命運を質草に、尹大統領の「非常戒厳」(2024年12月5日『産経新聞』-「産経抄」)
 
 ソウルでアジア競技大会が開かれたのは、韓国がまだ軍政下にあった1986年である。当時の全斗煥政権は、民主化の動きに神経を尖(とが)らせていた。街の方々に学生デモを鎮圧した催涙ガスが残り、歩けば目や鼻が痛んだという。
▼現地で取材した先輩から、そう聞かされた。「夜は3人以上で歩くな」と注意を受けていたそうだが、酒場は繁盛していたらしい。それがソウル五輪の2年前である。民主主義国家としての鼓動が、抑え難いほどに高まっていた様子がうかがえる。
▼尹錫悦大統領はいつの時代に時計の針を合わせたのだろう。3日夜に発した唐突な「非常戒厳」である。国会で多数派を占める野党「共に民主党」が国政や司法を麻痺(まひ)させている―と。与野党からは批判の声が上がり、国会の決議を受けて宣言から約6時間後に戒厳令を解いた。
▼野党に主導権を握られ、国政が立ち行かなくなっているとはいえ、常軌を逸している。尹氏の側近は一斉に辞意を表明し、野党側は弾劾する構えだ。政情不安は、北朝鮮などを喜ばせるだけだろう。さまざまな余波に、わが国も備えねばならない。
▼尹氏がソウル大学法学部に入学したのは79年である。在学中に仲間と模擬裁判を開き、クーデターで実権を握った全氏に、裁判長役の尹氏が「無期懲役」を言い渡した話は知られている。腕ずくで権力を奪う行為は民主主義と相いれないと、わきまえていた人ではなかったのか。
▼政権支持率の低迷には尹夫人の醜聞も影を落としている。<総じて人は己れに克つを以て成り、自ら愛するを以て敗るゝぞ>と西郷隆盛の遺訓にある。無謀な乾坤一擲(けんこんいってき)に私心は混じっていなかったか。国の命運に加え、東アジアの安定も質草にした暴挙だろう。

韓国「非常戒厳」 民主主義の破壊を憂う(2024年12月5日『東京新聞』-「社説」)
 
 韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領が3日夜、市民らの権利を制限する「非常戒厳」を宣言。国会決議を受けて4日未明に解除した。
 尹氏は緊急談話で宣言の根拠に野党が政府高官らの弾劾訴追発議を繰り返し、来年度予算案に合意しないことなどを挙げ「内乱を画策する明らかな反国家的行為だ」と強調したが、妥当性を欠く。
 宣言を受け、武装した戒厳司令部の部隊が一時、国会に突入するなど、武力で言論を弾圧する危険な状況を招いた。民主主義を破壊する強権の行使を憂慮する。
 韓国憲法77条は「戦時・事変またはこれに準ずる国家非常事態」には「公共の安寧秩序を維持」するために戒厳を宣布できると規定しているが、野党による国会での政治行動を「国家非常事態」とするには無理がある。
 手続き面の不備も指摘される。憲法89条や戒厳法は、非常戒厳の宣布や戒厳司令官の任命には、閣議に当たる国務会議での審議が必要で、戒厳の理由や種類、施行日時や地域、戒厳司令官の公告も必要だとしている。
 しかし、韓国の朝鮮日報(電子版)は、宣布や司令官任命の際に国務会議が開かれたかどうかは確認されていないと指摘。大統領の談話には日時や地域、戒厳司令官の名前は明示されていない。
 尹氏が、非常戒厳を「自由憲政秩序」を守るためと言いながら、憲法や法律を順守していなかったとしたら権力の乱用だ。
 韓国国会は4日未明、非常戒厳を解除するよう求める決議案を、出席した与野党190人の全会一致で可決した。憲法の規定に従って尹氏は非常戒厳を撤回し、非暴力で異常な事態は収拾された。
 尹氏は強硬策により少数与党で停滞する国政の局面打開を図ったのだろうが、求心力は逆に大きく低下。非常戒厳宣言の違憲性を追及する野党は大統領弾劾訴追案を国会に提出した。
 韓国政治の流動化は必至で、回復基調にある日韓関係の変化や日米韓3カ国の足並みの乱れ、東アジア情勢の緊張につながる可能性も否定できない。
 非常戒厳宣言は、権力者が政治目的遂行のために強大な権力を行使し得る民主主義の脆弱(ぜいじゃく)性も示した。韓国にとどまらず民主主義国共通の教訓として胸に刻み、市民やメディアは常に、権力者の動向を監視しなければならない。

韓国で戒厳令 理性なき暴挙は許されぬ(2024年12月5日『信濃毎日新聞』-「社説」)
 
 民主主義国の指導者として誤った選択をしたと言うほかない。
 韓国の尹錫悦大統領が戒厳令の一つである「非常戒厳」を夜半に唐突に宣言した。
 政権運営が行き詰まったことを理由に、自ら民主主義を壊す手段に出たことは許されない。野党は国会に弾劾訴追案を提出した。
 憲法に基づき国会が解除要求決議を可決した結果、尹氏は約6時間後に解除を表明した。だが、政治の混迷が続くことは必至だ。
 韓国の憲法は、戦時やそれに準じる国家非常事態に戒厳を宣言できると定める。戒厳令軍事独裁時に幾度も出され、1980年の光州事件では抗議する数多くの市民が虐殺された。87年の民主化後は例がなかった。
 戒厳は最大野党「共に民主党」が国政や司法をまひさせた―との理由だ。4月の総選挙で与党は大敗。国会の過半数を握る野党は、政府官僚や検察への弾劾訴追案を重ね、政府予算案を減額するなど激しい対立が続いた。
 尹氏は「内乱を画策する反国家行為」「北朝鮮共産勢力の脅威から国を守る」と宣言した。政争を国家危機と結び付ける論理はあまりに乱暴である。
 民主的に政治を進めるべきなのに、独善的な姿勢を改めてこなかった。妻の不正疑惑への批判も強まり、支持率は低迷していた。万策が尽きて強硬手段に頼ったことは明らかだ。
 宣言を受け、軍を国会に突入させた。戒厳司令部は、国会や政党などの政治活動を禁止し、言論と出版は司令部の統制を受けるとの布告を発表した。違反すれば令状なしに逮捕される。
 国会(定数300)では未明にもかかわらず与野党議員190人が集まり、全員の賛成で決議を可決した。市民も国会周辺に駆け付けて抗議した。かつての軍事独裁を想起させる事態への衝撃と反発は大きかった。
 市民の自由や権利を奪い、民主主義を損なう事態に辛うじて歯止めはかかった。
 強権発動で混乱を招いた尹氏の責任は極めて重い。弾劾訴追案が可決されれば大統領権限は停止され、憲法裁判所が罷免すべきか判断する。内政や外交の混乱は避けられない。
 尹氏は元徴用工訴訟問題で悪化した日韓関係の正常化に取り組んだ。石破茂首相は来年1月の訪韓を調整していた。今後は日韓関係の先行きも不透明だ。
 理性を欠いた暴挙の代償は、あまりにも大きい。

韓国で戒厳令 民主国家にあり得ぬ暴挙(2024年12月5日『新潟日報』-「社説」)
 
 政権運営が思うようにいかないから戒厳令を発令するとは、民主主義国家の大統領として信じられない暴挙だ。強く非難する。
 国会決議を受け解除したものの、混乱は当面続くだろう。日本を含めた周辺国や国際情勢に影響する可能性があり、注視していかねばならない。
 韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領は3日夜、緊急の談話を発表し、「憲政秩序を守るため、非常戒厳を宣布する」と表明した。国会で過半数を握る最大野党「共に民主党」が、国会を利用して国政や司法をまひさせているためだとした。
 非常戒厳は戒厳令の一つの形態だ。陸軍大将を司令官とする戒厳司令部が稼働し、国会に武装した兵士が入った。
 戒厳司令部は「国会や地方議会、政党の活動と政治的結社、集会、デモなど一切の政治活動を禁じる」などの布告令を発表し、言論と出版も統制を受けるとした。
 韓国で戒厳令の宣言は、軍事政権下だった1980年代初頭以来で、87年の民主化後は初めてとなる。多くの国民が国会前に詰めかけ尹氏を非難した。
 強権政治に逆戻りしたような蛮行が、理解を得られなかったのはいたって当然だ。
 与党「国民の力」でさえ、戒厳宣言を批判する談話を発表した。国会は解除要求決議に賛成した。
 尹氏が強硬策に踏み切ったのは、野党の抵抗を受けた厳しい政権運営と、支持率が低迷する事態の打開を狙って、賭けに出たとの見方がある。
 4月の総選挙で与党が大敗し、野党側が通した法案に尹氏が次々と拒否権を発動したり、政府予算案を野党側が減額し単独可決したりしていた。
 妻の不正疑惑が強まっているほか、尹氏自身も政治ブローカーとの不適切な関係が指摘された。11月末の世論調査で、支持率は19%、不支持率は72%だった。
 野党は、尹氏の弾劾訴追案を国会に提出した。任期中に罷免される可能性もあり、韓国政治の混迷が続く恐れがある。
 与党も混乱を招いた尹氏の責任を追及しており、尹氏の求心力回復は絶望的になったといえる。
 気になるのは、良好な関係に転換していた日本への影響だ。
 尹氏は、元徴用工問題の解決策を発表し、岸田文雄前首相との間でシャトル外交を復活させるなどして関係正常化に合意した。本県の「佐渡島(さど)の金山」が世界文化遺産登録を果たしたのも、日韓関係改善の影響が大きかった。
 積み上げてきた2カ国の信頼が失われないようにしたい。
 核・ミサイル開発を進める北朝鮮をにらんだ安全保障の観点からも、日米韓の連携は欠かせない。北東アジアの平和と安定を維持していくためにも、韓国は混乱を長引かせてはならない。

(2024年12月5日『新潟日報』-「日報抄」)
 
 民主主義がある程度定着した国で、あのような光景を見るとは。武装した兵士が国会を制圧しようとしていた。尹錫悦(ユンソンニョル)大統領が一時「非常戒厳」を宣言した韓国である
▼戒厳の布告令を読んだ。「自由民主義体制を否定したり、転覆を企てたりする一切の行為」を禁じるとしながら「国会や地方議会、政党の活動と政治的結社、集会、デモなど一切の政治活動を禁じる」「全ての言論と出版は戒厳司令部の統制を受ける」とある
▼矛盾した内容だ。政治活動や言論の自由がない民主主義などあり得ない。非常時の特別措置だとしても、民主主義を否定する行為といえる。そもそも今は非常時なのか。大統領は己の政権維持のため「自由」や「民主主義」を持ち出したに過ぎない
▼2017年の韓国映画「タクシー運転手」は、戒厳令下にあった1980年に起きた光州事件を描いた。民主化要求は共産主義や政権転覆の企てと言い換えられ、軍は学生や市民に容赦なく銃弾を撃ち込む。治安維持の名の下、戒厳令は市民の弾圧に使われた
▼今回は国会で戒厳の解除を求める決議案が可決され、最悪の事態は免れた。それにしても、軍が先んじて国会などを制圧していたらどうなっていたか。そう考えると少しちぐはぐな動きにも見えたが、本稿を書いている時点では詳細はよく分からない
▼日韓関係や東アジア情勢への影響は避けられまい。一方、民主主義や権力の乱用について考えさせられた。お隣の「民主主義国」で起きた出来事である。

韓国「非常戒厳」 民主政治を脅かす暴挙(2024年12月5日『京都新聞』-「社説」)
 
 国会敷地内に軍のヘリコプターが着陸し、銃を構えた兵士らが国会本館に突入した。誰も予想しなかった隣国での事態が世界に衝撃を与えている。
 韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領が3日夜、戦時などを想定した「非常戒厳」を宣言した。戒厳司令部が、地方議会を含め一切の政治活動の禁止、言論と出版の統制を布告した。
 国会が与野党の全会一致で解除要求を決議したことで、4日未明に解除したが、民主主義を脅かす暴挙だといわざるを得ない。
 最大野党は非常戒厳は憲法違反として尹氏の即刻退陣を要求し、弾劾手続きに入った。与党側も、尹政権の責任を追及する点では同調しており、弾劾訴追案の可決に3分の2を要する議会での対応が焦点となる。
 理解し難いのは、尹氏が非常戒厳に踏み切った理由だ。緊急談話などでは、野党勢力が国政や司法をまひさせて「内乱を画策する明白な反国家行為だ」と断じ、憲政秩序を守るための措置とした。
 背景には、4月の総選挙で与党が大敗し、過半数を握った最大野党を中心に予算案審議などで尹政権を追い込んでいる状況がある。
 政府官僚らを弾劾訴追する法案などでも野党が単独採決し、大統領が拒否権を発動するという激しい対立が続く。
 尹氏の妻の不正疑惑も強まり、5年の大統領任期を折り返した自身の支持率は2割前後で低迷する。行き詰まりを打開するため、時代錯誤の手段に訴えたようだ。
 韓国で戒厳令が出されたのは1987年の民主化後、初めてだ。市民の抗議活動を武力で鎮圧し多数の犠牲者を出した80年の「光州事件」の記憶は生々しく、危機感を強めた市民が国会前で抗議した。軍政下のような強権に国民の失望は深まったに違いない。
 日本への影響も懸念される。
 一時は戦後最悪と言われるほど冷え込んだ日韓関係は、対日関係を重視する尹政権下で好転した。石破茂首相も近く訪韓し、首脳間の関係強化を目指していた。北朝鮮情勢への対応をはじめ、外交への波及が危ぶまれる。
 日本でも、非常事態に政府へ権限を集中させる「緊急事態条項」を憲法改正で設ける動きがある。国会の議論では議員の任期延長をとば口としているが、自民党案は国会と国民の私権を制限する内容も盛り込んでいる。
 民主主義と自由が奪われかねなかった隣国の危機を深刻に受け止め、他山の石としたい。

韓国の非常戒厳 大統領の任に値しない(2024年12月5日『中国新聞』-「社説」)
 
 民主主義国として経済発展を遂げた韓国で、かつての軍事独裁時代をほうふつとさせる事態が起きた衝撃は大きい。尹錫悦(ユンソンニョル)大統領が非常戒厳を宣言した。きのう国会の議決を受けて解除したが、混乱が続いている。
 非常戒厳は戦時などの非常事態に、武力で秩序を維持する仕組みだ。言論の自由をはじめ市民の権利を制限できる強大な権限が大統領にはある。1987年に民主化して以降は初めて。なぜ戦時並みの非常事態と判断したのか、全く理解できない。
 尹氏は最大野党「共に民主党」を名指しして「国政をまひさせた」と批判し、「憲政秩序を守る」と宣言の理由を表明した。現在の国会は野党が過半数を占め、政権方針と対立する法案の提出や採決の強行が続く。要は内政の行き詰まりを打開するため、非常戒厳を使ったといえよう。
 民主主義の根幹を揺るがす暴挙だ。戒厳司令部が発表した布告令は、国会の活動、集会やデモなど「一切の政治活動を禁じる」とした。これは軍という「暴力」を使い、政治的な反対勢力の活動や言論を封じることに他ならない。実際、国会で軍人らが出入りを統制した。これでは軍事政権と何ら変わらない。
 尹氏は国内だけでなく、国際社会に対しても、まずは謝罪すべきだ。非常戒厳の判断を正当化するなら、もはや大統領の任に値しない。
 就任から2年半で支持率が20%前後に低迷し、追い込まれていたのは確かだろう。ただ自業自得の側面は強い。4月の総選挙で与党が大敗し、国会運営で野党の協力が一層欠かせない情勢になったにもかかわらず、可決法案への拒否権を発動するなど強硬な姿勢を続けた。選挙の公認への介入をはじめ、夫人の不正疑惑も相次ぎ浮上した。
 非常戒厳によって亀裂はさらに広がった。最大野党は退陣を要求し、他の野党と共に大統領の弾劾を求める議案を国会に提出した。野党だけでは可決に必要な3分の2に足りないが、与党「国民の力」からも大統領の手法を非難する声が相次ぐ。政治の混乱が長引くのは必至だ。
 圧政の恐怖と、血を流して得た民主化の歩みを思い返した国民は多いはずだ。80年、南西部の光州で民主化デモに軍が発砲し、市民が多数犠牲になった光州事件は、クーデターで実権を握った軍部による戒厳令下で起きた。記憶が継がれたからこそ今回、危機感を持った市民らが国会前に集まり、国会議員の解除要求決議を後押ししたのだろう。
 尹氏に民主化への理解と敬意があれば、安易な判断に傾かなかったはずだ。国会の内外で軍や市民、議員が入り乱れる一触即発の中、流血の事態を免れたのは幸いだった。歴史を踏まえた理性が働いた結果ではないか。
 国際社会に目を転じると、米国では4年近く前、大統領選の結果を否定するトランプ前大統領の支持者らが、連邦議会の議事堂を暴力で占拠する事件があった。民主主義は権力者によって壊されかねない。守る努力を続けたい。

【韓国で非常戒厳】民主主義をつぶす愚挙(2024年12月5日『高知新聞』-「社説」)
 
 民主主義を自ら否定する暴挙だ。政権運営が思い通りにできないからといって、強権を振りかざすことは許されない。混乱の責任は重い。収拾へ厳格な対応が求められる。
 韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領は非常戒厳を宣言した。約6時間後に解除したが、この間に陸軍大将が率いる戒厳司令部が稼働し、兵士が国会本館に突入する事態となった。
 国会は最大野党「共に民主党」が議席過半数を握り、厳しい政権運営が続いている。尹氏は野党が弾劾訴追や予算削減で国政や司法をまひさせていると主張した。こうした対応は憲法秩序を踏みにじり、内乱を画策する明白な反国家行為だと位置付けた。戒厳司令部は政治活動の禁止や言論の統制を布告した。
 これを受けて国会は、与党議員を含む出席した全員の賛成で解除要求決議を可決して対抗した。憲法は議員の過半数の賛成で大統領は解除に応じなければならないと定めている。要求に従う形でさらなる強硬策に踏み込む事態は避けられたが、必要とされる閣議での解除決定より先に尹氏が解除を表明したあたりに意思疎通の不備が見て取れる。
 非常戒厳は戒厳令の一つの形態で、1987年の民主化後は初めてとなる。尹氏は合法的な枠内での行動だったと強調している。しかし、市民に軍事政権を思い起こす衝撃を与え、国会周辺は大勢の人だかりで緊迫する様子が伝えられた。
 尹氏は2022年の大統領選を僅差で勝利した。独善的な政治手法に批判も多く、今年4月の総選挙は与党が大敗した。妻の不正疑惑もあり、支持率は低迷したままだ。野党の攻勢を打ち切ろうと強硬手段に訴えたとみられる。
 与野対立の厳しさは韓国政界の特徴とも言えるだろうが、非常戒厳はあまりに唐突だ。政権の推進力を強化したい思惑は外れ、批判は野党にとどまらず与党からも上がる。尹氏の求心力の低下は決定的だ。野党は尹氏の弾劾訴追案を提出した。辞任圧力は強まっている。
 総選挙では弾劾訴追が可能となる野党の議席獲得は阻止したが、解除要求決議への賛成は与党議員も加わったことで弾劾に必要な国会議員の3分の2に迫った。尹氏と与党との亀裂の拡大が指摘され、野党側が勢いづくことは間違いない。
 傲慢(ごうまん)とも評される尹氏の政治手法だが、対日関係を重視する外交政策は戦後最悪とされた日韓関係を改善させることにもつながった。一方で歴史問題を巡る対立は根強く、尹政権の姿勢に批判が向けられる。
 来年は日韓国交正常化60周年の節目となる。石破茂首相の訪韓を1月前半で調整しているが影響があるかもしれない。政権基盤の一段の弱体化が進む中で、日韓関係にどの程度の衝撃が生じるのか注視される。
 北朝鮮はロシアと関係を深め、軍事技術の支援を受けているとされる。日米との安全保障協力は、多国間協力に否定的なトランプ次期米大統領の出方次第で変動しかねない。先行きの不透明感が増している。

熟慮決断(2024年12月5日『高知新聞』-「小社会」)
 
 将棋に勝つために最も大事なのは「熟慮決断」であると、故大山康晴15世名人が語っている。当たり前にも思えるが、これが「実は一番むずかしい」のだという(著書「勝負のこころ」)。
 軽はずみな出たとこ勝負はもっての外。かといって、時間をかければよいものでもない。散々迷った挙げ句に指し損じやすいらしい。ずばり「苦しいときほど悪手を指す確率が高い」。
 高知出身の森雞二九段もかつて本紙連載で、羽生善治九段に敗れた対局をこう反省している。「妙手だと思った手が悪手でした」「完全な『錯覚』『勘違い』でした」。大山さんは将棋の真剣勝負を「さながら人生の縮図」であると指摘する。
 盤上だけではない。私たちの社会、例えば政治の世界にも時折、とんでもない悪手が登場する。韓国では一昨日、尹錫悦(ユンソンニョル)大統領が突然「非常戒厳」を宣言した。戦時などに発する強力な統制で、議員活動を禁じ、国会に軍を突入させた。
 約6時間後に解除されたが、韓国が大混乱に陥ったのは無理もない。野党が国会の過半数を占め、尹氏は厳しい政権運営を強いられていた。事態打開を狙ったとみられるが、悪手を通り過ぎて、禁じ手といっていい。
 大統領が民主主義を脅かす暴挙に出たと批判されて当然だろう。追い詰められて、妙手とでも考えたのだろうか。少なくとも熟慮決断ではあるまい。もちろん錯覚や勘違いでは済まされない。

韓国の非常戒厳 民主政治を否定する暴挙(2024年12月5日『西日本新聞』-「社説」)
 
 民主主義国家にあるまじき暴挙だ。韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領の行為を強く非難する。
 尹氏は3日夜、国民向けの緊急談話で「非常戒厳」を宣言した。国会をはじめとする政治活動、言論や出版などを制限できる強大な大統領権限である。
 国会決議により、6時間程度で解除されたのは幸いだった。この間、軍隊が派遣された国会前に抗議する国民が多数集まり、事態は緊迫した。
 非常戒厳は、韓国の憲法に定める戒厳令の一つである。戒厳令は1980年代の初頭以来で、87年に民主化されてからは初めてだ。
 本来は戦時やそれに準じる事態で宣言する。尹氏がなぜ唐突に、軍事政権をほうふつとさせる非常手段に打って出たのか理解できない。
 緊急談話では、国会の過半数を握る最大野党「共に民主党」が国政や司法をまひさせていると主張し、「憲政秩序を守るためだ」と述べた。
 国会を抑え込む目的であるなら、非常戒厳の本質が分かっていない。
 2022年に発足した尹政権の支持率は20%前後に低迷している。4月の総選挙で与党が大敗し、国会で野党の攻勢に遭う状況が続く。
 与党が大敗したのは、経済政策に対する国民の不満と、尹氏の政権運営に「独善的」「強権的」と批判が高まったからだ。
 国民の多様な民意を反映する民主政治は、話し合いと合意形成に時間がかかる。大統領といえども、思うようにならないことが当然あり得る。だからといって強権を発動するようでは、民主国家の指導者にふさわしくない。
 国民の信頼回復はもう見込めないだろう。側近の辞意表明が相次ぎ、政権の求心力は一段と低下している。
 「共に民主党」は尹大統領の弾劾訴追案を他の野党と国会に提出し、内乱罪で告発すると表明した。与党「国民の力」の代表も責任を追及する構えを見せ、政権との亀裂が鮮明になっている。
 弾劾訴追案は週内に採決される見通しで、罷免される可能性もある。混乱は長期化する気配だ。
 憂慮されるのは日韓関係である。尹氏は元徴用工訴訟問題などで冷え込んでいた日韓関係を改善に導き、米国を含む3カ国の連携を強化したのは確かな功績だ。
 17年に朴槿恵(パククネ)元大統領が弾劾訴追で罷免された時のように、前政権の全てを否定する空気の中で次の大統領選が行われるようだと、日韓関係への影響は必至だ。
 日韓両国は来年で国交正常化60年の節目を迎える。民間交流に水を差すことは避けなくてはならない。
 日韓の足並みが乱れると、北朝鮮情勢や米国、中国との関係にも懸念材料が広がる。
 韓国政治ができるだけ早く安定を取り戻すことを与野党に求めたい。国民も冷静に行動してほしい。

韓国 一時「非常戒厳」 大統領の責任は重大だ(2024年12月5日『沖縄タイムス』-「社説」)
 
 新聞を広げ、初めてこのニュースに接した読者は、目に飛び込んできた1面の見出しに驚いたのではないか。
 「韓国で非常戒厳宣言」
 韓国国民でさえ事態がのみ込めないような、あまりに唐突な戒厳令。一体、何が起きたというのか。
 韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領は3日夜、緊急の談話を発表。「国政がまひ状態にある」と指摘し、「憲政秩序を守るため、非常戒厳を宣布する」と表明した。
 これを受けて戒厳司令部が「布告令」を出し、一切の政治活動を禁じるとともにメディアも統制を受けると明らかにした。
 4月の総選挙で与党が大敗し、尹政権の支持率も17%まで落ち込む中、国会では、最大野党「共に民主党」と尹氏との対立が深まっていた。
 共に民主党議席過半数を握る国会で、政府官僚の弾劾訴追案を相次いで発議し、主要な予算を削減するなど攻勢を強めた。
 これに対し尹氏は、打開策が見いだせないまま、非常戒厳を宣言したのである。尹氏は野党の国会戦術を「反国家行為」だと主張し、北朝鮮に従う「従北反国家勢力を撲滅する」とまで言い切った。
 戒厳令布告直後に急きょ開かれた国会で戒厳令の解除要求決議が全会一致で可決され、尹氏は約6時間後の4日未明、憲法の規定に基づいて戒厳令を解除した。
 韓国社会に根付いた民主主義の政治を国家暴力で踏みにじろうとした尹大統領の責任は重大である。
■    ■
 現在の状況が戦時や暴動などを想定した非常戒厳に当たらないことは誰の目にも明らかであり、与党からも厳しい批判が相次いでいた。
 武装し銃を構えた兵士は国会敷地に入っており、もし解除要求決議が可決される前に軍隊が国会を制圧していたら、全く違った展開になっていたはずだ。
 1980年5月、軍事クーデターに抗議する学生や市民を鎮圧するため戒厳令が敷かれ、多くの死傷者を出した光州事件は今も記憶に残る。
 共に民主党を含む野党6党は、非常戒厳の宣布は憲法違反に当たる、として弾劾訴追案を提出した。国会の判断と尹氏の出方が最大の焦点になる。
 求心力の回復はもはや不可能に近い。検事出身の尹氏は今、政治生命すら危ぶまれている。
■    ■
 長い闘いの末に勝ち取った民主主義が再び葬り去られようとしている-この危機的な事態に立ち上がったのは、市民や国会議員だった。
 だが、尹氏が突然、非常戒厳を宣言したことは、民主主義の価値を共有する日米欧に大きな衝撃を与えた。
 「従北反国家勢力を撲滅し」という表現に、尹氏の独断政治の危険性を見る識者もいる。
 石破茂首相は来年1月、日韓の国交正常化60周年の節目に韓国を訪問する予定だったが、先が見通せなくなった。
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