58年前、静岡県で一家4人が殺害された事件で死刑が確定した袴田巌さんの再審=やり直しの裁判で、静岡地方裁判所は26日に判決を言い渡します。これを前に、事件で亡くなった夫婦の孫にあたる男性が、手記を通じてNHKの取材に初めて応じ、今の心境や袴田さんへの思いを明かしました。
58年前の1966年に今の静岡市清水区で、みそ製造会社の専務一家4人が殺害された事件で、死刑が確定した袴田巌さん(88)の再審は、静岡地方裁判所で26日に判決が言い渡されます。
死刑確定後に再審が開かれた事件は、過去いずれも無罪が言い渡されていて、袴田さんは無罪となる公算が大きくなっています。
これを前に、事件で亡くなった専務夫婦の孫にあたる男性が、手記を通じてNHKの取材に初めて応じました。
男性は、判決への思いについて「検察と弁護側の主張内容に異なる部分があり、どちらが真実なのか私には分からないのが正直な気持ちですが、判決では真実を明らかにしていただきたい」とつづりました。
男性の母親は、事件で亡くなった夫婦の長女で、当時、祖父母の家にいて無事でしたが、10年前に他界しています。
男性は「被害者遺族を含めていろんな人に与える影響が大きいのではないかと思います。10年前に亡くなった母は、袴田さんに死刑判決が言い渡されたことしか知らず、その後の審理の状況についても何も知ることなく他界しました」と苦悩を明かしました。
そのうえで、「再審が始まるまでの審理が40年以上かかったのも、再審の規定がしっかり確立されていないことが1つの要因ではないかと思います。そのようなことがないように精度を上げていただきたい」と記し、再審制度の見直しが必要だという考えを示しています。
袴田さんは、死刑への恐怖のもと長期間収容された影響で、釈放から10年となる今も意思の疎通が難しい状態が続いています。
男性は「もし無実だった場合、袴田さんは他人には分かり得ないほどの恐怖や、つらく悔しい思いをされたと思います。あってはならないことと強く思います」とつづっています。
再審で意見陳述「亡くなった家族と母のために真実を明らかに」
事件で亡くなった専務夫婦の孫にあたる男性は、ことし5月に開かれた再審の審理に意見書を提出し、検察官が読み上げる形で意見陳述を行いました。
この中で男性は、専務夫婦の長女である自身の母親が、事件で家族4人を亡くした計り知れない悲しみの中、日々、打ちひしがれていたことを明かし、「事件の影響で毎日、自宅の仏壇の前で涙を流し、『さみしい、ひとりぼっちになっちゃった』と悲しみながら語りかけていた」などと説明しました。
母親はテレビやインターネットなどで外部からの情報を得ることなく生活し、2014年に袴田さんの再審開始の決定を知ることなく病気で他界したということです。
男性は意見書の中で「母親は、1度に家族4人を失った被害者なのです。幸せな人生を奪われたと強く訴えたい」と述べていました。
男性は、NHKに寄せた手記の中で、意見陳述を行った理由について、「事前に検察の方から案内をいただき、事件で亡くなった家族とその遺族だった母のためにと思い、希望させていただきました」としたうえで、「まず何よりも第一に、尊い命を奪われた4人の被害者がいることをどうか忘れないでほしい、真実を明らかにしていただきたいということを望んでおり、その思いを強く主張させていただきました」と記しています。