袴田巌さんに再審無罪判決、58年前の一家4人殺害 死刑確定事件で戦後5件目(2024年9月26日『産経新聞』)

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袴田巌さん(斉藤佳憲撮影)
昭和41年、静岡県でみそ製造会社の専務ら一家4人が殺害された事件で、強盗殺人罪などで死刑が確定した袴田巌さん(88)の再審判決公判が26日、静岡地裁で開かれ、国井恒志裁判長は無罪を言い渡した。検察側は死刑を求刑していた。死刑が確定した事件で再審無罪となるのは戦後5件目。過去4件は検察側が控訴せずに確定しており、今後の検察の対応が注目される。
袴田さんは金品を奪う目的で、41年6月30日未明に静岡県清水市(現・静岡市清水区)の被害者宅に侵入し、専務ら4人を刃物で刺し、家に火を放って殺害したとして、起訴された。
事件の約1年2カ月後に現場近くのみそタンクから見つかり、犯行着衣とされた「5点の衣類」に付着した血痕の評価が争点だった。
昨年3月の東京高裁決定は、血痕に赤みが残っていたことから、「1年以上みそ漬けされていたことに合理的疑いが生じている」とし、捜査機関による捏造の疑いにも言及。再審開始を認めた。
検察側は再審公判で「1年余りみそに漬けても、赤みは残りうる」とし、捏造説は「非現実的」と主張。弁護側は、衣類は袴田さん逮捕後に捜査機関がタンクに隠した捏造証拠だと訴えた。
みそ製造会社従業員だった袴田さんは41年に逮捕され、55年に最高裁で死刑が確定。第2次再審請求審で静岡地裁平成26年に再審開始を認め、48年ぶりに釈放された。昨年3月の東京高裁決定で再審開始が確定した。

袴田巌さん再審無罪、4人殺害事件は迷宮入りへ 捜査当局「反省点多い」(2024年9月26日『産経新聞』)
 
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袴田巌さんに無罪を言い渡した静岡地裁の再審公判判決を受け、歓喜する支援者ら=26日午後、静岡市
袴田巌さん(88)が再審無罪となった。昭和41年6月にみそ製造会社の専務だった橋本藤雄さん(41)一家4人が殺害された事件はすでに時効を迎えており、無罪が確定すれば、事件は迷宮入りとなる。捜査当局側からは自戒の声が漏れる。
静岡県警は事件発生約1カ月半後の41年8月18日、みそ工場の住み込み従業員だった袴田さんを強盗殺人などの容疑で逮捕。公判などでは、県警が1日平均12時間も取り調べ、取調室で用を足させた上で「お前が犯人だ」などと迫って自白調書を作成していたことが発覚した。
公判で袴田さんは無罪主張に転じた。確定判決では、45通の自白調書のうち、検察官調書1通を除く44通が採用されない異例の事態となった。
法務・検察幹部は「当時は自供重視の捜査が主流だったが、袴田さんへの取調べは度が過ぎていた」と振り返る。
初動捜査の詰めの甘さを指摘する向きもある。
県警は、再審が始まるきっかけとなった「5点の衣類」が見つかったみそタンクを事件発生4日後にも捜索していたが、みそが残ったままだったため徹底できず、後に発見された衣類がいつからタンク内にあったかが曖昧になった。
再審開始を決めた東京高裁の審理での検察側の不備を指摘する声もある。検察側は衣類の血痕に赤みが残る可能性を主張したが、赤みが残る具体的な科学的根拠までは十分に示せなかったとの批判だ。
検察OBは「捜査側には油断といえる部分がある。徹底さを欠いており、反省すべき点は多い」と話している。(桑波田仰太、久原昂也、星直人)

袴田さん再審無罪、死刑事件で5例目 地裁「証拠は捏造」(20日本経済新聞24年9月26日『』)
 
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自宅で過ごす袴田巌さん(手前)と姉のひで子さん(26日、浜松市)=袴田さん支援クラブ提供
1966年に静岡県で一家4人が殺害された事件で死刑が確定した袴田巌さん(88)のやり直しの裁判(再審)で、静岡地裁(国井恒志裁判長)は26日、無罪判決を言い渡した。地裁は証拠について「捜査機関による3件の捏造(ねつぞう)がある」と認めた。
死刑確定事件の再審無罪は「島田事件」以来35年ぶりで、戦後5例目。検察側が控訴しなければ、事件から58年を経て袴田さんの無罪が確定する。これまでの4例は検察が控訴せず確定した。
国井裁判長は判決理由で、確定判決が袴田さんの犯行着衣と認定した「5点の衣類」について「発見に近い時期に犯行とは無関係に捜査機関によって血痕を付けるなどの加工がされ隠匿された」と指摘した。
袴田さんの実家で見つかった衣類の切れ端についても「捜査機関によって捏造された」と言及。袴田さんが自白した調書は「捜査機関の連携により、肉体的・精神的苦痛を与えて供述を強制する非人道的な取り調べによって獲得され、虚偽の内容を含む」と断じた。
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再審判決公判のため静岡地裁に入る袴田巌さんの姉、ひで子さん㊥。手には今年1月に亡くなった西嶋勝彦弁護団長の写真があった(26日、静岡市
再審は2023年10月の初公判から約1年間、判決を含めて計16回に及んだ。長期収容による拘禁症状が残る袴田さんは出廷を免除され、代わりに姉のひで子さん(91)が参加した。
最大の争点となっていたのが5点の衣類の評価だった。事件発生から約1年2カ月後、現場近くの工場のみそタンク内から見つかり、血痕の赤みが残っていたとされる。
弁護側は再審請求審で実施した実験結果などから、タンクの中にあった衣類に血痕の赤みが残ることはあり得ないと強調。袴田さんを犯人に仕立て上げるために捏造された証拠だとして、無罪を訴えた。
検察側も追加の実験や専門家の証言などをもとに、環境によっては赤みが残る可能性は否定しきれないと主張した。捏造の指摘に「非現実的な空論」と反論。袴田さんが犯人であることは揺らがないとして改めて死刑を求めていた。
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地裁判決は1年以上みそ漬けされた場合には血痕に赤みが残らず、衣類が犯行着衣であることが「合理的な疑いがある」とした。捏造を認定した証拠を除くと、袴田さんは「犯人であるとは認められない」と結論づけた。
袴田さんは確定前の裁判から一貫して無罪を主張してきた。死刑判決が確定した翌年の1981年に裁判のやり直しを求めたが、27年かかった1回目の再審請求審では認められなかった。
静岡地裁が2014年に初めて裁判のやり直しを認め、袴田さんは約48年ぶりに釈放された。最高裁の差し戻しなどを経て、23年3月に再審開始が決まった。
静岡県一家4人殺害事件 1966年6月30日未明、静岡県清水市(現静岡市清水区)のみそ製造会社の専務宅が全焼し、焼け跡から4人の遺体が見つかった。従業員だった袴田巌さんが強盗殺人などの容疑で逮捕、起訴されたが、公判では一貫して無罪を主張。80年、最高裁で死刑判決が確定した
袴田さん側が裁判のやり直しを求め、東京高裁は23年3月に再審開始を認めた。高裁決定は確定判決が有罪の決め手とした衣類について捜査機関による捏造(ねつぞう)の可能性に言及。検察側が最高裁への特別抗告を断念し、再審が始まった。