「小泉進次郎総理」誕生で直面する2つの関門、「解散総選挙」はいつ行われるのか?(2024年9月10日『ビジネス+IT』)

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総裁選で街頭演説をする小泉進次郎氏(写真:つのだよしお/アフロ)
 9月12日に告示、9月27日に投開票が行われる自民党総裁選挙。派閥の解体により、10名近い候補者が乱立する異例の展開となっており、とある元安倍派議員は「今回は本当に難しい選挙になる」と筆者に吐露する。こうした中で現在、最有力候補に浮上しているのが、小泉進次郎氏だ。もともとの知名度や人気に加えて、9月6日に都内で行われた出馬を表明する記者会見での対応が秀逸で「好感度が爆上がりした」ことも追い風になった。ただ、進次郎氏が総裁選を制しても、早々に「2つの関門」が待ち受けることになる。
 
乱立する総裁選、どう決まるのか
 次の日本の首相を決めることになる自民党総裁選挙は、9月12日に公示され、27日に投開票という日程で行われる。今回、特筆すべきは、派閥が解体・弱体化したことで自民党所属議員への縛りがなくなり、立候補に必要な推薦人20人の確保が容易になったことで候補者が乱立していることだろう。
 前回の総裁選では、当選した岸田文雄氏のほか、河野太郎氏、高市早苗氏の三つ巴となった。4番目の候補として野田聖子氏も立候補したが、「泡沫」に沈んだ。この岸田氏、河野氏高市氏の三つ巴の局面において、誰も1回目の投票で過半数をとることはできないだろうと予想され、実際にその通りになった。
岸田 文雄 256票(国会議員票146、党員票110)
河野 太郎 255票(86、169)
高市 早苗 188票(114、74)
野田 聖子 63票(34、29)
 自民党総裁選挙は、国会議員1人1票の「国会議員票」と全国の党員・党友による投票で配分が決まる「党員票」で争われる。「国会議員票」と「党員票」は、いずれも382票で、あわせて764票だ。この1度目の投票で、過半数の票を獲得する候補者がいなかった場合は、上位2人による決選投票になる。
無記名投票で「疑心暗鬼」も?
 私たちの選挙と同じく、自民党総裁選挙は無記名投票であり、誰が誰に入れたかは最終的にはわからないようになっている。一部には、投票用紙に記号を入れるなどして自分が誰に入れたかをわかるようにしている議員も存在しているというが、この長い歴史であまり話題になったことがないから、やはり基本的には誰が誰に入れたかはわからない仕組みになっているようだ。
 口では「〇〇候補支持」と言いながら、実際は違う人に入れること。さらには、推薦人20人を確保できない候補に党内の実力者が自分の配下の議員を貸し出す「名義貸し」をすることもあり、実際の投票行動については疑心暗鬼になっている部分もあるようだ。
 そして、前回、決選投票に進んだ岸田、河野両陣営が、高市、野田陣営に投票した議員たちの選挙を奪い合う形となった。決選投票でも自民党の各都道府県連に一票が割り当てられており、その投票先は党員票をもっともとった候補に投票されるので、投票先は河野氏に偏ることになった。
岸田 文雄 257票(国会議員票249、都道府県連票8)
河野 太郎 170票(131、39)
 党員票、それに続く都道府県連票は、世論調査と似たような傾向で投票される。前回は国会議員には愛された岸田首相に、有権者の支持が高かった河野氏が敗北するという結果になった。それは今回の総裁選でも同じことだ。
「本当にどうなるかが見えない」中での有力候補3名
 では、前回の総裁選と違い、立候補が乱立した今回の総裁選では、何が起きるのだろうか。前回の総裁選で高市早苗氏に投票した元安倍派議員はこう打ち明ける。
「前回の総裁選では、主要3候補の陣営のうち、2陣営をまとめ上げることができれば決選投票で逆転することが可能でした。しかし、今回は本当に難しい選挙になります。10人近い立候補者がいて、決選投票に進めるのは2人。5陣営以上を1回目の投票から2回目の投票までにまとめ上げる必要があります。
 もしくは、1回目はどこに入れてくれても構わないけど、2回目の投票はこの人に入れようという仕込みをしたいところなのですが、実際に候補者たちが戦っている最中に、表立ってそのようなことをするのも失礼です。派閥の縛りもなくなり、個人の判断で動く議員も多く、本当にどうなるかが見えません」
 今、上位に入り込むと予想される候補が、3人いる。各種世論調査自民党支持層からの支持を集める小泉進次郎氏、石破氏、高市氏である。このうち、高市氏を意地でも3位に滑り込ませたいのが麻生陣営だ。
 これについては前回総裁選により岸田首相が誕生したことで、菅義偉陣営が非主流派になってしまった経緯が、今回、麻生陣営にも起きそうなためである。
 前回の総裁選で起きたこと。それは、安倍晋三元首相と麻生太郎氏による“二股”である。安倍元首相は高市氏を推しつつも、岸田氏とも関係を断たず決選投票では岸田氏を推した。麻生氏は派閥議員である河野氏とは一定の距離をとりつつも岸田氏を推した。
 河野氏だけを推したのは菅氏で、岸田氏が総裁選に当選、首相に選ばれたことにより菅氏はこの3年間、非主流派として冷飯を食い続けた。
「そのまま政界引退」になるかもしれない超大物政治家
 今回の総裁選の有力候補をみたときに、麻生氏は非常に分が悪い。高市陣営には麻生派議員の一部が駆けつけているものの、小泉、石破両氏とは敵対的関係にあるためだ。
 一部世論調査が示すように、総裁選1度目の投票で、小泉氏が1位となり、石破氏が2位となれば、麻生陣営の非主流派が決定することになる。全国紙政治部記者はこう解説する。
「進次郎氏、石破氏、どちらが自民党総裁、首相になっても菅氏は主流派になる一方で、麻生派としては現在の情勢は頭の痛いところです。進次郎氏、石破氏がもし当選すると、そのまま政界を引退するのではないかとすら囁かれています」
 麻生氏は、小泉純一郎政権で、要職に就いて以降、細心の注意を払って非主流派とならぬように腐心を続け、派閥を大きくしてきた経緯がある。
 「大した用事はなさそうなのに、閣議後は小泉純一郎首相の後を追い、1対1のコミュニケーションを数分でも取っていた」(小泉純一郎政権の閣僚経験者)という証言もあるほどだ。
「麻生氏が首相在任時に特に何かしたということはありません。閣僚にいるときもそうです。常に改革派と守旧派の間を取り持つように『存在感』を残してきた」(前出の記者)
 いよいよ、そんな麻生氏にも落日のときが来ているのだろうか。
総裁選後の日程詳細、総理誕生時の2つの関門
 さて、総裁選後に噂されるのは、衆議院解散総選挙だ。進次郎氏に至っては、出馬表明時に「早期に解散」すると宣言している。
 「進次郎氏以外が総裁になったら解散は早くて来年冒頭か、ダブル選になるのではないか」(元安倍派議員)と言われているが、進次郎首相の実現がにわかに現実味を帯びてきたために、永田町では、皇室日程や参議院補選を睨んだ神経戦が始まっている。
 そうした声の中で、まず、出てきたのが下記日程だ。まずはザッと見ていただきたい。
 この日程が「早期解散」として無理のない日程なのだが、実は、10月30日に天皇、皇后両陛下が主催される秋の園遊会が予定されていることから、進次郎政権は、この日程での解散総選挙を避けるのではないかという指摘もある。
 選挙中ということで、天皇家秋篠宮家を前にして、国会議員がほとんどいない、心ここに在らずというような状態では、皇室に対してあまりに不敬であろう。
新政権の門出をまるで「呪う」かのような問題
 さらには10月27日参議院補選があり、そこが頭を悩ます問題になっている。
 この補選、岩手で実施されるもので、詐欺罪で在宅起訴された広瀬めぐみ氏の議員辞職にともなって行われる選挙であり、自民党が「不戦敗」を決めているためだ。
 自民党岩手県連は総裁選のどさくさに紛れて早々に勝負から逃げた。広瀬氏は、自民党女性局のパリ視察でも「遊びに行っていたのでは」と批判を受けた後、週刊誌では、カナダ人サックス奏者との「赤ベンツ不倫」が報じられ、事実関係を認めた上で軽率な行動だったと謝罪をしている。
 新政権の門出をまるで「呪う」かのような参院補選を突破するために、参院補選に衆院解散をぶつける案も検討されている。一緒にしてしまえば、参院補選で例え負けても痛くはない、ということだ。
 しかし、あまりに早く解散すると、たとえば、N国党などが物議を醸した選挙ポスター掲示板に関する公職選挙法等の改正ができなくなる。となると、やはりあまりに急な解散を避け、一定の議案を可決した後に、来年冒頭の解散などに後ろ倒しされる可能性もある。
 もし、この勢いを維持すれば、進次郎総理の誕生は現実のものとなってくるが、「広瀬氏辞職による参院補選」と「早期解散」をどう乗り越えるのか。選挙で負けるようなことがあれば、一挙に政権はレームダック(死に体)化することになる。
執筆:ITOMOS研究所所長 小倉 健一